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ヒットCM「消臭力」仕掛け人・鹿毛康司さんの「心を感じ、絆を深める」SNSのつづけ方

さまざまな分野で活躍しているゲストをお招きし、noteやSNSとの付き合い方をひも解いていく企画「ビジネスに役立つnoteやSNSのつづけ方」。

第3回目のゲストはマーケター / クリエイティブディレクターの鹿毛康司さんです。鹿毛さんはCMプランナー、監督、コピーライターに、楽曲の作詞作曲も手がける独自のスタイルで、日本の広告業界をリードする存在として長年活躍されてきました。

先日、書籍『「心」が分かるとモノが売れる』(日経BP)を出されたばかり。今回はこの出版を記念して、日経クロストレンドと共同企画した特別トークイベントとなります。

鹿毛さんは雪印乳業(現・雪印メグミルク)退社後の2003年、エステーに入社。宣伝の責任者としてまずはじめに行ったのが、ブログの開設だったと言います。その後、2011年に制作した「ミゲルと西川貴教の消臭力CM」は社会現象になるほどの大ヒット。エステーの知名度を劇的にアップさせたほか、好感度ランキング1位を獲得。ACCゴールド賞など多くの賞を受賞しました。

鹿毛さんがつくる広告はなぜひとの心を動かすのか。早くから鹿毛さんが利用してきたブログやSNSは、エステーの宣伝広告戦略にどのような役割を果たしたのか。

SNSを単なる情報の伝達や拡散のための道具として使うのではなく、お客さんと絆を深めるコミュニケーションの場に熟成させるまでの鹿毛さんの取り組みや考え方についてじっくりおうかがいしました。

▼イベントのアーカイブ動画はこちらで視聴できます

登壇者紹介

鹿毛さん2_プロフィール写真

鹿毛康司(かげ こうじ)さん
株式会社かげこうじ事務所代表/マーケター/クリエイティブディレクター

早稲田大学商学部卒業後、雪印乳業(現・雪印メグミルク)に入社。1993年、ドレクセル大学にてMBAを取得(マーケティング、国際ビジネス)。帰国後、雪印乳業の営業改革担当を経て2003年にエステー入社。同社を日本有数のコミュニケーション力のある企業に導く。同社執行役を経て2020年に独立し、かげこうじ事務所を設立。現在、グロービス経営大学院教授、エステー コミュニケーションアドバイザー、日経クロストレンド アドバイザリーボードメンバー/Ad-tech 東京ボードメンバーを務める。
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note

SNSのない時代にはブログを立ち上げ、視聴者とコミュニケーション

ーー鹿毛さんは2004年にブログを開設していますね。当時、大企業の宣伝部長でブログを書いているひとはほとんどいなかったと思います。なぜブログをはじめようと思われたのですか。

放映したテレビCMの反応を知りたくて、ブログ検索して感想を探し出しては読んでいたんですよ。毎日2時間ぐらい。それであるとき、ブログのコメント欄に「ありがとうございます」って自分の肩書きとともに書きこみをしたら、すごく嫌がられてしまったんです。で、これはまずいなと(笑)。それで、個々にコメントする代わりに自分でブログを立ち上げることにしました。

鹿毛さん3_ブログを立ち上げることにしました

そのころ放映していた消臭プラグという商品のCMで、ちょんまげを結った俳優の今井朋彦さんを登場させたんです。当時、今井さんはいまほど世間に顔と名前が知られていなかったので「あれはだれだ?」「NHKの大河ドラマで殿様役を演っていた役者か?」と、話題になって。でもぼくのブログでは「どうでしょうね?」とにごして、はっきりと回答を書かなかった。そうしたら今度は視聴者が直接新聞社に問い合わせをして、新聞社からエステーに取材がきたんです。そこではじめて「NHKの大河ドラマを見て、キャスティングしました!」とドーンっと出した。それでさらに話題となり、CMはシリーズ化することになりました。

