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「美意識」を大事に、徳を積むコンテンツづくりを──TBSテレビがnoteで発信する理由 #noteクリエイターファイル 特別編

6月初旬、こんなひとつのツイートが話題になりました。

ツイートの主は、LINE株式会社の桜川和樹さん。「NAVERまとめ」の編集長や「LINE MOOK」の立ち上げ人でもあり、WEB編集にかなり造詣の深い桜川さんですが、TBSのWEB編集センスに嫉妬が止まらなかったそう。

(※ 桜川さんも訂正されていますが、ひとつめのツイートは×日テレ→◯TBSテレビです)

とうとう、こんなご自身のnoteまで。

TBSがなぜnoteをはじめとするWEBコンテンツ制作を始めたのか? その編集センスはどうやって培われたのか?─── 私たちnote編集部も聞いてみたいと思い、株式会社TBSテレビ報道局のデジタル・SNS部門責任者の池田誠さんと桜川さんをお呼びすることに。noteで活躍するクリエイターを紹介する #noteクリエイターファイル の特別編です。

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TBSが「WEB発信」をはじめた理由

桜川:今日はよろしくお願いします。お会いできて嬉しいです(笑)。

池田:お願いします。このTwitterのやりとりを見て「まさか……」と思っていたら、本当に取材依頼が来て驚きました(笑)。

桜川サカナクションの山口一郎さんの記事も、山里さんのご結婚の記事(TBSラジオ)も、どちらもすばらしかったです。

池田:ありがとうございます。

桜川:そもそもなんですが、池田さんはTBSで何をされているんでしょうか?

池田:現在は、報道局でデジタル・SNS部門の責任者をしています。2000年に入社してから、ほぼずっと報道現場で記者やディレクターをしていたのですが、2017年4月にデジタル・SNS部門の強化チームを立ち上げました。

公式Facebookの動画コンテンツを強化したり、「ニュースが少しスキになるノート」、「news23」「サンデーモーニング」の公式スタッフノートという3つのnoteを開設したり、「いらすとキャスター」というニュースのVTuberのような取り組みを始めたりしていますね。

桜川:「いらすとキャスター」の仕掛け人も池田さんだったんですか……!TBSで「デジタル部門の強化チームをつくろう」と思ったのには、どういう背景があったのでしょうか。

池田:入社してしばらく経って、「テレビをオンエアで見る人が少なくなっているな」と、肌で感じるようになったんです。

僕がTBSに入社した頃は、自分の企画などを放送すると「テレビ見たよ」という声が、周りのいろんな人から当たり前のように届く時代だったんですよ。

でも、次第にスマホや別の娯楽がどんどん増えていって、「WEBで見た」とか「SNSで見た」とか、テレビのオンエアじゃない場所で見る人が増えていることに気がついて。

桜川:たしかに僕も、テレビのオンエアを見る時間は減りました。

池田:全社的にも、若者のニュース離れが問題になっていました。「いいものを出していれば、いつかきっと視聴者は振り向いてくれるはず」という声もありましたが、やっぱり今はデジタル強化・最適化が必要だと思い、声をあげましたね。

やりたいと言っても、最初はやらせてもらえなかったんですが……(笑)。


会社を説得する方法は、「愛を語る」に尽きる

桜川:どうやって会社を説得したんですか? TBSほど大きな会社だと、大変そうですよね。

池田:大変でしたね。最初から一筋縄ではいかないとわかっていたので、まずは「仲間を増やすこと」から始めました。

桜川:仲間を増やす?

池田:はい。社内(主に報道局内)で、デジタルに関する勉強会を定期的に開催したんです。

桜川:どんな内容の勉強会だったんですか?

