ブランドが「コミュニティ」を運営する理由とは? WRAY代表・谷内侑希子さんに聞いてみた。
起業家の谷内侑希子さんが、外資系証券会社やコンサルティング会社勤務を経て、2020年に立ち上げたブランド「WRAY」。女性向けのセルフケア商品を開発・販売するブランドでありながら、2023年からnoteをつかってコミュニティ「LIFT with WRAY」の運営に乗り出しました。
興味深いのは、あえて月額料金と入会に審査ありというハードルを設けたところ。女性向けブランドが、SNSでもなく、流行りの動画配信でもなく、いまコミュニティをはじめた理由とは。WRAY代表取締役の谷内侑希子さんに聞きました。
インスタよりも双方向のコミュニケーションを取りたかった
ーーWRAYというブランドが、noteで「LIFT with WRAY」というコミュニティをはじめたのはなぜですか。
谷内侑希子さん(以下、谷内):WRAYはもともと、女性が自分の体を振り返るきっかけづくりとして立ち上げたブランドです。公式のメディアやインスタグラムで情報発信をしたり、私個人でもインスタライブでブランドのファンやフォロワーの方々と会話をしたりするなかで、いつかはコミュニティのような形にできたらいいなって思っていたんです。
インスタだとどうしても一方的なやりとりになってしまうことが多く、ブランドのフォロワーさんの顔まではなかなか見えません。
それをもう少し、双方向のコミュニケーションが取れるように、noteのメンバーシップではじめたのが「LIFT with WRAY」です。
ーー女性向けブランドとコミュニティは相性がよさそうですね。
谷内:プロダクトをつくるブランドがコミュニティを形づくっていくこと自体は、とても自然なものだと感じています。みなさんが常日頃から感じていることが、ブランドを媒介にして可視化される。それがたまたまWRAYの場合はけっこう色濃く出ていました。
商品を横断的に試してくださる方や、商品が持つ世界観に共感したとコメントをくださる方も多かったので、これってコミュニティとしては「すでにある」のに、「まだ形になっていないだけ」なんだ、と気づかされました。
そこでまずはLIFT with WRAYという場所を用意してみました。
みんなの悩みをつなげて「知恵袋」ができあがる
ーーLIFT with WRAYにはどんな方々が参加されているんですか。
谷内:WRAYのお客さまはもともと8割以上が働いている女性なんです。日本の女性の平均値は7割くらいなので、高いほうだと思います。それがこのLIFT with WRAYというコミュニティ内に限ると、働いている方が9割を越えているんですね。
これまではそういう方々の悩みを、私がひとりでインスタライブを通じて一方的に聞いていたんですけど、だんだん同じ悩みが多いことに気づいてきました。「あれ? 悩みってみんな似てない?」って思ったんです。これってちゃんとつなげればみんなで共感しあえるし、意見交換もできるのにって。
ーー自発的に上がってくる消費者の方の疑問や悩みをつなぐだけで、もうコミュニティができあがった。
谷内:そうなんです。なのでLIFT with WRAYでは、私が「みなさーん!」って質問を呼びかけて、その受け付けた質問に、それぞれ答えや意見を自由に書き込んでもらいます。するとコミュニティのなかに知恵袋みたいなものができあがってきます。
最近出ていた話題だと、たとえば「女性のマネジメントってどうしたらいいですか? 何かコツありますか?」みたいなトピックがありました。私ひとりが自分の経験から答えを書くより、経験者のみなさんに聞いた方がいいじゃないですか。
「マネジメント経験のある方、ご意見ください!」って呼びかけたら、みなさん、たくさん意見をくださった。それが掲示板の中にどんどんたまっていく。時間があるときに見てるだけでもいいんです。
テキストをメインにやり取りすることのメリットとは
ーーいろんなプラットフォームでこういったコミュニティができると思うんですけども、今回noteではじめた理由はなんですか。
谷内:私たちのお客様にはけっこう忙しい方が多く、今回のLIFT with WRAYの参加者も大変お忙しい方が多いので、時間ができたときにいつでも読めるように文字で残したいと思っていました。
動画配信ってどこでもやっていることだし、動画の良さももちろんあるんですけど、消費に時間がかかる面もあります。私の場合、ひとつのトピックでいろんな動画を見ていると、なんとなくわかることもあれば、聞き流したときに頭に残らないこともある。
そう考えると文字って記録としてちゃんと残しておけるし、いつでも振り返ったり、検索して調べたりできるので、文字ベースのほうがいいのではと思いました。
実はnoteを選んだきっかけはインスタのフォロワーさんが「noteでやったらどうですか」って教えてくださったことでした。私もこれまでいろんな方の意見が書いてある記事を読んでいたら、それがnoteだったということも多かったので、文字ベースのプラットフォームとして選びました。
