TRPGシナリオ製作術 【慈悲なきアイオニアのシナリオ制作、武具編】

引き続き、慈悲なきアイオニアのシナリオ制作についてのヒントになればと思いまして、史実と照らし合わせつつ、武器と防具について解説と考察していきます。
シナリオ制作の一助となれば幸いです。


武 慈悲なきアイオニアの武器種確認

慈悲なきアイオニアでは、キャラクターのロールプレイの自由度を高めるために武器の外見設定をプレイヤーが決めます。
その上で、その武器に対して妥当な武器種を割り当てることで、ゲームルームに落とし込むシステムとなっています。
武器種となるものは以下の通りです。

  • 小型白兵武器

  • 中型白兵武器

  • 大型白兵武器

  • 射撃武器

  • 魔術触媒

自分がロールプレイしたいと思った武器の大きさに沿うように、小型、中型、大型の中から武器種を選ぶ、もしくは投擲したり射撃したりする武器は射撃武器として設定するということになります。
この章では、各武器種に当てはまると思われる武器を史実ベースで解説していきたいと思います。

器 小型白兵武器

小型の白兵武器ということで、ルールブックには短剣やセスタスと書かれています。懐に忍ばせることが出来る程度の大きさの武器を想定されている様子です。

・短剣

言わずもがな、読んで字のごとく、といった様相の小さな剣を『短剣』と種別します。両刃の物も片刃の物も存在します。(両刃とは、剣の刃が両方に付いている刃物のこと。西洋剣は一般的に両刃の物がイメージされる。片刃とは、剣の刃が片方だけ付いてる刃物のこと。日本刀は片刃の剣)
史実の上でも、短剣を使用する機会は農民、市民、傭兵、貴族に限らずあり、戦闘時に武器として、もしくは暗殺の道具として使用することもあれば、単純に生活便利グッズとして携帯していることもあるでしょう。

中世ヨーロッパでの戦闘において、短剣のような武器の役割は主に『トドメの一撃用』と『暗殺用』、『路上での喧嘩(ストリートファイト)』に使われていたとされています。
戦闘技術として短剣の使用方法が伝授されている書籍の内容には、順手での戦い方も逆手での戦い方も研究されていた様子です。(剣の刃先側に親指がくるよう握る、つまり自然に持つ持ち方を順手、逆に剣の刃先が小指側にくるように持つのを逆手と言います)
短剣で戦う時のコンセプトは、基本的に体や腕で短剣を隠しつつ構え、相手の意表を突くような戦い方を良しとしていますが、これはあくまで短剣で命のやり取りをしないといけない場合の緊急時の方法です。

出来れば、誰だってもっと長い武器を使って戦闘したいものです。ですので、基本的に短剣を主な武器として戦うキャラクターは、リアルではありません。
しかし、慈悲なきアイオニアの世界はリアルもファンタジーも受け入れられて然るべきですので、PLのやりたいRPや、シナリオに登場させるNPCのキャラクター設定に重心を置くべきでしょう。
その上で、あえて短剣を戦闘に使用している理由付けがキャラクターの個性になると思いますので、考えておくと楽しいかもしれません。

トドメの一撃として使用する場合についてですが、これは中世ヨーロッパで使用されていたプレートアーマー(金属板で全身を覆う鎧)の隙間を突くための道具として使われていたという意味です。
プレートアーマーの関節部分は隙間を空けて関節の可動域を確保しておかないと体を動かせません。特に脇や肘、膝、首の後ろは隙間を空けざるを得ない構造で、つまり弱点になってしまいますが、そういった部分に刃を刺し込むために短剣を携行しておく兵士は、多かったんじゃないかと思われます。
しかし、実際のところはトドメの一撃用として使われた事はあまり無かったかもしれません。鎧は高級品であり、着ている人物は貴族である場合が多いです。もし貴族である場合は、トドメを刺して殺すよりも拘束した方が社会的(騎士道精神的な意味)にも金銭的(身代金的な意味)にも良い場合が多いですから、プレートアーマーを着ている人間は拘束した方がお得です。
生きるか死ぬかといったやり取りをしているので、勢い余って死んでしまうことはあると思いますが、わざわざ短剣でトドメを刺さないといけない状態になる前に、敗者側が降伏したり、身柄を拘束されて、戦闘を終了する事の方が多かったんじゃないかと思います。

戦場で殺されやすいのは傭兵以下の兵士たちですが、傭兵たちの防具はチェーンメイル(小さなリング状の金属を繋ぎ合わせて衣服のような形にして羽織る防具)やコート・オブ・プレート、ブリガンダイン(鉄の板を何枚か合わせた上に紙や革を貼った防具)、もっと下級の兵士だとキルティング生地のギャンベゾンという戦闘用ジャケットや革製の防具を着用する程度の防具が一般的であり、わざわざ短剣で急所を突かないといけない頑丈な防具ではありません。持っている剣や槍、棍棒で事足ります。
なので、トドメの一撃用に携帯するものの、実際に使われていたかどうかと言われれば、別の用途のほうが多かったかもしれませんね。

路上での喧嘩という場合においても、短剣はただ手に持っているからという理由で使われる場合がほとんどであり、農民や市民といった素人が本気で相手を打ち倒そうとした場合は、もっと長い武器を使用するのが自然でもあります。そのため、農具そのもの、もしくは多少改造したものが凶器として使用される事の方が多かったでしょう。
もし貴族が路上で襲われた場合も、短剣よりも長くて大きい武器を護身用に持っているのが普通ですし、従士(護衛)も居るはずですので、わざわざ短剣を抜く必要はありません。

その為、短剣というカテゴリーの武器を所持していても、戦闘中にメイン武器として使われることはあまりなかったと思われます。一応戦闘術が書籍の中に残っているため、様式美として所持しておく、お守り的なものだったのもしれません。

・セスタス

小型白兵武器の例にセスタスと書かれていますので、セスタスについての解説です。
ゲームなどに登場するセスタスというものは、革のグローブに鋲(びょう)という金属や合金製の突起物を配置して、相手を殴って攻撃する、もしくはその鋲の部分で防御力を上げたグローブです。そのため、革製のグローブを改造した武器であり防具でもあると言えるでしょう。
史実のセスタスは多くの人にとって馴染みのない防具ですので、セスタスに関しては史実を一旦置いておきます。

セスタスを武器として扱うということは拳で戦う戦闘術が必要になり、貴族でも最終手段として素手での組み合いを技術として学ぶことはあったと言われていますが、貴族が戦闘中に殴り合いになる場面があったとしたら、それは革製のグローブではなく金属製のミトン、ガントレットという防具をつけた状態だったと思われます。(ミトンは親指だけ独立して残りの4本指は一体型のグローブ、ガントレットは5本指それぞれが独立したグローブです)
傭兵たちもまた、わざわざ殴り合いを想定してセスタス状のグローブを装備していたことはあまり無いと思われますし、兵士として徴収された農民たちは良くて自前の革製の手袋を付けるぐらいで、セスタスが使われることはなかったでしょう。

そのため、セスタスはどちらかといえば『ついでに殴って戦える革製のグローブ』というコンセプトがアウトローな人々にマッチしていた可能性があるかもしれません。
山賊や盗賊、密猟者といった犯罪集団であれば、革や鋲を自前で用意して革製のグローブを強化することも出来たと思われますし、あくまで防具力を上げるための手段の過程でセスタス的な革製のグローブを装備していた可能性はありますが、これは筆者の想像で資料はありません。
しかし、咄嗟の殴り合いでも、威嚇を目的としていても、普通に防具としても、犯罪者たちにとって用意しやすい武器だったのではないかと、想像出来る武器ですよね。

器 その他の小型白兵武器の例

人類史の中で小型の白兵武器があえて使われていた場面は、戦場ではなく日常の方が多かったかもしれません。
というのも、人類はかなり早い段階で『長くて大きい武器で相手との距離を離して戦う方が安全』だという戦術に気付いたからです。集団同士で戦うための効率を重視した結果、戦場には長い武器を持つ兵士が登場して、それに合わせて戦術が発展していきました。
一方で、戦場において短い武器が必要になる場面は減っていったものの、個人間での戦闘では『長い武器を、あえて短く持つ利点』というところに気付いた戦いのプロたちが、その利便性を書物に書き残しています。

器 武器をあえて短く持つ利点

例えば日本刀での戦い方についてですが、室町時代以降の打刀は両手で振るのが基本でした。そして、鎌倉時代の太刀は片手で振るのが基本でした。しかし、それはあくまで基本であって、両手で振る打刀をあえて片手で操作する技を持つ流派もありますし、刀身の真ん中あたりに左手を添えたり摘まんだりして、あえて短く持って操作する技を持つ流派もあります。

武器というものは、持ち手に近いところほど自分の力が伝わりやすいです。逆に言えば、持ち手から離れれば離れるほど自分の力が伝わり辛いです。
例えば長い槍の先端は、槍そのものの重量や遠心力などの力を工夫して操作しなければ、持ち手からかなり離れているため、力が伝わり辛くて弱くなってしまいます。
刀は槍ほど長いわけではないですが、同じ力学が働くため、日本刀の流派でもそれを意識した型が伝承されています。その流れで、刀身の中ほどに左手を添えて戦う型が生まれました。左手で刀身の真ん中を支える事で、刃先の先端にまで使用者の力を伝えやすくして、細かな操作を可能にするからです。

