TRPGシナリオ製作術 【魅力あるNPCのコツ12選】

前置き無しで、早速考察していきましょう。


★魅力とは

○リアルな魅力と、漫画やアニメ的な魅力

  • リアルな魅力はシリアス、または大人向けなトーン

  • 漫画、アニメ的なデフォルメされた魅力はコメディ、または若者向けなトーン

  • どちらの魅力をどれだけ配合してNPCを制作するか、脚本全体のトーンに対して、NPCをどちらのトーンに寄せるかが、シナリオ作者の腕の見せ所

TRPGシナリオにおけるNPCとは、PLが操作しないキャラクター全般です。人とは限らず、動物やモンスターなどもNPCに含めて考えましょう。
魅力のあるキャラクターというものを考えてみると、人でも動物でもモンスターでも、『リアルな魅力』と『漫画やアニメ的な魅力』とに大きく分けて考えることが出来そうです。

例えば、人としてリアルに魅力的な人は『優しくて、モラルのある人物』を多くの人が想像すると思います。
魅力的な上司、魅力的な友人、魅力的な部下などなど、自分と相手との関係性やそれぞれの立場によって、もう少し細かく魅力的要素を付け足すことは出来ますが、どんな関係性や立場の人間だろうと、優しくてモラルある人というのが、一般的に考えて魅力ある人の重要な要素かと思われます。
この手の現実的な魅力を描写して、キャラクターの『リアルに居そうな人』という感じを追求すると、シリアスで大人向けなトーンのキャラクターに仕上がります。
敵味方問わず、『キャラクターのリアルな魅力』が描写されればされるほど、シリアスな場面は輝くでしょうし、敵側にこのタイプのキャラクターが居ると物語が引き締まります。

では逆に漫画やアニメ的な魅力とはなんでしょうか。分かりやすいのは耳や尻尾などの獣の要素を人に足す『獣人』といった部類の要素のように、人ではないものをモチーフにキャラクターを作る『擬人化』ではないでしょうか。
人魚姫は下半身が魚で、上半身は美女というビジュアルですし、ウマ娘は馬耳と尻尾があり、健脚で、モデル元の競走馬の性格やストーリーが要素として足されていますし、艦娘は主に太平洋戦争自体に活躍した戦艦などをモチーフに、その戦艦で特徴的なエピソードを外見的特徴や性格などに要素として落とし込むようにキャラクター制作されています。
キャラクターの性格面において、漫画やアニメ的な魅力となると、代表例は『ツンデレ』が挙げられるでしょう。大昔から「漫画やアニメなら可愛いけど、リアルでツンデレな人は嫌だよね」なんてよく言われています。
『ツンデレ』とは、照れているのを誤魔化す時にツンケンとしたトゲトゲしい態度や、素っ気無い態度を表に出してしまうキャラクターの性格のことを指しますが、現実世界の年少の子供がそういう態度を取ってしまうならまだしも、高校生ぐらいの少年少女がそういった態度をとってしまうのは幼稚な雰囲気を感じてしまいますし、そういった態度は攻撃的だと勘違いやすれ違いなども発生しやすく、周囲との人間関係も築きにくいかと思われます。
しかし、現実世界と比べて漫画やアニメの世界では、照れているということを表現しやすいキャラクターの性格として定番となっていますよね。
なんならツンデレは照れ隠しでツンケンするのが逆に可愛いということで人気のある要素であり、ツンデレな性格の人気キャラクターは大量に存在します。
漫画やアニメ的な魅力を描写すると、コメディや若者向けなトーンが漂い始めます。究極に追求すると、いわゆる映画の『カーズ』(車が主人公)や、『カンフーパンダ』(パンダが主人公)のように、若者向けを通り越して子供向けとなります。
もちろん、『カーズ』も『カンフーパンダ』もシリアスな場面や設定がある脚本ですので、大人もしっかり楽しめる脚本です。
大人も楽しめるといえば、劇場版の『クレヨンしんちゃん』や『ドラえもん』もまた、映画を親子で観に行って、子供たちに同伴した大人の方がクライマックスで感情移入して思わず泣いてしまうような脚本が多いですよね。
漫画やアニメ的なデフォルメされた魅力というものは確かにコメディなんですが、脚本次第で十分にシリアスな演出が可能です。
このデフォルメされた要素とリアルな要素の配合具合をリアルに傾けていくと、徐々に子供向けから若者向けになっていきます。少年漫画から青年漫画になるように、または少女漫画がレディース漫画になるようなイメージです。

