自分の“好き”を発信して、世界の感動時間を増やしたい!コマ撮り大道芸人 篠原健太さんが天職を見つけるまで #noteクリエイターファイル
noteで活躍するクリエイターを紹介する #noteクリエイターファイル 。今回は、ストップモーションアニメーターであり、自らを”コマ撮り大道芸人”と名乗る篠原健太さんにお話を聞きました。
エンタメ作品を世に送り出し、SNS上でフィギュアを使ったコマ撮りを公開し人気を集める篠原健太さん。
静止している物体を1コマずつ動かして1秒間に何十枚も撮影してつなげて動画をつくるストップモーション、通称コマ撮り。フィギュアを選んで、ストーリーを考え、撮影して、編集をする。篠原さんいわく「1秒動かすのに、平均撮影1時間編集2時間がかかる」とのこと。10秒の動画を制作するのも、なかなか膨大な時間と労力がかかります。
篠原さんは、株式会社ティー・ワイ・オーのキャラクター開発やコマ撮りアニメーションを手がけるスタジオ・dwarf(ドワーフ)に所属する、会社員。帰宅後のプライベートな時間でフィギュアを使った作品を制作しています。
noteでは、文章でその制作の裏側、撮影方法などの技術も含めて、オープンに公開しています。
自分の“好き”を発信して、ファンを増やしたい
篠原さんがnoteを始めたのは、2018年12月。自分の仕事について考えを巡らせていたときに読んだ、中島聡さんの『結局、人生はアウトプットで決まる』で、noteを知りました。
「当時、僕は悩んでいました。会社では役割があるのでクリエイターである僕はアサインされるのを待っていました。なので、依頼があって受注する仕事がどうしても多くなります。でも、もっとアニメーターとして、自分の存在や得意分野を知ってもらって、自ら仕事を生み出したり、選んだりできるようになりたいと思っていて。好きなことで仕事を続けていくために、ファンを増やしたい。そのためには発信が欠かせないと思ったんです」
noteに登録したものの、当時は何を発信すれば良いのかわからなかったそう。というのも、コマ撮りの制作の裏側を発信したいと思っても、会社でのクライアントワークは守秘義務があるため書けない。そこで閃いたのが、自分の趣味の時間を使ってフィギュアをコマ撮りすることでした。
「SNS上でフィギュアを撮って楽しむオモ写に出会って、“好き”が溢れ出ていていいなあと思ったんです。同じように、コマ撮りが好きな気持ちを表現したいと思って、フィギュアを使って撮影した動画を流したら、想像以上に反響がありました」
SNS上で届くコメントは、どれだけ制作に時間や労力がかかったとしても、発信を続けるモチベーションになったと言います。
「大きな規模のクライアントワークでは完成した作品を見た視聴者の声はクリエイターに届かないこともあります。お金にはならなくても、僕が好きでつくった作品を見て、喜んでくれる人がいることを実感できるのは何より嬉しいですね」
制作の裏側や技術もオープンにすることが、“好き”につながる
多いときだと週1回のペースで、フィギュアのコマ撮りをTwitterとTikTokにアップして、その裏側の話を中心にnoteを更新する。1年近く、そのサイクルで発信を続けるうちに、Twitterのフォロワー数は80人から4.1万人に、動画はSNSで430万回以上再生されるものも。
仕事でもフィギュア関連の撮影を依頼されることが増えたり、テレビをはじめメディア取材を受けたり。クリエイター向けの国際アワード「NY ADC Young Guns17」で、日本人唯一のノミネート、WINNERと一般投票からなるCreative Choice Awardを受賞。発信をきっかけに、着実に、仕事の幅を広げ、ファンを増やしています。
「現在の状態になるまでに3年くらいはかかると思っていました。たまたまフィギュアという関心を持ってもらいやすい題材を見つけることができて、運が良かったですね」
