採用につながる"らしさ"の伝え方 #等身大の企業広報
徳力基彦さん(noteプロデューサー)をモデレーターに、毎月開催している #等身大の企業広報 イベント。9月28日のテーマは、「メルカリ・パナソニックに聞く、採用につながる"らしさ"の伝え方」です。
従来の「マスマーケティング時代」の広報活動は、少し背伸びをしたり、お化粧をほどこした情報を相手に伝えていました。一方、SNSなど、生活者に直接情報を発信できるツールを使う「インターネット時代」では、自分をそのままさらけ出していくことが求められています。「等身大の企業広報」では、企業による等身大のコミュニケーションについて考察していきます。
今回は、企業広報をすることによって採用にもつながる「採用広報」という分野について、メルカリの福岡夏樹さんと、パナソニックの杉山秀樹さんをお迎えしてお話しいただきました。
「らしさ」を知ってもらうための「素の自分」の発信方法
──本日はよろしくお願いいたします。まずは簡単に自己紹介をお願いできますか。
福岡さん:高校卒業者後に陸上自衛隊に入隊し、その後はずっと編集者・ライターをしていました。メルカリには2018年1月に入社。採用オウンドメディア「メルカン」の担当をしています。人事でも広報でもなくて、コンテンツを作るコンテンツチームという部署になります。
福岡夏樹さん
株式会社メルカリ Contentsチーム メルカン編集部
杉山さん:以前はドリコムという会社に勤務していました。そこで広報やIRといったコミュニケーション系のキャリアを経て、現在のパナソニックでは、人事部門で採用ブランディングを中心に担当しています。
杉山 秀樹さん
パナソニック株式会社 リクルート&キャリアクリエイトセンター
採用ブランディング・PeopleAnalytics課
──メルカリさんの「メルカン」は、採用界隈のオウンドメディアの代表的存在なので、ご存じの方も多いのではないでしょうか。
また、日本の巨大企業であるパナソニックさんの人事課では、広報のキャリアを持った方が「採用ブランディング」をおこなっているとのこと。このあたりが、今回のテーマ「採用に繋がる”らしさ”」のポイントになりそうです。どうぞよろしくお願いいたします。
──“パナソニック”といえば日本に冠たる大企業で、放っておいてもたくさん応募が来そうだと思うのですが、「変えなくちゃいけない」という問題意識があったのでしょうか。
杉山さん:当時、足元でなにか危機的な状況が起こっていたということではないのですが、”変化の見立て”がありました。そこで、先を見越した課題として次の3つの変化に対応する取り組みをおこなっています。
1つは、情報環境の変化。
ネット上では大企業よりも、ベンチャーさんや元気なスタートアップさんがすごく存在感を発揮しています。いまはネットの世界のことであっても、だんだんパワーを持ってくるなと感じました。そうなると、会社がお化粧をするのが難しくなる。そこで、「素の自分」でも勝負できるようにならないと、という問題意識がありました。
2つめは、価値観の変化。
大きな日系企業では、社員の平均年齢が45歳くらいなので、会社の意思決定をするキーパーソンと、実際に新卒採用で接する相手との間に20年くらい年齢差が出てしまうんです。人はどうしても自分の経験によって判断をしてしまうところがあります。だからこそ、きちんと価値観の変化に気づき、その変化に対応する必要があります。
3つめは、働き方の多様化。
コロナ禍もそうですが、今後もいろいろな変化が予測される中で、「新卒で入って一社でキャリアを終えていく」という世界ではなくなってきていることを認識する必要があります。
杉山さん:そして、とりあえずエントリーする層から、入りたいと本気で選択検討いただける層へどう超えるかというところも重要で……。内定を出しても本命ではないと辞退されてしまう。最後の意思決定の場面で辞退されないように頑張ることも大切ですが、いかに選択検討してもらえる層の人を増やすかということも課題です(上図参照)。
──メルカリさんの問題意識は、また違ったものなのですよね。
福岡さん:創業当初から求人情報サイト「Wantedly」などいくつかのツールを使って採用広報的なことをしていました。でも、外部メディアに取り上げていただくには強いトリガーや企画力が必要だったりするんです。
「何かもうちょっと、社内のなにげないところを取り上げたい」「自分たちだったら、こう表現できる」と思うところがあり、そのような発信の体制がほしかったことから、16年5月にメルカンをスタートしました。
福岡さん:採用活動を自分たち主導で進めたかったというのもあります。また、採用広報として出されている情報と入社後に実際に感じた社内の状況との間にギャップがあると、離職に繋がってしまうこともあるので、やはりここは正直ベースでやりたい、というのもありました。メルカンは、「素の自分」を出す場所としての、自分たちのメディアです。
「共感の持ち方」が変化している
杉山さん:この5~6年の中で「共感を持ち方」が変わってきているのを実感しています。「パナソニックだからいいな」ではなくて、「◯◯さんがいる場所はパナソニックだ → パナソニックよさそうだ」という順番になっているんです。
──似ているようで、全然違うんですよね、それ!