これらの要素のことを、いわゆる『属性』だとか、『性癖』などといった言葉で括られたりしますが、キャラクターの特徴は外見も内面もこれらを要素として分解できます。
そして、これらな要素の組み合わせによってキャラクターは作られますが、『リアルな魅力』と『漫画やアニメ的な魅力』の配合具合はシナリオ作者の個性が出るところであり、キャラクターを生き生きと描写するためには、シナリオ作者自身が得意な配合を探っておく必要があるでしょう。
どちらかに大きく偏らせるのもまた戦略ですし、リアルに寄せておいて脚本はコメディだったり、デフォルメに寄せておいて脚本はシリアスだったりするのも面白いです。
ビジネス的な目線で考えると勿論、ターゲット層に対してウケの良い塩梅は存在しそうではありますが、例えTRPGシナリオを商業で書くのだとしても、TRPGのファン層は意外と幅広く、小学生から大学生、それから更に上の30代、40代のプレイヤーが存在しているため、とてつもなく狭い範囲を狙いに行くわけでないのならあまり深く考える必要は無いかもしれません。

勿論、リアルとデフォルメの配合具合が違うキャラクターが同じシナリオ内に両立していても大丈夫です。例えば、ネコ耳ネコ尻尾メイドコス美少女とトレンチコートに中折れ帽子の似合うダンディなオジサンが共演するのは問題ないですし、何ならこの2人がバディを組んで強盗家業に勤しんでたりする展開のように、脚本に意外性を持たせる手段としても定番です。

○キャラクターの要素を分類しておく

  • キャラクターの要素をたくさん引き出しとして用意しておくことて、要素の組み合わせでキャラクターを創造出来る

  • 既存キャラクターをモチーフにすることは有効

これらの要素たちを分類し、自分なりに整理しておくことで、キャラクターの造形をスムーズに進めることが出来ます。

金髪のツインテールでツンデレな女の子というコテコテのキャラクターや、真面目な委員長タイプだけど、ピアス穴バチバチに空いているのを隠してるミステリアスなメガネ君や、親孝行したいんだけど、貧困や学歴に苦しんだ挙げ句にブラックな仕事に手を出してしまう青年や、世界を救える英雄と言えるほど優秀だったせいで政府にクローンを作られてしまったオジサンなどなど、要素の組み合わせで様々なキャラクターが作られます。

逆説的に、自分が思いついたキャラクターが何らかの漫画、ゲームや映画の主人公にソックリになってしまうことがあるのは、要素を組み上げて作るというキャラクター造形法がオーソドックスだからこそ起きる現象だと言えます。
今どきキャラクターが似てしまうことは仕方のないことであり、完全にオリジナリティを出す事は不可能ではありますが、その中でも『十人十色』といったキャラクター制作を心掛けたいものです。
または、モチーフとして小説や映画、漫画のキャラクターを土台にすることも一般的なキャラクター制作の方法です。『ホラー映画で一番最初に殺されるブロンドの女の子』はもはや代名詞ですし、代名詞過ぎて逆に生き残るコメディホラーもあります。
格闘バトル漫画も、『ドラゴンボール』や『ジョジョの奇妙な冒険』の流れやお決まりの展開を踏襲して、超能力や魔法などの異能力プラス格闘で戦うバトル漫画が一般的になってます。

○いわゆる表と裏の要素を組み合わせる

  • キャラクターには二面性がある

  • 普段表出する性格や特徴を表の顔とするなら、人に隠している、または隠れてしまっている性格や特徴を裏の顔として設定しておく

  • そのキャラクターを誰の立場から見るか、どの方向から見るかで、表の顔がどの顔なのか、もしくは裏の顔だと思っていたのが表の顔だったりするのかなど、様々な見え方が存在する

