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創作「ももたろう」

昔々、あるところに、お祖父さんとお婆さんが住んでいました。

「ああ……暇だなぁ」

ある日のことです。

お爺さんは縁側に腰掛けて、ぽつりと呟きました。

すると隣に座っていたお婆さんもこくりとうなずいて言います。

「そうですね……あ、そうだ! いいことを思いつきましたよ!」

「おお? なんだね?」

「えへへ、実はですね……」

お婆さんはにこっと微笑みながら言うのでした。

「今日から毎日、二人で交互に『暇』って言っていきましょう!」

「……はい?」

お爺さんは目を丸くして聞き返します。

「いやだから、『暇』って言葉を使っていくんですよ。そしてどんどん溜まっていくんです。ほら、まるで雪だるまみたいじゃないですか」

「ふむう……確かにそれは面白いアイデアだが……。しかしどうしてまたそんなことを思い付いたんだい?」

お爺さんの質問に、お婆さんは少しだけ顔を赤らめて答えます。

「いえその、実は私ずっと前からやってみたかったんです。でも中々切り出せなかったんですよねぇ。それで丁度今思いついたものですから、これはチャンスだと思いまして」

照れ笑いを浮かべるお婆さんを横目に見つつ、お爺さんは感心していました。

(婆さんにもこんな可愛らしいところがあったのか)

そして彼はニヤリと笑みを浮かべると、「なるほどなぁ。よし分かった、では早速始めようじゃないか。せーのっ!」

こうして二人の暇つぶしが始まったのでした。

次の日になりました。

二人は昨日の続きを始めようとしましたが―――。

「……あれ? お婆さんはどうしたんだろう?」

いつもなら既に縁側に座って待っているはずなのに、今日はまだやって来ません。

「おかしいなぁ……寝坊かな?…………ん、待てよ?」

そこでお爺さんはあることに気付きました。

「ひょっとしてこれ、ただ単に僕と一緒に居たいだけだったりするんじゃないのか……?」

そしてそれは見事に的中していたのです。

その日からというもの、お婆さんは朝早くからお爺さんの家を訪ねるようになりました。

「おはようございます!」

「うん、おはよう」

「えへへ、それじゃあ早速始めましょうか!」

「おうともさ」

こうして始まった暇つぶし。

毎日欠かすことなく続けられたおかげで、日に日に『暇』の言葉が積み重なっていきました。

そして一週間後。ついにその時が来たのです。

「おお~凄いなぁ!」

「はい! もう沢山溜まりましたね!」

二人の前に積まれた大量の『暇』の文字を見て、彼らは思わず歓声をあげてしまいました。

それからしばらくして、お爺さんは自分の書いた文字を読み返している内に気が付いたことがありました。

「……ん、ちょっと待ってくれ。よく見たら僕の方が多くないか?」

「あらほんとですね。じゃあお互い様ということで良いのではないでしょうか?」

「いやそういう問題ではなくだね……」

お爺さんは何かを言いかけましたが、結局そのまま口をつぐみました。

そして代わりにこう言ったのです。

「まあいいか。それよりせっかくだし、この山全部使って何か楽しい遊びを考えないか?」

「あ、いいですね!……う~ん、何が良いでしょう?」

二人はしばらく考え込みましたが、やがてある一つの案が浮かんできました。

「そうだ! 折角だからお互いに手紙を書いて交換するというのはどうかな?」

「あっ、それ楽しそうです!」

「よし決まりだ。それじゃあお婆さんは便箋を買っておいで」

「分かりました。すぐに買ってきますね!」

こうしてお婆さんは家へと戻りました。

一方のお爺さんは庭に出て、大きな木の前に立ちます。

「さて……まずは何を書くべきかな?」

お爺さんは顎に手を当てながら悩みます。

するとその時、彼の頭に名案が閃いたのです。

「ふむふむ……そうだ、こういうのはどうだろう? よし決めたぞ、僕はこれにしよう」

そして彼は筆を走らせたのでした。

その日の夕方、再び集まった二人の間には一枚の手紙が置かれていました。

「さて、準備もできたことだしそろそろ始めるとするかね」

「はい、よろしくお願いします」

お爺さんは深呼吸をして心を落ち着けてから、ゆっくりと口を開きました。

「お婆さんへ 最近、ますます寒くなってきましたね。体調にはくれぐれもお気をつけ下さい。

ところで話は変わるのですが、実は今日こんなものを見つけました。

なんと僕の家の押し入れの奥に、昔使っていた古いストーブが見つかったのです。

試しに火を入れてみたらちゃんと使えました。これで冬も乗り切れそうです。

良かったら今度、一緒にお茶でも飲みながら暖まりませんか? それではまた。

お爺より」

読み終えた後、お婆さんはお爺さんの顔を見つめました。

「ふむ、どうだったかな?」

すると彼女は満面の笑みを浮かべ、大きくうなずいて言いました。

「はい、とても素敵な内容でしたよ。特に最後の部分なんて、まるでラブレターみたいじゃないですか」

「えっ!? いやそんなつもりは全く無かったんだが……」

慌てるお爺さんを尻目に、お婆さんはとても嬉しそうな様子でした。

「ふふっ、冗談ですよ」

「なんだ、驚かせないでくれ」

「すみませんでした。……でも、本当にありがとうございます。大切に使わせてもらいますね」

「ああ、是非そうしてくれ。それじゃあそろそろ始めようか。せーの……」

こうして二人の暇つぶしはまだまだ続いていくのです。

おしまい

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