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小説「禁断の果実なんていらない。」

目次

プロローグ
第1話「日常」
第2話「白」
第3話「桜」
第4話「苦しみ」
第5話「安息」
第6話「恣意」
第7話「雨」
最終話「虹」


プロローグ

「禁断の果実が欲しい…」
たった1つ願いが叶うなら、僕は禁断の果実が欲しい。
禁断の果実とは、キリスト教の聖典「聖書」に登場する特別な果物。
神々の楽園エデンで暮らしていたアダムとイブ。
ある日彼らは、蛇の誘惑に唆され、禁断の果実を食べてしまう。
そしてアダムは自分が男だと、イブは自分が女だと知る。
素晴らしい。考えただけで、喉の奥から手が吐き出そうだ。
なんせ僕らが生きるこの世界では、生まれた時に「性別」が定まらない。各々の、心の発達に伴い、肉体が成長していく。
主に小学校高学年、遅くとも中学生になるタイミングで、自身の性別が定まる。ただ高校生になっても僕は……
あぁ…禁断の果実が欲しい……

第1話「日常」

先生の一声で、生徒達が一斉に騒ぎ出す。
喧騒が苦手な僕は、心を落ち着かせる為、深呼吸をした。
その時「亜紀ぃ~!!」っと明るい声で僕の名を呼び、駆け寄ってきたのは、朝川 瑞希。ボクの幼なじみ。性別は女性だ。
「瑞希…」
自分で言うのも恥ずかしいが、僕の声から嬉しさが隠しきれていない。騒がしいのは苦手だが、彼女の事は嫌いではない。瑞希が僕の手を取り、一緒に帰ろうと言った。
「あれっ?そう言えば光は~!!?」
「光は隣のクラスでしょ?」
宛ら漫才のようなコミュニケーションをとりながら、僕らは廊下へ出た。
暫く周辺を見渡してから、瑞希が声を掛ける。
「あっ!お〜ぃ!光ぅ〜!」
「おぉ〜、瑞希!亜紀!」
その先にいたのは夜空 光。光も僕の幼なじみ。性別は男性だ。
幼なじみ3人が揃ったところで、いつものように3人で帰る。昔からいつもそう。3人共にいる。それが僕らの日常の色。

第2話「白」


3人、楽しく話しながらの帰り道。
今日の学校の出来事について話が一段落ついたところで、徐々に進路の話題に変わっていった。
「みんな将来の夢って決まってるの?」っと瑞希が切り出した。僕は黙り込んでしまった。瑞希と光はそのまま会話を続けている。
「夢かぁ~…そうだなぁ…俺はなんかこう…誰かを支える。誰かの夢を支えたいかな?でも明確にこれっていうのはまだないかな…。」そう光は語った。当の本人は自信がないようだが、傍から見れば堂々答えられている方だと思う。光っぽいと瑞希も納得のようだ。
「瑞希は?」
「えっ、ウチ!?あっ、ウチはねぇ~カメラマン。」
まさか自分が質問されるとは思っていなかったのか、分かりやすく驚いた瑞希。その答えは光よりもきっぱりしていた。
「成る程、瑞希は写真撮影が趣味だもんな。瑞希らしい。」
「でしょ?でもね、ウチ撮りたい写真がありすぎて、ウチもある意味で明確にこれっていうのはないかなぁ…」
そう不安の口にする瑞希に光は「でも職業決めてるだけで瑞希は十分スゲェよ。」っと肯定した。確かに、本人は不意討ちを受けた感覚だろうが、職業が確り出るあたり、瑞希は普通に凄い。
「ありがと光。…そうだ亜紀は?」
暫く黙り込んでいた事を気にしてなのか、瑞希が僕に話題を振った。
「………」
「亜紀…?」
「えっあっごめん…考え事してた。将来の夢だよね…」
度重なる問いかけにようやく気付いた僕。平然を装いつつ、思考を巡らせる。
「僕は服が好きだから、服に関係する仕事に就きたいかな。けどみんなと同じように明確にこれっていうのはないかも…」そう僕は答えた。それからまた考え込んでしまった。
「そっか…ウチら3人とも明確に決まってないね。」
「そんなもんだろぉ〜?ちゃんと志望校決めて勉強してるヤツの方がが少ないって〜」
この先どうなるのか?どうするのか?未来なんて誰にも分からない。だからこそ、不安になれば当然不安になる。都合よく考えればいくらでも都合良く語れる。僕らの夢。それはまだ白の色。