上記にある、要素を組み立てる方法でキャラクターを作る上で重要なのは、自分自身なりの考え方で構わないので、普段周囲に見せる『表の顔』と言えるような要素と、周囲に隠れている、または隠している特徴の『裏の顔』といえるような要素をどちらも備えたキャラクターを制作するのが重要です。
というのも、生き物には二面性、またはそれ以上の見え方があるのが通常であり、『裏表の無い』生き物はそれだけで特徴になるほど珍しいからです。
あまりにも珍しいので、裏表の無いキャラクターは非現実的な印象だったり、必ず裏の顔があると疑われるようなキャラクターになってしまい、そういったキャラクターはシナリオ内でも極端な役割を演じてもらうことになりがちです。
勿論、裏表の無いキャラクターだからこそピッタリテーマにハマるということであれば、そのようなキャラクターを出すことは全く問題ありません。

例えば、裏表無く誰にでも優しくて、品行方正なキャラクターがいたとして、そのキャラクターにシナリオ内で何らかの役割を与えようと考えてみた場合、果たしてPLの想定を超えるような役割を与えることが出来るでしょうか。
PLの想定を超える必要が無いのならそれまでではありますし、キャラクター性に厚みを出す必要がない役割もあるにはあります。
例えば、スポット的に登場する主役とは言えないキャラクター達まで凝ったキャラクター設定を作る必要は無いでしょう。

もし、裏表の無いキャラクターで意表を突く役割を演じてもらうのなら『誰にでも優しく、品行方正』という性格のキャラクターだからこそ面白い役割を考えてみましょう。
キャラクターの背景設定が固定されている場合、舞台設定の方を一工夫することで解決出来るかもしれません。
例えば、ゾンビにも人権があるとしてゾンビハザードの世界で人権ならぬゾンビ権を主張する団体のリーダーといった役割はどうでしょうか。

では、裏の顔を追加してみましょう。誰にも優しく、品行方正に振る舞っているように見せ掛けて、実は裏で犯罪の糸を引いている黒幕なのだとしたら、ありきたりかもしれませんが、キャラクターの表の顔に反する役割をそのキャラクターに与えることが出来ますので、PLの『このキャラクターはこういうキャラクターなんだろうな』という想像を裏切ることが出来ます。

勿論、『糸目キャラは悪役』なんて格言もありますので、どんなキャラクターにも表の顔と裏の顔があることは誰もが百も承知であり、ただ裏の顔があることそのものはもやは意外でもなんでもないんですが、人に限らず全ての動物には『見た目や普段の性格とは少し違う要素』という物が存在し、そのギャップが意外性だったり親しみやすさだったりします。そのようなちょっとした隠れた特徴が、キャラクターの魅力を醸し出すコツかもしれません。
百獣の王のライオンも、リラックスしている時にはネコのような仕草が可愛らしいですし、ゴリラも人間の何倍もあるパワーを持ちながら、優しくて臆病というゴリラが多いとのことですし、日本のスライムは可愛らしいモンスターで、ただ人類と敵対している個体だけでなく、人と友好に接する事もできる程度の知性もあるのが一般的です。(海外のスライムは何でも溶かす凶悪な要素のあるモンスターとして描かれるのが一般的です)

表裏あるのが一般的な中で、裏の顔から先に見るのか、表の顔から先に見るかでも、印象はガラリと変わります。
悪の親玉が実は人情溢れる人物で、自らの正義や仲間を守ろうとした結果、人類の敵となってしまったことがクライマックスで判明するのも定番ですし、全くの逆に、人情溢れる正義感の厚い人物が、実は黒幕だったというクライマックスも定番ですよね。

普段から表出している特徴の方を表としたとき、表裏の特徴や性格を入れ替えるだけでも大きな差異が生まれます。
例えば、普段はカッコイイけど、ふと可愛らしい要素がチラりと見える男の子と、普段は可愛らしいけど、ふとカッコイイ要素がチラりと見える男の子を考えてみましょう。
二人の男の子は、表裏を入れ替えただけなのにも関わらず、もはや完全に別のキャラクターが想像されます。

○真の正義のヒーローは裏の顔なんて無い

前述した話と矛盾したキャラクターとして、純粋な正義のヒーローというキャラクターも存在します。

例えば、アンパンマンや水戸黄門、日曜日の朝にやっている戦隊モノや魔法少女モノの主人公たち、ヒーローの代表格であるスーパーマン(スーパーマンのお陰で、二面性が追加されたバットマンというキャラクターも生まれました)などなど、こういった正義のヒーロー属性の方々に裏の顔は存在しません。

