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ブラック企業勤めのアラサーが文学フリマ東京に出るタイプのアラフォーに成長するまでの話②

<前回までのあらすじ>
 ブラック企業で心身を病んだ山羊座の女(アラサー)は、占い師に「気分転換ってどうすればいいんですかね」と相談し、最終的に「朗読と文章の教室」というところにたどり着いた。高校時代文芸部に所属していたためまあまあ文章に自信があった山羊座の女だったが、その自信はさっそく打ち砕かれることになる。

※なお、この文章はあくまで「文学フリマ東京に出る」までの話なので、朗読については割愛させていただく。



 朗読と文章の学校とは、月4回(週1回)アナウンサーの先生に朗読を習い、そのうち月2回(2週間に1回)400字程度の文章を書いて提出し、ライターさんに添削してもらう場所である。基本的に毎回2時間程度なのだが、文章の課題がある日は1時間半ほど朗読をして、残り30分で文章の添削を受ける、というシステムだった。なお、現在「朗読と文章の学校」は存在しない。

 私が朗読と文章の学校に通い始めて最初のお題は「ラブレター」であった。この課題は私の頭を悩ませた。夫も彼氏もパートナーも好きな人もいない。私はちょっとアロマンティックの傾向があり、「好きだった人」も思いつかない。困った。とりあえずイマジナリー好きな人を作ろうと思った。

 そこで私は頭の中でふたりきりで遊んだことのある男性を数人思い浮かべ、その中でイマジナリー好きな人にしてもよさそうな男性ひとりを土台として、いい感じの設定をつけ、妄想で補填し、ラブレターを書いた。そして、「イマジナリー好きな人に書いたにしては体裁を保てている!」と思いながら提出をした。

 そして、ライターのKさんから、次のようなことを言われた。

 「文章全体から照れを感じます。照れを捨ててください」

 その一言から始まって、次々にダメ出しをされた。

 Kさんがおっしゃっていたのは、要するに読者に文章を読ませるときに「書いている私」を感じさせないようにすることが大切だということで、それはこれ以降に私があらゆる文章を書く上で常に念頭に置くことになる教えだった。

 「書いている私」を消すことで、読者を文章に没入させる。その一方で、オリジナリティを出す。この兼ね合いは難しく、難しいからこそ、おもしろい。

 当時私が書いたラブレターは「突然ですが、ひょんなことからラブレターを書くことになりました」から始まるもので、もう冒頭から「書いている私」、「ラブレターを書いちゃっていることに照れている私」が全開だった。

 私にとって、最初の課題がラブレターだったことは僥倖だったと思う。早いうちに文章を書く上での極意である「書いている私」を消すということを意識することができた。

 そして私にとって「ラブレター」がフィクションであったことも、「創作」へとつながっていく大事な要素のひとつだった。このラブレターを書くときに「設定を作りこんで文章を書く」ということに自然と取り組んでいた。それから私は、文章を書くこと、そして創作をすることに十数年ぶりに没頭することになる。

 次回は「照れを捨てた結果、クラゲの少年の性のめざめを描いた文章を提出した話」をお届けします。

おまけ
 2019年春に朗読と文章の学校に入校した私は、「もっと文章について学びたい」という気持ちから、2020年に同じ会社(株式会社チカラ | 福岡のライター集団 (chikara.in))の「文章の学校」(全12回くらい。こちらは今でも開催している)に半年間通った。その時にも「ラブレター」という課題が出されたのだが、こちらはKさんの師匠であるMさんに褒めていただけた。これもすべてKさんのご指導のおかげである。
 そのラブレター(リベンジ)が、こちらである。

タイトル:日曜日はジーパンでも良いですか?
                             
 ずっと「正解」をさがしていました。
 私は雑談がとても苦手です。つい最近まで飲み会のあとはいつも「ひとり反省会」をしていました。余計なことを言ってしまったんじゃないか。失礼なことをしてしまったんじゃないか。気が利かなかったんじゃないか。ああすればよかった。こうすればよかった。
 異性とのデートも同じです。気を遣いっぱなしで、帰宅後は「ひとり反省会」。好きでもない服を着て、ひたすら心をすり減らして。そんなの、楽しいわけがありません。そのうちデートがおっくうになって、何となくフェードアウトする。そんなことを繰り返してきました。
 あなたと出かけるときもそうです。好きでもない服を買って、当たり障りのない「正解」の返事をさがして、帰宅後には「ひとり反省会」。もう疲れてしまいました。私から連絡をしなくなったのはこういうわけです。
 先日、突然ラインが来たときは驚きました。あなたと会わないでいる間に、私は変わりました。少なくとも、今は「正解」をさがしていません。「ひとり反省会」も、開催しなくなりました。飲み会のあとはさくっとシャワーを浴びて、速攻で寝てしまいます。気の乗らない誘いはやんわり断れるようになったし、着たくない服は買わなくなりました。
 もう、あなたの知っている私はいません。私は今の私の方が好きです。自分自身を「好き」と言えるようになった、今の私の方が好きです。
 人と話すときに無理をしなくなって一番良かったことは、相手に無理をさせなくなったことです。私が本当の言葉で話すと、相手も本当の言葉で話してくれるのです。それはとても尊いことです。
 私はきっとまだ本当のあなたを知りません。あなたが本当の私を知らないように。
 あなたが私のことを思い出して連絡をくれたこと、嬉しかった。本当のあなたをもっと知りたい。日曜日のランチ、楽しみにしています。

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