見出し画像

こだわったのは、持続可能なチームをつくること

こんにちは。「Tカードみんなのエシカルフードラボ」公式note担当の東樹です。 

食を取り巻く課題の一つに、漁獲したにも関わらず食べられずに廃棄されてしまう「未利用魚」の存在があります。 

「Tカードみんなのエシカルフードラボ」は、自治体・漁師・地元事業者といった地域関係者、生活者、流通、食品メーカー、飲食関係者など、異なる立場のステークホルダーが対話しながら「未利用魚」を活用した商品を開発する共創の場「未利用魚活用プラットフォーム」を立ち上げました。「未利用魚」の活用を通じて、その存在を多くの方に伝え、海の恵みや持続可能な漁業、ひいては未来につながる食の循環に貢献することが目的です。 

プロジェクトチーム発足から約1年が経った2023年7月5日、「未利用魚活用プラットフォーム」は、愛媛県八幡浜の『アイゴあふれるオイル漬け』と、千葉県船橋の『コノシロやわらか煮』という2つの商品を発表するに至りました。

今回のnoteでは、ラボリーダーの瀧田希さん(CCCMKホールディングス株式会社)に、プロジェクト立ち上げから商品開発までの道のりについてお話を伺いました。 

ー 昨年、2022年7月のマッチングセッションを経て、愛媛県八幡浜と、千葉県船橋という2つのプロジェクトチームが立ち上がりました。そこから、セッションを重ねて商品開発を進められてきましたが、運営面での苦労はありましたか?

(瀧田さん)
コロナ禍ということもあり、セッションやフィールドワークをリアルの場で開催できなかったので、チーム形成が通常より難しかったです。オンラインでのセッションは、リアルに比べて熱が伝播しにくいように思います。 

そのような状況下でもチームビルディングが上手くいくよう、工夫を重ねました。まず、事務局のメンバーで八幡浜と船橋を訪れて、現地の皆さんのお話を伺い、記事と動画を作りました。その後、制作したコンテンツを使って、4時間のオンラインフィールドワークを実施したんです。 

オンラインフィールドワークでは、プロジェクトチームの一員である流通企業の皆さんとT会員の皆さんに動画をご覧いただき、その後、地域の方々がオンラインでお話をするという形で進めました。その後、プロジェクトチーム全員で、2時間ぐらいかけて「商品を通じて、どのような価値を世の中に伝えていきたいか」というテーマで対話をしました。 

また、オンラインフィールドワークのあとは、プロジェクトチームのT会員の方々に、地域・流通の皆さんの想いを伝えるメールを定期的にお送りする、といったことも行いました。 

ただ、流通企業の皆さんとT会員の皆さん、みんなで現地に行きたかったなという心残りはあります。

ー その他に、運営の観点で難しかった部分はありますか?

(瀧田さん)
「未利用魚活用プラットフォーム」には多様なステークホルダーの皆さんがいらっしゃいますので、商品価格の決定には時間がかかりました。たとえば、船橋チームには、漁師さん、鮮魚卸の会社さん、加工会社さん、流通さん、生活者の方々というように多様なステークホルダーがいらっしゃいます。漁師さんには「このぐらいの値段で魚を売りたい」という思いがありますし、一次加工を行う鮮魚卸の会社さんではフィレ化する手間賃を上乗せして売らなければいけません。そうすると、加工会社さんの普段の原材料の仕入れ値よりも、高くなってしまいます。結果的に、販売価格が高くなってしまうと、流通さんからは「お客様が手に取ってくれないのでは?」という声が出てきます。 

プロジェクトの意義を全員が理解しているからこそ、お互いのニーズを満たそうと努力するのですが、その結果とんでもなく高い販売価格になる可能もあったんです。リアルの場で、T会員の方々に試食をしていただくセッションを開催したのですが、T会員の皆さんが「この値段なら買う」とおっしゃる価格が、作り手側の想定する価格と乖離している、という場面もありました。 

そのようなフィードバックも踏まえ、各ステークホルダーが考え抜いて、少しずつ努力をし、今の価格に収めるにいたりました。利害関係が相反する方々が、大きな未来のことを考え、価格も含めて意見をすり合わせて一つの商品を作り上げたということに、本当に感動しました。これこそ、まさに共創だと思います。

瀧田さん

ー ステークホルダー間の対話をスムーズに進めるにあたって、大事なことはなんでしょうか?