しかし、スーパーヒーローたちの面白い特徴は、揃って『弱点』が設定されている点です。ヒーローは完全無欠でどんな悪にも負けないストーリーが約束されてはいますが、それでもピンチにはならないといけないのが脚本の悲しい性とも言えます。ピンチになる為には弱点が必要であり、悪役たちはそれを利用してヒーローを追い詰めます。
しかし、何とか知恵や勇気を駆使して悪役を返り討ちにして、ヒーローは勝利するのです。

そんなヒーローたちの弱点ですが、それが魅力として描かれることもあります。それこそ、スーパーマンは正義感が強すぎて、度々悪役の手先に騙される展開があります。
純粋過ぎて失敗してしまうところに、親しみやすさという魅力になるよう脚本側で工夫されているということです。本当に完全完璧な無敵のスーパーヒーローで弱点もないと、面白い脚本を作るのは難しいというか、一辺倒なものを作るしかなくなります。

逆に、正義のヒーローが表の顔で、裏の顔が設定されているタイプのヒーローも昨今は増えてきました。例えば、小心者だったり、シンプルに悪者だったりです。
これらのキャラクターのことは正確に言えばスーパーヒーロー属性とは言えませんが、表向きスーパーヒーローで実はとんでもない悪人でしたというのは最大のギャップを発生させる装置であり、悪役の顔が出てきた瞬間は『待ってました!』と誰もが思わず前のめりになってしまうことでしょう。
全くの逆でも当てはまり、完全に悪役だと思っていたキャラクターが、実は正義のヒーローだった展開は『なんてこった!』という絶望を生みます。

○完全悪のキャラクターに善の心を持たせないことも

正義のヒーローと同じ考え方で、完全なる純粋な悪役というのも存在します。舞台設定上、完全に破滅的な考え方で行動しているキャラクターや、逆に全く意思や知性が無いせいで破滅を呼んでしまうキャラクターなどが該当するでしょう。例えば、『自然災害』、神様や地球外生命体のような『人類の上位存在』は、純粋な悪役という役割でもって登場することがあります。人類より科学が進んでいるエイリアンが地球を侵略してくるの洋画は数知れず、ですよね。

人間の悪役に人間的な背景設定の厚みを持たせるために、悪の道に進むことになった理由を用意するのは王道ですし、バットマンの敵役としてのジョーカーは正しくその手の悪役として大人気ですが、現実に存在したサイコパスな殺人鬼の中には、全くの理由らしい理由もなく大量殺人を行った人物も存在します。
つまり、例えモンスターでも神でもなく人だったとしても、裏表の無い純粋な悪という存在はありえるのです。

★舞台設定と、キャラクターの背景設定はセット運用

  • 舞台設定が現実離れするほど、背景設定がリアルなキャラクターでもギャップが発生する

  • 舞台設定がリアルであればあるほど、奇抜な背景設定のキャラクターは浮いてしまうし、リアルなキャラクターは埋もれてしまって難しい

前述した例の中に、優しくて品行方正で裏表のないキャラクターに面白い役割を与えようとする場合、ゾンビハザードが発生した舞台設定で、人権ならぬゾンビ権を主張する団体のリーダーという役割を例に出しました。

このように、物語の舞台設定と、キャラクターの背景設定の組み合わせによって、キャラクターに与えられる物語上の役割は無限の可能性が秘められています。

まだ序盤の序盤しか読めて無くて、ネタバレ無しの状態で例を出しますが、『素浪人刑事 東京の二つの城』という小説を最近読み始めました。
この小説の舞台設定は『もし日本が大政奉還しなかったら』というIF歴史を舞台設定としていて、帯刀して良いのは身分の高い人物と警察組織だけという法律がある舞台設定です。
そんな世界の停職中のオジサン刑事が主人公で、ワイシャツに日本刀を下げてるのが既にクールなんですが、この小説の素晴らしいところは、大政奉還しなかったIF歴史が事細かに作り込まれているところです。
銃も車も現代社会と同じく存在していますが、このIF歴史の日本はかなり難しい立場として世界各国と繋がっています。そういった舞台設定の中で登場するキャラクターたちは、その舞台設定を前提とした背景設定のあるキャラクターたちです。

このような綿密で大胆な舞台設定が作られている場合、例え背景設定がありきたりだったり王道だったりするキャラクターだとしても、舞台設定とのギャップで魅力的なキャラクターになる可能性があります。

