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ショートショート2 「バツのついたマル」


(上司)「丸井さん!また間違ってますよ。

ちゃんとやってください。

何回やったらまともな採点が

できるようになるんですか」









君、明日から来なくていいから。





このセリフを味わうのはこれで6回目だ。



私は一応、丸井という男である。


6社目となる採点バイトを、本日クビになった。





私は、丸いものには目がない。



ビー玉、ボール、風船、

タイヤ、500円玉、シャボン玉…

この地球には丸いもので溢れている。



丸いものが大好きな理由。

それは、丸いものには終わりがないからだ。



丸いモノをエクセルシートに列挙すれば、

たちまち文字で埋め尽くされる。


それだけ、丸いモノはこの世界には多い。


だからこそ私は、

この地球(ほし)に住むと決めたのだ。



私は比較的人間に近しい容姿で

この地球で暮らしている。



私は体のつくりもほとんどが

人間と同じ構造をしている。

これで、人間にも怪しまれずに済む。




そう。


私は丸井という人物に化けた地球外生物だ。





大好物はミニトマト。




どうやら、この地球という星では

大好物を食べていくのにはお金が必要らしく

労働という対価でお金を稼いでいる。



ミニトマトなんて

スーパーで198円で買えるため

まったく生活には困らない。


せっかく稼ぐならミニトマトと同様

マルをたくさん描けるという理由で

時給1,000円のマル付けのアルバイトをしてきた。





しかし本日、マルをつける私に

6回目のバツが私についたというわけだ。




「もう、この星には住めないかもしれないな。」





私には夢があった。


それは

全てのものを私好みにすること。

すなわち、万物を丸くすることだ。


なぜなら、繰り返しになるが

丸いものには終わりがないからだ。



かれこれ、3年ほど地球で暮らしてきた。



この6回の採点バイトを通し、


どんなにバツのものでも

マルにしたいという私の願望あって

躊躇いもなく、容赦なく

マルにしてきた。


さらに言うならば

回答用紙に描かれた私の綺麗なマルが

幾度となく通過し、たくさんの人を

合格へと導いてきたということだ。










マルか

バツか


世界は2択でできてる


正直、この採点が意味を成しているのか

地球のお偉いさん方に疑問を呈したい。



政治家や大企業には

本来バツなのにマルとして振る舞い

うまいメシを食べているやつらが

大勢いるではないか。


ならばいっそのこと、

すべてマルでいいではないか!



地球外生物として人の営みに口出しをする

つもりはないが、

この3年同じ土俵に立ってみて思うのは

赤の他人がつけたバツ

赤の他人がつけたマル

に、みんな一喜一憂している。


この世は採点バイトと同じで
誰かの採点によって人生が決まる。


ならば、私のように6社目をクビとなっても

堂々とマルを貫く。


さぁ人間よ。

これぐらいの意思を持ってみよ!ガハハ





「こんな捻くれたことを考えている私が
一番丸くないではないか。」


いくら丸いものが好きな私でも

結局のところ、すべてを丸くすることは不可能ということか。

なんと、生きにくい星…


そんなことをボヤきながら

冷蔵庫にある残り少ないミニトマトを机の上に置き、

バツのついた人生をマルっぽく生きていこう。

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