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APD(聴覚情報処理障害)当事者にアンケートをとってみた【1-1~7】

※本記事は、『APDオープンチャット』にて2022年に行われたアンケートの結果を基に作成されております。最新のデータではございませんので、ご了承ください。

忙しい皆様向けの記事要約

・(今回回答いただいた)APD当事者の約8割は、発達障害診断済み、グレー診断済み、または未診断ながら自覚ありであった
・(今回回答いただいた)APD当事者の7割強は、覚醒水準の低下の可能性があると言える
・マルトリートメントによるAPD表出は、現行の研究以上に多い事例の可能性がある
・背景要因に関して所持の重複が発生しているため、詳細な検討が必要

前回までのあらすじ~今回の説明

皆様、毎度お世話になります。
APDアマチュア研究家のにゅららです。

前回、APD(聴覚情報処理障害)に関して新たな疑問に直面いたしました。
そこで、まずはAPDに関するアンケート(予備調査)を作成し、当事者の皆様に回答していただきました。
あれから1週間…果たしてデータの集計は完了したのでしょうか?

備考:今後の進行

本記事から数回に渡り、アンケートの結果を発表していきます。
この際、本シリーズに関しては個人的な見解も書かせていただきます。
(最終的に作成する「まとめ記事」との差別化)

なお、本アンケートでは計88名の当事者の皆様に回答いただきました。
本当にありがとうございました。

備考:質問内容一覧

1-1. ASDの診断及び自覚の有無
1-2. ADHDの診断及び自覚の有無
1-3. LDの診断及び自覚の有無
1-4. 著しい睡眠不足または睡眠負債の自覚の有無
1-5. ストレスの自覚の有無
1-6. 幼少期における複数言語の使用経験の有無
1-7. 幼少期における不適切な養育を受けた経験の有無

2-1. 過負荷時の眠気の度合
2-2. 過負荷時のパニックの度合
2-3. 聴覚過敏の有無
2-4. マルチタスクに対する印象

3-1. 聞き取り困難症状の有無①
 3-1-1. 早口の聞き取り
 3-1-2. 小さい声の聞き取り
 3-1-3. 低い声の聞き取り
 3-1-4. 抑揚のない声の聞き取り
 3-1-5. 電話・無線越しの声の聞き取り
 3-1-6. 館内・校内放送の声の聞き取り
 3-1-7. パーテーション越しの声の聞き取り
3-2. 聞き取り困難症状の有無②
 3-2-1. 雑音下での声の聞き取り
 3-2-2. 複数音声下での選択的な声の聞き取り
 3-2-3. 意識外からの声の瞬発的な聞き取り
 3-2-4. 音源方向の特定
3-3. 聞き取り困難症状の有無③
 3-3-1. 聞き取り状態の維持(持久性:数分~数十分程度)
 3-3-2. 聞き取り状態の維持(瞬発性:数秒~数十秒程度)
 3-3-3. 聞き取り時の短期記憶
 3-3-4. 聞き取り時の作業記憶
3-4. 複数音声の同時聞き取りに対する印象

1-1 ASDの診断及び自覚の有無

ASD(自閉症スペクトラム障害)の有無についてご回答いただきました。
ASD診断済みの方が13名、グレー診断済みの方が10名、未診断ながら自覚ありの方が28名、未診断かつ自覚無しの方が37名という結果でした。

未診断・自覚ありの方々をどのように解釈するかで話は変わってきそうですが、パッと見はAPD当事者の内の約6割の方がASDの特性を抱えているということになりそうです。

1-2 ADHDの診断及び自覚の有無

ADHD(注意欠陥・多動性障害)の有無についてご回答いただきました。
ADHD診断済みの方が18名、グレー診断済みの方が15名、未診断ながら自覚ありの方が23名、未診断かつ自覚無しの方が32名という結果でした。

数値上はASDとあまり変わらない結果でした(若干診断済みの方が多いか?)。
しかし、まだこれだけでは多くを論じることも出来なさそうなので、一旦先に進みましょう。

1-3 LDの診断及び自覚の有無

LD(学習障害)の有無についてご回答いただきました。
LD診断済みの方が3名、グレー診断済みの方が3名、未診断ながら自覚ありの方が16名、未診断かつ自覚無しの方が66名という結果でした。

ASD・ADHDと比較すると、LDの特性を抱えておられる方はかなり少ないという結果になりました。
なお、LD(グレー含む)診断済みの方に限定すると、ASD及びADHDのいずれの特性も持っていないという方はわずか1名(約1.1%)でした。
言い換えれば、APD当事者でかつ発達障害当事者という方のほとんどは、ASDかADHDのどちらか(または両方)を保持していると言えそうです。

備考:発達障害としての分析

回答者全88名のうち、71名(約81%)は発達障害(グレー含む)を診断済み、または未診断ながら自覚ありという結果でした。
また、38名(約43%)は何らかの発達障害を実際に診断されているという結果でした。
これらの結果は、小渕先生の2015年の研究結果とも類似している(≒再現性がある)と言えそうです。