逆に現実世界と全く同じ現代日本が舞台設定だった場合、ありきたりな背景設定のキャラクターは安心感すら覚える退屈なキャラクターになってしまう可能性がありますが、奇抜な背景設定のキャラクターは現代日本では浮きまくりますので、キャラクター設定の難易度は高く、舞台設定や脚本の役割に合わせた計算が必要になるかもしれません。

舞台設定によってキャラクター制作の難易度が違うことについてちゃんと気付けていないと、魅力的なキャラクターを作ろうと思っていても上手くいきません。
現代日本なのに、とにかく奇抜なキャラクターがさも当然のように登場しまくるのもまたコメディなんですが、やり過ぎると現代日本感が薄れていって、舞台設定が現代日本である意味が消失します。

○どんなキャラクターも世界に干渉している

  • PCの行動によって世界が変化する

  • であれば、NPCの行動によっても世界が変化しても良い

PLが操作するPCたちは勿論ですが、NPCたちもまた世界に干渉しています。それぞれのNPCたちは、個々の目標に向かって進んでいる、もしくは停滞していたり、後退していたりします。そういったNPCたちにPCが干渉して、NPCたちに変化が訪れるのは定番のTRPGの流れではありますが、PCたちが干渉しないと全く変化しようがないNPCたちは味気無いものです。

なので、NPCもシナリオ内の世界に干渉させましょう。NPC同士の関係性にも変化を与えましょう。PCたちの行動で世界が変化するのがTRPGの醍醐味ではありますが、NPCたちにもそれぞれの目標があり、その目標や結果次第で世界に変化が訪れてもおかしなことではありません。
シナリオ内の時間軸などを上手くフラグ管理に利用して、NPCたちだけでも世界が変化するようにしておくことで、シナリオは一気に多様性を帯びてきます。
PCたちの行動だけをフォーカスして世界が変化していくシナリオを制作する必要はありません。NPCたちの行動をランダムに、もしくはPCの行動によって間接的に変化させることによって、世界が少しずつ変化している方がリアリティのある世界感にすることができるでしょう。

○舞台設定、背景設定、キャラクターの数と個性のバランス

  • NPCが多いことによってGMの負担は増える

  • NPCの数が少ないと、舞台設定やNPC同士の関係性という美味しいところをPLに伝えきれない

舞台設定と背景設定をセットに考えることに更にプラスして、キャラクターの人数と個性のバランス取りが重要になってきます。
例えば、2000年代に流行った『主人公の男の子に対して女の子がたくさん登場するラブコメ漫画』は、最初こそ数人の女の子だったのが、10人を超え20人を超えと増えていきました。
確かに、キャラクター制作における要素の組み合わせは無限大の可能性があるため、女の子の人数を増やしてもそれぞれの女の子に個性をもたせることは可能ですし、実際はその多数の女の子の中に好みの女の子がいれば読者が読み進めてくれるという計算もあったとのことですが、結果としては意外なほどの市民権を得ました。これはなぜでしょうか。

この手の漫画は特定の女の子が好きな人たちだけが読者だったわけではなく、舞台設定が好きな人や、特定のキャラクター同士の関係性が好きな人など、漫画のどこに惹かれたかはそれこそ人それぞれでした。
今でも筆者はAKB48というアイドルグループの人数はやり過ぎなんじゃないかという気持ちがありますが、推し活動も人それぞれであり、一人を推す単推し、グループ全体を推す箱推しなどといったファン層の楽しみ方が言語化されていき、特定のエンタメに対して消費者の楽しみ方もまた無限の可能性があることが証明されつつあるのが現状です。
悪い意味で捉えてほしくありませんが、名探偵コナンの元太くんを推すファンだっているのです。

TRPGシナリオ制作という目線から上記のことを考えてみましょう。
登場するキャラクターがたった1人や2人のシナリオでも成立しているシナリオは珍しいことではありません。登場するキャラクターがモンスター1体しか出てこないシナリオもありえます。
そのまた逆に、キャンペーンシナリオと呼ばれるタイプのシナリオの場合は、総勢10人、20人以上のNPCが登場することになってもおかしな事ではありません。