これは日本に限らず、どの文化でも同じ発想が見られます。
西洋の剣術においても、片手は柄、もう片手は刀身の真ん中辺りを持つ『ハーフソード』という構えが存在します。
北欧のバイキングでは、斧をあえて短く持つことで、短剣のように使う戦術が存在しているらしいです。

器 集団戦闘と個人同士の戦闘の違い

集団で戦うことを前提にした場合は長い武器ほど有利でしたが、個人同士の戦いという場面では短いことが有利に働く場面もあったことでしょう。
そして、戦場は常に集団同士で戦闘出来ていたわけではなく、奇襲などの作戦や陣形の崩壊によって、敵味方が入り乱れた乱戦になってしまうこともありました。
そうなってしまえば、集団戦ではなく"たくさんの個人同士の戦闘"です。剣を投げつけたり、落ちている石で殴ったり、タックルしたり飛び蹴りしたり、文字通り横槍で味方を救うこともあれば、死角から刺されてあっけなく死んでしまったりと、とにかく敵を倒すためなら何でもありという状況になれば、武器の長さはあまり関係なくなってしまうわけです。
そういった場面で、メインに使っている剣や槍を相手に投げつけた後だったり、相手にタックルしたりされたりして揉み合いになっている状況であれば、長い剣や槍が逆に使いづらい場面だったりするでしょう。そうしたとき、咄嗟に懐から取り出せる小型の武器は命綱のようなものだったかもしれません。

しかし、奇襲作戦や乱戦に持ち込むという戦術は、戦力が少ない方がどうにか敵集団を撹乱するための戦術であり、戦力が多い側は乱戦による無駄な消耗を嫌って兵士たちの態勢を立て直そうとするのが普通です。
こちらが戦力差的に有利で、このまま乱戦を続けても勝てる見込みがあったとしても、兵士たちの命だけではなく士気やスタミナも無駄に消耗しますので、指揮官としては許しがたい状況です。そのため、面と向かっての戦争状態においては、乱戦は発生しないように工夫されています。
しかし、もっと小規模の局地的な戦闘、いわゆる小競り合いのような戦いや、非正規軍同士の戦闘ということになると、奇襲や乱戦の発生率はより大きくなります。
まずそのような小規模戦闘の場合、現場にいる最も位の高い指揮官の統率力が低い場合も多く、頑張って乱戦を止めようとしても止められず、態勢を立て直す前に戦闘が終了する可能性があります。そのため、戦力の弱者側が有利に戦いを進めやすい乱戦という戦術が選ばれやすくなります。
予め乱戦を予定している側は、長くて強い武器を人数分用意する必要は無く、使うにしても農具などを改造した自作の槍や棍棒などで十分であり、壊れてしまえば投げ捨てて、操作性の良い武器に切り替える戦い方が出来ますし、奇襲する側が戦闘する地形をある程度選べるため、落石や倒木、馬防柵、落とし穴などといった、武器以外の方法による攻撃も可能です。
崖下を騎士たちが通るルート上で待ち伏せて、崖から丸太を落としまくるだけで、近付く事なく重武装の騎士をたくさん戦闘不能にできます。であれば、高級品の剣一本より、丸太を用意するための木こり用の斧が数本あった方がよほど良いということになります。

小型の白兵武器だからといって、全く使われないわけではなく、その時々の戦術や戦略によって適切な武器を使おうとした結果、小型の白兵武器は大規模戦闘において流行の戦術や王道の戦術で使われることなく、あまり日の目を見なくなっただけとも言えます。
中世からルネサンス期の時代、日本だろうとヨーロッパだろうと歴史に残る大きな戦争の裏で、様々な立場の人々が様々な状況で戦っていたのであって、その様な"日の目を見ない裏舞台の戦闘"では、適切に小型の白兵武器が使用されていた事でしょう。

器 中型白兵武器

大きくもなく、小さくもなくというサイズの武器ということになるのでしょうが、あくまでその武器の使用者にとって中型の武器という視点が大事かもしれません。長身の種族とディグリングとでは、同じ中型武器と種別できても、武器そのものの大きさは違うと思われます。
そういった種族間での戦法や戦略の違いについての考察は後述するとして、今は最も多い種族である人間の身長基準で話を続けていきます。

・直剣

真っすぐ伸びた反りのない刀身の剣を直剣と呼びます。これに対して、反りのある片刃の刀身の剣を曲剣として区別されています。
直剣には片刃の物と両刃の物と両方がありますが、直剣は両刃であるのが一般的です。
更に、両手で操作するのを想定した物と片手で操作するのを想定した物とに分かれるでしょう。

片手で持つ場合、空いた手に盾や松明を持ったりなど、状況に対して柔軟に対応できます。馬上で操作することが想定されている武器の場合は、空いた手で手綱を握る必要があり、更に馬上から地上に立っている人物を攻撃出来る長さが必要なため、騎兵用の武器は長く作られます。
ちなみに、アーミングソード、ロングソード、ブロードソード、バスタードソードという名の直剣が主に騎兵用です。ロングソードの対照的な武器として扱われるショートソードと呼ばれる長さの直剣は、地上での戦闘を想定した歩兵用の直剣です。

片手で操作できて、空いた手に盾を持つことで、弓矢や投石から身を守れるという武器としてポピュラーな存在……という認識は、割とファンタジーを舞台にした漫画やゲームの一般常識的な物が強く、史実だと剣よりも槍や斧、弓矢の方が主な武器として使用されていました。
理由は単純で値段と長さです。剣と比べて斧は安く用意できました。剣より槍の方が長くて安全であり、槍よりも弓矢の方がより安全に攻撃出来ました。相手の攻撃が届かないところから一方的に弓矢や槍で攻撃するのが、集団戦において最強だということが、歴史の割と早い段階で開発され、研究され続けましたし、剣はいつまでも高級品ですが、斧は戦闘用に改良されていって、剣と比べても遜色無い攻撃力を手に入れたうえでも、価格は剣より安い武器でした。

直剣は用途やお国柄によって細かな外見上の違いがあり、その違いを区別するために様々な種類の名前があります。色々な直剣の名前を知っていれば、シナリオやキャラクター制作の雰囲気づくりに役立つかもしれません。

・メイス

金属製の棍棒のことを大きく分類してメイスと呼びます。木製の場合はクラブと呼ばれます。メイスやクラブは様々な形状に派生している武器でもあり、形によっても呼び名が変わります。例えば刃のついたメイスはソードメイス、トゲトゲの鉄球が先端についたメイスはモーニングスターと呼ばれています。

操作する技術的な面で、剣や槍と比べると殴るだけの武器として単純だと思われがちですが、この単純な暴力兵器は、思わぬ活躍を見せることになります。
いつの時代も、相手の剣や槍、弓矢を出来る限り防御できるように、防具開発は工夫され続けました。革の防具などの軽装で安価なものはたくさん使用されましたが、そこから鉄製の防具が開発され、チェインメイルが登場し、キルティング服の上にチェインメイルを着て更に上からプレートアーマーを着用するようになり……といった具合に防具はどんどん刃物に対して強くなっていきました。
ですが困ったことに、防具がいくら頑丈になっても、棍棒の打撃はチェインメイルでもプレートアーマーでも効果的に防御出来なかったという説があります。

人は鈍器でぶん殴られると、鎧越しでも骨や筋肉に衝撃を受けます。刃によるダメージは鎧で防げても、衝撃力は抑えきれず、内側に力が伝達してしまうからです。
鎧で刃物を防ぐことは可能でも、鈍器の衝撃で脳や内臓、腕や足などの筋肉にダメージが入ってしまうと、内出血や脳震盪が発生して戦闘不能になってしまいます。

鎧の下にギャンベゾンを着込み、更に関節部分などの弱点箇所をチェーンメイルで補強した状態で、なおかつプレートアーマーまで着た状態は凄く重かったため、転倒してしまうと容易に起き上がれないという弱点がありました。
衝撃によって体勢を崩さないといけない重装の兵士を攻撃するとき、剣より鈍器の方が有効打になりやすいのです。

メイスのような鈍器、つまり重量物で殴るように攻撃するという戦い方は、硬い金属鎧に対して効果的だったため、当時の戦闘のプロたちもそれに気付いて、剣の構えとして『モルトシュラーク』という構えも登場しました。
モルトシュラークとは、剣の刃側を持ち、柄や鍔の部分で相手を殴ったり、引っ掛けたりするための構えです。つまり、直剣を引っくり返して持つことで、持ち手の部分で相手をぶん殴る鈍器の代用としたわけです。

斧やハンマー状の武器類などが戦場に登場し、武器そのものの重量を乗せて攻撃するための武器が発展していった中で、ウォーピックと呼ばれる鈍器も登場します。この武器は杭状の部分で相手を殴って、鎧に対して点のダメージを与え、鎧も陥没させるほどの威力を内側に通すというコンセプトの武器でした。
剣で鎧の隙間を突くより、とにかく殴って転倒させて、上からボコボコに殴ったほうが早いという考え方は、硬くて重い騎士たち相手だろうと軽装の下級兵士相手だろうと有効であり、そこに人間の合理性と凶暴性が合致したのが鈍器という武器なわけです。

