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「愛をくれる家族を自慢したいからnoteをはじめた」熱と愛とユーモアに溢れる、岸田奈美さんの面白い文章が生まれるまで #noteクリエイターファイル

noteで活躍するクリエイターを紹介する #noteクリエイターファイル 。今回は、家族にまつわるエッセイが話題の作家・岸田奈美さんにお話をお聞きしました。

時間かけてブラジャーを試着したら、黄泉の国から戦士たちが戻ってきた」、「櫻井翔さんと密室で30分間、対面したら2kg太った」、「弟が万引きを疑われ、そして母は赤べこになった」ーー

ここ半年、noteで、いやインターネット上で大きな話題になったこれらの記事を書かれたのが岸田奈美さん。テンポよく進む、熱と愛とユーモア溢れる文章に、けらけら笑って、ほろりと泣いてしまう。

そんな読者の感動と共感が伝播して、合わせてSNSで30万以上のシェア、200万PV、「赤べこ」のスキ数は10,000を超えています!(2019年12月現在)

そんな岸田さんのnoteは一体、どのようにして生まれているのでしょうか。

インターネットの世界に居場所を見つけた幼少期

息をするように、ネット上に文章を書いてきました。

そもそもの始まりは、幼稚園生の時に、ガジェット好きな父親が初代iMacを買ってきたんです。パソコンの家庭普及率7%、Windowsが主流の時代ですよ? パソコンをできるようになってほしいからって。当時は、マスワークショップっていう数学のゲームとか、ペイントで絵を描いたりしていましたね。

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私、アニメや少年漫画が大好きだったので、小学校に上がったとき、みんなと笑いのツボが合わなくてびっくりしたんですよ。女子グループにも馴染めなくて、居心地の悪さを感じていましたね。みんなは「ピチレモン」読んでるのに、私は「水曜どうでしょう」を観てました。なんでみんなこの面白さがわからないんだろうって、悔しくて。

でも、家に帰ってチャットで面白いことを書いて、誰かが“ワロタ”って言ってくれると嬉しかった。当時、チャットの管理人をしていたんですけど、小学生だと言うとびっくりされて。ネットの世界にはわかってくれる人がいたんですよね。

mixiが流行った時は、高3でしたね。それまで、前略プロフィールとか、Decologとか、ぱどタウンとかやってて、インターネットとリアルの世界は別物だったので、みんなが「ゆきこ」とか本名でやっていることに衝撃が走りました。ネットは匿名でしょーもないことを吐露する場所だったので。そのノリで、一ノ瀬紅羽とか白玉雪子とか存在しない名前でmixiも始めたら、誰これ?ってクラスがざわついたんですよ(笑)。

その頃からリアルの延長線上でネットを使っている人たちが増えていたけど、私はまだリアルとネットの世界は全く別物で、まさか仕事につながるなんて思ってもみなかったです。

ミライロで培われた、人に伝わる文章を書く技術

インターネットとリアルの世界がはじめてつながったと感じたのは、大学1年生の時に、大学のソーシャルビジネスの講義でミライロの社長の垣内と副社長の民野と出会ったときです。二人と話していたら、リアルの世界で初めて「面白いやん」と認めてもらえたんですよ。それで、私にできることがあれば一緒にやらせてくださいと、2010年からミライロの創業メンバーとして働くことになりました。

2013年から広報部長を任せられることになり、最初の2年は、敬語の使い方や誤字脱字のなくし方を学んで、ビジネス文書を身につけて。次の2年でA4サイズ1枚に会社の概要をわかりやすくまとめるプレスリリースの書き方を覚えました。いかに短い文章でわかりやすく伝えるか、人が注目するテーマをどう設定するかをつねに考えていましたね。

それから、母と社長の垣内が本を出すことになったので、編集協力として書籍づくりに参加して、ビジネス書をたくさん読んだり、編集者とやりとりをしたり。仕事のなかで文章を書く技術が磨かれていった感じです。

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自慢の家族を好きになってもらいたいからnoteをはじめた

noteを書こうと思ったきっかけは、会社で副業がOKになったからです。noteが副業というわけではないですが、社外での活動が積極的にできるようになったので、せっかくだから会社と関係のないことも書いてみようかと。根底には、家族のことを自慢したい、自分が好きなものをわかるって言ってもらいたい、承認欲求がありますね。

