(小説)出会い①-2

 今住んでいる町は海から少し離れた場所にある。そこそこ交通の便が良く大学以外の大きな施設は少ないが、町の東側には寄り添うように連なった小高い二つの山がある自然にも恵まれた町だ。

 あまり他と変わらない町だが、山の上にある神社はこの町で一番古い場所として有名だった。
 高い山の上にある神社には、上に上がる階段の両脇に桃の木が植えられており、階段の造りが雛壇に似ていることから雛神社と呼ばれていた。低い山の上は小さな広場になっており、そこからだと海を見渡すことができる。

 瞬は一通り町を見てから、山の上の広場にあるベンチに腰かけていた。「うー!…ん…、ここってこんな感じだったかなぁ…。気持ちいいけど。」伸びをしながらさっきまで見てきたことを思い出す。

 引越し前にもらった資料や地図で気になったところを歩いてみたが、知っているような知らないような何とも言えない感覚だけが残っていた。海からなのか、誰もいない広場に涼しい風が吹く。雲一つない晴天の中、歩いて火照った体がゆっくり冷やされていくのがとても気持ちよかった。
 (今は…お昼過ぎか。明日も休みだし、帰ってもう一回寝るか。風も出てきたし。)
 広場から神社は見えず、緑に覆われた坂しか見えない。その草木が風で激しく揺れ、カサカサと大きな音をたて始めた。

瞬は風邪をひくかもしれないなと立ち上がる。
その時だった。

 ピタッと風が止み、瞬の周りに濃い影ができる。
「?」
 束の間、動けないでいると、その影はゆっくりと移動し始めた。この時初めて影だとわかり、恐る恐る顔を上げる。

(魚?…、いや、最近あれをどこかで……鯉のぼり……、鯉か!)
 そこには瞬の背丈よりも大きな鯉が、空を優雅に泳いでいた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?