#お題de神話
〘お題de神話〙 神の馬
「この馬は……」
万物の主オーディンさえ、思わず唸った。
「スレイプニルと言います」
ロキが連れて来たその馬には脚が8本あり、見目形を取っても神馬に相応しい気品と威厳を兼ね備えている。
「待て。今、スレイプニルと言ったか?」
「ええ。スヴァジルファリの子です」
「……では、こやつがそなたの……」
ロキは答えなかった。
先年、アース神族と山の巨人との間である契約が交わ
〘お題de神話〙 穣かなる(ゆたかなる)
華麗に舞う姿に目が釘付けになる。
(……これは夢か……)
その時、心は決まった。
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「お前はいつも歌ったり踊ったり元気だな」
背後からの声に少女が振り返った。声の主が見知った仲の相手と認め、花よりも美しい顏がほころぶ。
「一緒に踊らない? 多聞」
「冗談はよせ。おれに舞踏など出来るわけなかろう」
多聞と呼ばれた大柄な少年が眉をしかめた。
「今のは大祭で披露する
〘お題de神話〙 御魂の音──たまのね
シャン ────!
涼やかでいて凛とした音が辺りの空気を震わせた。
「なんと言う音色……」
比丘十八物のひとつとされるその杖は、頭部の輪形に遊環と呼ばれる輪が通され、揺らすと都度音が鳴る。
「その音を聞くだけで満たされた心持ちでございます」
道端に伏した民人は、姿が見えなくなり、音が遠ざかっても、まるで聞こえているかのように手を合わせていた。
(この錫杖の音を聞いて
〘お題de神話〙赤の王
「ルベウス。本当にその子と逃げるのか?」
友・ヴォーツァロが問うた。ルベウスの手にはひと際鮮やかな『赤』が在った。
「致し方あるまい。神はこの子を良しとされなかった。このままでは消されてしまう。既に一片は南の地に逃したが……」
その色は神に危険と見做されたのだ。
「お前が逃げればすぐにも気づかれよう。主要色がこの地から消えるのだから」
「なれば、どうしろと言うのだ! むざむ
〘お題de神話〙 ずっと、ここにいて
『永の別れにしたくなかったのだ』
✵
その村を訪れたのは先祖の供養をするためだった。調べてみたいことがあり、この機会にと両親の代わりに私が出向いたのだ。
きっかけは数年前に亡くなった曾祖母が遺した言葉だった。
『お前の姉ちゃんは童神になったんよ』
私には姉はおらず、意味する所は両親にもわからなかった。当時存命だった祖父にすら。
だが、最期までしっかりしていた曾祖母の言
〘お題de神話〙 理の戒
〜理の戒〜
✵
軍神と愛の女神は溜め息をついた。
「残念なことだ……」
二柱には、欧州随一の名門となったハプスブルグ家の行く末が見えてしまった。
青い血──貴族階級が『高貴な血筋』を笠に着るようになったのは予兆だったに違いない。
やがて、民衆が意味を挿げ替え、揶揄するようになった時には手遅れだった。婚姻政策を繰り返すうち、欧州全土の貴族はほぼ血族となっていたのである。
〘お題de神話〙胡蝶之夢
えも言われぬ香りが鼻先を掠め、男は足を止めた。
「こんな所に店なんてあったのか」
誘われるように足を踏み入れる。
「いらせられませ」
艶のある女の声。あまりの美しさにしばし言葉を忘れる。
「何かお探しですか?」
「いや、いい香りがしたので……」
「ああ」
女は傍の棚を向いた。
「それなら、きっとこれでしょう」
近づくと、確かに香りが強まる。
「これは香爐……
〘お題de神話〙Longing for
産まれることも
死ぬことも
番うこともなく
まして
命を次に繋ぐことなどあるはずもない
この世の終焉が訪れるまで
終わりの時など来るはずもない
*
今宵、何を語ろうか
ないものねだりと知りながら
憧れる以外ないと知りながら
それでも求め続けては
手に入らないことに失望し
命をその身ごと焼き尽くそうと
彷徨い続ける
ただ己が身の再生にすら疲れ果てた
彼のことでも