社会人6人による写真展『TO』ができるまで|Nikon Zf + NOKTON 40mm F1.2
2024年8月8日〜12日に大阪の中崎町にあるイロリムラで、社会人6人による写真展『TO』を開催しました。本記事は展示を開催するまでの経緯や作品についてまとめた備忘録的なものになります。
開催までの経緯
遡ること2020年。コロナ禍で大学写真部としての活動が厳しく制限されていたころ、所属団体のSNSのDMを通じて「展示機会を一緒に取り戻しませんか?」と声をかけてくれたのが、後に今回の展示の主催者になる堀伊吹くんでした。
企画としては、要は色々な大学からメンバーを集めてお金を出し合い、大学名も伏せて自己責任で展示をやりましょうというものでした。(通常、大学写真部は大学から支給される予算や部員からの部費でギャラリーをレンタルする)
当時様々な考えがあったとは思いますが、個人的にはとても面白そうだと思ったので参加することに。結果的にかなりの人数が集まり展示を行うことができました。そこでたくさんの繋がりが生まれ、お互いの卒展を見に行くなど良い関係を築くきっかけになったのを覚えています。
それから互いに別々の進路に進み、いつの間にやら2023年に。今からちょうど1年前に連絡を寄こしてきたのはまたもや彼でした。2024年の夏、イロリムラで展示をやろう。メンバーはだいたいこんな感じで!…といった具合に。そういえば卒業してから2年後くらいに展示したいねとは言ってたけどまさか本当に…!と思いましたが、メンバー案を見てこれは面白くなりそうだと思い即OKの返事を送りました。東京で就職するのが決まっていたとは思えない。
テーマ・コンセプト
「TO」とは
23年末に出展者の何人かで集まる機会が設けられ、展示のテーマやコンセプトについて話し合うことになりました。そこで提案されたのがこんな意見です(だいたいの記憶ですが)
社会人になった自分たちの変わったところと変わらないところを客観視する機会にする
学生写真は3ステップ(1/3:学生写真との出会い、2/3:役職&コロナ禍、3/3:引退&卒展)。我々は2で消化不良になった世代で、だからこそ出会えた。今回はスピンオフ、4/3にあたる。1と(to)1/3
周りの同期、先輩たちの多くは写真から離れてしまった。でも自分たちは環境が変わっても創作を続けているのはなぜか
学生から社会人への架け橋、変換ケーブルのような役割。学生to社会人
展示の約束だけして作品のすり合わせはしない。搬入当日のお楽しみ
これはto endではない。通過点にする
そしてこの展示紹介が出来上がるわけです。春木くんすごい。
個人で考えたこと
ここからは各自で個人テーマを決めることになるのですが、実はアイデア出しの段階では新しいことができないかとかなり色々なことを考えていました。せっかくZfを買ったからモノクロ縛りにする、初めての一人暮らしの模様をひたすら撮る、光の会社に入ったので早朝の朝日や出勤コースを撮る、MFレンズであえてピンボケ、新しく始めたことを記録する…
色々考えてどれも被りそうだし何よりピンとこないなと思っていた矢先に撮れたのが、DM用に提出した植物の写真でした。
これは東京に写真展を見に行ったついでに立ち寄った某所で撮影したものです。これを見て「自分の写真ってこういうの多かったな、でも今までとちょっと違うな」と思い、後にそれが個人テーマの背骨になっています。
過去の作品への感想等を見ていると「光」「空と海」「自然」「着眼点」「瞬間の捉え方」「力強さと静謐さ」「ブレない」「ていねい」に言及しているものが多く、自分でも意識しているわけではないけど好きなんだろうなと自覚はしています。
先ほどの一枚もその延長線上にあるのは間違いなく、過去に同じ会場で出展した作品とも着眼点や切り取り方が似ています。(実際展示でもかなりの人から指摘された)
過去作と似ているけど微妙に違う。それを自らの価値観の変化と重ねて表現する。これらを上手く落とし込めば展示の趣旨とも合致した面白い作品になるだろうと思いました。
そこでまず両者の違いを分析することになるのですが、今までの写真と決定的に違うのがレンズでした。解像度お化けのZレンズから、MF専用で「味」重視のVoigtlanderにメインレンズが変わったことが目で見てわかる最も大きい変化です。これを活かすほかない!
