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感染症病棟〜新型コロナウイルスが変えたもの〜⑤

陽性患者発生

それから毎日、感染症病棟での準備、他部所への応援とバタバタした日々を過ごした。

県内でも数人ではあるが患者発生の事例が報道された。

「ついに…新型コロナウイルスがこの県にも来たか…」
「まぁ遅かれ早かれこうなったよね。そのために準備してきた訳だし…」
と感染症病棟の皆でその報道を見ていた。

そして…数日後
私の勤務する病院にも
市から新型コロナウイルス感染症疑いの患者のPCR検査をしてほしいと連絡がきたのだ。

PCR検査とはウイルスの遺伝子を増幅させることで数を増やしてどのようなウイルスか検出しやすくする検査だ。元々は肝炎などのウイルスの検査でも使用されていたものだが、新型コロナウイルスでもその検査が活用できた。そのためそのPCR検査を行い陽性かどうか調べることになった。

その市からの連絡に病棟に一気に緊張が走った。

事前に検査を担当するスタッフを毎日決めていたのだが
その担当の看護師もいざ検査担当となると
「ま、まじか。今日きたか…」と
咄嗟に思いが口から出ていた。

市からの連絡を受けた数十分ほど経過した時
病院の裏口に患者が到着したとの連絡があった。

防護具を着た担当看護師が緊張した面持ちで
「PCRの検査検体採取行ってくるね」と言った。

そんなスタッフ達の様子に医師が緊張を解すように
「大丈夫大丈夫。みんな練習してきたし、感染対策をきちんとすれば過度に恐れる必要はないんだからさ!さ!行くよ!あと、もし入院になっても患者の前では手慣れてますよ~という感じで患者を不安にさせないようにね!一番不安なのは患者なんだからね!」
と声をかけて患者の元へ向かった。

(そうだ…一番不安なのは患者だ。
それにまだ陽性が確定した訳じゃない。
だけど最善の対応ができるように準備しよう)
そう思い病棟の準備に取り掛かった。


その当時はまだドライブスルーによる検査は浸透しておらず、
室外にてPCRの検体採取が行われていた。

検査は1時間ほどかかると検査科から連絡を受けた。
その間、患者は車内待機をしていた。

いつもの業務ならあっという間の1時間。
それがこれほど長いとは…と
皆落ち着かず
検査結果のカルテを何度も開いては閉じるといったことを繰り返していた。

そんな中、病棟の固定電話の
「プルルル…!」といった音が響き
近くにいた看護師が受話器を取った。

検査科からの連絡がきたのだ。
病棟が静まり返る。

「……はい。…はい。わかりました。」
そう言って受話器を切った看護師が振り返りこう言った。

「陽性連絡!覚悟決めてやるよ!
あれだけ準備したんだ!私たちならやれる!」 
その声に一気に空気が変わり、それぞれが各対応に追われた。

感染防護具を着て患者を迎えに行き
なるべく人目につかないルートを通りながら
病棟へ案内した。

だが病院の構造上、外来の患者に少し見られているようだった。
その視線を感じ、皆で患者を隠すようにエレベーターに乗った。

移動に使用したエレベーターや物品も
すぐに消毒をした。

幸い患者は軽症で、歩行も会話も可能であった。

その患者の受け入れをしながら
様々な課題も見つかりマニュアルの見直しも行われた。


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