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建物の明かりをハックする「住人たち」「カリヨン」ができるまで #1 / 準備編

この記事は、廃墟となった学生宿舎を利用した展示「平砂アートムーヴメント」で出展した、窓から見える明かりをハックし、建物全体を作品にする制作の記録です。

老朽化で使用停止となった筑波大学の平砂学生宿舎「9号棟」の東側のうち23室に制御回路を仕込み、明かりの動きで時を知らせる「カリヨン」実在する学生の生活を観察する「住人たち」の2作品を交互に展示しました。今回は「作品の企画と準備、設備設計」についてご紹介します。

作品について

「カリヨン」は、所定の時刻になると建物の窓が点滅し音を奏でるもの。会期中は19時〜22時の毎正時を動作時刻とし、毎回多くの方にご覧いただきました。

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「住人たち」は、実際に生活する学生たちの住処の灯りの点灯・消灯を建物の窓にリンクさせ、廃宿舎に再び息を吹き込む作品です。各部屋の「住人」たちは宿舎の特定の居室とペアになった<カギ>と呼ばれる装置を持っており、各々の生活の様子を部屋の灯りの明滅を通じて見せてくれます。

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アイデアができるまで

今回参加した「平砂アートムーヴメント」は、作品展示者にとって非常に自由度の高い企画です。宿舎内の希望した場所(部屋でなくても良い)を借用でき、展示の2週間前から現場作業可能。現状復帰可能なら、壁を塗ろうが穴を開けようがほとんどのことは可能です。

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このアホな作品の原点はズバリ「絶対この企画でしかできないことをやりたい」という動機にあります。なんでもありな自由さをフルに使って9号棟を演出するぞ!という勢いの良い気持ちから、3フロア計33室を占有し全ての部屋の電灯をハックする、えげつないプランが提出されました。

写真は運営に送ったプランの一部。この段階では「外から夜に見る作品」「サーボモーターで部屋のスイッチを制御」「無線で統括」という概形しか決まっていません。

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すでにヤバそうな雰囲気が漂っています。果たしてこの無茶プランは関係各所からOKが出るのか?出たとして、まともに見られるものになるのか?

ビビりながらも運営の学生である阿部・栄前田コンビに「30室使うって言ったら怒る……?」とお伺いをたてたら、「ふーん?30くらいならまあ大丈夫じゃない?」と、想像以上に動じない答えが返ってきました。まじか。

この後もぶっ飛んだ無茶相談をなんども持ちかけましたが、運営コンビの冷静さは揺るがず。50超の奇想天外なアーティストたちを相手にするふたりは只者ではなかった。

予備調査をしよう!

でかいもの、しかも既存の建物に組み込むものを作るということで、できることは早めにやっておかないと、現場で製作を開始してから大事故になるのが目に見えています。現場入り1ヶ月前くらいからは、建物外でできる現場検証を始めました。現場入り前に全体像を設計し、先に準備できることを調べます。

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まずは建物内。全回路を無線にできればとても楽なのですが、そんな夢物語は予算規模をひと桁増やしてからの話です。仕方がないので自前の仮設ケーブルを引き回すものとし、ドアの隙間や通路の天井など配線を通せそうな場所を地道に探っていきます。

建物内に入れる見学会は回数も時間も限られているので、必然的にタイムアタック的な作業になりました。このころのいなだの写真タイムラインはこんな感じの謎記録で埋まっています。

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建物外では無線の通り具合を検証。普段使いのスマホとモバイルWi-Fiを両手に、電波の届く限界を調べて回ります。

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さらに、大学施設部の資料や建物内外からの実測を元に、配線やデザインに必要な建物のデータを収集します。ありとあらゆる角度の写真を撮るのはもちろんのこと、Amazonで買えるレーザー距離計(向けるだけで長さがわかる)が大活躍します。

余談ですが、レーザー距離計はものすごいお役立ちツールなので、みんな一家に一台もつべきです。いなだは今住んでいる家の内見時にこれを持ち込んで寸法をメモってたのですが、管理会社の担当さんに「そんなツール初めてみました」とのお言葉をいただきました。

集めたデータをまとめると結構使えそうな図面類が仕上がりました。大学が出している図面が若干ずれているのが判明したりして愉快です。しかし、平面・立面図は良いとしても、勢い余って作った3Dデータは本当に必要だったのだろうか……(実際使わなかったんだよな……)。

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全体の設計を考える

必要な事項を調べた結果から、全体の仕掛けを考えます。明かりをハックする2作品以外に、建物の反対側に設置する別作品のことも考えなければいけません。いい感じにまとめるべく頭をひねった結果がこちら!

