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研修講師として企業の人材育成にどう向き合うか? ~コーチングとインストラクショナルデザインの専門家による架空対談 その22~

じっとこれまでのやりとりを聴いていた研修講師が、満を持してとでもいうように勢いよく挙手し、人材育成の全体像について質問します。


講師の方の質問:

「私は研修の講師として、人材育成に取り組んでいますが、いわゆる『人材育成三本柱』では不十分だと感じています。特に、OJD(On-the-Job Development)やOJL(On-the-Job Learning)といった現場での学びの重要性も考慮すべきだと思います。また、SD(Self-Development)が『自己啓発』と訳されることに対して違和感を持っています。このような背景を踏まえ、ワークプレイスラーニングの観点から、職場マネジメントにおけるヒントをいただけないでしょうか?」

現場での学びをより体系的に支援:

この質問に対し、鈴木先生が応えます。
「ご指摘のとおり、従来の『人材育成三本柱』だけでは、現代の職場で求められる多様な学習ニーズに十分対応できないことがあります。特に、OJDやOJLといった現場での学びが欠かせない要素であると私も考えています。

インストラクショナルデザイン(ID)の観点から言えば、OJDやOJLを効果的に組み込むためには、まず現場での具体的なニーズを分析し、そのニーズに応じた学習活動を設計することが重要です。例えば、OJLでは、日常の業務の中で自然に学びが発生するようにシナリオを設計したり、業務に関連する課題を解決するプロジェクトを通じて学習が深まるような仕組みを作ることが考えられます。

さらに、IDを応用して、OJDやOJLをサポートするための学習リソースやツールを提供することで、現場での学びをより体系的に支援することができます。これにより、学びが断片的にならず、業務に直結した効果的な育成が可能になるでしょう。」

日常の業務を通じて成長の機会を見つける手助けをする:

佐藤先生も職場における日常業務を通じた成長の機会に関してコメントします。
「OJDやOJLが重要であるという点に、私も全く同意します。これらの学びは、コーチングのプロセスと非常に親和性が高いです。特に、コーチングを通じて、社員が日々の業務の中で学んだことを振り返り、自分の成長にどのように繋がっているかを確認することができます。

また、SD(Self-Development)については、確かに『自己啓発』という訳では、その本来の意義が十分に伝わらないことがあるかもしれません。SDは、自己成長を目指す過程全体を意味し、単なる自己啓発にとどまらず、自分自身で学びを管理し、自己のキャリアを主体的に切り開くことを指します。この観点から、SDを促進するために、コーチングを活用して社員が自らの学びを設計し、日常の業務を通じて成長の機会を見つける手助けをすることができます。」

ワークプレイスラーニングを統合し、自主的なスキル開発を促す:

高橋さんは、二人の回答に補足するとともにまとめていきます。
「お二人の意見に加えて、私からもいくつか補足させていただきます。まず、OJDやOJLは、現場でのリアルタイムの学びを重視するアプローチであり、従来の『人材育成三本柱』に加えて、これらをどのように職場に統合するかがポイントです。

  1. ワークプレイスラーニングの統合: 職場での学びを体系的に支援するために、OJDやOJLを組み込んだプログラムを開発することが重要です。これには、日常の業務を学びの機会として捉え、業務プロセスの中で学習が自然に発生するような仕組みを構築することが含まれます。

  2. SD(Self-Development)の再定義: また、SDについては、単なる『自己啓発』にとどまらない、より広義の自己成長を意味する概念として再定義する必要があります。これを実現するためには、社員が自らのキャリア目標を明確にし、それに向かって自発的に学び続ける環境を整えることが重要です。そのために、コーチングやメンタリングのプログラムを導入し、社員が自己の成長を管理できるようにサポートすることが求められます。

  3. 現場での支援とフィードバック: 最後に、職場でのマネジメントにおいて、OJDやOJLを効果的に支援するためのフィードバックと評価の仕組みを導入することが重要です。現場での学びが確実に定着し、それが業務の改善や成果につながるように、定期的にフィードバックを行い、学びのプロセスをサポートしてください。」

このやり取りでは、研修講師の方が指摘したOJDやOJLの重要性やSDの再定義に対して、鈴木先生と佐藤先生がそれぞれIDとコーチングの視点から具体的な提案を行い、高橋さんが総括と補足を行いました。職場マネジメントにおけるワークプレイスラーニングの観点での具体的なヒントが提供され、現場での学びを支援するための具体策が示されました。

変化を嫌う現場に学びを落とし込むために:

質問者の研修講師は、さらに悩みをぶつけます。
「ご説明を受けて非常に参考になりましたが、現実的な課題として、企業の人材育成はしばしば変化を嫌う傾向があります。特に、新入社員研修などは何年も同じ内容が繰り返され、リニューアルされることがないという実情があります。このような状況では、どれだけ良い理論やアプローチがあっても、現場での実践に繋がらず、結果として社員の成長も停滞してしまうのではないかと危惧しています。このような状況にどう対処すれば良いのか、アドバイスをいただけますか?」