もちろん運だけでなく、篠原さんは、ファンを掴むために意識して実践してきたこともあります。たとえば、ノウハウを出し惜しみしないこと。コンテンツの裏側や制作方法など、技術に関することも、躊躇なく無料で公開しています。
「今はオーディエンスよりも、実際につくって参加したい人たちの方が多いですよね。だから、制作過程や作り方を伝えることで、実際に体験してもらって、コマ撮りを好きになってもらいたい。“自分にもできるかも”と思ってもらえるように書くことを意識しています。参加者が増えると回り回って自分のためになると思うからです」
「面白い作品を作って好きになってもらえたとしても、時間が経って他の誰かのもっと面白い作品を見られちゃったら好きが更新されてしまいます。でも、一番初めに出会うきっかけや学んだ経験は強く心に残ると思うんです。僕はコマ撮りにおいて、その人にとっての“初めての人”になれたら良いなと思うんです。初めては一度きりで更新できません。だから密かに“初恋作戦”って呼んでるんですけど(笑)」
実際に篠原さんの発信をきっかけにコマ撮りの世界を知って、ストップモーションアニメーターを目指すようになった人もいるそう。
「学生からの問い合わせも多いです。以前、僕の発信を見て興味を持ってくれた人を中心に、40名規模のワークショップ『アニマソン』を開いたんですが、四国や関西、東北など遠くからきてくれた人もいました。中には、周囲にコマ撮りをしている友人がいなくて寂しい思いをしていたけれど、僕のコマ撮りがテレビに出たことで友達に認められたと話す人もいて、嬉しかったですね」
9歳からの夢を叶え、初心を忘れないために書き続ける言葉
篠原さんがアニメーターを目指したのは、なんと小学校3年生の頃。6年生の文集にはっきりその夢が書かれています。
「ジブリ作品をはじめアニメを観ること、絵を描くことが昔から好きでした。中学は美術部に所属していたんですが、アニメーターになるためには体力も必要だと思い、高校では器械体操部に入りました。自分の体の動きを観察してよくパラパラ漫画を描いていましたね」
専門学校で技術を学び、25歳の頃にdwarfに入社。日本のトップアニメーターである峰岸裕和さんに師事して、27歳でアニメーターデビュー。9歳の頃からブレずにアニメーターの夢を追い続けてきました。
「叶っちゃいましたね(笑)。ただ、念願のアニメーターになったのに、入社して数年経った頃、これからもずっと好きでいられるのか不安になって。10年先も自分の好きなことに誇りを持って働くためにどうすればいいか考えていました。
SNS上で個人で発信している人たちが輝いて見える一方、夢を叶えた自分は輝いていないように思えて、発信を始めました。改めて僕はコマ撮りが好きだと思いましたし、反響もあって、アニメーターが自分の天職だと思えるようになりましたね」
篠原さんのnoteにはいつも「世界の感動時間を増やそう!」という言葉が書かれています。
「自分が何のためにこの仕事をしているのかを常に思い出すために、この言葉を書くことを習慣にしています。人は感動しているときに誰かを恨んだりはしない。エンタメには人を感動させる力があると信じているので。
最初は恥ずかしかったけど、やっぱり言葉の力は大きいですね。自分の好きという気持ちや信念を言語化することで、やりたいことがより明確になって、感動を届けられる人も増えてきたと感じています」
今後は、世界も視野に入れて、YouTubeにも挑戦したいという篠原さん。ますます、ストップモーションアニメーターとして、世界の感動時間を増やしてくれることでしょう。
■noteクリエイターファイル
篠𠩤健太 コマ撮り大道芸人
世界の感動時間を増やそう!エンタメ作品をみんなと作りたい。子供心溢れる生活を広げたい。共感してくれる人と一緒に影響力のある作品作りを目指しています。ストップモーションアニメーター、キャラクターデザイナー。
note:@kentanima
Twitter:@shinohara_kenta
text by 徳瑠里香 photo by 平野太一/並木一史