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建物の明かりをハックするアート「住人たち」「カリヨン」ができるまで #2 / 設営編

この記事は、廃墟となった学生宿舎を利用したアート展示「平砂アートムーヴメント」で出展した、窓から見える明かりをハックし、建物全体を作品にする制作の記録です。

老朽化で使用停止となった筑波大学の平砂学生宿舎「9号棟」の東側のうち23室に制御回路を仕込み、明かりの動きで時を知らせる「カリヨン」実在する学生の生活を観察する「住人たち」の2作品を交互に展示しました。今回は「作品の設営と展示」についてです。

前回記事はこちら!作品をご覧いただいたことのない方も、よろしければこちらからどうぞ。

前回までのあらすじ

現場での作業より前にさまざまな準備をしました。建物の下見や測定、作るシステムの設計や部品調達を片付け、さらに建物側のスイッチの形を予想しながら、取り付けの治具の製作をしました。

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現場入り

いよいよ設営初日。授業後の夕方、現場の平砂学生宿舎9号棟の玄関前に「平砂アートムーヴメント」の制作者らが集合しました。ひとりずつ名前を呼ばれ制作場所の鍵を1〜2本ずつ受け取りますが、当然の如く「あ、いなださんはちょっとあとでお願いします!」との声が飛びます。😇

50あまりの学生たちが鍵を受け取って立ち去った後、いなだが受け取ったのがこの鍵の山。

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あまりにおもしろすぎるビジュアルに運営委員コンビとひとしきり大笑いした後、キーホルダーもなにもついてない鍵の山を両手で捧げ持って棟内へ入ります。とりあえず展示区域の中央にあたる2階ラウンジへ向かいました。

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誰もおらん。めっちゃさびしい。周りの部屋30室あまりはみんな自分が借りているのであたりまえです。最低限の管理で数年間放置された廃宿舎はゴーストタウンそのもので、うっかり電気が消えてしまった時に備えて懐中電灯は必須です。

設営は授業後の夕方が多いので、以降しばらくいなだは夜の闇と孤独に苛まれながら設営を続けることになります。

ステップ1: ネットワークの設営

まずは機器制御の中心となるネットワーク設備の設営です。建物のネット回線が使えるかどうかを確かめるべく、まっさきに機器箱のもとへ走りましたが、案の定死んでいました(各階のスイッチが取り外されていた)。携帯電話回線に頼るしかありません。

100m近い廊下(図の点線で示した区間)にLANケーブルを引いてラウンジ同士を結べれば、いなだがやっている他の展示とも回線を共有できて楽そうです。が、そんな長大なケーブルは手持ちにない。さてどうしたものか……。

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結局これはTwitter借り物競争で解決しました。情報学群4年の関口亜聖先輩(@asei1997)から、20ポート以上あるネットワークスイッチ2台+100mの光ファイバー+モバイルルータ+謎のSIMカードを借用。持ってきてくださったそのままの勢いの慣れた手つきでファイバーを設置した先輩は、唖然とするいなだを残し「使い終わったらいつでもいいので返してね〜」とさっさと帰宅していきました。

当然ですが、これは一般人が私物で持っているレベルのものではありません。先輩、何者だ。謎が深まります。

2階ラウンジのルータを中心に、各階そして東西両側のラウンジをも結ぶちょっとしたネットワーク回路が完成しました。試しにスピードテストを走らせてみたら、仮設回線とは思えない通信速度が出て仰天。先輩には頭が上がりません。

なお、関口先輩は私物機材の余剰であれば公に貸し出しを行なっているとのことですので、ぶっ飛んだことをやりたい人は相談してみると良いと思います()。

ステップ2: スイッチにモータを取り付ける

今度は宿舎の居室に入って作業です。前回記事での事前準備で製作した「サーボモータを電灯スイッチに取り付ける治具」を調整していきます。

取付手順

一応自宅のスイッチで動くことは確認したのですが、そのままスッと動くかといえばそんなことはなく、案の定細かな寸法差があって再度調整に。ちょっとデータを修正しては2キロ先の工作室に自転車を飛ばす、という忙しいムーヴメントが続きます。

現場のありあわせの部品でテストしているので、作業の見た目はめちゃくちゃです。それぞれの部品についているケーブルの長さが若干ずつ足りなかった結果、ブレッドボードが空中に浮く、チンパンジーもびっくりの作業現場が誕生しました。

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半日ほどかけて散々いろいろ試した結果、なんとか動くようになりました!