テレビCMをきっかけにブログを通じて視聴者とコミュニケーションして、新聞やほかのメディアを巻き込んでいくことがうまくできたんです。

架空のキャラクターとして発信。CMとSNSを縦横無尽に渡りあるく

ーー鹿毛さんはこのあと、特命宣伝部長の高田鳥場(たかだのとりば)というキャラクターでCMに登場しているんですよね。ブログの発信者名も高田鳥場になっています。2008年の日経クロステックに、高田鳥場が取り上げられている記事を見つけました。

鳥のかぶり物をして顔を出さずにやっていました。このキャラクターならCMに出て話題になったときに、どんどんソーシャルの世界に出ていけると思ったんですよ。タレントさんだといろいろ制約があってできないこともあるんですが。このキャラクターなら制約はないし、ギャラもかからない(笑)。このあと、同名でTwitterもはじめています。

ーー2010年ですね。実は鹿毛さんは、ぼくのセミナーに参加したことが、Twitterをはじめるきっかけになったとか。

徳力さんのセミナーに出るまでは、Twitterが好きじゃなかったんですよ。企業の「中のひと」がバズることを目的にしてダジャレとかウケ狙いなことばかりを書いている風潮があって。「そんなのはコミュニケーションじゃない!」と思っていました。でも、徳力さんのセミナーでTwitterの本質みたいなものを教えてもらって。考え方が変わったんです。

SNSを注意深く見れば、世の中の風を感じ取ることができる

ーーこのセミナーのときの気づきが、2011年の東日本大震災直後につくった「歌う男の子〜ミゲル〜」や「ミゲルと西川貴教の消臭力CM」につながっていくわけですね。あのときは震災でおおぜいの方が亡くなって、企業が宣伝行為を控えたため、テレビCMのほとんどが公共広告に置き換えられていました。そのなかで、消臭力の新しいCMをつくるのはかなり勇気のいる決断だったのではないですか。

東日本大震災のとき、みんな「頑張ろう」とか「前に向かって進もう」と声をあげていましたが、何かが違うと思っていました。それは表面上の話で、みんな「心の中で本当はどう感じているんだろう?」って。

それで、心の周波数を自分が5歳だったころに合わせて思い返してみたんです。ぼくが5歳のとき、親父が突然死んでしまって母親が身も世もないくらいに泣いていて。でも、あるときふっと母が笑ったんですよ。ご近所さんと。それを思い出して、大人の自分に帰ってもう1度考えてみたら、人間というものは苦しい時や悲しい時こそちょっと笑ったりしないと前に進めないんじゃないかと思ったんです。そして、ぼくは震災直後のTwitter上でも同じような空気があることを感じました。

みなが心の中で強く願っている「日常に戻りたい」ということをテーマに、「『張り詰めた自粛ムードの中でもみんながちょっと笑えるもの』をつくろう!」と決め、震災の2週間後にリスボンへ撮影に向かったんです。

心が動かされたひとは、それを次から次へと伝えたくなる

ーー現地の少年ミゲルくんが消臭力を歌い上げるCMは、放映後すぐに大きな話題となりました。多くの著名人がこのCMについてツイートしたり、それをみんながリツイートしたりして、SNSでものすごい反響があって。人気歌手の西川貴教さんがCM曲を完コピしたとツイートして、そのことが鹿毛さんに伝わり、ミゲルくんと西川さんが福島のコンサート会場で共演するバージョンのCMも制作されます。

このCMで、日本のテレビCM好感度ランキング1位を獲得しました。当時、競合他社は広告宣伝に100〜200億円かけて、大量に放映していたんです。でもエステーの予算は28億円。放映できる数が格段に少ない。それでも1位を取れたのは、SNSでみんなが話題にしてくれたおかげです。

ぼくはたとえ震災が起きようが、もっと言うならば震災が起きたからこそ、コマーシャルを通してお客さんの心にメッセージを届けたり、いろいろな活動をしたりしないとならないと考えています。いまであれば、コロナ禍だからこそ、企業からのメッセージを強く伝えないといけないんだと。

