「だれにも見られたくないから8000円で」ピン芸人・サツマカワRPGが有料で日記を書く理由
R-1グランプリで2022年・2023年とファイナリストに。実力派のピン芸人として活動するサツマカワRPGさんは、一風変わったスタイルで自身のnoteを運営しています。
そのやり方とは、毎月1日に1本だけ8000円の有料記事を公開し、その後は1ヶ月かけて同じ記事にどんどん追記・更新していくというもの。
日々の活動の様子から、考えていることや悩んでいること、ときには仕事の愚痴まで赤裸々に書きつらねていく。思いつくままにスマホで書かれる日記は1日に何度も更新され、月が変わるころには膨大な量のテキストになり、ひとりの若手芸人のリアルな記録ができあがります。
まるで自分の頭の中をそのまま共有するような試み。この実験的なnoteはいったいどんな目的で書かれているのか。気鋭のピン芸人・サツマカワRPGさんに聞きました。
noteはひとりで抱えきれないことを好き放題書く場所
ーーサツマカワRPGさんが、noteで新たに発信をはじめたきっかけは何ですか。
サツマカワRPGさん(以下、サツマカワRPG):もともと自由に発信できる場所を探していたんですが、あるときシャラーペという元芸人の友だちが有料でnoteを書いているのを知りました。買った人だけが中身を読めるようになっていて、好き放題書いている。これを僕もやりたいなと思ったのがきっかけです。
全世界には言いづらいけど、やっぱり誰かに聞いてほしい。自分ひとりでは抱えきれないことってあるじゃないですか。そこにnoteがちょうどよかった感じです。
ーー言いづらいことって、たとえばどんなことですか。
サツマカワRPG:僕は「サツマカワRPG」というお笑い芸人をやっているので、なんて言うんだろう、見えてる場所ではちゃんとふざけている姿を見せたいんです。
例えば、僕のギャグで「シューマイ、シューマイ」というのがあるんですけど、これを作る過程とか苦悩とかを語っていたら、マジ覚めますよね。
「あそこはシューマイじゃなかったな」みたいなことを書いたら覚めるじゃないですか。覚めますよね。ああ、考えてやってるんだなって。
そうじゃなくて、衝動でやってます、勢いでやってます、みたいなのが芸人としてかっこいいわけです。
だから有料noteをやっていることを、ちゃんと告知したことはないです。ライブのエンディングで言うくらいがちょうどいいのかなと思っています。ライブに来てくれる人って多くて100人くらいなので。
サツマカワRPGのnoteに8000円も出そうっていう人、やっぱり変じゃないですか。その人たちにはもう何を言っても大丈夫かなと思ってやっています。
有料noteの値段を8000円に、きっかけは「R-1」
ーー8000円という金額を決めた理由って何かあるんですか。
サツマカワRPG:たしか、もともとは5000円でやっていました。去年のR-1が終わったあと、心の闇の部分をnoteに出したことがあったんですよ。すごいしんどい、みたいなことを書いていて。
そしたら、いつもより少しだけ購読者が増えたんです。際限なく言いたいことをなんでも書くというのがモットーだったnoteですが、ちょっとだけ人が増えた分、これ書いていいのかな?とか考えなきゃいけなくなった。じゃあ、これを機に値上げしようと、いまの8000円になりました。
外では言えないことを少ない人に向けて安全に吐き出したいので、この8000円を突破してくる人が増えすぎてしまったら、また考えようと思っています。
ーー芸人の方って駆け出しの頃はアルバイトもやっていると思います。サツマカワRPGさんのように自分の発信を有料として売り出すと、より芸能活動に集中できたり、本業の助けになったりはしないですか。
サツマカワRPG:僕の場合、あまりそれは意識してないですね。本当に仕事としてやっちゃうと勝手なことを書けなくなるし、もう少し文章を精査した方がいいかなとか考えてしまうので、お金になるとかは考えないようにしています。
「俺の日記なんて別に見られたくないから8000円で売ったよ」っていう感覚です。
でもこれは芸人ゆえの感覚かもしれないですね。文章でちゃんとご飯食べてる人はいろいろ考えてnoteをやってると思うんですけど、僕らのメインは違う場所にありますから。
やっぱり芸人は有名になりたい、売れたいっていう目標があります。本来は芸人として売れていかないといけないわけで。
ファンクラブに近いことをnoteでやっている
ーーnoteでは1本の記事にずっと書き足していくスタイルで、1日の間にもたくさん更新されていますね。
サツマカワRPG:僕が思春期のころ、「プロフ」とか「リアル」みたいなネットサービスが流行っていました。何を食べたとか、勉強したとか、日記のよりも短い1行とか2行の文章をガラケーでどんどん書き連ねていくんです。
学生時代に陰キャだった僕は、そのリアルをやりたくてもできなくて、代わりにドラクエばっかりやっていました。だから大人になってnoteで発散している感じです。
文章を書くのはけっこう好きで、昔はアメブロに短い小説を大量に書いてた時期がありました。書くこと自体はすごくたのしいので毎日書いています。
ーー普段のメインの芸人の活動に対して、noteでの執筆活動はどんな位置づけですか。
サツマカワRPG:たぶんファンクラブでやるようなことを、noteでやっているという感覚ですね。外では公開していない写真とかもnoteに上げているので、ファンクラブ的なことをnoteでまかなってる感じかもしれないです。
ただ、毎日めちゃくちゃ救われています。
ピン芸人ってネタ作りから、いろいろな重要事項の決定まで1人でやるんです。仕事で思うこと、生きてて考えることっていっぱいあるじゃないですか。そういったことをすべて吐き出しているので、1人で抱え込まずにいられます。
noteをはじめる前は公園で夜中、ブランコに乗って、ずっとブツブツ言ってました。「なんで俺はこうなんだ…」とか、「あの仕事はこうしなきゃなぁ」とか。
正直、芸人仲間とかにも言えないような、言われた相手も困るだろうなっていう独り言も全部、noteにはなりふりかまわず書いています。
文章という形にして、少数の方と共有してみると、「俺はこう考えてたのか」と頭を整理できる。そういう意味でもめちゃくちゃ助かっています。
サツマカワRPGさん
note:https://note.com/satsumakawarpg/
Twitter:https://twitter.com/satsumakawaRPG
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