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【読書】「あふれでたのはやさしさだった」寮 美千子」(著)

詩を書くには勇気がいる。心の襟を正さないと書けない。そのハードルを越えた言葉を、だれかに受け取ってもらえたときの喜びは大きい。魂そのものを受容してもらったような、深い癒やしが得られる。だから、彼らは、あの短い言葉のなかで、あんなに大きく変化し、成長したのだろう。まさに「芸術の力」だ。

社会性涵養プログラムの一環として、奈良少年刑務所で行われた「物語の教室」。
罪を犯してしまった少年たちが、身を守るためにつけていた「心の鎧」を脱ぎ始めるまでの軌跡を記したもの。


犯罪に手を染めたのは、本人の責任と言わざるを得ない。だが、心の鎧を脱いだ彼らは、白いキャンバスのように無垢で、私の思い描いていた凶悪犯とは全く異なる姿をしていた。では、なぜ受刑者となったのか。ここには親からの虐待、いじめ、貧困などの恵まれない境遇が大きく関わっている。


人は生きてきた環境や浴びせられた言葉があまりにも酷いと、自らの心に鎧を着せる。それは自分を守るための防衛本能であるが、鎧が重くなるほど自分の感受性は働かなくなる。そうなれば、相手の立場を理解することもない。


今回は「物語の教室」のおかげで、奇跡的に彼らの心を取り戻すことができた。それだけではなく、心を取り戻したことをきっかけに、自らが犯した罪の重さをはじめて理解する者もいたのだ。罪を償うとは、単に刑期を終えることを意味するものではない。


私は人生は何歳からでもやり直せると思っている。けれども、社会復帰するからといって犯した罪が消えるわけではない。今後はそれと向き合いながら、世の中のためになることを一つでも多くしていただきたい。

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