ありがとうの効能

ありがとう、ありがとうと、事あるごとにお礼を言うご婦人がおられます。
彼女は実に心優しいお方ですから、人様にお世話になった時ばかりではなく、いつだって他人にありがとうを振り撒きます。
どんなに些細なことにだってお礼を言います。
スーパーに買い物に行った時だってそうです。
「袋に入れますか?」
ご婦人はすかさずお礼を言います。
「ありがとう、ありがとうねぇ、すいませんねぇ。」
ご婦人は笑顔で店員に語りかけます。
でも店員は無愛想です。
彼女にとってはいつもと同じマニュアル通りの質問で、何ら面白くないからです。
だからご婦人からありがとうと言われても、それは彼女の耳を通り抜けていきます。
それどころか「全くこのおばあさんたら早くお会計を済ませてくれないかしら。忙しいのよね、こっちは。」と思う始末です。
ご婦人はスーパー以外でも、ありとあらゆるところでありがとうを言います。
でも誰もご婦人のありがとうに感謝しません。
いえ、昔は感謝をしておりました。
温かい柔和な笑顔のご婦人が「ありがとう。」と言ってくれるのですから。
でも人はすぐに慣れてしまう生き物です。
ご婦人の「ありがとう。」はあっという間に陳腐なものになってしまいました。
安売りです。
ありがとうの安売りです。
一方で普段、あまりありがとうを言わない人は得です。
ブスッとしている無愛想な男が、何かの拍子に「ありがとう。」などと言ったら、もうその場は拍手喝采となることでしょう。
だってありがとうなどという感謝の気持ちが、果たしてこの人間にはあるのかと思われるような風体です。
そんな男の口から可愛らしく「ありがとう。」などと言われたら、これほど驚きを含んだありがたい「ありがとう。」はないでしょう。
ご婦人はいつも柔和な笑顔で「ありがとう。」と言っています。
でも飽き飽きされてしまいました。
男は極々気まぐれ程度に「ありがとう。」を発するのみです。
でも人々はその一瞬に歓喜を覚えるのです。
人はセール品には感謝しません。
それは安くていつでも買えるからです。
「ありがとう。」も一緒です。
「ありがとう。」の効能とは、高値で売り捌くことなのです。
 
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ごめんなさいね〜サポートなんかしていただいちゃって〜。恐縮だわぁ〜。