・槍

中型武器としての槍はスピアという名前で分類されているタイプの槍が当てはまるでしょう。槍の歴史は人類の歴史であり、様々な形状や用途の物が様々な文明や地域から、様々な名前で歴史に登場しているため、正確な分類は難しいとのことですが、今回は槍というカテゴリー全般について説明します。

槍という武器は、長い柄の先に穂先という両刃の、又は錐状のパーツがついた武器です。穂先は5,6cmぐらいから大きいものだと20cm以上の物まで様々で、槍の全長は1m以上あるのが一般的な槍の長さです。
とにかく遠い地点から相手を突くことに特化した武器であり、最初期はまさしく遠くから突くように使われていましたが、時代が進むと戦闘向きに改良されていきます。
相手に刺さりすぎないよう羽根状のストッパーがついた『ウィングドスピア』や、斬る刺す引っ掛けるといった複雑な攻撃をすることが出来るように、穂先の左右にも刃を付けた『十文字槍』などなど、それぞれの国が色々な槍を開発しました。
剣に比べて安価に作れる上に、槍の方が長くて安全というメリットは、戦争時のポピュラーな武器として古代からルネサンス期まで名前や形を変えて永遠に改良され続けることになります。

片手で操作できる長さかどうかも重要であり、空いた手に盾を持ち槍を構える陣形の場合は片手で操作できる程度の長さや重さである必要がありました。
片手で操作する場合は、槍の重心である中間地点を持つことになりますが、場面に合わせて長く持ったり短く持ったりと出来るのは柔軟性があるとも言えます。

中型白兵武器ではなく、大型白兵武器に分類されるでしょうが、さらに長い槍もパイクという名前で戦場に登場しました。
パイクは2,3m以上の長さがあり、その長さを活かして突く、または重さを活かして殴るという戦法が単純明快で使いやすく、馬が先端の尖ったものに忌避感を見せることから、騎兵相手にも有効な武器として大成功しました。

投擲武器としての槍も歴史の浅い時期に使われており、ジャベリンと呼ばれていました。オリンピックで槍投げが種目にあるのも、戦争でジャベリンが使われていたからです。
こちらは時代が進むにつれて弓矢や弩、クロスボウ、スリングなどに取って代わられてしまいましたが、『バリスタ』という据え置き型、牽引型の大型のクロスボウの弾丸として、槍のような大きなボルトが使用されていました。

上記の通り、様々な長さや大きさ、白兵でも投擲でも使われていた武器として、槍は戦場でかなりポピュラーな武器として形を変えながら使われ続けます。
最終的には、同じく安価でポピュラーだった斧とハンマーと槍を合体させたポールアームと呼ばれる大型の武器に最終進化するのですが、それは大型白兵武器の項目にて後述します。

・曲剣

直剣に対して、刃の部分が反っている剣を曲剣と分類して呼ばれています。日本刀も曲剣と呼んで差し支えないでしょう。
西洋剣でも、サーベルやカトラス、ファルシオン、メッサーといった名前の剣があり、サーベルは騎兵用の長い剣、カトラスは海賊が持ってる短めの剣、ファルシオンやメッサーは大きいナイフや鉈のような形状の曲刀です。
起源ということになると、中東の剣のシャムシール(イギリス呼びでシミター)という剣がヨーロッパに渡ったとする説、スクラマサクスという片刃の直剣が、ヨーロッパにおける曲刀の起源と見る説があるそうです。

武器として刺すことも出来る構造を維持しているのが一般的ですが、この特徴的な"刀身の反り"は、人体のような弾力のある円柱を切断するのに合理的な形状でした。そのため、基本的に曲剣は相手を斬ったりスライスしたりする武器です。ちなみに、西洋剣術における『スライス』という攻撃はただ斬るのではなく、刃を押し付けてからスライドさせて相手を切り付ける攻撃のことをスライスと言います。これらの攻撃を主としながら、各種武器の良さを活かした戦術や剣術が発展していきます。

曲剣の片刃武器は、直剣よりも素早く安価に制作することができました。そのため、戦争時に下級の兵士たちが使い始め、下級の兵士同士が曲剣で戦闘し合う場面が増えました。
プレートアーマーを着込んだ騎士たちは鎧で完全防備しているため、生半可な腕前の曲剣ではダメージを与えられませんが、下級兵士がよく使用していた防具は隙間も大きくなりがちで、腹部と胸部以外はしっかり守られておらず、曲剣で斬る攻撃が有効でした。
結果として、コスパが良くて使いやすい曲剣は騎士たちもサブの武器として用意するのが普通になり、片手でも両手でも振れる大きさの曲剣であるサーベルが対下級兵士用の安価な武器として流行しました。

時代が進んでいくと、貴族たちが着込む高価な鎧はどんどん頑丈に進化していき、遂に盾を持つ必要がないほど無敵になる鎧が開発されました。ここまで鎧が発達してしまうと、例え下級兵士といえども戦場で曲剣を持つよりもっと貴族たち相手に有効な武器を持つ必要が発生して、最終的には使用武器ランキング上位の座を落とされてしまいます。
以降は決闘用、護身用、儀礼用、服飾のオシャレとしてサーベルが使われていきます。

・細剣、刺突剣

細い刀身なので細剣(さいけん)、または刺したり突いたりする剣と書いて刺突剣(しとつけん)と呼ばれる武器カテゴリーがあります。文字通り、細身で相手を刺すことを想定した武器で、レイピアという武器は細剣の代表格でしょう。
フェンシングという競技になるほど研究された武器種で、有名なのはイタリア流のフェンシング術とスペイン流のフェンシング術です。
そして、レイピア登場以前はエストックと呼ばれる武骨な刺突剣が存在しており、用途は防具の隙間を穿つような力技的な使われ方をしていたらしいです。

レイピアが戦争で使われることはあまりなく、決闘用の武器として貴族の嗜み的なポジションに収まりました。
中世ヨーロッパ当時では、正式な手順で決闘を申し込めば、決闘を合法で行うことが出来る国がありました。貴族としてのプライドのために、熱心にフェンシング技術が研究されたんだろうなというのが想像できますね。
因みに、空いた手にパリィングダガーと呼ばれる短剣を持つスタイルや、バックラーと呼ばれる小さい金属盾を持って戦うスタイルが時代初期型、何も持たないスタイルが時代後期型の構えです。

・斧、ハンマー

フルプレートアーマーで完全武装した騎士だろうと、ファルシオン片手に軽装防具で突っ込んでくる下級兵士だろうと、重い武器で殴るように断ち切る斧、または殴ることに特化した形状のハンマーがどちらの敵に対しても有効な武器として認められ、戦場で運用されるのは自然の流れでした。
更に片手に盾を持てば攻守ともに万能な歩兵の完成です。更に更に、斧もハンマーも道具として使われていた歴史が長いため、徴兵農民が白兵で戦うことになった場合でも、剣より馴染み深い斧やハンマーは直感的に扱いやすく安価なのが好まれて普及していきます。

そうして斧もハンマーも戦闘用に改良されて、バトルアックス、ウォーハンマーと呼ばれる武器になり、それぞれのヘッドの部分も人を攻撃するのに都合が良いような形に変形していきます。
例えば、刃が扁平で分厚い形状の斧は薪割りに適した形状でした。それが、バトルアックスは三日月のような丸い形状の刃に変化し、ヘッドも軽量化のために薄くなりました。刃が丸くなることで、刃が人体や鎧に接触した時に掛かる圧力が小さくなり、より切断しやすいという寸法です。曲剣やギロチンと同じ原理ですね。ヘッドを軽量化したのは、単純に振り回しやすいようにする工夫で、軽量化によって刃が薄くなり欠けやすくなるデメリットも、それほどデメリットではないという考えによって、バトルアックスは改良されていきます。

ウォーハンマーも扁平なヘッドではなくギザギザさせたり、一本トゲのようなものを付けたりして、圧力をギザギザやトゲの先端に集中させてダメージを増加させる工夫が施されます。
さらに、ヘッドに簡易的な槍状のパーツを付けて、刺突攻撃が出来るように対応したりという改良もありました。

時代が進んで冶金技術(やきんぎじゅつ)が向上し、鎧の性能もまた改良され、余りにも防御力が上がったためにルネサンス期には盾を持つ必要がなくなりました。結果として、両手で武器を持つことが出来るようになった騎士は、武器を両手で保持して戦う方法や戦術を模索することになります。
結果、長い棒状の柄の先に斧やハンマーヘッドを穂先として取り付けた『ポールアーム』という大型の武器種が登場し、歩兵用の中型白兵武器はメイン武器からサブ武器としての役割を担うことになります。

騎兵用の武器として長さが調整されて、ルネサンス期まで使用された中型白兵武器の代表は、ロングソード、サーベル、ウォーハンマーといったところでしょうが、騎兵にとっても中型白兵武器はサブ武器として携帯している感じになりました。

器 大型白兵武器

大きくて長い武器は遠くから攻撃できるので安全だし、大きくて重い武器はプレートアーマーを着た騎士相手でも、その重量を利用してぶん殴るのが有効でした。
ということはつまり、武器は大きい方が良いということに史実の人類は辿り着きます。それからは大型武器の時代でした。とにかく長くて安全に、騎士相手でも下級兵士相手でも戦える万能武器というコンセプトで武器はどんどん改良されていき、最終的には『ポールアーム』と呼ばれる長柄武器が戦場に登場して大暴れしはじめます。
まずは慈悲なきアイオニアのルールブックの例にある順番に合わせて、大剣から説明します。