第3話「桜」

担任の一声で、生徒達はあちらこちらで騒ぎ出す。
新学期早々、僕は心を落ち着かせる為、呼吸を整えていた。そこへ瑞希と光がやってきた。
新学期になり、僕ら3人はまた一学期と同じく、一緒のクラスになった。2学期では光だけ別のクラスになってしまった為か、また同じクラスになれた事を光はとても喜んでいた。それは当然瑞希も…僕も。いつものように帰ろうかと思っていた時「おい、陽月 亜紀。話がある。ちょっと来い。」と担任の先生に僕は呼ばれた。何事かと驚いた僕と瑞希と光。2人に校門で待ってもらうように伝え、ボクは職員室の方へ向かった。
新学期。それはいつか散り、また同じ場所から咲き誇る、桜の色。

第4話「苦しみ」

職員室。先生達はまだ忙しい。そんな中での事だ。新学期早々、僕を呼び出す理由。ここに来るまで考えてはいたが、思い当たる節はなかった。呼び出した割に先生は一向に話し出さない。だから僕から話を切り出す事にした。
「先生…話というのは…?」
ようやく先生が話始めた。
「そのなぁ…話というのはなぁ~…お前の性別に関してだ。」
先生の言葉に僕は一瞬怯む。
「お前体育の着替えの時、更衣室じゃなくて保健室で着替えてるだろ。」
先生の話を確り聞こうと、何とか呼吸を整えながら、堪えている。
「その、更衣室だと…男女に分かれなければいけないので…」そう僕が答えると「そこなんだよ!!」と、先生は僕の言葉を遮るように激高した。
「あのなぁ?小学生は高学年になれば男女に分けて着替えをする。中学生ましてや高校生なんて何処も男女に分かれてる。それが普通なんだ。お前も小中高と学校通ってんだから分かるよな?」
先生の言い分を僕は十分に、痛いほど分かっている。そして先生はまた分かりきったことを言う。
「高校生にもなって、それも3年生にもなって、性別が決まってないなんて異常だ!!」
「…申し訳御座いいません。」
「謝罪は求めていない。俺はお前に成長を求めてるんだよ…いつまでも子供じゃ困るよホントぉ~…」
「…………」
完全に先生の言いたい放題だ。僕の気持ちや意見、僕がコンプレックスを抱えている事など気にもとめない。僕はただの先生のストレス発散の吐き口だ。理不尽だ。あまりにも理不尽だ。どうせ僕が何を言っても、先生はまともに話を聞いてくれない。まず僕の話を聞く事など前提にないだろう。
「話はそれだけだ。俺も新学期早々忙しいんだ!!さっさと帰れ!!」
「有り難う御座いました。お邪魔しました。」
「気を付けて帰れよ…」
僕は職員室を出てすぐに、車椅子用トイレへ向かった…
僕は力が抜けきっていた。立てずにしゃがんでいる。そして酷く吐き気を催している。先生から受けた言葉の数々。あんな事分かってる。1番自分が分かっている。そんないちいち分かりきっている事を言われた上、ああ言えばこう言う、そもそも僕の話を聞くつもりがない癖に。不可抗力にも程がある。本当…つくづく思う。大人は身勝手だ。浴びる理不尽。それは苦しみの色。 

第5話「安息」

来るのが随分と遅くなった。精神状態を安定させるのに、かなり時間が掛かってしまった。にも関わらず、まだ足取りが覚束無い。
空はもうすっかり群青色になっていた。これじゃあ流石に瑞希と光も帰っているだろうと、不安に駆られた。段々と校門が見えるようになってきた。そこには2人の姿が、ハッキリと見えた。
あぁ…良かった。瑞希と光の下にいると安心する。
少しずつメンタルも調律され、調子が徐々に戻っていく。
「亜紀…?」
瑞希が心配して声を掛ける。
「ごめん。ちょっと顔洗ってた…」
「でも顔色凄く悪いよ…大丈夫…じゃないよね…」
瑞希は更に心配するも、どうしたら良いか分からないようだ。
「お前…先生に何言われたんだ?」
様子を見ていた光が、僕に聞いた。
「えぇ…えぇ…っと…進路の事…」
僕は强間違ってはいない回答をした。
「進路?新学期早々?」
光の中で、疑問が疑念に変わっていったように感じた。
「2つ…あるんだけど、どっちにするか決まらなくて…」
迷惑かけまいと、何とか僕が言葉を紡いでいると「えっもう2つ決まってるの!?すごいね〜!でも折角決まったのに2つってそりゃ悩むわぁ~」っと瑞希が食い付いた。瑞希は僕の気持ちを何にも分かってない。瑞希のこういうところが逆に、僕にとっては助かる。当たり前の日常に戻れる。何も気にしなくていい。瑞希が饒舌に話す事に対し、適当に「そうだね。」と、僕は相槌を打っておく。だが、未だに光は納得がいかないようで、深く考え事でもしているのか黙りこんでいる。僕は罪悪感を凄い感じた。その罪滅ぼしではないが、気を使わせまいと「今は2人の側にいたいな…」とかそれっぽい事でも言っておいた。どんなに辛いことがあっても、3人でいれば乗り越えられる。親友の下。それは安息の色。