レンズがMF専用になり更に丁寧に構図を作るようになったこと、f/1.2の柔らかさや曖昧さでよりエモーショナルな味付けが可能になったこと、それらを自分の得意なスタイルに落とし込むとどうなるか、その道を極めようとする過程(to)を作品にする、裏を返せば作品レベルのものを生み出せるまで新しい機材たちを使い込む。
これだ!と思いました。ということで以下のルールを設けることに。
カメラはZfで固定、レンズは基本NOKTON 40mm
着眼点、構図、力強さ、静謐さを追求したシンプルな構成
数で押し切るのではなく一枚ごとの完成度で勝負
新生活に対し前向きであることを伝える
こうやって色々書いていますが、要は特別なことはせず、ただカメラを持ってどこかへ行く、そこで被写体を見つけて真剣に向き合うと意識することにしました。
出展作品について
「なぜ撮り続けているのか?」
写真が出揃い構成を考えるうえでまず初めに思ったのが、展示紹介で「なぜ撮り続けているのか?」という問いを与えられた以上はそれに対する答えを出さないといけないということでした。
自分なりに度々考えたのですが、いつも上位にくるのが「何者かになりたい」「一人でも寂しくない」「その場に溶け込める」…など。根暗がばれるな。「美しいものを追求するのが好き」もありました。
実はわたくし、写真もカメラも人生の生きがいと豪語していますがこれといって「撮りたいもの」がありません。カメラをわざわざ買う人といえば今も昔も風景、動物、乗り物、スポーツ、人物など明確に撮りたいものがあって買う人が少なくありません。でも自分にはそれがない。「普段何を撮ってるの?」と聞かれてもいつもうまく答えられない。
ではなぜ自分は写真を?と思うわけです。今回自分が選んだのは「その場に溶け込める」でした。写真を撮っている間はその場に自分がいても浮いていないというか、居場所があるようにさえ感じさせてくれます。一人で旅しているときも、誰かと大人数でいっしょにいるときでも。それをリアルタイムで瞬時に、カメラさえあればどこでも行えるのが自分が写真を撮る理由かもしれないと思いました。
自分から被写体を見つけにいき、正面からまっすぐ、ただし一定の距離感でじっくり向き合う。三脚やストロボのような事前準備はせず、自分の身体ひとつでその場で発想するアドリブ一発勝負。これが自分の撮影ルーティンです。それが性に合っているというか好きなのでしょう。距離感が近すぎたり自分以外の要素が多かったりすると溶け込めませんからね。
それを続ける一番確実な方法は、まだ行ったことのないどこかへ行くことです。だからわたしはカメラ片手に旅に出るのでしょう。身体を動かせ!
ここまで考えてようやくこの作品紹介が出来上がりました。言ってたことそのままですね。自分の生活環境の変化もうまく盛り込めました。
「絶対タイトルに『to』入れたかったでしょ?」
「当たり前やろ」
構成・配置
今回作品の配置を考えるうえで一番こだわったのが「一直線」です。
先に述べたように自分のファイトスタイルは被写体に対してまっすぐ実直に挑むことです。わたしはこれからの写真人生を、その真っ向ストレート勝負を極める方向で進んでいこうとなんとなく考えています。その姿勢を表現しようと思いました。
また、撮り方の傾向(もっと言えば本質?)が一貫していること、自分といえば光なので光は直進する…なんて意味もあったりなかったり。それと他の出展者が空間を広く使った展示をしてくると予想していたので自分はあえてその逆のストレートな構成でいくというのも考えていました。
ただしシンプルすぎるのも面白くないと思い、①は「←」の形になるように並べています。これは東京で見た写真展が山を題材にしていたのですが、出展者の方と話していると「実はここ山の形になるように並べてるんですよ!」と教えてもらって面白いな〜と思ったんですよね。だからマネしてみました。こういう会話のきっかけになる小ネタや遊び心は大事にしたいものです。
一枚ずつ振り返り
写真は最後の一枚を除きすべて上京したあとに撮影したものです。
横浜の赤レンガ倉庫の近くの緑地エリアです。自分の撮影スタイルを「自分から被写体を見つけにいき、正面からまっすぐ、ただし一定の距離感でじっくり向き合う。三脚やストロボのような事前準備はせず、自分の身体ひとつでその場で発想するアドリブ一発勝負」と述べましたが、最初の1枚がそれを全て説明してくれていると思います。