ーーWRAYというブランドはメディアも運営しています。そこで出す記事とはどう違っているのでしょうか。
谷内:WRAYの記事は誰でも無料で読めますが、LIFT with WRAYはすべてメンバーシップの中だけで活動を完結させています。
というのも、寄せられる悩みの種類がけっこうプライバシーに関わるものだからです。たとえば働いている女性の悩みって会社や組織のことも出てきますし、置かれている立場とかの話も多いので、オープンな場所では話しづらいですよね。
あとはやっぱりウェルネスやセルフケアのブランドとしてWRAYを運営しているので、体の悩みもすごく多くなってきます。たとえば今度、婦人科の先生をお招きして、卵子凍結やその治療について本当に聞きたいことを聞くトークイベントを開きたいと思っていますが、そういうときに自分自身の悩みを赤裸々に語れるかというと、オープンな場所だと難しいですよね。
妊娠のタイミングや妊活の際のメンタルコントロールだったり、あとは生理についてどうやって上司と話しているかとか、そういう具体的で主観的な話をするときは匿名性があって、かつクローズドな場所のほうが意見を言いやすいと思っています。
あえて入会に「壁」をつくってみた
ーー事前審査制で月額3500円(2023年3月16日時点)の有料コミュニティです。だからこその心理的安全性もありそうですね。
谷内:そうですね。ただ審査といっても、だれかを「お断りします」というためのものじゃなくて、ちゃんとした大人で、ルールを守ってお互い傷つけないで話せる人が来てくださいねっていう気持ちで、ひとつ壁をつくっています。
「そこを通過してきてでも入ってみたい」って思ってくださる方に来てほしいので、こういう人は断ってますとか、たとえば20代の方は断ってますとか、働いてない女性は断ってますとか、そういうことでは全然ないです。
月額制の有料にしているのは、やはり有料にすると参加者のみなさんがそこで有益な情報がほしいと思うからこそほとんど荒れないのと、真面目に参加してもらえると思ったからです。
あとはみなさんの会費を、コンテンツを充実させるための資金にさせていただくというのもお約束としてお伝えしています。たびたびゲストをお呼びして、みんなで学んでいきたいと思っています。
ーーLIFT with WRAYはオープンして約2ヶ月ですが、参加してもらうための工夫は何かされていますか。
谷内:いまのところ、オープンした時に私個人のインスタグラムで告知しただけです。私が出産したばかりですぐにコンテンツを増やせない状態なので、まずはスローな感じで、いま入っていただいてる方々と最大限コミュニケーションを取ろうと思っています。
宣伝や告知に関してはインスタとの相性がとてもいいと感じています。ストーリーにnoteのURLを貼って、実は1日しか宣伝してないんですが、ほぼその日に集まってくださった方がいまのメンバーです。人数は非公開なんですけど、思った以上に登録してくださった。また徐々に募集していきたいなと思っています。
がんばるための「きっかけ」が得られる場所にしたい
ーーメインのWRAYというプロダクトブランドに対して、noteで運営されているLIFT with WRAYはどういった位置づけなのでしょうか。
谷内:WRAYはひとつのブランドとしてやっていきますが、LIFT with WRAYのなかにはWRAYを使っている方もたくさんいらっしゃるので、今後は商品開発にも生かせられたらと思っています。
私たちは別の形で商品開発コミュニティも持っているので、そこと一部合流したりとか、あとはメンバーシップの方向けに開発した限定商品も作っていきたいとか、いろいろと考えています。
もちろんマーケティング的な発展以外にも期待しています。「助け合いができるプラットフォーム」という“人軸”でも何か生み出せるのが理想です。
「ちょっとあそこに相談してみよう」と思えるような、気が楽になるセルフケア・プラットフォームみたいなイメージ。専門家も交えた多様なコンテンツが集まっていて、どこに聞けばいいかわからないことが聞ける場所です。
WRAYというブランドのコンセプトは「きっかけづくり」なんです。まずはセルフケアのきっかけを用意しました。「このブランド、かわいいね」から入って、自分のこと・セルフケアについて考えてみよう、でもいいじゃないですか。
LIFT with WRAYも同じです。このあいだコミュニティ内で「今年やりたいこと」を募集しました。たくさんの声が寄せられたんですが、すごくよかったのは「いまこの投稿を読んで考えました」「みなさんに刺激されて考えてみました」という人がいたことです。
何かをがんばるきっかけが得られる場所、そしてお互いに相談したり、はげましあったりできる場所、そんなコミュニティを目指していきたいと思っています。
谷内侑希子さん
note:https://note.com/modern_daisy115/
Instagram:https://www.instagram.com/yuccoxx/
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