『3人の刑事』
『3人の刑事』【超短編小説 078】
「これは殺人ではありません。108つの偶然が重なり合った、不幸な単独事故死です。」
そう言うと、偶禅(グウゼン)刑事は108つの工程を丁寧に再現して見せた。
現場にいた全員が感心して事故死を認めざるおえなかった。
すると元来(ガンライ)刑事が、「そもそもこの仏様は、人に恨まれるような人間じゃ無かったのです、はなっから犯人なんて存在しなかったんですよ。」と、説いた。
みんなで頷いていると、突然、牟菅信(ムカンシン)刑事が叫んだ、「そんなことどうでもいいが、見ろ!向かいのマンションの屋上に今にも飛び降りそうな男がいるぞ!」
3人の刑事は、向かいのマンションの屋上へと急いだ。
屋上に到着すると、サラリーマン風の男がフェンスを越え靴をそろた状態で泣きながら「こっちに来るな!」と叫んだ。
偶禅刑事が「どうしたのですか?なぜ大切な命を捨てなければならないのですか。冷静になってお話しください。」と言うと男はうつむきながら話し始めた。
「20年間、勤めた会社に首を切られたんだよ。一生懸命真面目に働いてきたのに。人事評価の刷新で突然、俺は不要な人間って判断されちまったのさ。家のローンも子供の学費もあるのに。もう死んで保険金をもらうしか無いだろ、どうせ俺なんか必要無い人間なんだし。」そう言うと男は足を半歩踏み出した。
すかさず偶禅刑事が声を上げる、
「待ちなさい!その評価は真実ではありません、108つの偶然が重なり合った、許しがたいミステイクです。」そして、偶禅刑事は108つのミステイクまでの工程を丁寧に説明した。
男は納得し頷いて足を半歩後退させた。
すると元来刑事が、「そもそもあなたは、人に低評価されるような人間じゃありません、はなっから真当な人事評価なんて存在しなかったんですよ。」と、説いた。
男は顔と体をこちらに向けて、一筋の生きる希望を宿らせた瞳を見せてくれた。
もう大丈夫だと思った直後、突然、牟菅信刑事が叫んだ、「そんなことどうでもいいが、見ろ!となり町の幼稚園で火事が起きてるぞ!」
3人の刑事は、となり町の幼稚園へと急いだ。
取り残された男は、無事、家に帰り転職サイトに登録した。
「いざ“飛び降り無い”って決めると、あのフェンスをよじ登るのは、めちゃめちゃ怖い。」という話で大笑いするのが男と男の家族のしばらくのネタであったそうだ。
そして、3人の刑事は今日もどこかで事件を解決していることだろう。
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僕の行動原理はネガティブなものが多く、だからアウトプットする物も暗いものが多いいです。それでも「いいね」やコメントを頂けるだけで幸せです。力になります。本当に有難うございます。