・大剣

剣も大型化し、両手で扱う剣が戦場に登場していきました。クレイモア、ツーハンドソード(ドイツ語でツヴァイハンダー)という名前で呼ばれた大剣類のことです。これらの大剣は有名な武器ですし、見た目もカッコイイのでゲームや漫画などにもよく登場します。
このような大剣は冶金技術(やきんぎじゅつ)の向上によって制作出来るようになりましたが、刃の部分に時間がかかるため高価でありました。そのため、貴族や高級傭兵が持つことが出来る武器なので、大剣を持っていることがステータスとなり、それが敵への威圧効果を生みました。
直剣の技術の応用と重心位置の理解によって素早く剣撃したり、重みによって打撃も有効な攻撃手段になりましたし、鍔の部分などを掴んで槍のように構えて扱うことも出来ました。つまり、相手の鎧に合わせて素早い斬撃か重い打撃かを選べたわけです。
最大の弱点として、武器が大型化することによって単純に操作するのが難しくなってしまいましたが、貴族や傭兵たちはそれでも技術を磨き、その中でも名のあるプロたちが他者に剣術を教えたり、書物に書き残したりして技術は洗練されていきました。

違う方向性の大型の剣として、長い棒状の柄の先にファルシオンのような曲剣状の穂先を取り付けたようなグレイブという武器が登場しました。こちらは製造も容易で安価であり、中世の中盤から戦場で一般的に長らく使われました。
こちらはツーハンドソードのような大剣と比べて割と直感的に降りやすく、適度な重さと長さが遠心力や重量などの力を加えやすいため、生半可な防具なら切断、または破壊したり出来るほどの威力がありましたが、ポールアームは基本的に柄の部分が木製で作られるのが一般的で、敵に捕まれたり、柄を壊されたりすることもありました。

・大槌(おおつち)

槌(つち)は要するにハンマーのことですが、ハンマーもポールアーム化していきました。
ルッツエルンという武器は、槍のような長い柄に、ハンマーと槍を合体させたような穂先を持つポールアームであり、遠心力と重量の乗った一撃はとてつもない破壊力でした。ルッツエルンは穂先に槍も付いていたので、単純に槍として使うことも出来ました。
相手の鎧が軽装だろうが重装だろうが、ハンマー部分の一撃は相手に致命傷を与えるのに十分な威力があるため、合理的・機能的な武器だと言えるでしょう。ハンマー部分に重心を近づけることが出来たため、遠心力が乗りやすい重心を取ることもできました。

ハンマーヘッドの部分を巨大化させたような武器はファンタジーな世界特有の武器ではあるものの、慈悲なきアイオニアの世界のドワーフにとっては、自分の身長よりも少し長いポールハンマー=人間族にとってはちょっとデカいハンマーという大きさになりそうですので、登場しても良いかもしれません。慈悲なきアイオニアのキャラクター制作は自由な発想を受け入れてくれますので、史実にこだわるのもファンタジーに寄せるのも自由です。

・大槍

スピアと呼ばれるタイプの槍よりも、更に長い槍も存在しました。まず、代表格なのがランスという騎兵用の武器です。
普通の槍より長く頑丈な槍だったり、持ち手を保護するために傘というか、アイスクリームのような独特な形状をした物が付いていたりと、西ヨーロッパと東ヨーロッパで形状や材質に地域性がありますが、どちらの国でも騎兵専用の槍として運用されていました。
このランス、使い方は単純明快で『構えて突撃』という武器です。馬に乗って構えて突撃して、地上にいる敵や騎兵の敵に対して、槍の穂先をぶつけるように当てるだけで、馬のスピードが乗った攻撃を敵兵士に与えます。
ランスチャージと呼ばれるこの騎兵の突撃は、余程対策された組織的な反撃でなければ、為す術もなくメタメタにやられてしまいます。
もし騎兵同士だった場合でも、すれ違いざまにランスを当てるということは、両方のスピードがランスに乗ってとんでもない衝撃力になります。

ランスそのものが長いため、地上の兵士が迎撃するためにはランスより長い武器で迎撃する必要がありました。しかし、言うのは簡単ですが、自分の事を殺そうとしてランスを構えて突撃してくる騎兵に対して、立ち向かって反撃するのは、訓練だけではなく並外れた度胸が必要になってくるはずです。
恐怖心に負けて思わず盾を構えたところで、ランスチャージの衝撃で盾ごと吹っ飛ばされて転倒してしまえば、後続の騎兵たちに踏み潰されて死んでしまいます。

このランスチャージ最強という状況をどうにかするためには、遠距離から弓矢でチクチク攻撃するしかありませんでした。しかし、もっと単純にランスより長い槍で迎撃すれば良いんじゃないかと考えたのが、当時の戦いのプロ集団であるスイス傭兵たちです。彼らはパイクという名の物凄く長い槍を用意して、ランスチャージの対抗策としました。
パイクの主な用途は対ランスチャージ対策でした。膝や地面にパイクを固定して騎兵に穂先を向けるだけではありますが、そうすることで単純に突撃を躊躇させる事が出来ました。
そして、余りにも長いので重量も相応に重かったのが幸いします。もし相手が歩兵だったとしても、長いリーチを活かして穂先で刺すだけではなく、重みを活かして上に振りかぶって叩くように殴ることで戦うことが出来ました。騎兵相手にも歩兵相手にも万能武器として戦うことが出来たわけです。
各国の貴族がパイクの万能武器っぷりに感心して、同じような槍を下級兵士たちに配ってパイク兵としたり、パイクをどうにか無力化するために、ファルシオン部隊でパイクの穂先を切って邪魔する戦法が生まれたりしましたが、間もなくマスケット銃を初めとした銃器の時代がやってきたので、徐々にパイクの仕事は減っていきました。

アイオニアの世界では銃器がまだまだ珍しいとのことなので、パイクのアドバンテージは健在であり、シナリオに登場させやすいかと思います。

器 大型多機能武器、ポールアームの時代

大型の武器であるパイクが活躍する頃には、戦場には『ポールアーム(長柄武器)』という種類の、長くて重たい武器がたくさん登場しておりました。
少しだけ先述したグレイブという武器は、長い柄の穂先に曲剣を取り付けたものです。
そして、グレイブのもう一つの特徴として、刃の付いてない方にフック状の突起が追加されており、この突起に相手の体や武器を引っ掛ける意図がありました。
相手を引っ掛けるという戦い方は、馬上の敵に対して必要だったために生まれました。馬上にいる敵、つまり馬に乗った騎士たちを下級兵士が倒す場合、馬に乗って突っ込んでくる騎士の体に、ポールアームを引っ掛けることが出来れば、落馬を狙うことが出来ます。
馬から落ちる衝撃はかなりのものです。現代でも、競馬のジョッキーが落馬したことで、命を落としてしまう事故があります。
重い鎧を着込んでいる騎士の場合、落馬時の切り傷や擦り傷は鎧が防いでくれますが、落下の衝撃は鎧で防ぎ切れません。骨折や内臓の損傷、脳震盪などにより一瞬でも気絶や呼吸困難になってしまえば、喉や脇の下という鎧の弱点部分を守れず、下級兵士に捕まってしまったり、弱点部分に短剣を刺し込まれて死んでしまいます。
運悪く落馬せず、鐙に足を取られた状態で体勢を崩してしまった場合、馬上から中途半端に落ちた状態で馬に振り回されることになります。落馬出来ずに地面をズルズル引き回されることになってしまえば、自力での復帰はもはや不可能なので、その騎兵は完全に戦闘不能になります。

この『相手を引っ掛ける』穂先の部分は、ポールアームに必ず存在します。
ポールアームには他にもビルという武器があり、こちらは鎌状の部分と槍状の部分、そして複数のフックや突起が付いた穂先を持ったポールアームです。
鎌の部分や突起の部分で相手を引っ掛けて、落馬や転倒した相手を槍の部分で突くのが意図されています。

上記のようなポールアームを持ち、対突撃用の密集陣形で固まっている歩兵たちは、騎士の突撃を躊躇させる効果もありました。
騎士たちの目線で見てみれば、ポールアームを持った集団は対騎士用の訓練を積んでいておかしくない部隊です。そのような連中相手に突撃するのは無策にも程があるため、まず別の方法で攻撃することを考えます。

ポールアームを持った兵士たちは、盾を持つことが出来ないので、遠くから弓矢、クロスボウといった遠隔武器で攻撃するのが有効でした。
そのため、ポールアーム兵たちは弓兵たちに狙われる事になり、弓兵を追い払うためには、盾で体を守りながら弓兵たちに突撃する攻撃部隊が必要になり、そんな盾を持った兵士たちを撹乱するためには、騎兵が突撃を仕掛ける必要があり、そんな騎兵をポールアーム兵やパイク兵たちが待ち構えるという構図が生まれ、ポールアームという多機能武器はランスチャージをする騎士たちが最強だった戦争のバランスを大きく変えて、複雑な戦闘指揮や戦略、戦術が必要になりました。