ーーそう思えるのは、雪印の社員時代にネガティブコミュニケーションをされた経験があるからではないでしょうか。ぼくは、鹿毛さんほど相手の心を気にしながらお客さんとのコミュニケーションやマーケティングをされている方はいないと思っているんです。

雪印でいろいろな問題が起こったとき、日本中からものすごいバッシングを受けました。ぼくも矢面に立ってお客さんの対応をして、たくさん痛い目をみて。でもこのときにぼくはお客さんから、心で向き合うということの大切さを教えていただいたんだと思います。

鹿毛さん4_心で向き合うことの大切さを教えていただいた

それと、自分でクリエイティブも手がけるようになったことが大きいです。マーケティングのさまざまな理論や手法はもちろん大切です。でもいくら戦略を盤石にしても、最終的に落とし込んだ制作物を見たひとの心を動かすことができなければ、何にもなりません。クリエイティブの視点でものを考えるというのは、まさにひとの心に向き合うということなんです。

ひとは行動の95%を潜在意識下で行うと言われています。だからマーケターは、お客さん自身も気づいていないそのひとの心の声を聞き、それに触れさせてもらうことが必要なんです。ぼくは「心の周波数」と言っているんですが、周波数を自分の心の深くに合わせて自分の潜在意識に眠る感情・感覚を探るようにしています。そうすることで初めて、お客さんの心も感じ取ることができるようになると思っています。

「ファン」ではなく「仲間」と呼ぶ対等なコミュニケーションが絆を強くする

ーー2019年には「エステー特命宣伝部」を開始しました。鹿毛さんと一緒に宣伝活動をやりたいひとをブログやTwitterで募集してできた部なんですよね。

そうなんです。西川さんやエステーのCMのファンが大ぜい参加してくれています。以前、新CMを記念して「空気を変えたことを公開会議いたします」とTwitterで特命宣伝部の会議を実施したら、約1ヶ月の間にCM動画再生約10万回、拡散1840万インプレッションでトレンド入りしました。

ぼくはTwitterのフォロワー数は重視していなくて。なぜなら、大事なのはエンゲージメントだと考えているから。特命宣伝部のすごいところは、みんながCMの拡散を目的とせず、部活動として楽しみながらTwitter上でコミュニケーションしているところなんです。

以前、部下の花子に叱られたことがあります。「ファンベースドマーケティングをしたい」と相談したら、「ファンという言葉は大嫌いです」「ファンという呼び方は、企業が上であるかのように聞こえる」と言うんです。

確かにそうだな、と反省しました。いまぼくは、宣伝部のみんなを「部員さん」と呼んでいます。大事な仲間であり、宝だと思っていて、一緒に遊びながらSNSとリアルな場で(宣伝)活動をしています。部員さんは自主的に、店でエステー商品を見つけやすいように向きをそろえたり、店員に在庫確認したりして、その活動をwitterで報告してくれるんですよ(笑)。すごいことですよね。

企業からお客さんに対する縦型の宣伝は企業がお金を出せばいい。でも横への展開は、ひととひととの気持ちのやりとりででき上がっていきます。どちらが偉いとかではない。だから企業側の人間も企業・ブランド人格に沿った上で、ひととしてお客さんにちゃんと心で接するということをしていかないといけないと思います。

ーー企業やブランドとしてSNSで発信すると、上から目線の発言や対応をしてしまうことが往々にしてあります。企業・ブランド人格として存在するときこそ、1人のひととして、やって良いことと悪いことの基準をぶらしてはいけないということですよね。

本日お話いただいたエピソードのより詳しい内容を知りたい方は『「心」が分かるとモノが売れる』に書かれてありますので、ぜひ読んでみてください。鹿毛さん、本日は貴重なお話をありがとうございました。

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次回の「ビジネスに役立つnoteやSNSのつづけ方」は9月7日(火)19時から文藝春秋の村井さんとEKIDEN Newsの西本さんに「メディアの視点」をテーマにお話しをお聞きします。
ぜひご参加ください!

interviewed by 徳力基彦 text by いとうめぐみ

*この連載は、日経クロストレンドにも寄稿しています。



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