池田:現在のメディアが置かれている状況や、テレビだけじゃダメな理由、他社の状況など。若い局員ほど、賛同してくれる人は多かったですね。

桜川:なるほど。

池田:あとは、上司や巻き込みたい人たちに対して、「自分たちは敵じゃないよ」という姿勢を示すようにしていました。

本当にいいコンテンツが、テレビの放送1回だけで消えてしまうのはもったいない。だからこそ、どうしてもWEBに残したい。そういう、打算ではない、純粋な(ニュースに対する)愛を伝え続けていました。

何事も、愛がなければ絶対に口説けないと思うんですよね。


noteを選んだのは、世界観に共感したから

桜川:現在、3つのnoteアカウントを持っていらっしゃいますよね。どうして、発信のプラットフォームにnoteを選んだんでしょう。

池田:いろいろあるんですが、まずは、デザインがシンプルで好きだったのと、エディタ画面が素人でも使いやすいことが大きかったです。あとは、純粋に会社が好きだなって。

桜川:どういうところが好きなんですか?

池田:2年ほど前、note主催のイベントに参加したんですが、そのときの雰囲気や空気感がとても好きで。クリエイターを大切にする、ギスギスしていない優しい雰囲気が素敵だなと。

桜川:ちょっとわかる気がします。

池田:はい。「TBS」という会社の看板があって、ふだん僕たちは大きい主語で捉えられがち。僕はそんな中で、社員一人ひとりにいろんな意見があって、いろんな価値観を持って働いてることを、もっと「見える化」したかったんです。

そしてそれは、noteの世界観とすごく合うな、と思いました。


記者の熱量を伝えるための、「視聴者目線でおもしろがる」編集術

桜川:池田さんは、過去にWEBでの発信経験はあったんですか? その編集スキルはどこで培われたのか、WEB編集畑の人間からすると気になります。

池田:いやー、発信経験は全然ありませんでした。たぶん、普通の40代の方々とそんなに変わらないと思います。Facebookで子どもの写真をアップする、くらいのレベルでしたね(笑)。

桜川:そうなんですか! それにしても、編集がお上手だなと思って。

池田:ありがとうございます。記者になるくらいだったので、記事を読むのは昔から嫌いじゃなかったですね。

WEBメディアの「ジモコロ」とか「オモコロ」とか……WEBならではのテンションや見せ方には、昔から興味がありました。

桜川:実際にご自身でコンテンツをつくるときに、気をつけていることはありますか?

池田:取材した記者の熱量を、そのまま残すことですね。僕の考えよりも、その記者が現場で向き合っている視点を大切にしたいと思っています。

ふつうのWEBの編集者さんって、ゼロから取材して記事をつくっていくことが多いですよね。でも、僕が考えているのは、報道の最前線にいる記者がテレビで出したものを、いかに熱量を保ちながら文字として残せるか、といった部分。だから、ふつうのWEB記事の編集とは、ちょっと視点が違うかもしれません。

桜川:山口一郎さんの記事で、連続して画像を貼る手法を使われていましたが、それもそのような意図で?

池田:ですね。テレビは視覚情報が多いので、文章で書くよりも画像のほうが伝わるシーンは多々あると思うんですよ。

でも、画像が続きすぎると、それはそれで見にくい。どちらが正解ということはなく、試行錯誤中です。

桜川:膨大にあるTBSのニュースの中から、noteに載せるコンテンツはどうやって選んでいるんですか?

池田:それはシンプルで、僕がおもしろいな、と思ったもの。番組スタッフが残したいな、と強く思ったもの。僕は全然いい文章を書ける人間ではないので、ただおもしろがることしかできないんです。だからいつも、1人の視聴者としての目線を大事にしていますね。


noteをはじめてうれしかったこと・難しかったこと

桜川:noteを運用していく中で、「この記事は思い出深い」といった、印象的な記事はありますか?

池田:個人的によかったなと思うのは、この記事ですね。

池田:ふだんは僕から担当記者に「noteで記事化しない?」と声をかけるんですが、この記事は、若い後輩が「どうしても自分の企画をnoteに残しておきたい」と言ってきてくれたんです。

桜川:ほう。

池田:「報道特集」という番組で放送された、色覚検査に関する特集だったんですが、彼自身も色覚異常を抱えていて。自分自身も苦労した経験があるからこそ、やっぱり世に問いたいし、コンテンツを残したい。そういう思いを伝えてきてくれたことが、うれしかったですね。

桜川:それはうれしいですね……。逆に、苦労したり、難しかったりした点はありますか?