無個性というキャラクターを作ることは不可能(無個性が個性)なので個性作りに難しいところはありませんが、複数のキャラクター間で個性が被ってしまうような状況は、NPCを必要以上に用意してしまっており、無駄が生じていると言えます。
1人のキャラクターに役割を複数割り当てることによって物語は圧縮され短くスッキリまとまりますが、"NPC同士"や"NPCと舞台設定"との関係性を描写することで、PLやPCにストーリーや舞台設定、背景設定を楽しんで貰う機会を"NPCを減らした分だけ"損失してしまうと言い換える事も出来ます。NPCそれぞれの目線から見たシナリオの世界は、それぞれのNPCの人間性などといったフィルター越しに描写出来るはずですし、NPCが多ければ単純にNPCたちの相関図が出来上がり、NPC間での協力や衝突が自然に発生することでしょう。

NPCの人数バランスは好みもありますが、極端に多くても少なくてもメリットとデメリットがあるということを理解した上で調節する必要があります。
物語上必要な役割をどのNPCに演じてもらうのか、もしくは役割を兼業させるかどうか、コントロールをするのはシナリオ作者です。

例えば、学校の生徒会という組織をシナリオに登場させようとした場合でも、生徒会長だけ登場させるのか、副会長も書記も登場させるのかは明確に選択する必要があります。
登場するにしても、キャラクターとしてどれほど背景設定を作り込むのかどうかもシナリオ作者のさじ加減になります。綿密に作り込めば、GMが設定資料として参考にしやすい背景設定が出来上がりますが、あえてキャラクターの背景設定を作り込まないことで、GM裁量に任せることも可能です。役割さえ決まっていれば、GMのPCを物語に登場させる展開も可能です。(CoCにおけるKPCの登場するシナリオはまさしく、役割だけシナリオで指定し、キャラクターをKPに完全に任せるというシナリオです)

多人数のPLが参加することが前提のシナリオがSNSなどで話題になりましたが、この手のシナリオが話題になったことは今回一旦触れずに置きます。

○TRPGにおけるNPCの存在意義 = 役割

TRPGにおいて、NPCの人数は物語の複雑さに比例させることになるでしょう。
というのも、漫画やアニメでは、特定のキャラクターを掘り下げるタイミングを筆者自身がコントロールして、読者に感動や共感を覚えさせることができます。そのため、登場するキャラクター全ての魅力を余すこと無く読者に伝えつつ、ストーリーを展開することが出来ますので、ストーリーの長さとNPCの人数はある程度自由が効きます。

それに対してTRPGの場合、PCという存在がシナリオ内を自由に行き来する過程でシナリオ内の世界は変化していきます。極端な話、PCの行動に合わせて登場する機会が減ってしまうNPCも居て当然であり、場合によっては全く登場せずにシナリオが終わるNPCがいてもおかしくありません。

そのようなTRPG特有のストーリー展開の中で、NPCの背景設定を掘り下げるというイベントを発生させようとした場合、タイミングが悪ければそのイベントは無視されるでしょうし、もし強制的にイベントを発生させようものなら、興味のないPLは退屈してしまいます。
シナリオ作者にとっては思い入れのあるNPCでも、GMとPLがそのNPCの事を必ず好きになってくれるかどうかは別ですし、そもそもTRPGを楽しむスタンスすらシナリオ作者の想定していないスタンスの可能性があります。
なので、特定のNPCを中心にしてシナリオを組み立てようとした場合でも、PCやPLのやりたいことをGMが尊重して回そうとすることを阻害しないようなストーリー作りになるよう気をつける必要があります。

そのために、先程から『役割』という言葉を使用しています。
魅力的なキャラクターを制作することと、キャラクターに役割を持たせることはある意味別の技術ではありますが、同時に処理するべき問題でもあります。
そのため、次はキャラクターの役割について考察してみましょう。