そういった状況で、ポールアームは最終進化形として西欧ではハルバード、東欧ではバルディッシュという武器に進化します。(このハルバードたちの打撃武器バージョンが、前述したルッツエルンでして、同じ時期に登場して活躍します)
ハルバードもバルディッシュも、長い柄の先に斧が付いています。バルディッシュは三日月斧という名前でも呼ばれていて、バトルアックスのような円を描く刃が特徴的です。ハルバードの方は斧の部分の他にも槍の部分とフックの部分を備えています。
どちらとも熟練した兵士が使用することで、『斬る』『突く』『殴る』『引っ掛ける』といった多機能武器として、とんでもない強さを発揮しました。何なら騎兵もランスやロングソードやサーベルを持つのではなく、ハルバードやバルディッシュを持って戦うほど万能武器として地位を確立しました。
というのも、ついに金属加工の技術向上や、戦場で培われたノウハウ、そして使用する人間の武器熟練度により、ハルバードもバルディッシュも重量と刃によってチェインメイルすら断ち切ってしまう切断力を持っていました。
フルプレートアーマーの騎士たちは、関節部分はチェインメイルに頼って弱点を補っていましたが、チェインメイルごと断ち切れる、または単純にぶん殴られるだけでもメチャクチャ痛いポールアームが登場したことによって、ハルバードやバルディッシュを装備したポールアーム兵たちが戦場を支配し始めます。

そんな状況なので、戦い方も大きく変化していきました。
主に前線部隊が横並びに隊列を組んで真正面から力押ししている間に、ポールアーム部隊が前線部隊の側面を防御して騎兵を警戒し、後ろに配置された砲兵が敵陣地に砲撃を浴びせるという戦争に変化していきます。騎兵はまず騎兵同士で戦闘し潰し合ったあと、勝利した側の騎兵が敵の前線とポールアーム兵を迂回して、砲兵を倒すのが理想的な戦術として発展しました。

砲兵という兵士の種類が登場しましたが、ハルバードが活躍した時代には、徐々に火薬によって鉛玉を射出する大砲が兵器として登場しはじめており、新大陸であるアメリカ大陸も発見されており、マスケット銃もぼちぼち登場し始めています。
白兵武器としての完成形は間違いなくハルバードやバルディッシュと言えるのですが、史実ではマスケット銃と、銃に取り付ける銃剣というアタッチメントが戦争のゲームチェンジャーとして登場することによって、史実の人類の戦争は『砲と銃の時代』に突入していくことになります。

器 射撃武器

弓矢やボウガン、ナイフに石などなど、何かを射撃するまたは投擲する武器全般ということで、それぞれの武器を説明していきます。

・弓矢

古代から人類が使い続けている射撃武器で、先端に刃、後端に羽根などを付けて重量を安定させた矢を、弦を張った木の棒や動物の骨を使って作られた弓という道具で射出する武器です。という説明が不要なほど弓矢という武器は誰もが知っている思います。

弓は作り方や形状で名前が変わり、中世で使われていた弓矢は主にロングボウ、リカーブボウ、コンポジットボウという弓に分類されます。
文化が違えば矢の方にも多少違いが見られますが、概ねどこの国も同じような感じです。

弓矢という武器は、銃が登場するまで戦争の最前線で使われ続けました。遠距離から一方的に攻撃できる武器なので、安全に敵の数を減らせるからです。
特に戦争では強い軍団が弱い軍団を攻めるというのが基本であり、強い軍団が戦場の主導権を握るものです。
弓矢から放たれる矢には重力が働くため、高い位置から低い位置に向かって射撃するのは威力や飛距離のアップに繋がります。ということは、小高い丘や山、城壁の上から射撃する場合など、より高い位置にいる弓兵の方が先に攻撃できて有利でしたし、そのような弓兵の有利ポイントを戦闘時に掌握するのは強い側の軍団でした。(ちなみに、例え白兵武器同士の戦いでも、高い位置にいる兵士が有利で、低い位置にいる兵士の方が不利です。丘や山を登りながら、さらに相手を見上げながら、自分より高い位置にいる相手に剣や槍を振るうのは、スタミナを無駄に消耗してしまいます)

弱い軍団は、できる限り有利なポジションを奪い取るために、強い軍団相手に奇襲したり、あらかじめ要所になるような場所に砦を築いておいたり、城壁を工夫して城外の敵を攻撃しやすくしたり、森の木々などを自然の盾として避難したり、対弓矢用の戦略を工夫して、不利を補う必要があります。
弱い軍団が強い軍団にダメージを与えようとする場合、真っ向から弓矢の射撃勝負をするような総力戦は負けるのが目に見えていますので、特有の戦術が必要であり、人数不利に加えてそもそも戦略や戦術の制約すら発生してしまうため、更に不利でした。

というわけで、どういったルートで行軍するのか、どこに陣取るのかといった戦略的な問題も、弓矢という武器一つで大きく変わってしまうほど、射撃武器は重要な意味を持っていました。

そんな射撃武器の話で、特にヨーロッパ人が苦戦した戦術が、弓騎兵という兵士たちです。
名前の通り、馬に騎乗した状態で弓矢を扱う兵士たちですが、弓騎兵を倒すためには弓騎兵より多い弓兵で撃ち合いする以外に勝てる方法がありませんでした。
何なら、弓騎兵は馬の機動力でいつでもどこでも奇襲出来ましたし、一撃離脱で戦闘を中断することが出来たため、戦闘を長引かせると弓騎兵のやりたい放題になってしまいます。

そのため、モンゴル帝国がヨーロッパの端から端まで占領した時代は、弓騎兵で撹乱して重装騎兵で突撃してトドメを刺すというモンゴル騎兵軍団の戦い方にヨーロッパ側が全く付いて行けませんでした。
ヨーロッパ側の貴族たちは馬を飼育して騎乗して戦えますが、下級兵士にまで騎乗させるほどのお金は無く、戦い方も鎧を着込んだ重装騎兵が中心でした。
しかし、モンゴル側は人々と馬がより密着している文化でした。子供のころから馬と一緒に生活しているのが普通だったため、騎兵の数も質も圧倒的にモンゴル側が優勢でした。更に、軽い防具を着ることでスピードも速かったモンゴル騎兵は、鎧を着込んだヨーロッパ側の貴族たちだと追いつけないというのが決定的な差として戦闘結果に表れました。
モンゴル弓騎兵個人の能力も高く、騎乗して馬を走らせながら、真後ろに弓を射撃できたという説もあります。追い掛けられても後ろに矢を放てるので、後ろから追い掛けてくるヨーロッパ騎兵はモンゴル弓騎兵にとって格好の的だったわけです。
ヨーロッパの歩兵たちを相手にするときも、歩兵の一団から一定距離を取りつつ、周囲をグルグルと馬で駆け回りながら矢を浴びせ、歩兵に近づかれたらすぐに離れて距離を維持する……という戦い方を繰り返し、一方的に攻撃できました。地上にいるヨーロッパ弓兵たちを相手にする場合でも、モンゴル弓騎兵は矢を見てから馬の機動力で避けることができますが、ただの弓兵は弓騎兵の矢に晒されても走って逃げる前に矢が降ってきてしまいます。
弓兵が用いる設置型の盾のパヴィースという大盾に隠れることによって弓兵は安全を確保出来ましたが、城壁で戦うならまだしも、野戦でパヴィースを運搬して設置して弓矢を射るという忙しなさに比べて、弓騎兵はただ馬を自在に走らせながら矢を放つだけで良かったので、持久力も大きく違います。そして、弓騎兵たちの迂回する動きに連動して重装騎兵がいつ突撃してくるか分からないプレッシャーに耐えながら根気強く反撃している間に、別働隊のモンゴル騎兵が他の歩兵や騎士を蹂躙してしまうため、弓兵たちが弓騎兵部隊を長時間相手にしていては、その場は弓兵側が有利でも、別の地点ではモンゴル騎兵にボコボコに負けてしまうわけです。
さらに、モンゴル騎兵軍団は分が悪い戦場を咄嗟に撤退できる機動力があります。ヨーロッパ軍側は攻められたら反撃するしかなく、撤退していくモンゴル騎兵を騎士たちが追い掛けても弓騎兵にあしらわれて逆に損害を出してしまいますので、ヨーロッパ軍側が戦いに勝利出来たとしても、モンゴル軍を追撃することは出来ず、決定的な損害を与えることが出来ませんでした。
逆に、モンゴル軍側が戦闘に勝利した場合、逃げるヨーロッパ軍を追撃して徹底的に痛め付けることが出来ました。

ヨーロッパ側は不利を理解して戦略を工夫する必要がありました。城に引き籠もって籠城戦をするのも戦略でしたが、それで勝てるのかと言われると、モンゴル騎兵は周辺の村や町を略奪して人や食料などの戦争物資を根こそぎ奪い、ヨーロッパ軍が立て籠もる城を放置してしまいます。
周囲の村や町が略奪され、人手や食料が不足してしまえば、城に引き籠もっても飢え死にするしかありません。村や町を守る為に城から打って出ると、モンゴル弓騎兵にボコボコにやられます。
対してモンゴル軍たちは遊牧民として生活しているため、テントで拠点を転々としながら活動するのが普通でした。モンゴル人にとって城は全く必要なく、食料はヨーロッパの村々で現地調達出来てしまうので、食べ物に困る事なく悠々自適にヨーロッパを荒らし回ることが出来ました。