池田:うーん。難しかったのは、メンバーの「テンションのあげ方」です。

桜川:テンションのあげ方?

池田:やっぱり、ふだん運営している「TBS NEWS」のWEBサイトでは、たとえば芸能人に関するニュースの記事を出したりすると、当たり前のように数百万PVになるんです。それと比べたら、noteのPV数は、はるかに少ないんですよ。

桜川:たしかに、読まれる母数は全然違いそうですよね。

池田:はい。ただ、PVが少ないからといって、そこでやる意味がないかと言われたら、そうではなくて。

芸能人のニュースに飛びついた数百万PVと、「こういう記者がいるよ」「TBSならではの企画をやってるよ」ということを残せる数千PV。数がはるかに違っていても、熱量としては後者を大切にしなきゃ、と今は思っています。

桜川:でも、そういうマインドになるまでに、葛藤はあったのでは……?

池田:ありましたね。「PV数の少ないnoteにこんなに力をかけてていいのかな?」っていう葛藤は、自分の中でずっと。

「もっとバズを狙ったほうがいいのか」とか、「多少釣りタイトルにしたほうがいいのか」とか、いろいろ考えたこともありました(笑)。


目先の数字よりも、「徳を積む」ことを大切にしたい

桜川:そういう葛藤からは、どうやって抜け出したんでしょう。

池田:今は、「美意識」がすごく問われる時代だと思うんですよ。売り上げやPV数などももちろん大切だけど、それと同じくらい「自分はどうありたいのか?」もすごく大切になっている。

だから、「TBS NEWS」はどうあったほうが素敵か。そこに立ち返れるように、ずっと考えながら少しずつ変化してきた感じです。

桜川:考えが変わるきっかけになった出来事などは、あったんですか?

池田:ピースオブケイクのCXOをやっている深津さんとたまに会って話すんですが、深津さんが「デジタル上は徳を積むに限るんですよ」といった話をされたことがあって。

メディアは、どうしてもPVや利益など、すぐに何か目に見える結果を求めがちじゃないですか。でもそれよりも、「徳を積む」ことで、いい結果が生まれ、いろんなことが回るようになる。その考え方には、なるほどなあと思いました。

桜川:たしかに、「メディア」と言うと華やかに聞こえるかもしれませんが、実際は地道に継続して信頼を積み上げる、壮大なルーティンですからね。

池田:そういう意味で、デジタルの分野で僕たちはほとんど何の徳も積んでこなかったし、しばらくはその期間と考えてもいいのかなと思って。まだ、強化チームが動き始めて、たった2年ちょっとなので。

まだまだ、取材した記者の熱は伝えきれていないですし「テレビだけではもったいない」がある限り、継続して頑張りたいですね!

桜川:なるほど。今日は池田さんのWEB発信の裏側を聞けて大満足です。ありがとうございました!


■プロフィール

・池田誠
TBSテレビ 報道局デジタル編集部
記者/『TBS NEWS』公式SNS運営責任者/対談番組『Dooo』制作統括/ニュースが少しスキになるノート (note)/いらすとキャスター企画開発など。大学時代は都市・建築デザインを専攻。秋田県出身。
ニュースに関する疑問は『教えてTBSニュースβ版』までどうぞ。
Twitter:https://twitter.com/jnn04316
『教えてTBSニュースβ版』:https://www.tbs.co.jp/oshiete_tbsnews/
・桜川和樹
1979年、宮崎市生まれ。LINEポータルカンパニー カンパニーエグゼクティブ/NAVERまとめ編集長。リクルート「R25式モバイル」の編集デスクを経て、NAVER Japan(現LINE株式会社)入社。これまで「NAVERまとめ」や「LINE NEWS」の事業化、新メディア「LINE MOOK」の立ち上げなどを担当。モバイルデバイスに特化した編集が専門で、編集歴は15年目となる。
note:https://note.mu/sakucchi
Twitter:https://twitter.com/sakucchi

Text : 明石悠佳 / Photo : 平野太一

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