何やってるかよく分からない人(ショートストーリー)

「あの人って何の仕事してるんだろう?」

今までの会社生活で何度も、何人もの相手に思ってきた言葉を今日も佐藤志帆は独りごちた。いつも部長にピッタリと側近のようにくっついて、昼食もタバコ休憩も退社も一緒にするよなぁ。会社って、以外と女同士より男同士ってそうなりがちなのよ。それはなぜ?

前に一度直属の上司に聞いたことあったが「きっと僕たちの知らない何かをやってるんだよ、会社の損益計算とか」と何とも意味不明なことを言われるのみだった。「何の意味があるんですかね」とはっきり言うなら「ほら、そんなこと言わないの」とか綺麗事のみ。自分が悪者にならないような当たり障りないことばっかり言うやつは大嫌いだ、と志帆は思う。

志帆は納得がいかない。オペレーションは、時間の拘束が強く必ず誰かがやらないといけない業務だ。腹の立つことに、本来は経験や知識が必要とされることなのに、比較的誰でもできる業務だと思われてる。休みの時にも分からないと電話かけてくるし、薄給だし。

もう、こんな損な役回りはごめんだよ。給料が今より高いのに、何やってるか不明のポジションに行ってラクしてやるんだ。

佐藤志帆は異動願いを出し、その "何やってるか分からないけどなんか会社にいる" 的な部に所属してみた。

なるほど、こりゃいいや。1日なんて自由なんだろう。やることといったら月末とか四半期決算のときだけで、普段は本当に必要なのか分からないデータ集め、過去に誰かが同じようなデータ調べてたんじゃないだろうかというようなものばかりだ。オペレーションに聞くだけ聞いてそのデータの取り纏め。本当に何やってるんだか。だんだん分かってきたが、上長だけが出席するときの資料の為のデータ集めってことなのか。

佐藤志帆は、今後の生活に浮き足立つように、今まであまり休みがとれなかった分有給をとり、旅行に行った。自分磨きとして勉強も始めた。

これでお金貰えるなんて美味しすぎる、と志帆は習いはじめの野菜ソムリエ講座に行く前のカフェで美味しそうにサラダチキンを頬張った。



≪トレード・イノベーション部門 "佐藤志帆 " 退職≫

「今回の自粛によるBCP対応で、不要なものとそうでないものが明るみに出ちゃったからね」

「成果物で判断してくれるようになって良かったよ」

「もともと私たちの売り上げで食べさせてたところもあるしね」

人事から配信された人事異動のお知らせのメールを眺めながらオペレーション部の社員はさして面白くもなさそうに、次の話題に移っていった。













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