★役割とは

TRPGにおいて、PCの役割は主役です。PCが脇役になるのは論外で、PCが脇役になってしまっているシナリオは、いわゆる『吟遊詩人シナリオ』などと揶揄されてしまいます……と言いたいところですが、RPGとして大成功している『アトリエシリーズ』の初代作品のキャッチコピーは『世界を救うのはもうやめた』でした。
アトリエシリーズの初代作品『マリーのアトリエ』は、落第寸前の錬金術師の女の子マリーの日常を描くRPGであり、マリーの周りの登場人物たちも、ただ日常を生きているキャラクターばかりです。
マリーの目標は、5年以内に錬金術で先生を納得させる『すごい道具』を作成すること。そのために錬金術の勉強や素材集め、時には危険な冒険のために冒険者を雇って……といった生活をゲーム内で過ごすことになります。
面白いのは、主人公のマリーはRPGの主人公なのにも関わらず戦闘能力はただの女の子です。やれることは錬金術で作ったアイテムで味方のサポートをすることであり、主に前線でモンスターと戦うのは雇った冒険者になります。

そして、魔王を倒して世界を救わないといけない展開が当たり前だったRPGに、アトリエシリーズが一石が投じたことによって、RPGというか、ゲーム全般に変化が現れ始めました。
魅力的なキャラクターと、そのキャラクターを取り巻くストーリーが魅力的であれば、主人公が魔王を倒しに行くという役割を演じる必要が無いということです。

○魅力的なキャラクターは役割が背景設定と調和している

魅了的なキャラクターを考える上で重要なのは、舞台設定と背景設定が役割と密接に関係しているかどうかです。
役割は舞台設定とストーリーから自ずと決まっていきます。そして、キャラクターの個性となる背景設定に合わせて、各キャラクターに役割が割り振られていき、舞台設定と背景設定と役割が見事に調和したキャラクターこそが魅力的なキャラクターとして人気を得ることが出来ます。

例えば、漫画のキャラクター人気を読者アンケートによって集計した場合、主人公より人気のキャラクターがいるのはよくあることですが、これは主人公は主人公という至極当然の役割を与えられてしまうため、キャラクターの個性と与えられた役割がぴったりとハマっている脇役のキャラクターや、意外性やギャップなどで読者の気持ちを掴んでしまった脇役のキャラクターが、主人公より読者人気を得てしまう漫画が多いからです。(主人公が人気No1になる漫画は、いわゆるスーパーヒーロー系譜の漫画に多いです)

○役割は無限大だし、PCが主人公の役割を演じる必要は無い

  • NPCに役割を割り振ることで、無駄なNPCや、無駄な説明シーンなどを減らせる

  • 主人公という役割はあくまで『発生した問題を解決する』という役割であり、PCではなくNPCが担当しても良い

もう一度TRPGの話に立ち返ります。
PCが主役で主人公という考え方でNPCを用意しようとした場合、PCである主人公という役割は、『物語内で発生する問題を解決する』のが役割になるでしょう。
ということはつまり、『問題を発生させた』という『問題解決させたくない』役割、『主人公が問題解決しているスキに自らの目標を達成しようとする』役割、『主人公が絶望に打ちひしがれている時に、手を差し出して助けあげる』役割、『主人公と真っ向に意見が対立して離れていく』役割などなどなどなど、役割というものは用意しようとすればいくらでも用意できます。

しかも、これら役割のうち、PCにどの役割をやってもらうのか決定するのもシナリオ作者の自由ではあります。
主人公という役割をPCに与えるのが当然だと思っている方は、今一度思いつく限りの役割を書き出してみて、どの役割にPCを当てはめたら面白そうなシナリオが作成出来るか考えてみましょう。
意外に『主人公が問題解決しているスキに目標を達成しようとする』という役割をPCたちにやってもらって、『問題を解決する』という主人公の役割をNPCに割り当てたストーリーも面白いかもしれませんよね。

○ハンドアウト(HO)と秘匿情報

TRPGにはハンドアウト(HO)という情報の出し方が存在します。GMからPLに、他のPLに中身の情報が見えないように情報を渡すという方法です。
公開ハンドアウトという言葉が存在するのは、まさしくハンドアウトが本来GMが公開しない情報だった名残から派生した言葉であり、今は他PLに知られないように渡す情報の事を『秘匿情報』といった呼ばれ方などで区別されています。(オフラインセッションで、シナリオ中に特定のPLにだけ情報を渡す時、GMがPLにメモなどを渡していたことがハンドアウトという言葉の由来です)

これらハンドアウトや秘匿情報という手段を駆使することによって、よりPCに特殊な役割を持たせるストーリー作りが可能であり、そのようなシナリオは『秘匿シナリオ』と呼ばれています。
それぞれハンドアウトを与えられたPCたちが演じないといけない役割がバラバラで、それぞれのPCの思惑によってPC間やPL間でも情報共有されずに物語が進んでいく緊張感は、『秘匿シナリオ』の面白い部分です。