(瀧田さん)
どうしても、皆さんお互いに遠慮をしてしまうので、モヤモヤを抱えながら進めるような場面が出てきてしまいます。そのような時は、まず私にご相談をいただくことが多いです。 

私は、もちろんお膳立てはしますが、最終的には当事者同士でお話された方がいいということをお伝えし続けました。ステークホルダーが多くなればなるほど、モヤモヤを抱える場面は増えていきます。そのような時は、ネガティブな情報も含めて相手に自分の考えを伝えられないと、プロジェクトが持続可能になりません。 

このようなプラットフォームでは、誰もが自分の思いを優先していいと思うんです。思いが重なり合う部分で共創すればよいというだけの話なのですが、それが難しいのだということを改めて感じました。突然「共創してください」と言われても、最初から本音は出しづらいものです。私のような利害関係のない第三者が、プラットフォーマーとして受け皿になることの重要性に気付かされました。 

・・・

ー 7月5日に2つの商品が発表され、販売を開始しましたが、これまでにどのような反響がありましたか?

(瀧田さん)
記者会見には、テレビや新聞、ネットメディアなど、多数のプレスの皆さんにお越しいただきました。「未利用魚の活用」を、報道するべきテーマだと捉えてくださったのだと思います。 

販売開始後、売り場に立ち会ったのですが、店舗にいらっしゃったお客様が、背景や思いを理解しようと商品に向き合ってくださる様子を目の当たりにすることができて、嬉しかったです。こだわりやさんでも、信濃屋さんでも、商品の売れ行きはよいと伺っています。

アイゴあふれるオイル漬け
コノシロやわらか煮

ー 今後の展開については、どのような期待をしていますか?

(瀧田さん)
今回の商品は、商品開発に手を挙げてくださった信濃屋さん、こだわりやさんと開発を進めてきましたが、商品を取り扱ってくださるお店が広がっていくことが理想です。当たり前のように様々な店舗で手に取れるようになれば、より多くのお客様に、取り組みの意義や背景が伝えられるはずです。 

商品を通じて、未利用魚や持続可能な漁業のこと、持続可能な食のことに興味を持っていただきたいです。商品を手に取ってくださった生活者の方の数%でも、このテーマについて調べて理解を深めてくだされば、「自分たちもこの世界を構成する、1人の責任のある人間なのだ」ということに気づき、アクションも変わっていくと思います。 

ー 1年以上をかけて進めてこられた長丁場のプロジェクトが、ようやく商品販売という一つのマイルストーンに到達したわけですが、「未利用魚活用プラットフォーム」だからこそ生み出せた価値とはなんでしょうか。

(瀧田さん)
私たちは、あくまでもプラットフォーマーとして第三者の立場でプロジェクトに関わっていますので、持続可能な漁業や未利用魚の問題の解決につながるような商品を開発するということを前提に、時間をかけて各ステークホルダーから課題やニーズ、想いをお聞きしました。そして、お聞きした内容をプロジェクトチーム全員に丁寧に伝えたことで、持続可能なチームづくりの第一歩に近づけたと思っています。 

八幡浜チームでも、船橋チームでも、また次の商品を作りたいという話が出てきています。ステークホルダーの皆さんそれぞれに課題や想いがあり、それらを共有しあってチームとして取り組んできたからこそ、今後につながる関係性が作れたのではないかと思うんです。

一度持続可能なチームが生まれれば、私たちがいなくなっても取り組みが継続していくはずです。この、チームを作るスキームこそが「未利用魚活用プラットフォーム」の価値になれば、という思いで進めてきました。 

ー 今後、同様の取り組みを行う際に活かせる気づきはありましたか?

まず、マルチステークホルダーと物事を進めていくということは、とても重要だと考えています。商品を作る立場の皆さんや、生活者の皆さん、そして客観的な視点を持つデータもステークホルダーだと言えます。プロジェクトを進めてみて、視点は多様であればあるほどよいと感じました。その中で、最終的に何をつかみ取って商品を作るかは、当事者の方々が決めればよいことだと思います。 

また、プロジェクトを進めるにあたっては、持続可能な漁業を実現するといった大きな目的と、ステークホルダー固有の目的があるので、その両方を叶えられるように進めることが重要です。そうしないと、プロジェクトが持続可能ではなくなってしまいます。 

皆さん、苦しい中で商売をされていて、そのような中でまっとうなことをしようとすると、今度は商品の価格が上がって消費者の生活が苦しくなるといわれます。ですが、大事なのは循環で、まっとうな価格で商品を売れば生活者の所得が上がるかもしれませんし、そうすればまっとうな価格の商品を買って暮らせるかもしれません。 

循環を理解するには、立場や利害関係が異なるステークホルダーについてお互いに知ることがとても重要です。それは、持続可能な商品開発においてだけではなく、暮らし全体につながってくる話だと思います。

・・・

■ Tカードみんなのエシカルフードラボ

■ 未利用魚活用プラットフォーム マガジン


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?