ステップ3: 部屋の間を配線する

1台で動いたので今度は廊下に並んだ6室分の配線を作り、1ユニットフルでの稼働を目指します。端から端まで15mほどの廊下に引くケーブルは計18本。これが意外と面倒で、ケーブルを切って配線してモーターに繋ぐ一連の作業で3時間もかかりました。(写真は、稲田がケーブルの長さ計算のために描いた図)

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配線をし終えるとこんな風な光景になります。ちなみに本作品で購入した部品の中で一番お金がかかったのがケーブルです。最終的な購入量は800mに上ります。あちこちドアの隙間を通さなければいけないのでかなり細いケーブルを使いました。いつ何時事故で切れるかとヒヤヒヤしましたが、会期を通じて特に事故はありませんでした。

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モーターの数が増えると、それぞれの部品の個体差によって微妙な調子の善し悪しが生じるようになってきました。試しに電源をつないで起動してみると、最初はまっすぐはまっていたモーターが、自分の動きでズレていつの間にか傾きます。スイッチの硬さやマウントの加工ずれによるものなので、相性のいい個体を探して交換します。

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異常な作業が誰にも見られることがないのが勿体なくなってきたので、作業風景のライブ配信をやったりしました。1人で廊下をうろうろするだけの中継ですが、意外と視聴者が多かった(30分で200人くらい)のが笑えます。どこに需要があったのだろう。

ステップ4: 制御試験(耐久テスト)をする

ユニットが1つ仕上がると制御試験をします。無線をセットアップすると棟の外からでもON/OFF制御ができるようになるので、棟内にいられる昼間の準備時間は配線作業をし、施錠時間後は棟外から応答性能などをテストする、ということをしていました。

動かしてみたのがこんな感じ。数時間にわたって動かし続け、展示期間中に発生するであろう故障を事前に察知することを目指します。そばの道路を通る何も知らない人たちが揃ってギョッとした二度見を送ってくるのが愉快です。

このようにして設置する中で、トラブルが大きく2つ起きました。

トラブル1: モータがちゃんと動かない

なんとか6室分の配線を終わらせたところで当たった思わぬトラブルです。1台では動くモーター、6台に増やすとちゃんと動かない。

要は、

● スイッチの可動範囲よりもモータの可動範囲の方が広い
● モータがスイッチの可動範囲を超えて動こうとするとロックされ、異常に電力を食う
● この時、他のモータも電力が足りなくなり、スイッチの可動範囲を超えたところに戻ろうとして余計に電力を食う

→モータ同士で電力を食い合って自滅するみたいな地獄絵図が発生していました。実際にこの状態に陥ると、(6室全てのモータが)動画のように制御が効かなくなりオンオフを激しく繰り返します。

解決策として投入したのは大きく次の2つ。

ON側のアーム位置がゼロ点になるように取り付け直す。元は何も考えずにモータの可動域の真ん中から均等な位置にON点とOFF点が来るように取り付けていましたが、これだとモータがゼロ点に戻ろうとした時にスイッチの可動域外に出てしまうので、ゼロ点が可動域内になるようにアームを取り付け直しました。

モータのアーム位置を個別にソフトウェアで調整できるようにする。これも最初は全てのモータが同じ動きをしていましたが、実際には取り付け方やモータの個体差によってかなりズレることがわかったので、個別に調整可能にしました。

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実際にはこれがめちゃめちゃ面倒な作業になりました。モータは結構センシティブで一発では動いてくれないし、さらにモータを取り付けている部屋と制御装置がある部屋は離れています。制御装置を操作してからダッシュでモータのところに向かい細かい調整をする、という、追い打ちをかけて疲れる作業になりました。

また、現場入りしてしばらくは気付きませんでしたが、9号棟内の電灯スイッチ枠は2つのメーカーの製品が混在しています。松下電工(現Panasonic)製・東芝製それぞれで、フチの厚みなど細かい部分が微妙に違いました。これも現場で、治具を削ったり端材を挟んだりして補正。予想だにしなかった事態の連続によって、謎のノウハウがどんどん蓄積されていきます。

