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【識者の眼】「新型コロナワクチンに関する医療従事者のデマゴーグ」倉原 優

倉原 優 (国立病院機構近畿中央呼吸器センター内科)
Web医事新報登録日: 2021-07-15

TwitterやYouTubeでは、新型コロナに関するデマゴーグが台頭している。特に新型コロナワクチン施策が始まってからというもの、万単位のフォロワーを有するインフルエンサーが漫然とデマを流し続けている。

人は医学的エビデンスのみで行動を決めない。その時の感情や、社会的、政治的、文化的な多くの因子が交絡し、行動に影響している。エビデンスはこうであると説明されても、自分や家族の経験、風土や習慣のほうが重要だと感じることもある。

デマゴーグの医療従事者は、こうした不安や懸念を訴える人の言葉に傾聴し、うまく反応している。「その心配は正しい、ワクチンは安全ではない」と答えると、自分の懸念が正当化され、「やはりそうだったんだ」と思うだろう。しかし、こういった集団に対して「エビデンスはこうである、だからワクチンは安全である」と述べても、彼らの心には響かない。

残念ながら、「共感・傾聴」という点ではデマゴーグのほうが一枚上手なのである。定型的なメッセージを伝えることは効果的とはいえず、おそらくもう少し工夫した対策が必要である。

アイルランドやデンマークにおけるHPVワクチンの取り組みは素晴らしかった【1】【2】。これらの国では、日本と同じくHPVワクチンに対する懸念が生じた。もちろん、科学的にワクチンに問題はないという結論になったが、感情的に納得できない人が多かった。次に打った手として、ワクチン接種の対象年齢の女性が参加したSNSでの予防接種キャンペーンがあった。この取り組みにより、これらの国での懸念はかなり薄らいだと思われる。

現在、日本では、「こびナビ」というグループがこうした観点で精力的に取り組んでいる。

文献】
1)Corcoran B, et al:Lancet. 2018;391(10135):2103.
2)Hansen PR, et al:Vaccine. 2020;38(7):1842-8.

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