「アイロンがけする人を振り向かせる実況」にヒントあり!カリスマアナに学ぶ"読まれるnote執筆法"とは
「原稿を書きあげたら、まずは音読をしてみたほうがいい」
多くのライター、編集者が口をそろえて言います。
誤字、脱字を見つけるため、というのもあります。
そして「読まれやすいリズム」かどうかを確かめるため、というのもあるかもしれません。
多くの読者は記事を読む時、テキストを目でなぞりながら、アタマの中で原稿を音読している。
だから、読まれるリズムを想定するために「書いたらまず音読」は有効なのだと思います。
そうした「つくったそばから、原稿を音読する」という作業を、誰よりも繰り返してやっている方々がいます。
それは、スポーツ実況をするアナウンサーのみなさんです。
試合をみて、アタマの中で原稿をつくって、すぐに音読する。
実況はその繰り返しです。順番は微妙に違いますが、やっていることはとても似ている。
もしかしたら、書き手にとってのヒントをいただけるかもしれない。
今回は、スポーツ実況アナウンサーの中でも個性派として人気のおふたりに、お話をうかがってみることにしました。
取材・文=塩畑大輔(noteディレクター)
No.1実況者の"下地"。知られざる修練
「実況は、文字起こしをしてもきちんと意味が通じることを話す。それは大原則じゃないですかね」
下田恒幸さんはそう言ってうなずく。
「スポーツナビ」が実施した、サッカー実況アナウンサーのファン投票では、見事に1位に。
情熱的な語り口が印象的だが、重視しているのは「伝わる言葉」だ。
「そのためには、若い頃には千本ノック的なこともしましたよ」
新卒で入社した仙台放送にいた当時、仕事の合間に高校野球の地区予選に足を運んだ。
ひともまばらな観客席で、レコーダーに実況を吹き込む。
「言葉だけでプレーを描ききるのって、意外と難しいんですよ」
たとえば、三遊間への打球をショートがさばいた場面を実況するとして。
どう打球のコースに入っていったのか。余裕をもって正面に入れたのか。ギリギリで捕球できたのか。
「捕球できたとして、打者走者の足の速さなどで、一塁への送球も変わりますよね。急いで投げるのか。強く投げるのか。捕球の体勢が悪いのに、そのまま無理して投げるのか。あるいはステップを踏み直して投げるのか」
吹き込んだ実況を、局に戻って聞き直す。反省点を洗い出す。
上司にも聞いてもらい、アドバイスをもらう。さらには、高校野球以外の競技会場も訪れ、同じ作業を繰り返す。
「そういうことをやってきた下地があるから、いまがあるとは思っています」
事象をみて、それをみていない人にも伝わるような言葉にする。
スポーツ記事における「描写」にも、そのまま援用できそうな練習法だ。
もしかしたら、スポーツに限らず、あらゆる記事の描写部分のクオリティを上げることにつながるかもしれない。
「たしかにそうですね。そうやって、きちんと伝わる言葉の使い方がわかってこそ、伝える中身が生きてくる。そこは実況も、文章も一緒かもしれません」
「ここぞ」をわからせる。ガイドの職責
「アイロンがけに没頭している人が、ゴールが決まりそうな大事な場面だけは顔を上げて、映像を見てくれるような実況。そういうものを目指しています」
スポーツナビのサッカー実況アナ・ファン投票では2位。
倉敷保雄さんは、下田さんと人気を二分するような存在だ。
時折ウィットを織り交ぜながら、落ち着いた語り口で実況する。
下田さんとは違うスタイルの中で、伝えるためにギアを変える瞬間があるという。
「とくにここをみたほうがいい、というところは、うまく視聴者の方にお伝えをしたい。実況はいわば、ガイドのようなものなので」
たとえば、左右のサイドからゴール前に送られる「センタリング」の場面。
実況では「クロス」という表現がされることも多いが、言葉のチョイスと同じくらい「ガイド」として大事なのは「声色」だという。
「クロスが送られた先で、シュートを決められそうな位置取りをしている選手がいなければ、そのクロスを強調して伝える必要はないのかなと。クロスが明らかに精度を欠いている場合もそうです」
正確で意図を持ったセンタリングが、ゴール前の味方フォワードに送られた瞬間。
しっとりとした語り口から一転、倉敷さんの声の調子が強いものに変わる。
まさに「アイロンがけに没頭している人を振り返らせる」ものだ。
「サッカーの試合は90分。ずっと集中をしてみていられる視聴者だけではないと思うんですよね。サッカーを見慣れていなくて、いつゴールが決まりそうなのかわからない人もいるでしょう。そういう皆さんに『ここぞ』をわかってもらえるように。それもガイドたる実況の役割かなと」
長編のテキスト記事にも、同じようなことは言えるかもしれない。
詳しくない人にも、大事なセンテンス、ワードに気づいてもらえるように。実況が声色や間などを駆使するとすれば、文章ではテンポ、改行や「1行空け」などをつかって、重要な部分を強調することはできるだろう。
「そうかもしれませんね。書き手の皆さんもきっと、それぞれがお伝えになりたい世界のガイド、なのだと思います」
◇
「伝えたいこと」を、もっと伝えられるように。
スポーツ実況のトップランナーおふたりの哲学には、書き手としても学ぶべきところがたくさんあるように感じました。
何かを表現したいと思うすべての皆さんに、直接おふたりの話を聞いていただきたい。
noteは今回、10月に開催する「note CREATOR FESTIVAL 2021」内のイベントとして、下田さんと倉敷さんの対談を、ネット配信することにしました。
下記のページから視聴予約することができます。
下記のgoogleフォームから、皆さんからの質問もお受けします。
おふたりの熱い語りを、ぜひお聞きください!
note CREATOR FESTIVAL 2021
noteは10月15日(金)〜17日(日)の3日間で、”創作”の輪を広げる祭典「note CREATOR FESTIVAL」(以下、noteフェス)を開催。さまざまな分野で活躍するクリエイターに登壇いただき、創作活動を通して起こったことやあたらしい発見をうかがいます。
下田さん、倉敷さんの対談は10月17日(日)14時から。こちらのページから視聴予約することが可能です。