第6話「恣意」

が。文化祭明けの学校。夕方の教室で、僕と瑞希は片付けをし終えた。
珍しく光がいない。瑞希曰く、光の弟が風邪を引いたので、先に帰ったとの事だ。僕らはいつも3人でいる事が多い。各々が2人っきりになるのは珍しい。それ故に、逆に何を話せばよいかが、僕は分からなかった。恐らく瑞希も。暫しの静寂が続いた後、瑞希が口を開いた。
「ねぇ…亜紀…」
「えっ…何…?」
「今ってこの教室2人だけだよね…」
「そっ…そうだけど…?」
何故瑞希は、当たり前のことをわざわざ聞いたのか?変に身体に力が入った。
「大事な話があるの。」
「大事な話?」
「つきあってくれる?」
「えっ、あぁ…別に良いけど。」
瑞希の言葉に一瞬驚いた僕だったが、タイミング的にも違うだろうと、そう思っていた。
「良かった…」そう瑞希が呟いた。瑞希は「ふぅ」っと息を吐いた。そして深く息を吸う。逆に僕は息をのんだ。そして次の瞬間…
「好きです!!」
どうやら違わなかったようで、僕の予想通りだった。
「好きです!! 亜紀のことが大好き!!」
瑞希がもう一度繰り返す。
「…その…つきあってってそういう意味?」と僕が問うと「えっ!?あっ、それはちょっと…違うっていうか、そうっていうか?」と瑞希は分かりやすく慌てた。はっきり言ってめんどくさい。そう思いながら僕は沈黙することにした。僕を好きと言う理由が気になる。想定通り、お互い無言の状況に耐えきれなくなった瑞希が、話を続けた。
「ずっと昔から一緒にいて…その中で色々あった。私、小中学生の頃いじめられてて。その時、亜紀が止めてくれたよね。亜紀こう言ったの…そんなダサいことするなよ!!言いたい事があるならはっきり言いなよ!!って…カッコ良かった…。」
「カッコ良かった…?」
「うんカッコ良い。」瑞希が自慢気に答える。まるでお姫様が一目惚れした王子について語るように、瑞希は話をする。
「亜紀は正義感が強くて、いつもクール。だけど、胸の奥に熱いものを秘めてて凄くカッコいい。」
そして暫く間をおいてから、瑞希ははっきりと言った。
「だからこの人なら任せられる。私はこの人と共に生きていきたい。そう思ったの。」
「それって僕を男として…?」間発入れずに、僕は疑問をぶつける。その声に、怒りの感情が抑えきれてはいなかった。
「えっ?」っと戸惑う瑞希。
「瑞希は僕を男として見てるのかって聞いてんだよッ!」
「ええっ、あぁ…その…」
瑞希は自信なく答えた。
「分からない…」
「そうだよ。」
「えっ…」
「僕も分からないって言ってんだよ!」
瑞希が怯えている。そんな震えている瑞希を構うこと無く、僕は畳み掛けるかの如く、怒りをぶつけた。
「知ってるよねぇ!?瑞希も…。僕が高校生にもなって性別が決まってないこと。覚えてる…?新学期早々、僕が先生に呼ばれた時!」
「うぅ…うん…」
「あの日ボクは先生にこう言われたんだ!普通、高校生にもなって性別が決まっていないなんて異常だって!」
「そっ…そんなこと…」
「そうだよ!ボクは異常だよ!カッコいい服も可愛い服も着て…男女どっちにもモテて…でもそれがボクには重荷だった!みんな…幼なじみの、瑞希は女らしくなっていって女性に…光は男らしくなっていって男に…でもボクは!?ボクは子供のままだ…鏡を見る度いつも思う。思い知らされる。自分の身体が…自分が気持ち悪いって!!先生どころか実の親にも虐げられ!!この世にボクの居場所なんてないんだ!」
僕の言葉は怒りから、悲痛な叫びに変わっていた。
「ごめん…私、幼なじみなのに亜紀のこと何にも分かってなかった…」僕の訴えに、瑞希はただただ謝罪することしか出来ない。
「そうだよ。」
「うぅ…」
僕のシンプルな受け答えすら、今の瑞希には心に突き刺さるようだ。
それを分かった上で、瑞希の心に穴をあけ、再起不能にするつもりで僕は言い放つ。
「何も僕のこと分かってないくせに、無責任に勝手に好きとか言って恣意的になって…瑞希の理想を僕に押し付けるな。」
「ごっ、ごめんね…私帰るからぁ……。」
瑞希はその場から立ち去ってしまった。 独り教室に残された。自分が瑞希に対して甚だ以て酷く当たったことに、申し訳なさと後悔を感じる…
「ごめん、瑞希…。」
馬鹿みたいに泣き叫んだ。馬鹿みたいだって、何してんだろう気持ち悪って思うけど、泣き叫ばずにはいられなかった。
告白なんて…告白なんて恣意の色だ…。

