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「なんで有料でnoteを書いてるんですか?」筆まめなベーシスト・SOPHIA 黒柳能生さんに聞いてみた。

1995年にメジャーデビュー。数々の名曲を残し、2013年から活動を休止していたロックバンド「SOPHIA」が昨年秋、9年ぶりの活動再開を果たしました。長くつづく人気の理由は、楽曲の良さ、バンドのパフォーマンスなどさまざまありますが、この記事ではベーシストの黒柳能生さんに注目。

黒柳さんは昔から文章を書くのが得意。ずっと個人サイトで書き続けてきましたが、最近はnoteを開設して日常の様子をつづったり、有料記事を販売したりしています。先日はなんと企業協賛のコンテストで見事受賞を果たしました。

黒柳能生さんのnote

SNS全盛のいま、アーティストが自分の言葉で発信する意味とはなにかーー。無料にくわえて有料でも記事を配信している理由は? SOPHIAのベーシスト・黒柳能生さんが独特の表現で語ってくれました。

Twitterやインスタではできないことをやりたかった

──黒柳さんといえば1997年から「俺様!」というサイトを匿名で立ち上げ、そこで書かれていた文章がかなりの人気でした。今回、noteで新たに発信をはじめたきっかけは。

黒柳能生さん(以下、黒柳):ここ数年ずっとSNSとかそういうものを全部やめていたんです。「俺様!」というホームページも10年ぐらい前に閉鎖していました。ちょっとネットの世界に嫌気がさしていたのもあります。

ただ昨年、9年ぶりにSOPHIAが活動再開となりまして、それにあたって何かしら自分自身を表現するというか、そのブランクを埋めるための活動を何かはじめようと思ったのがきっかけです。

まずはSNSを活用しなきゃと思ったんですが、もう50歳も過ぎていますし、いわゆるTwitterとかインスタには制限をものすごく多く感じてしまって…。僕がやりたいことが何もできない。

それでプラットホームとなるものを探していたら、noteというものの存在をたまたま知りました。いろんな方がものすごくおもしろい文章を書いているのを発見したんです。そこで「noteならTwitterやインスタと連動させることで自分のやりたいことが具現化できる」と思いました。

──「自分のやりたいこと」というのは具体的にどんなことだったんですか。

黒柳:単純に長い文章を書きたかったのと、“黒柳能生”をブランディングすることですね。

僕はあらゆる面においてプロフェッショナルでは全然ないんですよ。専門性も僕の中では実は全然ないと思っていて。でも僕は自分・黒柳能生という人間のプロフェッショナルではあるので、それをおもしろがってくれるひとに書いていきたい。

もともと海外のアーティストに憧れてバンドをはじめたんですけど、そういうひとたちのインタビュー記事なんてね、たとえば海外の雑誌とかを読むとけっこう乱暴なことも言ってて、すごくおもしろかった。そういうのが自分でもできればいいかなって。

昔だとROCKIN'ON JAPANみたいな雑誌がよくそういうインタビュー記事を載せていたんですよ。僕はそれを自分の言葉で、要はROCKIN'ON JAPANを自分でやりたい、みたいな欲求もありますね。

noteでは自分でプロデュースして、自分でディレクションして、自分をブランディングしていく。自分で全部やりたいんです。

有料記事は「手段」であって、目的ではない

──黒柳さんは記事を有料で販売もしています。有料コンテンツへのこだわりというものはありますか。

黒柳:最初から収入のためにやっている方もたくさんいらっしゃると思うんですけど、僕の感覚では、収益というのはあくまで副産物的なもの。

結果的にもちろんそれが収益にはなっているのですが、読む側に責任を持ってもらうための手段が有料というものであって、目的ではないんですよね。

マガジン「俺note-おれのおと-」は月額1000円で月5本程度の有料記事が読める

──有料コンテンツは読む側にも責任を…というのはとてもおもしろい観点ですよね。

黒柳:有料にするということは僕はそういうことだと思ってるんです。見たいやつが自己責任で見るところが、有料販売のひとつの側面じゃないですか。だから僕は「金払ってたのしむんだから、思いっきりたのしめよ」って思っています。

もちろん、発信する側に最大の責任があるのは大前提ですよ。

たとえば昔、ファミコンとかにクソゲーってあったと思うんです。なけなしの小遣いで頑張って買ったゲームがものすごくつまんなかったことってあったじゃないですか。

でもね、あれって「つまんない」ってかんたんに言ってしまえるほど安くなかったんですよ。つまんないと認めたくなくて、みんな必死こいておもしろいと思うまでやり込んだと思うんです。

つまんない映画見て「つまんなかった」って言うのも、本当につまらないじゃないですか。せっかくだからおもしろいと思える方法まで考える。受動的ではなく能動的にたのしむ。そんな機会も僕は提供したいというか、そういう感覚をわかってくれる人に、届いてほしいなと思っています。

無料の記事も書いていますし、有料記事も冒頭は読めるようになっているので、何か引っかかるところがあったら読んでもらえるとうれしいですね。

僕、ひとつだけ「こういうスタイルもいいな」と思っているのが、遊園地のジェットコースター。すげえ速くて、スリルもあって、とにかくおもしろいんだけど、どこにも連れて行ってくれないんですよね。