杉山さん:そうなんです。これまでも記事広告はやってきていますが、そのときは、「我々パナソニックは」「我々パナソニックはこんな技術がございまして」という話し方だったんです。
それを、すべて「私は」に変えました。「私にはこういう課題意識があって、こういう思いがあって、それで、こういう取り組みをしています」といったような書き方で、最後に会社の所属が書いてある……というかたちです。
福岡さん:杉山さんのおっしゃるとおり、主語を個人に変えるメリットって、採用広報においては大きいなと思っています。取材で取り上げられたメンバーが自分でシェアをすると、それに興味を持った人が個人で連絡をしてきたりするんですよね。
──従来のパンフレットに載っている社員インタビューと、メルカンで社員が発信する記事とでは、何が違うのでしょう。
福岡さん:リーチしたい層の違いでしょうか。外部メディアと自社では、それぞれのよさがあると思います。大きくリーチするためには外部メディアはやはり強いです。
ただ、外部メディアでは取り上げられないけれども、紹介した人間とその企業に興味がある人を人づてで伝えてもらいたいときは、自社メディアなのかな、と思います。共感させたい層がどちらにあるのか。全国区に向けたいのか、地方局だけど集まってきてくれる人たちなのか。メルカンでの発信は、地方局に集まってくる人たちと何かを始めたい、その人たちから広げたい、という感じが強いです。
メルカンのこだわり
福岡さん:メルカンは、とにかくネタが命です。
──「記事のクオリティ」と「ネタ」は違うんですね!?
福岡さん:記事のクオリティはあとから何とかできるんです。でも、人選とネタの選び方は、新鮮さが命。なので、社内で「タレコミ」を常に募集しています。「企画」って言っちゃうときれいなものを集めようとしちゃうので、あえて「タレコミ」と言っています(笑)。
杉山さん:個人がその会社のバリューについて語っているという構図が重要ですよね。
福岡さん:ですね。おもしろいのは、個人によってバリューのとらえ方が違ったりして、そういうものもよい発信になるところです。あとは、盛らない、かっこつけない、そして、地に足がついたものを発信していく。身近に感じられて信頼につながるコンテンツを届けるようにしています。
パナソニックのこだわり
杉山さん:会社の大きさやカルチャーによって使える手段は変わるので、メルカンさんの発信がいくら魅力的でも弊社で同じことができるとも限らないんですよね。そこで、コンテンツ発信の1つとして採用広報・ブランディング支援メディア「FASTGROW」との取り組みをスタートしました。
杉山さん:この記事ではパナソニックについてあまり語っていないんです。自分自身についての、いわゆるインタビュー記事。この人がこれまでのキャリアで何を感じ何を考えてきたのかという文脈です。記事としてはよいものなのですが、どのくらいエンゲージメントがあるのかなどは試行錯誤です。
これからの企業広報とは
──お二人が考える、未来の企業広報についてお聞かせください。
杉山さん:下図は有名な「ゴールデンサークル理論(*)」ですが、大切なのはこの順番と一貫性、そして率直さ・透明性・うそをつかないところを実現していくということだと思っています。
福岡さん:メディアを始めるときって結構大げさに考えがちなんです。「メディア」というからには数千人、数万人がきて当たり前みたいなイメージがありますが、もっと気軽に始めていいものなんです。まずはできることから、ミニマムでやってみることも大事だと思います。
──「自社にはそもそも選任の人はいない」という方もおられると思いますが、実はメルカリさんもパナソニックさんも、こういう活動を始めるときは1人が始めようと言って、そこから小さく始まっていくものですよね。そこのプロセスについて、今回のおふたりの思考回路は参考になるところがたくさんあるのではと思いました。本日はありがとうございました。