研修効果の測定と改善:

鈴木先生は、質問者の悩みにうなずきつつ応えます。
「ご指摘いただいた現状、非常によく理解できます。企業文化や既存の慣習が変化を妨げる要因となることは多々あります。インストラクショナルデザイン(ID)の視点から見ると、こうした状況に対処するためには、まず現状の分析を深めることが重要です。

  1. 研修プログラムの評価とレビュー: まず、既存の新入社員研修がどの程度効果を上げているのかを客観的に評価することが必要です。評価の結果、期待される成果が出ていないことが明らかになれば、そのデータをもとに研修内容のリニューアルを提案しやすくなります。ここで、IDのモデルを用いて、どの部分が更新の必要があるかを具体的に示すことで、説得力を持たせることができます。

  2. 小規模からの変革: 全体を一度にリニューアルするのではなく、小さな部分から改善を始めることで、組織に大きな負担をかけずに変革を進めることができます。例えば、新入社員研修の一部に新しいアプローチを導入し、その成果を測定しながら、徐々に全体を見直していくといった方法です。」

現場を巻き込むことと成功事例の共有:

佐藤先生も実情に理解を示しアドバイスを行います。
「企業が変化を嫌う傾向があることも理解できますし、特に人材育成に関しては、既存のプログラムが長く続けられる傾向が強いですよね。しかし、コーチングの視点からは、そうした変化に対する抵抗を和らげるためのアプローチがあります。

  1. 現場リーダーの巻き込み: まず、現場のリーダー層を巻き込み、彼らに変化の必要性を理解してもらうことが重要です。コーチングを通じて、リーダーが社員の成長や組織の発展にどう貢献できるかを考えさせることで、変革の推進者となってもらうことができます。

  2. 成功事例の共有: また、既に行われた小規模な変革の成功事例を社内で共有することで、変化が組織にとってプラスになることを示すことができます。これにより、変化に対する抵抗感を減らし、他の部署やプログラムでも変革が受け入れられやすくなります。」

経営層やリーダー層の関与の重要性:

高橋さんは、二人のアドバイスをまとめ、そのうえで重要なポイントについて指摘します。
「皆さんが指摘されたように、変化を嫌う企業文化は多くの組織に共通する課題ですが、少しずつでも変革を進めることは可能です。私が補足したいのは、変革を進めるためには、経営層やリーダー層の理解と支持を得ることが不可欠だという点です。

  1. 経営層へのアプローチ: 変革を進めるためには、経営層に対しても現状の問題点と改善の必要性をデータを基に説明し、彼らの支持を得ることが重要です。経営層が変革の意義を理解し、積極的に支援する姿勢を示すことで、組織全体に変革が浸透しやすくなります。

  2. 長期的視点での変革: また、変革は短期的な成果を求めるのではなく、長期的な視点で取り組むべきです。時間をかけて少しずつ進めることで、組織に無理なく変化を受け入れさせることができ、結果として持続的な改善が可能になります。」

このやり取りでは、登壇者たちは企業が変化を嫌う現実に対して、現状の分析や評価から始め、小規模な変革を積み重ねるアプローチを提案しました。また、リーダー層や経営層を巻き込んで変革を進めることの重要性も強調されました。これにより、変化に対する抵抗を和らげ、効果的に組織の人材育成を改善するための具体的なヒントが提供されました。

外部講師は企業の人材育成担当者とどう向き合うか:

質問者の講師は、もう一つの悩みを打ち明けます。
「外部の研修講師として、企業の人材育成担当者とどのように向き合っていけば良いかについてもお伺いしたいです。企業側の抵抗や変化を嫌う傾向がある中で、どのように信頼関係を築き、効果的な研修を提供していくべきでしょうか?」

企業ニーズをつかむことがポイント:

鈴木先生は、この問いに対して重要な指摘を行います。
「外部の研修講師として企業と向き合う際、インストラクショナルデザイン(ID)の観点から、まず大切にしたいのは、企業側のニーズを深く理解することです。これを踏まえた上で、効果的な研修プログラムを提案することが、信頼関係の構築につながります。

  1. 事前のニーズ分析: 研修を行う前に、企業の人材育成担当者と密にコミュニケーションを取り、彼らが直面している課題やニーズをしっかりとヒアリングすることが重要です。これにより、企業の実際の状況に即した研修内容を提案できるようになります。また、企業の文化や価値観を理解し、それに合わせた研修プログラムを設計することで、担当者からの信頼を得やすくなります。

