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アニマルウェルフェアと、どう向き合うか|「エシカルフード基準」づくりの裏側 vol.6

こんにちは。「Tカードみんなのエシカルフードラボ」公式note担当の東樹です。

エシカルフードの有識者12名と対話を重ね、2022年3月30日にラボが発表した「エシカルフード基準」。約1年かけて、「エシカルフード」を定義し、「どの食品がエシカルなのか」を示すための基準を策定しました。

国内において先進的な取り組みと言える基準の策定にあたって、運営面ではどのような課題や工夫があったのでしょうか。ラボの運営事務局の皆さんに「基準づくりの裏側」をお聞きしていきます。

今回は、前回に引き続き、ラボリーダーであるCCCMK ホールディングス株式会社の瀧田さんと、株式会社フューチャーセッションズの有福さん・芝池さんへのインタビューをお届けします。「アニマルウェルフェア」というテーマに、生活者はどう向き合うべきか、詳しくお話を伺いました。

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情報開示の難しさ

これまでのお話で、「アニマルウェルフェア」は、人や文化によって様々に解釈される難しいテーマであることがわかりました。エシカルフード基準は、企業が自己採点する仕組みですが、アニマルウェルフェアに関する項目を採点していただくにあたって、企業の皆様から何か質問はありましたか?

(瀧田)
「エシカルフード基準 大手企業ver.」のアニマルウェルフェアに関する項目の一つに、動物実験に関する項目があります。「動物実験廃止(法的に求められている場合を除く)に向けて、定量的な目標を含んだ方針がある」というものです。

「定量的な目標を含んだ方針に基づいた取り組みについて自組織で評価を行い、その結果を公表している」場合は、この項目について、エシカルフードであることを示すしきい値を満たしたことになります。

この項目については、企業様から「何をどこまで公表することが求められているのか?」というご質問が多々ありました。

一連のやり取りの中で、今の日本においては、「この領域では動物実験を行ない、この領域では動物実験を行わない」という方針を公表することは、センシティブなことなのだと感じました。欧米では情報開示が当たり前になっていますが、日本では大手企業でも、動物実験について一切公表していない場合があります。

瀧田さん

(芝池)
動物実験のことに限らず、企業から開示される情報が増えていくといいですよね。開示された情報の受け止め方は、人それぞれかもしれませんが、そもそも情報がないと何かを判断することすらできません。

ただ、消費者が積極的に情報を入手しようとしていないことが、こうした状況が起きている一因だとも言えるのではないでしょうか。求められていない情報を、わざわざ整備して公開することの優先度は、企業にとって高くないかもしれません。

つまり、情報が開示されていないことは、企業だけの責任ではないと思うんです。消費者側から、どういった商品を買いたいのか、どのような情報を求めているのか、ということを発信していけば、情報開示が進むのではないかと考えています。

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アニマルウェルフェアを自分ごとにする

ー お話を伺っていると、アニマルウェルフェアは、特に日本においてはまだ社会に定着していないエシカルイシューのように思えます。

(芝池)
アニマルウェルフェアは、他のテーマと違って、人間が直接的に受ける被害をイメージしにくいので、そこに定着の難しさがあるのかもしれません。

たとえば、「気候変動」というテーマであれば、地球の温暖化によって氷河が溶けるなどして人間にも被害を及ぼす、ということが今は想像しやすくなったと思います。だからこそ、課題解決に向けて合意して進んでいくことができると思うんです。「人権」というテーマも、人に直結する話なので、仮に自分が課題に直面していなかったとしても、その深刻さの想像がつきやすいですよね。

一方で、アニマルウェルフェアは対象が動物なので、たとえば「食用になる牛や豚がどのように育てられようと、自分には何も影響がない」と思ってしまうと、そこから話が進まなくなります。痛みを自分ごととしてとらえにくい課題は、共通課題として設定されにくいのかもしれません。

(有福)
アニマルウェルフェアの対象は、動物だけではなく、現場で働く人も含まれるようにも思います。たとえば、畜産の現場で、動物を機械のように扱うことに辛さを感じている方々がいるかもしれません。動物実験だって、やりたくてやっているわけではないと思うんです。

動物の権利を守ることは、働く人を守ることにもつながってくるのでないでしょうか。アニマルウェルフェアという言葉は、動物愛護の文脈で使われがちですが、動物に関わる方々にも関係するエシカルイシューなのだということに、もっと光を当ててもいいように思います。

有福さん

(芝池)
経済性のことを考えないといけなくなった時に、権利を尊重しながら動物に接することが難しい状況になるのかな、と思うんです。動物の権利を守れるだけの経済的な余裕があればいいのですが、売上や利益を考えると、追い込まれてしまうのかもしれません。

畜産の現場でも、いかに大量に生産して利益を生むかということを工業的に追求すればするほど、人と動物との距離が離れてしまう。同じ地球に生きる存在ではなく、自分たちが管理する対象のように捉えてしまう。そのような状況が生まれるのは、結局、消費者が1円でも安く食べものを買おうとしていることに端を発しているような気もします。

(瀧田)
だからこそ、食べものを作る側だけではなく、消費者の意識も同じスピードで変えていかないと、アニマルウェルフェアを取り巻く課題の解決はなかなか難しいということですよね。

(芝池)
安く買いたい」ではなく、「適正な価格で買いたい」というように消費者の意識が変わってくると、人と動物との関わり方もまた変わっていくのかもしれません。

芝池さん

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■ Tカードみんなのエシカルフードラボ


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