第7話「雨」

地球の影が空を覆っている。雨が突風にのって体に叩きつける。とてつもなく痛い。辺りは人影も車も見えない。もうそんな時間か…。僕はただ独り、骨に力をいれ歩いていた。気付くと僕は、光の家に来ていた。インターホンを押す。こんな夜中に…僕は迷惑な奴だ。暫くしてから光が出てきた。
「亜紀!?どうしたんだよ、こんな夜遅く!?それに傘もささず…この雨だぞ!?」
「……」
「とりあえず入れよ…寒いろ。」

光の部屋の中。光と僕は2人で座っていた。僕は髪も服もびっしょり濡れている。顔も。
「どうした…泣いてるじゃんか…」
光が声をかける。僕は暫く何も話せなかった。光の優しさに、いや…光に甘えたかった。
「まぁいいや…話したくなったら話せよ」
「…された。」
「えっ?」
光が話せよという前に、僕さ答えた。僕はそのまま話し始めた。
「瑞希に…告白された。」
「そっか、それで?」
「ヒドイこと…言っちゃった。」
「どんな…?」
僕は光に、告白された時の状況を軽く説明した。
「瑞希はね…僕のクールで、でも胸の奥に熱いものを秘めてるところが、かっこよくて好きなんだって…」
「ほぉ…でなんて返事したの?」
「それは僕を男としてかと聞いたんだ…」
「なるほど…」
「そしたら瑞希は分からないって…」
「あぁ…」
「僕も分からない。」
「……」
光の口から言葉が消えた。
「光も知っているでしょ?ボクの性別が高校生にもなって定まっていないこと…」
「……」
光も黙ることしかできなかった。
「覚えてる?新学期のあの日、僕が先生に呼ばれたの。」
「あぁ…あれかぁ…」
「あの時、僕は先生に性別について、話をされたんだ。」
「そうだったのか…」
「その時先生にこう言われたんだ。普通高校生にもなって、性別が定まっていないなんて異常だって。いつまでも子供のままじゃ困るって…」
「は?それガチ?」
光が急に怒った。僕は驚きつつ、光を宥めるように話し続けた。
「でっ、でもね…確かに思うんだ…幼なじみの瑞希は女に…光は男になって…でも僕は?って。鏡を見るたびに自分の体が…自分が気持ち悪いと感じる。年を重ねていく中で、気付いたら大人の人達から性別を決めることを強要される。それどころか理不尽な事ばかり言われる…実の親にですら…きっとこの世界に、僕の居場所はないんだって…」
「そっか…そんなに苦しんでいるんだな。」
光も泣いている。僕も涙を流している。
僕は独り言のように…でも誰かに聞こえるように言った。
「もう僕、分からないや…性別ってなんなんだろう…」
「分からなくてもいいんじゃないか?」
光の言葉に、僕は衝撃を受けた。
「分からなくてもいいと思う。結局は自分がどう思うか?そこが大切なんだと思う。」光が語り始める。
「自分がどう思うか…」
「確かに男女っていう性別があって…みんな心の変化によってそれが決まるっていうけど…決まるがあるなら決まらないもあるだろ?」
凄い…やっぱ光は凄い…決まるがあるなら決まらないもある。僕の中で、何かが大きく動いた。
「それにさ…」
「それに…?」
「いつ、誰がこの世界で、男女に分かれなきゃいけないって決めたんだ?」
「あっ!」
「そんなルールないだろ?」
「うん…」
凄いよ…凄すぎるよ光。僕の心がどんどん楽になっていった。光の話をもっと聞きたい。
「でも確かにこの世界は男女に分けられている。ずっと昔から…」
「……」
その言葉に一瞬、息苦しさを…生き苦しさを覚える。
「でも亜紀、この世界に僕の居場所はないって言ってたじゃん。」
「うん…」
「オレさ…思うんだ。絶対、亜紀と同じ思いをしている人達、この世界にいるって。」
