嫁が死んだ日にタバコを吸った
大好きだった嫁が死んだ。
俺はまず、あいつが大嫌いだったタバコを吸った。
酒もたらふく飲んで、好きなものを好きなだけ買った。
ーーー
「結婚するならタバコはやめてね。あとギャンブルも」
プロポーズをした次の日、そのようなことを言われた。
そんなことできるはずがないと思っていたが、案外すんなりとやめられた。
昔の俺は頑固で、人の言うことなんて素直に聞いた試しがなかった。
親や友達、付き合っていた彼女に何度も何度も、
「ギャンブルはもうやめな」
「タバコは身体に良くないよ」
そう言われたが、やめられるはずがなかった。
ギャンブルで金を使い果たした後、俺は死んだなと思う。食べる物、住む場所、生きているだけで次々とお金が必要になることはわかっていても、やめられなかった。
それでもあいつと出会ってからは、金の無駄遣いをやめた。
なぜだかは俺にもわからないが、彼女を手放したくなかったんだと思う。
あいつが欲しがるものは何でも買ってやったし、行きたい場所はどこへでも連れて行った。
ーーー
病気で痩せ細っていく姿を見て、別れの日が近づいているのを感じ取っていた。
「私がいなくなったら、やっと好きなことできるね」
窓の外を眺めながらそう言う嫁は、こちらを振り返って精一杯の笑顔を見せた。
ーーー
パチンコで金を使い果たした後、俺は1人、アパートの部屋で酒を飲み、タバコに火をつけた。
「この部屋、こんなに広かったっけ」
窓の外を見て、呟いた。
「好きなことをやめる時は、それより好きなもんが見つかった時なんだよ」
「もう、戻れねえよ」
俺はタバコの火を消して、カーテンを閉めた。
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