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12名の有識者の対話を実現するということ|「エシカルフード基準」づくりの裏側 vol.1

こんにちは。「Tカードみんなのエシカルフードラボ」公式note担当の東樹です。

エシカルフードの有識者12名と対話を重ね、2022年3月30日にラボが発表した「エシカルフード基準」。約1年かけて、「エシカルフード」を定義し、「どの食品がエシカルなのか」を示すための基準を策定しました。

国内において先進的な取り組みと言える基準の策定にあたって、運営面ではどのような課題や工夫があったのでしょうか。ラボの運営事務局の皆さんに「基準づくりの裏側」をお聞きしていきます。

今回は、ラボリーダーであるCCCMK ホールディングス株式会社の瀧田さんと、株式会社フューチャーセッションズの芝池さんへのインタビューをお届けします。12名もの有識者の方々の意見をまとめあげ、新しい基準を生み出す方法と、その中で直面した難しさについて語っていただきました。

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手探りで進めた基準づくり

ー 12名の有識者のみなさんと対話しながら「エシカルフード基準」を作られていますが、まず有識者の方々をどのような基準で集められたのでしょうか?

(瀧田)
「エシカルフードに関連する有識者」を集める必要があったので、環境、SDGsの専門家の方には絶対に参画いただきたいと思っていました。また、一次産業に関わっている方や、流通業の方、料理人さんなど、「食」の分野に関わりが強い方も探していました。お魚、お肉、食品ロスなど、重要なテーマをあらかじめ設定し、その分野に詳しい方が必ず入ってくださるようにしました。

ー 有識者の方々との対話は、どのように進めてこられたのでしょうか? 基準づくりに約1年かかっていらっしゃいますが、大変なのはどの部分でしたか?

(芝池)
大変だった部分としてまず言えるのは、時間の見積もりのことです。セッション、基準のドラフト作成などにかかる時間の、最初の見積もりが甘すぎましたね。

基準づくりを進めるにあたって、基準として入れた方がよい観点を有識者それぞれから出していただき、それらを統合すれば完成するだろうと楽観的に考えていたところがあります。ですが、実際に進めてみると、ゼロベースで案を持ち寄って、セッションの時間内で基準を作っていくのは難しいことがわかりました。

そこで、何かしらの叩き台が必要だということになったんです。有識者の一人である山本謙治さんが、イギリスの「Ethical Consumer」誌が作ったエシカルの基準に精通していたので、そちらをベースにしながら事務局で基準のドラフトを作った上で、有識者の皆さんと対話をしていくという形に舵を切りました。

芝池さん

(瀧田)
ゼロから基準を作るのは、想像を遥かに超えて難易度が高かったですね。どういうステップで進めたらいいのかわからない中で、手探りで進めていった感覚です。

(芝池)
ドラフトを作るにあたっては、最初は網羅性や正確性に心を砕いていたんですよね。ですが、日本の企業の実情を知っている有識者の皆さんからは「項目がこんなにたくさんあったらチェックしきれない」というフィードバックをいただきました。ご意見を踏まえて、基準の項目を何件ぐらいに集約させていけばいいのかを事務局で検討する、といった試行錯誤を繰り返していました。

(瀧田)
ドラフトの作成には、最終的に150時間ぐらいかかりましたね。有識者12名のみなさまの中から、山本謙治さん、「こだわりや」の商品本部を長年管轄し食品に精通されている藤田友紀子さん、エシカルイシューに関して幅広い知識をお持ちの佐々木ひろこさんの3名にもドラフトづくりに関わっていただきました。さらに、イギリスの「Ethical Consumer」にも意見をいただいてブラッシュアップを行い、できたものをドラフトとして、有識者12名のセッションで対話をするという進め方にしたんです。

でこぼこがある現状も受け止める

ー 12名での対話の中で、意見が割れた時ってありましたか? そのような時はどう進めたのでしょうか?

(芝池)
一番まとまりにくかったのは、「基準の項目数をどれぐらいにするか」という点ですね。基準をシンプルにすればするほど、採点するハードルは下がりますが、それで本当にエシカルであることを担保できるのか?というところが難しかったですね。項目が決まったあと、「どのレベルまでクリアしていたら2022年の時点でエシカルフードと言えるのか」というしきい値の決定にも悩みました。決して敷居が高いものを作りたいわけではなく、エシカルフードが少しでも広がるようにしたい、という考えは全員同じなのですが……。

(瀧田)
理想と、実行していかなければという社会実効性とのはざまで常に悩んでいた気がしますね。

意見が対立した時は、なぜそう思うのかという理由をそれぞれが丁寧に話すようにして進めてきました。皆さん、相手の観点を尊重される方ばかりなので、対話をしつくすことで最終的には意見がまとまりました。

(芝池)
時間には限りがあるので、いつまでも作り続けることはできないですし、どこかで決めきらないといけません。その時に、それぞれがいかに納得感を持てるかが大事ですよね。納得感を持つには、考えつくした、対話をしつくした、という感覚が重要だと思うので、事務局としては有識者の皆さんにそう思ってもらえるように心を砕きました。

(瀧田)
有識者12名でのセッションの前に、ドラフトをお渡しして、3〜4名ずつを対象にした事前説明会を行ったり、できるだけ丁寧に進めてきました。

瀧田さん

ー 12名の有識者の皆さんと事務局の皆さんで対話を重ねても、なかなか答えが出ない内容ってありましたか?