「同じ…人達…。」
「その人達もさ、亜紀のように苦しんでいる。」
そうだ…確かにそうだ。この世界に僕のような人は絶対にいるはず。そっか…そうなのか…。
「けどさっ、苦しんでいるだけじゃ駄目だ。この世界変えたいとは思わないか?」
「えっ…うん。」
僕じゃ考えつかない。僕の求めていた答え、いや、答え以上の言葉のオンパレードに、高鳴る胸の鼓動がおさまらない。
「だったら自分が動かなきゃ!!環境を変えるにはまず自分を変えろ!!ってよく言うだろ?」
「自分を…変える。」
「そうだ。亜紀が動いて、世界を変えるんだ。」
「僕が世界を変える。」
「どうだ…?」
僕は今決意した。
「うん、そうだ。手を伸ばして、いつまでも助けを求めているだけじゃ意味がない。なら僕はこの手で、同じように悩んでいる、苦しんでいる人達の手を掴む。」
「いいじゃん、それが亜紀の夢だ。」
「僕の…夢?」
「その夢さ、オレに手伝わせてくれないか…?」
「光に…?」
びっくりしまくりで、これ以上ないくらいびっくりする僕。
「これから亜紀がその夢を叶える過程で必ず、心にもないことを言う人達が必ず現れる。そしてその人達によって亜紀は、凄く辛い思いをするはずだ。」
「……」
光の考えはご最もだ。心当たりは嫌と言うほどある。現に凄く辛い思いをしている。
「そんな時、亜紀1人がその辛さを背負って前に進んでいくなんて気が持たないだろ。」
「そうだね…」
「だからオレはいつでも亜紀の味方として、亜紀の感じる嫌なこともいいことも全部一緒感じていきたい。」
「光…」
この先もう一生泣かないのでは?そう錯覚する程僕は泣いている。
「きっと瑞希のヤツも同じこと思ってるぜ?」
「僕、あんなヒドイこと言ったのに…?」
あの告白された時の事を、想起する。
「きっと瑞希も、亜紀の夢を支えてくれると思う。そんな気がするんだ。」
「そっか…」
瑞希に、本当に申し訳ない事をした。どうすれば良いものか?そんな僕の背中を押すように、光が言った。
「だから、自分の思うまま生きていけ!!そして自分と多くの人々のために世界を変えろ!!」
「うん、分かった。」
僕は力強く答えた。
気付いたら窓からは光が差し込んでいた。空を見ると雲1つもなく青い世界が広がっている。僕らが流した雨、それはきっと…あの青空に向かうための色だ。 

最終話「虹」

-7年後-

今日はファッション誌の撮影の仕事がある。僕は光と共に、スタジオへ向かっていた。現場に到着すると、そこに瑞希の姿があった。幼なじみ3人が、こうしてまた揃った。

 僕は今、《全人類に似合う服》をコンセプトに、最高峰のユニセックスの服を作る、自身のブランドを立ち上げた。その会社の社長をやりつつ、同時に自分のブランドのモデルとしても活動している。
ファッションという自己表現を通して、服を通して、世界にメッセージを送っている。「男女なんて関係ない。ありのままの自分を見せよう!!」って。まだこの世界は、社会は、男女の2つに分かれている。けど僕はいつしか、性別に悩みを持つ人達や苦しんでいる人達への、社会の受け皿を確立したい。独りだと苦しいかもしれない。けど独りじゃない。社長秘書兼マネージャーの光がいて、プロカメラマンの瑞希がいて、その他にも多くの方々に支えられている。性別の無い僕を受け入れてくれている。
だから…禁断の果実なんていらない。
僕は僕の思うままに生きていく。
夢を叶えるたびに、夢が生まれる。
僕らはまだまだ、これからだ。
僕らの未来、それは虹の色だ。


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