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● 制御する電灯スイッチには個別にモータをつける。
● 6室分のモーターの配線をひとつの基板にまとめ、東翼側の2Fラウンジに置いたWi-Fiへ各階から無線接続。

近い位置にある部屋の制御をまとめると同時に、階をまたいでしまう部分は無線にしてお手軽接続にする狙いがあります。ラウンジのルータには他にも制御用のサーバや他の作品の装置、インターネットへの接続が繋がっています。

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やっと全体像がまとまりました!ここからは現場設営に入るまでに仕上げられそうなことを見つけて片付ける作業です。見たところ、機材の準備や細かなパーツの設計はすぐ手をつけられそうです。

部品を発注する

棟内に設置する装置を作るのに必要な部品の購入へ。金銭難の学生としては必死で単価の安いものを探します。「100円高いだけやからいいか〜」とかぬるいことを言っていると、あとから製作個数が50個とかになったときに+0.5万円!数回やらかすと破産まっしぐら!うわああ!!

こういうときには「海外から仕入れる」という技を使います。国際的な小売通販(AliExpresseBayなど)を当たると、例えば電灯スイッチを動かすモータはこんな感じ。同じモータは、今調べたところ日本のAmazonで1個400円くらいでした。まじか。物理工作やさんにとってはわりとあるあるな技です。

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こんな調子でモータ40個、マイコン(制御装置)30機、ケーブル500mを買い込みました。さすがに個数が個数なので、いくら単価が安くても確定ボタンを押す手が震えます。販売元(だいたい中国)からの輸送は、通常早くても10日ほどかかるので、気長に待てる余裕が必要です。

電灯スイッチ駆動部を作る

部品が届くまでの間に、今回の要となるであろう電灯スイッチを動かすモータの取り付けの方法を検討します。自宅で手持ちの部品をかき集めて試作することにしました。

そもそもなぜ、「電気のスイッチをモータで動かす」という面倒なことをするのか。これには2つ理由があって、1つは家庭のスイッチやコンセントの配線を変えるには電気工事士の資格が必要であるということ。そしてもう1つは、そもそも家庭の電源は電圧が高くて扱いづらいので、自分で作る回路と電気的に繋がっていない構造にする方が、何かミスがあったときに安全が保てる、ということです。物理工作、考えるところが多くて大変ですが、こういうところを工夫するのが楽しいのです。

閑話休題、ひとまず段ボールで取り付け具を作ってみます。自宅の電灯スイッチのカバーをパコッと外して取り付けてみました。

壁面とスイッチの距離が近すぎると全く動かないし、モータの軸がスイッチの中心からずれてると「ONにはできるがOFFにできない」みたいなことが起きます。意外とむずかしいぞこいつ。

なんとか動くものを1つ作り、外形をデータに起こして家を出ます。目指すは大学の工作室、openfab創房のレーザー加工機。

4mm厚の木板をレーザーで切断し、同じ形のものを量産できるようにしました。段ボールにあったいい感じの柔軟性がなくなってたりして、すぐに動くものはできず、各部分の長さを0.5mm単位くらいで変えながら複数パターンを作り、持ち帰ってうまく動くものを採用!という流れにしています。

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モータ含めて4ピースからなる駆動部分に落ち着いた図がこんな感じ。これを一旦10枚ほど作り、現場に持ち込んでみることにしました。なお一発ではやはり動かず、現場でもさらに改良を加えることになりますがそれはまだ先の話……

次回予告

作品制作の下準備が終わりました。ここからはいよいよ実際の建物での設営に入ります!事前の準備と予想を華麗に裏切る、現場のトラブル・アクシデントが満載のセクションです()

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会期開始まで残り2週間、果たしてこの作品はきちんと動作するのか……!?次回「#2 設営編」もよろしくお願いいたします。



活動に興味を持っていただいた方、よろしければご支援をお願いします!作品を作るにあたって応援していただける、不安なく作業が進められることほど嬉しいものはなく、本当に喜びます。作品のテクノロジーや裏側などを、不定期ではありますがnoteで公開します。