  2. データに基づく提案: 研修の効果を客観的に示すために、可能であればデータに基づいた提案を行うと良いでしょう。過去の研修事例や、特定の研修がもたらした成果をデータで示すことで、担当者はあなたの研修が実際にどのような価値を生み出すのかを理解しやすくなります。」

人材育成担当者とはコーチングの視点で向き合う:

佐藤先生は、人材育成担当者とのやりとりにおいてもコーチングの視点で接することが重要であると述べます。
「外部の研修講師として、企業の人材育成担当者と向き合う際には、コーチングの視点が非常に有効です。特に、信頼関係を築くためには、担当者自身が何を求めているのか、どのような成果を期待しているのかを丁寧に理解し、それに応えることが重要です。

  1. 共感とサポート: 担当者の立場に立って考え、彼らが抱える課題に共感することが、信頼関係を築くための第一歩です。例えば、担当者が組織内での変革に不安を感じている場合、その不安を理解し、どうすればリスクを最小限に抑えつつ効果的な研修ができるかを一緒に考える姿勢が重要です。

  2. 継続的なコミュニケーション: 研修が終わった後も、継続的にフォローアップを行い、研修の効果を確認しながら担当者とコミュニケーションを続けることが、長期的な信頼関係を築く上で非常に重要です。この継続的なサポートを通じて、担当者はあなたを信頼できるパートナーと見なすようになるでしょう。」

柔軟な姿勢とパートナーシップ:

高橋さんは、ここまでの話を受けて3つのポイントを示します。
「お二人が指摘されたように、外部の研修講師として企業と向き合う際には、企業のニーズを深く理解し、それに応じた研修を提供することが不可欠です。私からは、さらにいくつかのポイントを補足したいと思います。

  1. 柔軟性と適応力: 企業ごとに異なる文化やニーズに対応するためには、柔軟性と適応力が求められます。事前の打ち合わせやニーズ分析を通じて、研修内容を企業の現状に合わせてカスタマイズする姿勢が、担当者からの信頼を得るために重要です。

  2. パートナーシップの構築: 研修講師は、単なる外部のサービス提供者ではなく、企業の成長を共に目指すパートナーとしての役割を果たすべきです。企業の成功を自分の成功と考え、積極的に関与し、研修が企業全体の成果にどう貢献するかを常に意識して行動することが、強固な信頼関係を築く鍵となります。

  3. 効果の測定とフィードバック: 最後に、研修の効果を定量的、定性的に測定し、それを企業の人材育成担当者にフィードバックすることも重要です。こうした取り組みを通じて、研修の価値を明確に示すことができ、担当者にとっても研修が有意義な投資であることを納得してもらうことができます。」

このやり取りでは、登壇者たちが、外部の研修講師として企業の人材育成担当者と向き合う際の重要なポイントを提案しました。ニーズの理解、共感とサポート、継続的なコミュニケーション、柔軟性、パートナーシップの構築、効果の測定とフィードバックが強調され、企業との信頼関係を深め、効果的な研修を提供するための具体的な戦略が示されました。

質問者の反応:

「鈴木先生、佐藤先生、高橋先生、それぞれから非常に具体的で実践的なアドバイスをいただき、本当にありがとうございます。外部の研修講師として、企業の人材育成担当者とどのように向き合っていけば良いかという点について、非常に多くの気づきを得ることができました。

まず、鈴木先生のご指摘のように、事前のニーズ分析がいかに重要か改めて理解しました。企業側の現状や課題を深く理解した上で、カスタマイズされた研修プログラムを提案することが、信頼関係を築く第一歩になるということを肝に銘じました。

また、佐藤先生が強調された共感とサポートの姿勢、そして継続的なコミュニケーションの重要性についても、非常に納得感があります。研修が一度きりのものではなく、長期的なパートナーシップの一環として行われるべきだという考え方に共感しました。

さらに、高橋先生の補足として、研修の効果を具体的に測定し、それを担当者にフィードバックすることが、研修の価値を実証するために重要であるという点も非常に実践的で参考になりました。柔軟性を持って企業に対応し、パートナーとしての立場を強調することで、より深い信頼関係を築けるというお話は、今後の活動において非常に役立つと思います。

全体を通じて、私自身が研修講師としてどのように企業と向き合い、どうすれば効果的な研修を提供できるかの具体的な道筋が見えてきたと感じています。今回のご意見を参考に、これからの研修活動に活かしていきたいと思います。本当にありがとうございました。」

質問者は登壇者たちのアドバイスを非常に前向きに受け止め、外部の研修講師として企業とどのように向き合うべきかについて具体的な理解を深めたことが伺えます。質問者は、ニーズ分析や共感、パートナーシップの構築といった点に共感し、今後の活動においてこれらのポイントを実践していく意欲を示しています。

【登場人物や対談内容については、すべてフィクションです】

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