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【識者の眼】「健康は“状態”ではなく“能力”? ポジティヴヘルスとの出会い」紅谷浩之

紅谷浩之 (医療法人社団オレンジ理事長)
Web医事新報登録日: 2021-06-09

在宅医療で出会う方たちの中には、様々な病気や障害を抱えながらも、元気に過ごしている人がたくさんいる。家族や社会の中に役割を持ち、趣味を楽しみ、友人との時間を大切にしている。実に「健康」である。世界保健機関(WHO)は「健康」について、「単に疾患がないとか虚弱ではないことではなく、身体的、精神的、社会的にも完全に良好であること」と定義している。これに当てはめれば先の方たちは「健康」ではなくなる。完全に良好な人って、どれくらいいるのだろうか。「健康」って一体なんなのだろう。

そんなことを思って現場を飛び回っている時、新しい健康の概念「ポジティヴヘルス」の話がオランダから聞こえてきた。「健康」とは「社会的・身体的・感情的問題に直面したときに、適応し、本人主導で管理する能力」だという。「疾患」があったり「虚弱」であったりしても、それに適応したり、自身でコントロールしていこうとするエネルギーがあり、変化しようと動こうとしているなら「健康」ということになる。この考え方を知って納得がいった。首から下が動かないのに「俺はなんでもできる」と言ったALSの方のこと。「この病気に出会えたから、今の自分がある。病気に感謝してる」と言ったがんの方のこと。生まれつき命がけの状態なのに、ニコニコと周囲にエネルギーを振りまく子どもたちのこと。いずれも医学の物差しを当てた時の「状態」は“低く”、“異常”かもしれないけれど、そこに順応し、自分主導で考えて発信している「能力」は“高く”、“すごく”、“かっこいい”。

「ポジティヴヘルス」の健康の捉え方こそ、病気を駆逐することも、死を避けることも難しい、高齢化社会にある日本に必要な考え方ではないだろうか。これを実践できれば、これから先、老いても病んでもきっと、誰もが幸せであれると思う。

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