このように、戦略上も戦術上もモンゴル騎兵軍団がヨーロッパを蹂躙出来たのは、弓矢という武器がとんでもなく強いからでした。
剣でもなく槍でもなく弓矢が最強であるという事実を突きつけられたヨーロッパ騎士たちは、きっと歯痒い思いをしたことでしょう。

余談ですが、こんな最強のモンゴル軍団が瓦解したのは、平たく言うと世継ぎ問題でした。戦争では負け知らずのモンゴルでしたが、政治の失敗によって領土はとんでもなく縮小してしまいます。戦争は政治の最終手段であって、戦争で積極的に政治を行うのは長期的に見て無理だということが見て取れますね。

・ボウガン、クロスボウ

弓矢が最強! モンゴル帝国最強! という時代、ヨーロッパ側がどうにか弓兵の数を増やそうとした結果、ただの弓よりちょっと高価でしたがクロスボウを使うという選択肢がありました。
クロスボウという物は、木製の棒に弓を交差させるように取り付けて、引き金を引くことで矢(ボウガン、クロスボウの場合は矢のことをボルトと言う)を発射できる射撃武器です。弓の弦を引く機構が色々と工夫されていて、最初は手で引っ張っていたのですが、後の世ではハンドルで弦を引く構造や歯車式の物もありました。
古代中国で開発された武器で、弓と比べて訓練時間が短く、威力も十分な武器でしたが、モンゴル帝国にヨーロッパが敗れてしまった歴史を見るに、それでもモンゴル帝国が強かったということでしょうね。

クロスボウはルネサンス期まで使われ続けた射撃武器で、騎士たちが着ている鉄製の鎧を貫通するほどの威力があったことから、騎士や貴族たちが抗議して『キリスト教じゃない異教徒相手の時だけ使おう』というルールまで作られました。
確かに騎士や貴族がクロスボウによって死んでしまうと、生け捕りにして身代金の要求ができないということになります。これは下級兵士や傭兵にとって都合が悪いですし、戦場で降伏すれば命だけは助かる保証がある貴族たちにとっても都合が悪かったといあ事情があります。
たまにルールが破られることもありましたが、そうして使われ続けていき、十字軍遠征によるキリスト教とイスラム教の戦争で使用されることになります。

・石、投石器

投石という手段はいつの時代も人類の攻撃として使われ続けていました。最初期こそ素手で投げていましたが、スリングと呼ばれる投石器が古代に登場して以降、弓矢と共に射撃武器として使用されました。
スリングとは、石を包み込む部分と紐の部分に分かれており、紐を頭上や体側面でグルグル振り回して、適当なタイミングで片方の紐を手放すことにより、遠心力が乗った石を射撃できるというものです。スリングスタッフと呼ばれる棒状のスリングもあり、こちらはより重い石を射撃できました。
意外に知られていなのが、戦国時代でも武器として使われていたことです。弓矢の矢を量産するコストに比べて、石を拾うのは労力以外タダみたいなものでしたし、クロスボウの人気が無かった日本では手頃な射撃武器として使われていたらしいです。

ヨーロッパでは、鎧の進化やクロスボウの本格的な武器参入によって威力が不足し始めたスリングは徐々に使われなくなりましたが、片手が空くので盾を構えたまま射撃出来たり、やっぱり安かったり、携帯性に優れていたりなどなど、戦争で組織的に使われなくなってからも、この利便性によって小規模戦闘や小競り合い、奇襲戦闘などで真価を発揮していたことでしょう。

・設置型の投石器、またはクロスボウ

投石器は城壁等を破壊する目的で大型の物が使われることも多々ありました。大きな石を射撃する大型の投石器を『カタパルト』といって、紀元前の世界各地で同時多発的に開発され、しかも構造もほとんど一緒だったのが凄いですよね。

カタパルトは城壁や城門に向かって石など重たい物をぶつけるだけではなく、汚物や動物の死体などを敵城内に投げ入れて疫病を狙ったり、毒ヘビ入りの壺を投げ入れたり、火を付けた樽を投げ入れたりなどなど、とにかく色々なものを投射できました。
攻城戦だけではなく、野戦時に敵の陣営や隊列へ向けてカタパルトを使用することもあったとのことで、投石を地面に跳弾させてより広範囲にダメージを与えるために、石を球状に削って使用したと言われています。
後の世で大砲が使われるまでの間は、このカタパルトは使われ続けましたし、戦場で簡単に作れる利便性から、大砲が戦場で使われ始めてからもしばらく現役でした。

クロスボウも大型の物が開発されており、名前を『バリスタ』と呼ばれています。こちらは槍ほどの大きさになったボルトや、金属製のボルトなどを打ち出すことで、敵兵士だけではなく、防衛戦で敵の攻城兵器などに大ダメージを与えることが出来ました。
バリスタは用途によってサイズを選べたので、設置型の大型の物だけではなく、牽引式の中型の物も作られました。
その利便性から、野戦や海上戦でも使用され、大砲や銃に取って代わられる長い期間、戦場で活躍した兵器でした。

・投槍、投げ斧、投げナイフ

槍も斧もナイフも、投擲して攻撃する技術は存在しました。弓矢と同じ時期に石も槍も投げていた古代の人々は、どのように弓矢と投石と槍を使い分けたのでしょうか。

射撃武器として威力と飛距離のバランスが良かったのは弓矢でしたが、古代では投石の方が射程距離が上でした。そのため、単純に射撃武器のやり合いをしようとしたら、両手で扱う弓矢より片手で扱える投石兵の方が盾を持てるので有利でしたし、より遠い位置から先制攻撃することが可能でした。

そして、同じく古代では投槍の戦術的な使用が多い時期でもあります。古代ローマ兵は『ピルム』という投げ槍を兵士が使用していました。投槍の飛距離は弓矢よりも下回る状況が多い武器でしたが、飛距離のデメリットを上回るメリットがいくつかありました。

まず、相手の盾に与えるダメージに特筆すべき効果がありました。弓矢や投石を盾で防ぐだけならまだ良いのですが、投槍を盾で防いだ場合、盾に突き刺さってしまうことがありました。盾に槍が刺さってしまうと抜くのが大変ですし、抜かないで盾を使用するのも槍が邪魔で難しくなってしまいます。
さらに重くて貫通力があるため、運が悪いと盾を貫通した槍によって負傷する場合もありました。運次第で自分の体に槍が突き刺さるという状況は、正直たまったものではありません。兵士達は投槍攻撃に晒されると士気を失ってしまうことでしょう。想像するに恐ろしい攻撃です。たまたま自分は大丈夫でも、隣の兵士が倒れるだけでも心理的なダメージを負うことになります。どうにか工夫して投槍攻撃を受けるのは避けたいし、投槍攻撃を相手に当てたいというのが古代の白兵戦でした。
そのため、敵に投槍を投げてから白兵戦闘を始めるという戦術が生まれることになります。

更に、古代の騎兵はまだ鐙(あぶみ)が開発されていなかったため、手綱を付けた馬の背中に跨っているだけという不安定な体制で戦闘していました。鐙があれば、足と馬を固定することで踏ん張りも効きますし振り落とされることもありませんが、古代の騎兵は踏ん張りが効かないため、中世で行われるようなランスチャージのような戦い方をすると、歩兵に白兵武器を当てた衝撃で騎兵側が落馬してしまう危険がありました。
そのため、古代の騎兵は射撃武器を主な武器としていました。馬の機動力で投槍の射程距離の短さをカバーできたので、投槍のメリットだけを享受できる投槍騎兵は戦場で活躍しました。

同じく、古代から中世にかけて、ヨーロッパのドイツ辺りに住んでいたフランク人という人々が投げ斧を武器として装備していました。その名もフランシスカと呼ばれる投擲用の斧は度々ゲームにも出てきますね。ちなみに、トマホークの方はネイティブアメリカンの人々が使用した投げ斧の名称です。
投擲用の斧の用途は投槍と同じく、相手の盾へのダメージと、地面で不規則に跳ねて恐怖心を煽るための武器だったとのことです。
斧を縦回転させて投擲するという攻撃のため、しっかり刃が敵に当たるように投げる熟練度も必要だったとのことです。
この投げ斧を投擲するという戦術は、かなり強い攻撃です。投げ斧を防ぐために盾を掲げさせて、その隙をついて突撃するフランク人の白兵攻撃は、先制攻撃としてかなり理に適っていて強烈でした。
投げ斧を防ぐために盾を掲げるということは、自らの盾が目線を邪魔して一瞬前が見えなくなります。かといって盾を掲げないと顔面に斧が飛んできます。盾を掲げた向こう側でフランク人がどの様な攻撃を仕掛けてきているのか見えなくなりますが、この一瞬の隙がかなりのアドバンテージになるという戦法です。