私、めちゃくちゃ愛されて育ってるんですよ。弟に障害があるのに、仲が良いのは珍しいってよく言われるんですけど、それはもう親の影響がすごい。何かができるから褒めてくれるんじゃなくて、存在していること自体を褒めてくれるんです。お父さんもお母さんも私のことを「すっごいかわいい」って言い続けてたから、私自分のこと安室奈美恵級の女だと思ってました。モテなくてびっくりしましたよ(笑)。

ブレない愛を伝えてくれる、亡くなった父、車椅子ユーザーの母、ダウン症の弟のことを自慢したい。家族のこと、それから私のことを少しだけ好きになってもらえたら嬉しいなあと思って、noteを書いてます。

岸田流、読者に届く面白い文章の書き方

書くときのネタは、日常の中でスマホにメモしていますね。(実際にスマホを見て)「ペットショップで抱いてみませんか理論」「初手ビビンバ撲滅委員会」「アド街ック天国の山田五郎みたいな立ち位置の男」って書いてある(笑)。この一行から文章を膨らますこともあるし、比喩表現の一つとして使うこともあります。

金曜の夜に書くことが多いですが、特に決めてはなくて、衝動的に書きたい!と思い立ったときに一気に書きます。最初は塩ラーメンみたいな超あっさりした、最小限まで削ぎ落とした文章を書いて、想いを込めたいところをセリフにしたり、比喩表現にしたりします。ブラジャーの記事なら、大きな胸、大きな果実、メロン、お見舞い、石原裕次郎……って連想ゲームをするんです。

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書くときに意識しているのは、自分のオリジナリティを出しながら、普遍性のある話にすることです。原体験に基づいていて、1000字~2000字くらいのさっと読める文量で、クスッと笑えるネタや比喩表現で読み続けられる工夫をして、最後はみんなが共感できる普遍的なことでしめる。色々書いてみて、私の読まれる文章の面白さはここにあるなと。

今のnoteは、感情が高まって、この感動をどうにかして人に伝えたいと思って書いています。120%くらい大げさに。もちろん笑わせたいと思ってるんですけどね。

これからの課題は、過去の話ではなく、新しい体験をして日常の中でてネタを見つけていくこと。書かない時間も持っておかないと書けないですよね。

noteを通して書く仕事、応援してくれる人が増えた

場所と目的を変えて、今までプライベートでも仕事でも、インターネット上に文章を書いてきましたけど、noteが一番ピタッとハマりましたね。

noteはデザイン的にラフな文章でも映えるし、シェアやサポートといった共感と応援を集めやすい仕組みもある。私のような無名の書き手であっても、内容が面白ければ編集部の人たちがピックアップしてくれる。

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noteのおかげで本当に、自分でもびっくりするようなことがたくさん起きました。

具体的には……まず、Twitterのフォロワーが800人から3.7万人に増えた。本業のミライロでも、「スロウプ」というメディアを立ち上げたのですが、記者として指名をいただくことがあって、売上にもつながっています。

副業として書く仕事が一気に増えましたね。講談社のFRaU、小説現代での連載が始まって、単発で5媒体ほどに寄稿して、今度noteの紹介で文藝春秋の巻頭エッセイを書かせてもらいます。朝日新聞や東洋経済オンラインから取材を受けたし、広島大学で文章講義をさせてもらいました。

最近はコルクの佐渡島さんに勧められて、なんと漫画も描き始めました。そしたら、Twitter経由で、ペンタブや液晶タブレットを開発しているワコムさんから、応援のご連絡をいただいたり。他にも、糸井重里さんや幡野広志さんをはじめ、それまで会えなかった雲の上のような人と会うことができたり。

サポート機能で応援してくれる人たちがたくさんいて、弟と滋賀にも旅行に行けて、今度沖縄に行く予定です。「赤べこ」の記事は560人の方からサポートをいただいたんですよ。嬉しくて、返信に1000字程度のプチエッセイを書いてお礼を伝えました。

これからも本業に打ち込みつつ、noteで、求められた場所で、書いていきたいですね。

■クリエイターファイル

岸田奈美@ミライロ
100文字で足りることを2000文字で書いたあと、少しだけあなたに好かれたい28歳の文筆家。株式会社ミライロの社長特命担当、WEBメディア「スロウプ」編集長。母が車いすユーザーで、弟がダウン症。
note:@namirairo
Twitter:@nami_mirairo
text by 徳 瑠里香 photo by 平野太一





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