そんな秘匿シナリオがたくさん発表されていますが、PCの役割がバラバラでも物語は前に進みますので、NPCなら尚の事、自由な発想で役割を割り振っても全く問題ないということです。

○役割さえ指定されていれば、背景設定すらGM裁量でも良い

例えば、シナリオ中にPCたちへ物語のキーアイテムを渡す役割を持ったキャラクターが必要になったとしましょう。
その役割を与えられたキャラクターが、その他の場面でこれ以上登場する予定がないのであれば、まともな背景設定のないキャラクターでも矛盾なくシナリオは完成するはずです。
逆に、既にPCの仲間として行動を共にするという役割を持っているNPCが、しかるべきタイミングでキーアイテムを渡してくるイベントを考えた時、そのNPCはPCたちと行動を共にしている時の行動の選択に困らない程度の背景設定を作っておく必要があります。GMがしっかりと背景設定を把握できるようにして、冒険や探索の途中でPCに何か話しかけられても、答えに困らずにGMがアドリブで答えられるほど、そのNPCの背景設定を作り込んでおくのは堅実な方法です。

しかし、これを逆手に取ると、GM自身が作成したキャラクターに出演してもらうという選択肢があります。(CoCであるところのKPCです)
重要な役割を演じてもらう場合だけではなく、ただ単純にお助けキャラクターとしてスポット出演したり、賑やかしを狙ったキャラクター(脚本用語でコミック・リリーフ役)として登場したりと、例えどんな状況下であったとしてもGM自身が作成したキャラクターこそが最強のGM理解度であるのは間違いありませんので、GMのキャラクターに特別出演してもらうシーンを用意することをシナリオ内で提案するのは良い案です。

同じ理由で、背景設定をあえて作り込まずにGM裁量に任せるようなキャラクターをシナリオに登場させても、実はそこまで問題ではないということです。
全てのキャラクターの背景設定を作り込むのが理想的ではありますが、シナリオ作者が登場キャラクターたち全ての背景を綿密に考えたところで、それがGMにしっかりと伝わり、更にPCたちとNPCが適切なRPをしなければ、背景設定を作り込んだ意味が薄れてしまいます。
TRPGシナリオは演出指示書としての役割や、設定資料集としての役割がありつつも、あくまでGMがシナリオを回すための指標として分かりやすく読みやすい文章である必要があるため、GMがNPCをアドリブで演じる際に各キャラクターの背景設定を頭の中に叩き込まないといけないほど緻密な背景設定のキャラクターを大量に用意しても、GMの負担が増えて、回すのが大変なシナリオになります。
役割に沿った背景設定を最低限用意し、細かい所はGM裁量で良いという余裕のあるキャラクター設定の方が、GMもNPCを演じやすいはずですので、本当に重要なキャラクターに絞って背景設定を作るのが丁度良いかもしれません。

★まとめ

魅力的なキャラクターの作り方と、キャラクターの存在意義である『役割』という考え方をバランスよく両立できれば、自分が書こうとしているシナリオの登場人物が何人必要か、そのうち背景設定を作り込んでおく必要のあるキャラクターは何人か、逆算することが出来ます。
逆にNPCが多い、または少ないTRPGシナリオは、それぞれメリットもあり、デメリットもあります。
作りやすいのは圧倒的にNPCの少ないシナリオです。シナリオを作成しようと思ったら、まずは必要最低限に役割を用意して、少なめのNPCに兼任で割り当てるところからスタートしましょう。

NPCの人数が多いということは、GMが喋っている時間が長くなるのと同義です。PLが退屈にならないためにも、適切なNPCの人数と配置を探りましょう。
与えられた役割にピッタリの背景設定をもったキャラクターだけではなく、あえて背景設定と役割が微妙に一致しないキャラクターを制作して、キャラクターにさらなる深みや謎を与えることだってできます。

様々なキャラクターを創造して、役割によってNPCとシナリオをコントロールしましょう。NPCたちが生き生きとしているシナリオは、それだけでPLたちの没入感を高めてくれます。

この記事が誰かのTRPG制作の一助となれば幸いです。

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