スタートしたところに戻ってくるだけ。

どこにも連れて行ってくれない、スリルとスピードだけの乗り物を能動的に楽しむ。この関係もひとつのエンターテインメントのスタイルだと思っていて、こういうのを自分もやれたらなと思っています。

noteはアウトプットでありインプット

──メインの音楽活動に対してnoteの活動は、どのような位置づけで行われているのでしょうか。

黒柳:忙しい方もいらっしゃいますが、僕は1つしかバンドをやっていないのでミュージシャンとしては基本的に暇なんです。ステージに立って創作活動はしている、もちろん練習もやっているんですけど、でもそんなの1年のうちの数日です。

もちろん練習もしますが毎日5時間も6時間も練習しているわけでもないし、作曲やレコーディングも頻繁にやっているわけでもない。

それ以外の生活や活動の中で経験したことや考えたことをインプットして、ミュージシャンとしてアウトプットしている。noteに書いていることも黒柳能生としてのアウトプットではありますが、ミュージシャンとしてのインプットなんです。

僕、プロミュージシャンとしては「中の下」もいいとこなんですよ。プレイヤーとしても作曲家としても特別に上手いひとではないので。僕は黒柳能生という人間のプロフェッショナルであって、別にベースのプロでもなんでもないです。

音楽の活動一本でやれるほどすごい人間ではないから、興味を持ってもらえるとしたら「僕」という人間そのもの。そこからSOPHIAに繋がっていってもいいし、そんなひとと出会えるきっかけになったら、そことうまくリンクしてくれたらいいですね。

僕と周波数の近いひとと出会い、そのひとと周波数の近いひとに繋がっていく。noteならできる気がしています。

「楽器屋さんに行こう!」というシリーズ企画で大阪の島村楽器を訪れた様子

保護猫の記事コンテストで受賞

──音楽以外の活動といえば、保護猫をテーマにしたnoteのコンテストで賞を受賞していました。

黒柳:びっくりしましたね。他の方の記事とかを見ると、たのしいできごとや幸せに感じたことを書かれている方が多くて、猫を飼っている身としては読んでいてすごく嬉しい気分になりました。

でも、僕が書いたのは「出会いと別れ」にクローズアップして、「飼う」ということに向き合うというものでした。

「そういえば、いっぱい猫を飼ったなあ」と振り返りながら、短い文章でたたみ掛けるように書いた文章だったので、これはウケないだろうなと実は思っていたんですけど。でも評価をいただいてありがたく思っています。

──アーティストとして自分の言葉を伝える場所があると、文章でコンテストを受賞したり、新たな魅力が加わるきっかけになる。若いアーティストとかバンドマンとかにもおすすめしたいですか。

黒柳:いまは楽器が売れない時代とよく言われてるんですけど、そりゃ売れないですよね。だって、若い子たちがプレイヤーに憧れていないですから。

たとえばいまの若いひとたちに、ギタリストでどのひとが好き?って聞いても、名前なんてほとんど出てこないんじゃないかな。

なんでそうなっちゃったのかを考えてみると、音楽番組や雑誌が少なくなって、インタビュー記事でカッコいいセリフを読む機会も、カッコいい演奏写真を見る機会も減って、プレイヤーそのものを世間に売り込む機会がないというのも原因の一つ。

ただ、一方では多くのプレイヤーがSNSをやっていて、多くの人に知ってもらえるツールも機会もあるはずなのに、ひとに知られるようになるプレイヤーは一握りもいないという現実がある。

難しいですね。でも、僕はこの状況を変えたいと思っています。だって僕が憧れたプレイヤーがいるように、僕も憧れられたいですから。

「バンドも会社もフロントマンだけでは成り立たない」から

黒柳:僕はプレイヤーのひとたちはもっと自分を発信したほうがいいと思うし、「みんなもっともっとカッコいい自分を出しなよ」って言いたいんです。

だってボーカルだけでバンドなんかできないんだから。バンドだけじゃないですよ。会社だってそうだし、テレビだってタレントだけで番組なんか成り立たないし、舞台だってそう。俳優さんだけで舞台なんかできっこないんだって。

僕は一般のひとから見たらバンドの中の裏方なんですよ。フロントマンがいて、僕はそのうしろのバックミュージシャンでしかないわけです。でもバックだからといって隠れてる必要はないって思っています。

技術者さんも職人さんも、バンドのプレイヤーも、すべてのクリエイターはもっと自分で自分のことを語っていいんですよ。「あなたの憧れるアナタ」はカッコいいんですから。

そして、そういうひとをちゃんと自分の目で探してくれる読者が必ずいますから。

昔やっていた「俺様!」というサイトで僕は“俺様”と名乗り、正体も明かさず、まったく宣伝もせず、いまでいうブログのようなことをやっていたんです。

97年ですからまだPCもインターネットもいまほど当たり前ではなく、俺様は知る人ぞ知る存在だったんですよね。でも途中から少しずつバレてサイトに来るひとがふえはじめるんだけど、だれも「SOPHIAの黒柳さんですよね?」と言ってこないという関係がおもしろかった。大人の遊びですよね。

そんな大人の出会い方が、このnoteでもできている。

爆発的ではないけど、一時的なものでもなく、じっくりと関係性を築きあげることができる。同じたのしみ方ができるクリエイターさんがいっぱいふえるといいなと思っています。

黒柳能生さん
note:https://note.com/yoshiokuroyanagi/
Twitter:https://twitter.com/kuroyanagi440


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