次回の記事では、発達障害に付随する諸症状に関する調査結果の分析を行います。
ですので、上記の結果がどのように絡んでくるかも注目ポイントと言えるでしょう。

1-4. 著しい睡眠不足または睡眠負債の自覚の有無

著しい睡眠不足または睡眠負債の自覚の有無についてご回答いただきました。
あるという方が44名、ないという方が44名という結果でした。

本項と次項(強いストレスの有無)は、覚醒水準というテーマに基づく質問になります。
よって、ここでの検討は一旦保留し次に移ります。

1-5. 強いストレスの自覚の有無

強いストレスの自覚の有無についてご回答いただきました。
あるという方が57名、ないという方が31名という結果でした。

前項よりは若干多い割合となりました。
そもそも、両質問とも半数をオーバーしており、日本社会の厳しさが垣間見える結果となってしまいました。

備考:覚醒水準の低下の可能性がある方の割合

回答者全88名のうち、66名(75%)は睡眠不足・負荷または強いストレスのいずれかを保持しているという結果になりました。
また、35名(約40%)はその両方を保持しているという結果となりました。
これらの方々は、覚醒水準の低下の影響によってAPDの諸症状が表出している可能性があると言えます。

28名(約30%)はいずれかの発達障害(グレー含む)を診断済みで、かつ覚醒水準にかかわる不具合を抱えているという結果になりました。
これに関して、「発達障害と覚醒水準の低下のどちらが優先されてAPDの諸症状が表出しているか」という課題が浮き彫りになりました。

現段階ではヒントが少ないために見解を提示することは出来ません。
が、それは現段階の話であり、分析を進めていけば何らかのアンサーを得られるかもしれません。
今は先に進みましょう。

1-6. 幼少期における複数言語の使用経験の有無

幼少期における複数言語の使用経験の有無についてご回答いただきました。
あるという方が8名、ないという方が80名という結果でした。

海外ですと、第二言語もしくは第三言語を習得している(習得が必須となっている)ケースが多々あります。
しかし日本では、そういった事例はレアケースであることが本結果からも示されました。

備考:より厳密な検討について

仮にちゃんと検討するのであれば、「発達障害を有さない」「覚醒水準の低下が見られない」「幼少期に複数言語の使用経験がある」「不適切な養育を受けていない(詳しくは後述)」の4条件を全て満たす方を被験者とするべきでしょう。
しかし、本調査ではそれに該当する方は1名しかおられませんでした。

私個人としては、その方に直接インタビュー調査をお願いすることも考えております。
が、今回は個人を明確に特定できない形でアンケートを行ったこともあり、こちらから連絡を差し上げることが困難となっております。

各種個人情報を大々的に公開するわけにもいきませんので…。
もし、該当する&インタビューを受けてもいいという方が本記事をご覧になっておられましたら、TwitterのDMの方にご一報いただけると非常にありがたいです。
よろしくお願いいたします。
(中四国ブロック在住の学生の方です)

1-7. 幼少期における不適切な養育を受けた経験の有無

幼少期における不適切な養育(通称「マルトリートメント」、虐待やネグレクト、両親の慢性的な不仲など)の経験の有無についてご回答いただきました(本質問の回答は任意)。
あるという方が34名、ないという方が48名という結果でした。

想像以上に多い結果となり、正直驚いております。
そもそもマルトリートメントによるAPDの表出というのは、厳密には私個人としての仮説になります。
もちろん、この仮説にはバックボーンとなる研究があります。

福井大学の友田先生によると、マルトリートメントによる過度のストレスにより、脳の萎縮化または肥大化が見られるそうです。
これによって表出する症状が、APDの症状の一部と酷似しているのです。
一方で、APDの背景要因の中には、レアケースながら「脳の損傷」という項目があります。
ここにおいて、私は「脳の損傷≒脳の萎縮/肥大」という仮説を立てるに至りました。

本調査では、約4割の方にマルトリートメントの経験、ひいては脳の萎縮/肥大の可能性があることが示唆されました。
もちろん、実際にはMRI(磁気共鳴画像化装置)で調べないことには、これ以上の分析・考察をすることは出来ません。
アマチュア研究家止まりの私が語れるのはここまでです。
今後、更なる研究の進展が望まれます。

ここまでのまとめ

本記事では、APDの背景要因に関するアンケート結果の分析を行いました。
ここまでは「前座」であり、次回からAPDを深掘りしていく内容となります。

また、この度回答をいただいた皆様の中には、やはり背景要因が重複される方が非常に多くおられました。
もしかしたら、1人ひとりに合わせた分析や、そこから導かれるケアやアドバイスが必要なのかもしれません。
理論上は可能です。
しかし、残念ながら私は医師でも公的な専門家でもありませんので、下手なことは言えないのです。

それでもなお希望がございましたら、データに基づいて資料を作成・提供させていただくことも考えています。
この件に関しては、今のところは保留させてください。
まずは、全項目の分析、そして考察を行ってからです。

次回もよろしくお願いいたします。

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