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『式』

『式』 【超短編小説 055】

昔も今も変わらずに大切にしている代表的な儀式といえば、結婚式とお葬式ですが、現代は式をプランニングをしてくれる会社に頼めば上手いことやってくれる時代です。ちょっと調べれば人様のやり方を参考にできるので、何をやったらいいかと、内容で悩むことはありません。ですが、昔は、何をやるにしてもまず身近な有識者に相談するのが当たり前でした。しかも、情報が少ない時代なので色々な勘違いや、様々な思い違いなどの、間違えがあったのではないでしょうか。

問屋の主人
おう、どうした喜八、相談ってのはなんだい?

喜八
へい、旦那様、忙しいところ申し訳ないです

問屋の主人
大丈夫よ、遠慮すんな、どうしたんだい

喜八
実は、式を挙げることになりまして

問屋の主人
式?

喜八
へい

問屋の主人
んー、お前んとこの子供はまだ三歳だよな

喜八
へい、来月で四歳になります

問屋の主人
結婚式じゃないとすると、誰か死んだのか?

喜八
いえいえ、誰も死んでないですよ、旦那様

問屋の主人
結婚式でも葬式でもなきゃ、一体何の式を挙げるってんだい?

喜八
へい、女房と離婚することになりまして

問屋の主人
離婚!

喜八
へい、そうです

問屋の主人
お前とみっちゃんが離婚するのかい

喜八
へい、昨日女房に言われまして

問屋の主人
なんて言われたんだい、みっちゃんに?

喜八
その、なんていうか、おいらに愛想が尽きた、と

問屋の主人
お前さんが毎晩飲み歩いているからかい?

喜八
へい、その通りです
子供の面倒もみないで遊び歩いているおいらは、父親としても夫としても失格だっていうんです

問屋の主人
まあ、俺から見ても、お前の遊びはちょっと度が過ぎてるからなぁ、みっちゃんもかわいそうってもんだよ

喜八
へい、そりゃそうなんですが、その時、ついわたしも頭に血が昇っちまって「嫌だったら別れればいいだろ」って言っちまったんです

問屋の主人
そりゃ、ひどいね、逆切れってやつだね

喜八
そしたら女房が「離婚だ」って言ってきまして

問屋の主人
それで、離婚するの?

喜八
へい

問屋の主人
で、式ってのはなんなんだい?

喜八
ですから、離婚式を挙げるんで、また仲人を旦那様にお願いしたくて

問屋の主人
おいおい。おいおい、喜八

喜八
へい

問屋の主人
なんなんだい?その離婚式ってのは?えぇ?

喜八
離婚式は結婚式とおんなじもんで
親類、友人、仕事仲間、みんなの前で離婚を誓うんです

問屋の主人
なんだい、離婚を誓うって

喜八
晴れて離婚が成立ってやつです

問屋の主人
おい、喜八

喜八
へい

問屋の主人
離婚式なんてやる奴はいねぇんだよ
聞いたことねえよ

喜八
そうなですか?旦那様

問屋の主人
そうよ、わざわざ離婚のために人を呼ぶなんておかしいだろう?一体どんな服着てったらいいんだい

喜八
確かにそうだ、すんません旦那様、なにぶん離婚するのが初めてなもんで

問屋の主人
まあ、いいってことよ、おれも離婚はしたことないけれど、離婚式なんて見たこともないだろ

喜八
だけれど、離婚したことはどうやってみんなに知らせるんですかねぇ?

問屋の主人
たしかにそうだな、手紙を書くわけでもないしな

喜八
やっぱり式を挙げた方がいいんじゃないですかねぇ?

問屋の主人
いやいや、いらないよ、喜八
離婚は親兄弟だけに知らせておけばいいんだよ、
あとは風の噂で広がっていくからな

喜八
へい、そんなもんですかねぇ

問屋の主人
おう、そんなもんだそんなもんだ、
まあ、できたらみっちゃんと仲良くいくようにしろよ

喜八
へい、でも、こればっかりは女房しだいでさぁ

家に帰りづらい喜八はそのまま飲み屋に行き、問屋の主人は店に戻り、若女将に喜八の相談の内容をニヤニヤしながら話に行くのでした。

問屋の主人
ただいまー

若女将
おかえりー

問屋の主人
おいおい、喜八とみっちゃん、ありゃやばいぞ

若女将
離婚の話かい

問屋の主人
なんだい、知ってたのかい、つまんねぇ

若女将
少し前にみっちゃんが訪ねてきたんだよ

問屋の主人
じゃあ、離婚式だ、なんだって言ってなかったかい?

若女将
ああ、言ってたよ、離婚式の仲人お願いしますってねぇ

問屋の主人
やっぱり!
ほんっと馬鹿だねぇ、あいつらは、
離婚式なんてやろうとしてるんだからねぇ、
おれは笑うのなんとか堪えて、喜八のことをまじめに追い返してやったよ、
お前もみっちゃんのこと、ちゃんと追い返せたのかい?

若女将
いいえ、受けましたよ仲人

問屋の主人
ええっ!おいおい、お前まで何言ってんだい。
まさか、離婚式をやるなんて言い始めるんじゃないだろうね

若女将
仲人を受けた上で、みっちゃんに言いましたよ、離婚式は結婚式の10倍お金がかかるってね

問屋の主人
そしたら、みっちゃんはどうしたんだい?

若女将
青い顔して、もう一度、よく考えますって言いながら帰ったよ。

問屋の主人
ほーう、流石、若女将!もうあいつらの離婚は無いな。

若女将
何感心してるんだい、喜八を馬鹿にしてないで、あんたも少し頭を使って下さいな

問屋の主
、、、
(喜八の馬鹿のせいでおれが怒られたじゃねえか)
まぁ一件落着したからいいか。

※最近では離婚式という儀式も少しづつ流行っているようです。(2020年5月 現在)

結婚式01

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