マガジンのカバー画像

#エッセイ 記事まとめ

1,142
noteに投稿されたエッセイをまとめていきます。
運営しているクリエイター

2023年3月の記事一覧

父のお土産

「お土産」が好きだ。 旅のお土産はもちろん、たとえばコンビニで買ってくれたちょこっとした何かでもとても嬉しい。 母方の祖父はお土産をしょっちゅう買ってくる人だったそうだ。 夜中に酔っ払って帰ってきては、ぐっすり眠っている幼い頃の母たち(6人姉弟)を片っ端から叩き起こしていたという。 「キャラメルやチョコレートなんてなかなか買えなかったから嬉しかったよ。」 「アイスキャンディーなんか取り合いして食べたっけね。」 祖父の夜中のお土産は母たち姉弟にとって、とても嬉しかったようで

からあげのタッパー

屋外でからあげのタッパーを開けたときの匂いが、世界で一番好きだ。 先日、妻と近所の公園でお花見をした。 家で作ったからあげ、卵焼き、おにぎりを食べながら、ぼんやり眺める桜がきれいだった。 タッパーを開けると、鶏肉と、サラダ油と、多めの片栗粉で揚がった衣の香ばしさが、太陽とレジャーシートに包まれて、私の鼻を通り抜けていく。 私はこの匂いを嗅ぐと、まるでテレビのチャンネルが切り変わったかのように、子どもの頃の運動会の情景がノータイムで蘇る。 体操着と赤白帽子をかぶった、運動

かなしさはトマトソースと煮詰めて - 星野源「そしたら」と僕の話

今や時代のポップシンガーになった星野源さん。一昨年、彼が紅白歌合戦で披露した「不思議」は言わずもがなだが、不思議のシングルに収録されているカップリング曲が僕は大好きだ。 それが文頭で歌詞を引用した「そしたら」である。もともとはラジオ番組『バナナムーンGOLD』を担当するお笑い芸人、バナナマン日村さんの誕生日企画で作られた楽曲だったそうだ。あまりのその反響に、カップリング曲に選んだと星野源さんも自身のラジオ番組で語っている。 そんな「そしたら」の英語タイトルは「Tomato

ぼくの居場所について

吉本興業会長の大﨑洋さんの『居場所。』という本を作った。大﨑さんの幼少期から今までの人生を長い長い時間取材させてもらい、2年近くかけて完成した一冊だ。 大﨑さんは若き日のダウンタウンさんを見い出し、世に出す場をつくり、その後もずっとサポートしてきた人。 一方で、「芸能界のドン」とか、数年前の闇営業問題の印象などもあいまって「フィクサー」みたいなイメージもあるのだと思う。 実際の大﨑さんはというと、とても気さくで、あったかくて、優しい人。本をつくる過程で長い時間ご一緒させ

17年やったサッカー人生はあっけなく終わった

17年のサッカー人生はポルトガルで突然終わりを告げた。 医者はツラツラとポルトガル語を日本人の僕に話していたが全く分からない。 ただ聞き取れた言葉が一つだけあった。 「você não pode jogar futebol」 「あなたはサッカーができない」だ。 僕は6歳からサッカーを始めた。 保育園でサッカー教室をやっていて楽しそうだったから始めた。 そんなどこにでもいるサッカー少年だった。 小学生の時はチームの中で一番上手くてトロフィーなんかもたくさんもらって

10歳の私から手紙が届いた話

こんにちは。夕霧です。 先日、就職に伴う引っ越しの荷づくりのために、部屋を片付けていました。 もう必要のなくなる大学の授業ノートを取っていたルーズリーフなどを、容赦なくゴミ袋へ。ルーズリーフは授業ごとにクリアファイルに入れていたので、分別のために一旦ファイルの中身を出して、さっと確認してから処分するようにしていたのですが、その中からなんと…… なんか手紙出てきたんだが。 これは、小学4年生の私が、10年後の私(20歳)に宛てた手紙。 学校の道徳か総合かなんかの授業で、1

毎年1年前の自分から手紙が届くから、今年は10年後の自分に手紙を出す

夏になると毎年、自分から手紙が届く。「TOMOSHIBI LETTER」という、一年後の自分へ手紙を送れるサービスを利用しているのだ。 きっかけは5年前、友人の結婚式で「未来の自分へメッセージを書く」というイベントがあったことだ。泥酔していた僕は、自分で書いた手紙の内容を覚えていなかった。そして一年後届いた便箋には、なぜか銘菓「鳩サブレー」の絵が描かれていた。 戸惑った僕は、その便箋に銘菓「ひよ子」をまた描き足した。 そして前述の「TOMOSHIBI LETTER」を使