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食べ物の価値を分散させることへのチャレンジ | エシカルフードインタビュー 森枝幹さん

こんにちは。「Tカードみんなのエシカルフードラボ」公式note担当の東樹です。

この記事では、ラボの活動に有識者として参画されている、料理人の森枝幹さんへのインタビューをお届けします。「サーモンアンドトラウト」のオーナーシェフを経て、タイ料理店「チョンプー」をオープンさせた森枝さんは、未利用食材の活用などを通じて持続可能な食のありかたについて発信を続けてきました。今回、私たちがどのように「エシカルフード」に向き合うべきか、お話を伺いました。

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ー 森枝さんは、なぜこのラボに参画されたのでしょうか?
小さい頃から食べ物に興味がありました。生産現場に行く機会も多く、「食べ物を誰がどのように作り、どう運ばれているのか」を意識することが多い幼少期だったように思います。

飲食の仕事についてから、「青山ファーマーズマーケット」のメンバーと仲良くなり、よく足を運ぶようになりました。農業を中心に、食への関心がさらに深まりましたね。シェフを務めた「サーモンアンドトラウト」でも、顔を知っている生産者の食材をよく使っていました。

そのような中で、社員食堂をプロデュースする機会をいただきました。そこで、作る人の顔が見える、安全な食材を使うことに挑戦してみたところ、とても難しかったんです。

社員食堂は、みんなが毎日普通に食べるような料理を提供する場です。なので、1食1000円以下で、安全な食材を使った満足度が高い料理を作ろうとした時に、「やばい! 全然できない!」となったんです。たとえば、肉も少ししか使えなかったりするんですよね。高い食材を使おうとしたわけではなく、「まともな食材」を使おうとするとどうしても高くなってしまう、という現状があると思っているんです。

そうしたところに引っかかりがあり、このラボに参加しました。消費は投票のような側面があるので、みんなが「まともな食材」を求めるような機会を増やすことが、このような場によって可能になるのではないかと期待しています。

ー 森枝さんは、ブラックバスのような未利用食材を多く使っていらっしゃるイメージがありますが、なぜそのようなことを始められたのでしょうか?
僕が未利用食材を活用するようになったのは、同じ食材を大量消費し、同じ食材が人気になるなど、人の価値観が揃っていることに気持ち悪さを感じたためです。価値観をずらしていくために、何ができないかと考えたんです。

ー 未利用食材を選ぶ際の基準はありますか?
まずは、自分で食べてみた時においしいかどうかが重要です。それから、下処理が面倒くさすぎないもの。今後、みんなに使われるようにしていくためには大事な要素だと思っていて、特別な処理をしないと食べられないような食材は使わなかったですね。

ブラックバスは、やはりインパクトがありますし、みんなが面白がって未利用食材に興味を持ってくれればいいなという思いから選んだ部分もあります。そういう意味ではうまくいったかな、と思います。

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ー 飲食業界では、「エシカルフード」に対する考え方は変化していますか?
かなり変わりましたね。最初、僕が変わった食材を使い始めた頃は「何をしているんだ」という雰囲気でしたが、今はみんなが当たり前のようにやり始めています。「環境を大事にしながら料理をしている」という話もよく聞くようになりました。この4年ぐらいで、一気に流れが変わったと感じます。

ー 「エシカルフード」に関心が集まってきた理由をどのように考えていらっしゃいますか?
ビジネスとして上手くいっているお店や料理人がいる、ということも間違いなく理由の1つではあると思いますが、自分がおかしいと思うことに対して「おかしい」と言える空気が世の中に広がってきたからでもあるのではないでしょうか。

お客さんの側も、そういったことに強く興味を持つ人が集まって、コミュニティを作っていたりします。僕の周りでは、子どもが生まれたことが変化のきっかけになっている印象もありますね。とはいえ、価格が高いという理由から、「そんなの気にしてられないよ」という人もいますよね。

エシカルなことを気にする人と気にしない人が、分割されすぎない世の中になったらいいなと思うんです。一部の人だけが気にかけていても、あまり意味がないので。こういう話を聞いたり記事を読んだりしてくれる人は、そもそもエシカルに興味がある人なので、興味がなく僕らと接点もない人にどう伝えていけばいいのか、ということはいつも考えていますね。

ー どのように伝えていけばいいか、今時点での森枝さんのお考えをぜひ教えてください。
エシカルフードが「おいしさ」の土俵で勝たなければいけないと思いますが、「おいしさ」の軸が今はバラバラになってしまっているのかもしれません。味の濃さやうま味の強さが「おいしさ」の軸になっている人もまだまだいます。本当にいい食材と調味料で作った料理を「シンプルだけどおいしい」と思ってもらえるように、いわば味覚の教育のようなことが必要だと思っています。

3倍体で脂が乗っている魚介の方が、噛みしめることで旨みが出てくるような荒波にもまれた魚介よりもおいしいという人が多ければ、ノルウェーのサーモンばかりが売れる、ということになるでしょう。そういう「おいしさ」の軸を、どれだけ僕らが考える軸に寄せていけるのかが、料理人にとって肝になると思います。

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ー 飲食店だけではなく、家庭でも未利用食材を使う機会を増やしていけるとよいですよね。
初めて使う食材で料理をする時って緊張しますし、なんならすでにおいしいとわかっている食材を食べたいと思いますよね。基本的には、「失敗したくない」という気持ちが強かったりする。そういうところが変わっていくといいですよね。僕が料理をする時、テーマにしているのが「価値の分散」です。どんどんチャレンジしてみて、面白い食べ物を自分のフォルダの中に増やしていけたらいいと思うんです。

明治時代と今では食べるものがかなり変わっているように、日本人は歴史の中で新しい食べ物を受け入れ続けてきました。これから、代替食など新しいものを食べないといけない場面が増えてくる中で、そこに対して「昔のあれがよかった」なんて言ってもしょうがなくて、新しいものをなるべく早く受け入れていくことが大事だと思います。

ー 最後に、この記事を読んでくださっている方にメッセージをお願いします。
「この食べ物が面白い」と思った時に、できるだけ色んな人にシェアしたり、その食材を使ってみんなで鍋をしたりと、啓蒙していく仲間の1人として、どんどん広げていってください。

今は、偉い人や専門家が何かを言って伝わる時代ではなく、身近にいる人が「これ、いいよね」と言って伝播していく力の方が強くなっている気がします。なので、何かを食べて、おいしいと感じて、さらにそれを誰かに食べさせたいと考える、その循環を作っていくことが健全な形だと思うんです。

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