中世になってから、つまりアイオニアの状況になってからは、弓矢とクロスボウの時代になります。戦略的な大規模戦闘で、投槍や投げ斧、投石は減ってきてしまいました。この時期に使用されていた投げ槍は『ジャベリン』と呼ばれています。
使われなくなった理由が何なのかは諸説あるんでしょうが、弓本体や鎧、そして鐙や馬鎧の開発が進んだことが大きいとのことです。鐙の登場によって騎兵が馬上で安定して白兵攻撃をすることが可能になったこと、弓矢の性能が向上して飛距離と貫通力が上がったこと、投槍や投げ斧といったかさばる射撃武器より矢やボルトの方が携帯に優れたこと、改良によって弓矢やクロスボウの威力が向上したことなどなど、弓矢やクロスボウを使うメリットが大きくなったのが要因の様子です。
しかし、この時代でも槍や斧を投擲するという発想がなくなったわけではなく、投げて倒せる敵がいるなら槍や斧を投げて倒していたと思われます。"戦術として組織的に専門の兵士が組織されなくなった"というのが正しいのかもしれません。
しかし、投石武器ということに関しては、カタパルトは攻城兵器として、スリングスタッフはスリングで投擲できないもっと大きい石を投擲するための道具としてしばらく戦場で活躍し続けます。

投げナイフについては、ダーツ的な投げ矢の文化と同じく、戦場ではなく遊びとして行われていたものの方が一般的だったことでしょう。古代においての投げ矢は戦術として使用されていたらしいですが、短剣を投擲するという攻撃を組織的に行っていた様子は無さそうな雰囲気です。
しかし、あくまで戦場で使われなかっただけで、個人同士の戦闘や喧嘩などで投げナイフは使用されていたことでしょう。
日本でも手裏剣や苦無といった武器が伝わっていますし、相手の意表をついたり、あえて回避や防御をさせて隙を作る武器という使用用途は、古代の投槍や投げ斧と同じコンセプトです。命を奪い合う真剣勝負の場において、投擲武器を使用しようと思ってナイフを忍ばせることは自然な発想ですし、その国でも、どの時代でも、投げナイフは戦術の1つとなっています。

防 慈悲なきアイオニアの防具の種類について

今度は防具について書いていきます。時代の変化や用途によって『軽装防具』と『重装防具』に大きく分かれていましたが、慈悲なきアイオニアにおいても軽装防具と重装防具の2種類に分かれるとのことで、説明しやすいですね。
各防具の説明をシナリオ作成時の描写やPC作成時の参考にして頂ければと思います。

具 軽装防具

・ギャンベゾン、アクトン

現代にも存在する、布地と布地の間に綿や羽毛を詰めて縫った生地をキルティング生地と言います。そのキルティング生地で作られた戦闘用の防具ジャケットをギャンベゾンと言います。
より頑丈にするために布地ではなく革で作ったりなどなど、形や素材のバリエーションは様々です。
ギャンベゾンは主に防具の下に着込む服装として非常に一般的に使われていました。裸の上や布の服の上に鎧を着るのは鉄製の部分が体に当たって不快なので、厚みのある服を着る必要があるという事情がありました。
後述する防具類の下着としてギャンベゾンを着ているのが一般的でありましたが、徴兵農民や傭兵の下っ端などはギャンベゾンのみで戦うことになっていた様子も伺えます。

アクトンは後述するプレートアーマー用に調整されたギャンベゾンであり、よりプレートアーマーの下に着ることを意識した構造になっています。

・コート・オブ・プレート、ブリガンダイン

中世で主に使用されていた軽装の鎧ということになると、こちらの防具が妥当でしょう。
コート・オブ・プレート、ブリガンダインはどちらも胴体の形に合わせて湾曲させたりした鉄板を、ギャンベゾンや革製の鎧の裏地に鋲などで固定したものです。
見た目としては、至る所に鋲が打ってあるのが特徴になるでしょう。鉄鎧と違って表面は革製なので、カラーバリエーションは自由自在でした。無骨で安価な鎧の割に、実はちょっとオシャレ装備です。

鉄の鎧に比べて、安価に作ることが出来て、破損個所を直すのも簡単だったことから、下級の兵士も傭兵も貴族も使用していました。革やキルティングや毛皮などで耐寒性を上げることができましたし、鉄鎧と比べて圧倒的に軽く、必要最低限の防御力は確保出来たので、何なら貴族の中には鉄鎧よりこちらを愛用した貴族がいたらしいです。
そして、好む好まないに関わらず、ちょっとした戦闘用の上着として外出時などに着ていたこともあると思われます。というのも、出掛けるたびにいちいちプレートアーマーを着ていくのは単純にしんどいからです。

・バックラー

鉄製の湾曲した盾であり、大きさは大きいもので直径30cm強ぐらいです。盾の中ではサイズが小さい方に分類されます。
というのも、盾は相手の攻撃を防ぐために持つものなので、大きければ大きいほど相手の攻撃を防ぎやすいはずです。では、どうして小さいサイズのバックラーという盾が生まれたのでしょうか。

この盾は護身用の盾、もしくはレイピアやサーベルのお供として使用することを想定していました。戦場で使用することはあまり想定していないので、矢や投石などを防ぐには小さすぎるサイズでも良かったのです。
バックラーは、持っている手を最大限敵に向けて伸ばして構えるのが一般的な構えでして、相手にバックラーを近づけることで、相手から見た防御範囲を広げる効果がありました。目隠しの効果もあり、持っているレイピアや足さばきなどをバックラーの陰に隠すという意味合いもありました。鉄製のバックラーはそのまま殴るのにも適しており、相手に近づけていればいるほど、とっさに素早く殴って動きを制することもできました。

このように出来る限り相手に近づけて構える方法は、もっと大きいサイズの盾では逆に不安定で使い辛くなってしまいます。軽量の盾だからこそ腕を伸ばして自由に操作できるのがメリットというわけです。

バックラーのこの操作性を参考に、慈悲なきアイオニアの世界で大盾を軽々とバックラーのように扱うトロールなどが登場するのは熱い展開かもしれません。

・スケイルアーマー、ラメラーアーマー

スケイルはウロコのことであり、鉄や革の小さな板状の物をウロコのように縫い合わせて作られる防具です。ラメラーアーマーは小さい冊状の鉄を糸などで縒り合わせて作られた防具です。どちらも小さな鉄片をたくさん縫い合わせたりする作り方なので、人の体にそこそこフィットし、胴体の捻りなどもあまり阻害せずに動かすことができます。

これらの防具は後述するチェインメイルの先駆けとなりましたが、作業が細かくなってしまうチェインメイルと比べると、スケイルアーマーやラメラーアーマーの方は安価であり、壊れた部分も修繕しやすく、前述したブリガンダインなどでは精密に隙間無く作れない部分の防具である"肩やひじ、ひざなどの関節部分の防具"としても使用できるというのが便利だったため、なんだかんだ中世ヨーロッパでは作られ続けました。
高価なチェインメイルを保護するために、チェインメイルの上にこれらのアーマーを着こむこともあったことでしょう。腰や股関節回りを防御するスカートのような防具も作れたので、全身を鉄製の防具で覆うコンセプトの先駆けと言える鎧かもしれません。

・チェインメイル

前述の防具はアーマーで、チェインメイルはどうしてメイルと呼ぶのかというと、アーマーは主に胴体や胸周りを防ぐ胴鎧であるのに対して、メイルは全身セット装備という意味合いがあります。
チェインメイルという防具は、非常に小さな鉄製の輪を大量に繋げることで作られる防具で、日本語で言うところの鎖帷子(くさりかたびら)という防具です。
スケイルアーマー、ラメラーアーマーよりも柔軟性があり、そして薄く作ることが出来たので嵩張らずに着ることが出来たチェインメイルは、西洋防具の転換期ともいえるぐらいの高性能で便利な防具でした。
腕や足を一周ぐるりと覆うことが出来たため、チェインメイルで防御出来ない部分が無いと言えるほど隙間なく防御できました。パーカーのフードのような形状の物もありましたし、兜と組み合わせて目出し帽のような形状にすることも出来ました。

全身鎧だったので防御力は刃に対して大きく向上しましたが、しかし弱点として重量は増えましたし、鉄なので熱伝導してしまって滅茶苦茶暑くなってしまい、着ている状態の快適性はガクッと下がってしまいました。

・タバード、サーコート

ポンチョのような『タバード』、コート状の『サーコート』という布製の上着を羽織ることで、太陽光からチェインメイルを守ることが出来ました。そうでもしないと、チェインメイルは暑くて戦いどころではなかったわけです。
中世を舞台にしたゲームや映画や漫画でよくあるチェインメイルの兵士は、タバードやサーコートとセットで描かれることが多いです。タバードやサーコートには自身に関係のある紋章や柄などを入れました。兜などで人相が隠れてしまっても、誰かを識別する目的もありました。

上記の理由により、タバードやサーコートの紋章や柄は家柄によって様々であり、騎士たちが横並びになると十人十色のカラフルな感じになります。

・カイトシールド、ヒーターシールド、ラウンドシールド

カイトシールドのカイトは凧のことであり、逆三角形に近い形状をしています。ラウンドシールドは丸い形状の盾のことです。ヒーターシールドはカイトシールドに比べてより逆三角形の形に近付き、小型化しています。
中世で使用されていた中型の盾は一般的に木製で、表面に革が張ってあったり、縁を金属で補強していたりします。