三浦半島の一色海岸です。1枚目の写真と対比的に並べていますが、無意識で撮った全く違う写真から共通点を見つけるきっかけになるのが写真展をやるおもしろさだと思っています。「こういう瞬間を撮るのうまいよね」とコメントしてもらえて嬉しかったです。狙い通り。
宮城県石巻からフェリーで田代島に向かう途中のフェリーの窓際です。写真を撮るようにならなかったらこんな場所に目を向けることはなかっただろうなと思います。斜め線が非常に自分らしい切り取り方です。
今回の人気TOP2の一角。3枚目と同じくフェリーにて撮影しています。窓越しなのでソフトフィルターを使ったように幻想的に見えています。左下の波が単調になりがちな海の写真に良いアクセントを与えていてお気に入りです。
フェリーの流れに沿い田代島で撮影したものを配置しました。f/1.2のやわらかい表現が過去の自分を知っている人からすると衝撃だったそうです。たしかにZレンズならテクスチャバキバキで力強い印象を与えていたでしょう。そういう変化も見てほしかったんですよね。
別名猫の島こと田代島のネコちゃんです。これも人気TOP2の一角。THE正面。生き物を題材にしたのは3枚だけですが、距離感は全て統一したつもりです。またここまでが2枚ずつセットになっているのもポイントで、このこだわりに気づく人はいるかな〜と思っていたらコメントで距離感とリズム感に言及されている方がいて感動しました。ありがとうございます。
感想で「DMの小ささだと気づかなかったけど大きくプリントされたものを見ると今までの作風と変わっているところが多くて驚いた」と言われました。本当に狙い通りのコメントありがとうございます。
鎌倉花火大会の1枚です。まさに歩きながら撮ったことがわかる一枚で事前準備をしない自分らしいです。力強さと静けさを同時に収めることができかなり気に入っています。ちなみにこのあと煙が風で流れずこんなにきれいに花火を見れたのは序盤だけだったという。
この1枚だけは京都の鴨川で撮影したものです。まさに自分の写真とわかる一枚で実際かなりの人から同じことを言われました。レンズの抜けの良さが圧倒的でプリントを見たときは感動しましたね。最後に故郷の写真を置いたのは、どこへ行ったとしても自分の原点は忘れないでおこうという意思の表れだと思ってもらえれば。
頂いたコメント
今回の展示は特に自分の作品を長く見てくれている人たちから「作風が全然変わってない」と「今までと全然違う」という極端なコメントを両方いただけました。ちょうど半々くらいだったかと思います。
自分としても「変わったところ」と「変わっていないところ」の両方を詰め込もうと思ってこの展示を作ったので、本当に思惑通りの展示にできたんだなと嬉しく思っております。近年では1番手応えあり。
この6人の中で一番いい!というのも結構言ってもらえたような気がします。照れるなぁ。
面白かったのが、「人柄明るくなった?」と言われたことです。会社の人たちがみんないい人ばっかりだからですかね。毎日楽しいです。
さらに久しぶりに会った人たちから「写真のやる気出た」「次は誘って」などと言ってもらえて、誰かの人生にほんの少しでも影響を与えられたと思うと不思議な感覚です。みんなも写真やろうぜ!
さいごに
展示とはその人の狂気を披露する場だと思っていますが、今回の展示は今の自分を最大限表現できたと思っています。楽しかった。
さて、6人の作風が並んで思ったのが、写真を仕事にするのか趣味にするのかで明確に分かれたなということです。熱意と一言で片付けられないほどの圧倒的な差があったように思いました。自分は今後どうなっていくんだろう。とりあえずカメラのプロにはならなければなりませんが、まぁでも写真は一生アマチュアで明るく楽しく続けていきたいという気持ちですね。
コロナ禍以来の展示の予定が全てない状況になり、正直心が宙ぶらりんです。今はまぁ、早くモンハンワイルズがやりたいです(?)
改めまして、こんな素晴らしい機会を設けてくれた我らがリーダーに感謝を述べたいです。ありがとうございました!今度こそ6人が一同に会せますように
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