(芝池)
「エシカルフード基準」で扱う観点は多岐に渡っているので、どなたかが詳しくてスムーズに項目が決まる観点と、項目に落としにくい観点の両方がありましたね。

基準は「イエスかノーか」を問うようなシンプルなものだけではないので、どのぐらいの割合で達成してたらよいのかということや、日本企業の実情も鑑みてどこまで問うべきかということなど、検討が難しい点がたくさんありました。事務局としては、網羅的に基準を作れるのかという点で日々悩んでいましたし、プレッシャーも感じていましたね。

ですが、そんな時に、有識者の一人でいらっしゃる藤田香さんが「様々な専門性を持つ有識者が集まって対話をしつくして、それでも精緻化できない部分は私たちの現状として受け止めた上で、最初の基準を出していきましょう」とおっしゃってくださったのが印象に残っています。なんだって完璧にするのは難しいことなので、今いるメンバーでベストを尽くして、でこぼこがある現状も一度受け止めればいいんじゃないかと。そして、でこぼこの部分は今後ブラッシュアップしていけばいいのではないか、と言っていただけたんです。

(瀧田)
私も、藤田さんの言葉で肩の荷がおりたような気がしました。事務局は完璧を求めてずっと取り組んできていたのですが、有識者の河口眞理子さんも「まず世の中に出して、その上で洗練させていけばいいんじゃないか」とおっしゃってくださいました。元々、日本のエシカルな取り組みの進捗や、世界のエシカルイシューの変化に合わせて、最低でも年に一回は基準を更新していくことを決めていたこともあり、「みんなでブラッシュアップしていけばいいんじゃないか。それが現実的なのではないか」と。

ここで言う「みんな」とは、有識者の方々だけではなく、流通企業さんや食品メーカーさんなど様々な立場の方のことです。「エシカルフード基準」の大手企業版は今年の3月30日に発表しているのですが、その直後に原材料の項目についてメーカーさんからご意見をいただいたので、すぐにブラッシュアップのセッションを行いました。9月12日に、基準のver.2を出しています。

「エシカルフード基準」の採点シート

費やした時間が対話の糧に

ー コロナ禍という状況もあり、対話はすべてオンラインで行ったそうですね。

(瀧田)
オンラインであっても、思っていた以上に対話が進みましたし、一体感も出ました。

(芝池)
オンラインだからこそできた、という部分もあったかと思います。対面で集まろうとすると、移動時間も含めて調整いただくことになります。有識者の皆さんはお忙しいので、これだけ時間を割いていただけたのはオンラインだったからだという気がしますね。

オンラインって、関係性ができるまでどうしても時間がかかってしまうじゃないですか。ですが、エシカルに関するそれぞれの価値観を何度も話し合うことで、有識者同士の関係性も次第に深まっていったように思います。

(瀧田)
有識者の皆さんとの対話は、本当に刺激的で、濃密な時間でしたね。最初は、「こんなに時間が必要なの?」という声もあったんです。同じテーマで、2日続けて4時間ずつのセッションを予定していたりしましたので。

ですが、やってみると「確かに必要だった」「長いと思っていたけど、あっという間だった」と皆さんおっしゃっていました。その場にいる全員にとって、刺激のある時間になっていたのではないかと思います。

ー 事務局として、有識者の方々と対話を進めるにあたって、キャッチアップしないといけない情報の量も多かったのではないですか?

(瀧田)
常にGoogleを開きながら進めていました(笑) 言葉の意味がわからないこともありますし、意味がわかったとしても、歴史的な背景を知らなかったりするんですよね。エシカルな観点ってグローバルな話になることが多いので、世界ではどのような状況で、日本はどうなっているのか、逐一調べる必要がありました。

(芝池)
単語としては知っている言葉も、それが今どのようなイシューとして世の中に発せられているか、ということや、そこに至るまでにどんな経緯があったのかというところを調べながら、「Ethical Consumer」の基準を読み解いて、叩き台を作っていましたね。

(瀧田)
「Ethical Consumer」の基準が550項目もあったので、一つひとつ精緻化していく作業にとんでもなく時間がかかりましたね。「Ethical Consumer」のロブ・ハリソンさんを質問攻めにしていました。

たとえば、同じ意味でも違う英単語が使われていたりすると、何か意図があって単語を変えているんじゃないかと私たちは考えるわけです。でも、ロブさんに聞くと、「単なる表記揺れだよ」という回答が返ってきたりして。「Ethical Consumer」の基準は、約30年ブラッシュアップし続けているので、細かな整合性が取れていなかったりするんですよね。そういったことを精査していくのがなかなか大変でした。

(芝池)
本当に大変でしたが、そうやって事務局の一人ひとりがエシカルフードと向き合って考え続けたからこそ、有識者の皆さんと対話できたのだろうと思います。その時間がなければ、何を有識者の方々に確認しないといけないか、何が論点になり得るか、という当たりが全くつかなかったかもしれません。
大変ではありましたが、必要なプロセスでしたね。

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