カイトシールド、ヒーターシールドは騎兵用の盾として使用され、逆三角形の下部の部分があるお陰で、足元を守ることが出来ます。その代わり、重心の位置が微妙に中心からずれているせいで感覚的に使い辛いらしいです。
ラウンドシールドは歩兵用の盾であり、中心位置が盾の真ん中にあるお陰で感覚としても扱いやすいとのことです。盾を持った歩兵同士で相手の足元を攻撃するのは頭部ががら空きになったり、体勢が崩れやすかったりで危険なため、カイトシールドのように足元を守る必要がなく、丸い形は歩兵が扱う上で合理的な形状の盾とのこと。

武器の説明にも書きましたが、ポールアームは白兵武器の最終進化系でした。そのポールアームは両手で持つ武器だったため、ポールアームと一緒に盾を持つことはできません。
歩兵として戦う場合、弓矢や投石、攻城戦の時には熱した油や可燃物のタールや松脂などを掛けられてしまうことがある状況で、盾が無いのは致命的でした。
そのため、銃が戦場に登場するまでの長い期間、盾が廃れることはありませんでした。ポールアームが白兵武器の最適解だったとしても、戦場では盾を持った兵士が最前線で盾を構える必要があり、盾を隙間なく並べることで投射物の対策をするのが当たり前でした。

・兜、篭手、ブーツ

戦場において、兜を装備して戦うのは至極当然でした。例え下級の兵士だったとしても、簡易的な兜を支給されることでしょう。頭部を守ることが重要なのは言うまでもありません。
逆に漫画やアニメ、ゲーム、映画、ドラマなどでは、戦場で兜を装備してしまうとキャラクターの顔や表情が隠れてしまうため、あえて兜を装備させないように描写されることがあります。

兜の種類や形は国によって千差万別なので、名前や形の説明は有名な形の兜に絞ります。
バケツのような形の兜はよく見かけられますが、その名もグレートヘルムと呼ばれています。ほかの兜たちに比べて大きいという意味でグレートと名前がついた兜なんですが、頭や顔に密着している兜より、大きく隙間が空いているグレートヘルムのほうが打撃に対する防御力が高いため、貴族の間で瞬く間に流行しました。
勿論、あんな兜をかぶってしまうと首も大きく動かせないため、視界が制限されるという弱点がありましたが、それでもグレートヘルムが使われたのは、やはり安全第一というコンセプトが受け入れられたからでしょう。
グレートヘルムの頭の部分に装飾をするのも流行りました。布を巻き付けたり、動物を象ったり、角や羽根で装飾したりと、貴族たちはオシャレも欠かしませんが、個人の識別という意味にもなるという実用性もありました。
もう少し時代が進むと、クローズヘルムと呼ばれる形に変化します。こちらも調べてもらえれば「あぁ、この形のヘルメットね」と誰もが分かる有名な形のヘルメットです。つまり、グレートヘルムの次に流行したのがこのクローズヘルムでした。
バケツのような形のグレートヘルムより流線形のデザインに改良されましたが、丸い部分を武器で殴られても、角度のおかげで滑る可能性がありました。これは、相手の打撃による衝撃を受け流せるチャンスが増えることを意味します。
視界についても改善しようという工夫があり、兜の前をパカッと開くことができるバイザーと呼ばれる機構が追加されています。
口の所が依然として大きいのは、密閉感を和らげて呼吸をしやすくするためです。

人間同士が戦う場合、相手の手を攻撃するテクニックは常に磨かれてきました。相手の手を攻撃し、武器を持てなくすることができれば、相手は降参するしかなくなるからです。そして、武器を持って戦う以上、一番敵に近付けないといけない体の部位は、まさしく手首だったので、危険な部位ということになります。剣道でも面、胴、篭手、突きと4箇所が有効打撃箇所です。
篭手(こて)、またはガントレットという防具は、手の周りを保護する防具として非常に重要でした。同時にグローブも重要な防具であり、革製のグローブ、チェイン製のミトン型(手指一体型)グローブ、鉄製の五本指グローブと進化していきました。
ガントレットは、時として盾代わりにもなりましたし、盾として使えるように大きく張り出したガントレットも存在します。時代が下って両手剣やポールアームが武器としてメジャーになった頃は、盾を装備出来ないという弱点をガントレットや肘当て、肩当てがカバーすることになります。

戦場でブーツを履く場合、徒歩なのか騎馬なのかで足元の防御力は大きく違いました。歩兵の目線から騎兵を見た時、攻撃しやすい部位は騎兵の足だからです。
そのため、騎兵はただの革製ブーツを履くわけにはいきません。狙われやすい足を完全に防御しないといけないため、革製のブーツに鉄の板を貼り付け、すねやふくらはぎも形に合わせて鉄で保護して、太もも周りも鉄で保護して……とやっているうちに全身が鉄のプレート装備になりました。頭から足先まで鉄のプレート装備の状態をプレートメイルと呼びます。全身鉄の鎧なのは凄く重かったですが、馬に乗っている状態なのでなんとかなりました。
チェインメイルが世に出回り始めると、太ももから下は鉄のプレートではなくチェインを巻きつける形に改良され、少し動きやすくなりました。
ルネサンス期になると、鉄のプレートもチェイン製の物より軽くて薄くて頑丈な防具を作れるようになり、再びプレートメイル状態になりました。

対して徒歩で戦う兵士にとって、足元まで鉄で覆ってしまうと動き辛いという弊害がモロに出てしまいます。それでいて、足元を攻撃するという戦い方が通用するのは、対策を知らない完全なド素人相手だけです。対策を知っている相手の足元を攻撃するのは、それぐらい危険な行為になりました。
なので、逆説的に足元の防御力はそこまで必要なく、太ももや股関節、腰回りを防護出来ていれば良かった徒歩の兵士達は、革製のブーツを鉄のプレートで補強した安全靴のようなものを履いていました。

・プレートアーマー、プレートメイル

鉄の板を人体に合わせて変形させて、組み合わせることで隙間をできる限り無くした鎧をプレートアーマーと呼びます。そして、同じく肩から手首、腰から足先までを鉄で保護した鎧のセットのことをプレートメイルと呼びました。

鉄製のオーダーメイド服を作るようなものなので、かなり高価な防具でした。そのため、貴族や王族でなければ、なかなか手に入れることはできませんでした。
そうした事情は下級兵士や傭兵たちも把握していたため、プレートメイル装備=貴族、王族であるという考え方があります。これは、プレートメイル装備の騎士は戦闘訓練を受けているので倒すのは容易ではない事、もし拘束できれば、または降伏させれば身代金で一儲けできる事を意味しました。
結果として、プレートメイルという装備は単純な防御力だけではなく、降伏すれば助かるという貴族、王族の証として命を守るのに役立っていたことになります。

プレートメイルの弱点として、余りにも重たいので長距離を徒歩で移動できないということ、一度転倒すると起き上がるのに苦労することが挙げられます。これはかなり致命的な弱点であり、どんなに剣や棍棒を防ぐことが出来ても、死角からタックルされて転倒してしまえば何もできないということです。足運びなどでタックルを回避したり、死角を減らそうと動こうとすれば、鎧の重さによってスタミナを大きく消耗してしまいます。

・大盾

持ち歩いて使用する大型の盾は古代から使われていましたが、中世に入ってからの大盾はパヴィースと呼ばれました。注意が膨らんだ形状をしていて、表面の布には絵や紋章などが描かれていたとのことで、宗教画が多かったのが外見的特徴です。

手で持って使用するもの、地面に突き刺す杭が付いてるものなど、バリエーションがありました。地面に突き刺すものは、弓兵やクロスボウ兵が持ち歩き、地面に刺したあとはその影に隠れながら戦うためのものだったとのこと。

具 さいごに

とんでもないテキスト量になりましたが、慈悲なきアイオニアの世界に登場するかもしれない武器防具をまとめてみました。
勿論、説明できなかった武器や防具はまだまだたくさんありますし、日本や中国で使用された武具もあえて説明から省いています。

大事なのは、これらの武具だけじゃなく、自由な発想の元、様々な武具に身を固めたキャラクターたちがアイオニアの世界で生活している様を描写することです。
魔物が人類の脅威として見え隠れしているなかで、どうしても武具の需要は増加しているはずです。魔物に対するために、対人間用の工夫ではなく、対魔物用の工夫が施された武具があってもおかしくありませんし、ルールブックに記載されている国々も戦争状態が続いているため、対人間用の武具に対して、魔術的なアプローチがあってもおかしくありません。
アーティファクトと魔術師という存在は、特に戦争を大きく変えている可能性があるため、リアルにこだわり過ぎずに柔軟な発想で戦闘シーンを描写したいところです。

例えば、投石器の石に火炎をエンチャントすれば、火球を投石できるでしょう。弓矢と一緒に魔術の得物:風属性を唱えれば、より正確に長距離を狙撃したり、軌道を変化させたり出来るかもしれません。

トロールにとって、人間のツーハンドソードはトロール界でいうところのショートソードぐらいの大きさに感じているかもしれないですし、パヴィースは丁度いい中型の盾として使えるかもしれません。
人間より背が高いトロールや、背の低いディグリングは人類史に例になるような存在がいないため、想像を働かせる必要があります。彼らの生活様式にあった武具があり、それらの武具で自身と大きさの異なる存在と戦うとき、どのような光景になるのでしょうか。

この記事が参考になれば幸いです。


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