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「どう考えてもひとりで作る作品ではなかった」ことを悟りましたが、あまりに複雑な作業になってしまい自分以外の人だとすぐにはできなさそうなので、今更人を増やすわけにも行きません。地獄です。

結果、このあたりが原因でこの作品は、平砂アートムーヴメントの会期始めから数日間展示できていない状態でした。グループ展で作品の展示開始時期をずらすなど最悪です。深く反省しています。

トラブル2: 長時間の運転時にフリーズする

もうひとつのトラブルは持久力テストの最中に発生しました。ずっと動かしていると、並んだ6室のユニットが揃ってフリーズしてしまい、復活しない……ということが頻繁に起きます。試験中に故障しても、棟は全て施錠された後なので様子を確かめに行くことはできず、電気消し忘れのような状態ですごすごと帰ることに。

これの不思議なのが、翌朝確認に行くと制御装置は全く正常に動作しているところ。制御装置どころか、朝行ったら全部元通りに動いたということもザラです。

こればっかりはよくわからないのですが、動かない場合も、モーターに供給している電源を一旦落とすとスッと復旧することから、どうやら取り付けのズレやソフトのバグではなく、モータ周辺の電気部品の特性?のようなものなのではないかという仮説を立てました。

この問題は最終的に、「電源入れ直せば解決するんだったら、遠隔で電源入れ直す装置をつければいいんじゃないか」という乱暴なアイデアで解決しました。ユニット全体のモータの電源線の根元にスイッチ(MOSFET)をつけ、3分ごとに0.5秒だけ、モータに供給する電源を切るようにしています。また、制御ボードも5分毎に1回、自力で再起動するようにしました。

これで嘘のように調子が良くなったのが面白いところです。一切計画していなかった急な対策でしたが、家にためこんだストックの部品が役に立ちました。

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想像を超える面倒さでしたが、そんなこんなでなんとか設営が終了です。予想外に手間取ったせいで、2週間の会期の最初の方は作品が稼働しないままになってしまいました。大変申し訳なかったです。実際の稼働期間は1週間強になりました。

展示中のあれこれ

展示中、音と動きがある「カリヨン」はやっぱり人気でした。他の作品が棟内にあるので場所が少々分かりにくいという声も聞かれましたが、毎正時の動作にはそれなりに観客が集まります。

全自動で動いているので稲田はその場にいなくても別にいいのですが、いつ何時故障するかが不安すぎて、わりとずっと付近で見守っていました。ついでなので、各自のスマートフォンから聞いてもらうはずの音声も、小型のBluetoothスピーカを設置して流すことに。そこまでやるなら、最初から建物から外に向けてスピーカ設置しとけばよかった……

目の前の道は大学内の普通の道路なので、知らずに通った人は揃って二度見します。2人連れだったりすると、ぽろっと素の感想を言ってくれたりします。影でメンテナンスしていた稲田が聞いただけでも、面白い言葉がいろいろ聞こえました。

製作期間中にはなぜか母がはるばる大阪から乗り込みんできました。当時「住人たち」は稼働していたものの、動きが多い「カリヨン」は調整が終わるギリギリ手前で、実稼働が結局見せられなかったのはめちゃ悔しいです。

母は帰り際に、運営の阿部に「絶対に片付けが終わらなくてご迷惑をおかけすると思うのですが」と言い残して行きました。開始前から不穏なフラグを立てないでほしい。無茶苦茶な予言を振られた阿倍の、素敵な笑顔も印象的です😇  

当の撤収は、ものすごい危なっかしいタイムスケジュールながらもなんとか時間内に終了しました。やれやれ……。

次回予告

設営編だけでも大変長い記事になってしまいましたが、まだ続きます!!展示の観客の前には現れることのなかった「カリヨン」を動かす楽譜の仕組み、そして十数人の学生たちの住処で2週間稼働した「住人たち」のデータ収集のカラクリとは?「#3 制御編」も、よろしくお願いいたします!


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1997年、大阪府生まれ。2017年より筑波大学情報学群 情報メディア創成学類に所属。 情報工学・芸術に興味を持ち、アート製作・グラフィックデザイン・舞台芸術などの創作活動を行う。非言語・ミニマムな表現を通じ、意識の外で忘れられ見逃される事象を捉えることに取り組んでいる。

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