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万引き家族から学ぶ、人の多様性

昨年、カンヌ国際映画祭で最高賞(パルムドール)を獲得、興行収入も大ヒットを記録した「万引き家族」を観た。概要はWikipediaより引用する。

東京の下町に暮らす日雇い労働者の柴田治とクリーニング工場で働く治の妻・信代には、夫妻の息子という祥太、JK見学店で働く信代の妹という亜紀、そして治の母という初枝が家族として同居していた。家族は治と信代の給料に加え、初枝の年金と、治と祥太が親子で手がける万引きで生計を立てていた。しかし初枝は表向きは独居老人ということになっており、同居人の存在自体が秘密だった。5人は社会の底辺で暮らしながらも、いつも笑顔が絶えなかった。

キャストとしては、味のある演技にいつも期待がかかるリリー・フランキーさん、すっかり旬である松岡茉優さん、昨年亡くなった名女優・樹木希林さんとなっており、それだけでも観る価値がある映画だ。

ネタバレは必至なので、今度の放映を楽しみにしている人は、読まないほうがいい。

「いいなぁ。正社員」

夫が働く建設現場の同僚が、怪我をした夫の柴田治を運んだ。その後、回復を見せる夫に妻の信代がつぶやいた一言だ。

万引きするぐらいなので、お金がないことは察するが、夫婦が日雇い労働と契約またはアルバイトでは、確かに経済的に苦しそうだ。

私は最初、この映画は「お金がなくても家族が深い絆で結ばれていて、そのほのぼのした美しい家族愛を楽しむもの」と思い込んでいた。

実際はちがった。

松岡茉優さんが豊満な胸を制服姿で露わにするということもネットで話題になっていたけれど、どうでもよくなるぐらいに濃い内容だった。

「家族の形は様々」というものでも、「血の繋がりがなくたって家族は家族」といった論を振りかざすわけでもなく、なんとなく家族っぽいものが描かれている。

そして、なんとなく家族っぽい人たちに、鑑賞者が勝手に「この人たちは家族である」と思い込んでいるところにこの映画の深みがある。

映画の中で、父・治のだらしなさは終始つづく。母・信代についても、まるであえて見ないようにしているかの如く、家族たちに深く干渉しない。

「お父さんと呼んでほしい」と何度か息子の祥太に話すものの、「そのうちね」と返され、親子関係の進展はなかなか見られない。

この祥太が抱く、正義と万引きへの葛藤に目が離せなかった。ある日、ニュースで行方不明になったと話題のゆりという女の子が、柴田家にやってくることになるのだけれど、祥太が兄としての優しさを見せる。

いつも万引きをしている駄菓子屋のおじさんに、「妹にはやらせるなよ」という一言を浴びせられ、心が激しく揺さぶられる。

次第に、父・治の言うことを疑うようになる。ある日、万引きした妹であるゆりをかばおうと、店の人を引きつけるように逃げ出す。次第に捕まりそうになり、高い場所から飛び降りたことで怪我をし入院。後に警察から事情聴取を受けることになる。

この映画の見どころは、祥太の心の動きと言ってもいいかもしれない。祥太は柴田家にとってキーマンだ。

映画の後半になると、家族それぞれが血は繋がっていないことがだんだんと明らかになってくる。

それでも、同じ場所に住み同じごはんを食べているので、どうも家族のように感じてしまうこともある。

家族とは一体なんなのか、再考を強制的にさせられる映画である。

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