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<シュール好き必見>Chicken shop dateのすすめ

年末にあるイギリスのYoutubeチャンネルにハマった。チキン・ショップ・デートという5分弱で短めながら質の高いインタビュー番組である。

Chicken shop date
とは、ホストのアメリア・ディモルデンバーグ(Amelia Dimoldenberg)が、アーティスト(特にグライムシーンのラッパー中心)やセレブたちをチキンショップにデートに連れて行くというコンセプトのYoutube番組だ。
特徴はなんといっても、アメリアの独特なユーモア・センスとキレのある編集だろう。王道のジェームズ・コーデンのCarpool Karaokeやエレンのトークショーなどからは想像できないが、Awkwardness(気まずさ、居心地の悪さ)こそが売りなのだ。

気の抜けた音楽とともに始まるキュートなOPに騙されることなかれ。本編は皮肉やブラックジョークがふんだんに盛り込まれた会話がシリアスで沈痛な空気が流れるチキン・ショップで繰り広げられる。
BGMが無いことにより際立つ長い沈黙、咀嚼音、緊張した苦笑いなど、視聴者はその気まずさに目をそらしたくなるかもしれない。でも、一度しっかり見てその面白さにハマると、そのシュールさの虜になってしまうのだ。

今回はお気に入りのエピソード5選とともに本番組について紹介したい。


1. ROSALÍA

まず本番組を知るきっかけとなったロザリア回。ロザリアのインタビューを色々漁っていたところ発見し、気づいたら番組自体にハマっていた。

恋バナからの急なスペイン語講座でふざけあったり、ロザリアのサングラスかけてきゃっきゃとしているアメリアの姿は他のデートとはまるで違う。
番組の売りである気まずい空気はロザリアの天真爛漫でHappyなラテンオーラによって崩壊しており、アメリアも思わず笑顔になるシーンが多数見受けられるのが推しポイント。ロザリア最強。

どうやらChicken teriyakiにちなんでオファーがかかったらしく、アメリアの「まあ(チキンテリヤキより)チキン・ナゲットの方が(曲として)良かっただろうけどね」と上から目線で話すのに対し、ロザリアが「そういうだろうと思ってたわ」と若干呆れモードになるやりとりも可愛い。

2. PHOEBE BRIDGERS

最新エピソードのゲストは2月に初の来日公演が決まった米ロサンゼルス出身のシンガー・ソングライター、フィービー・ブリジャーズ。世界は終わりつつあって長く苦しい死だわ…となんともシリアスな出だしから始まり、最後の衝撃発言までとにかくアメリアとフィービーの相性の良さを痛感する回。猫嫌いのくだりなんかは、2人とも猫好きそうなのに!と若干ショックを受けた。アメリアがガイコツファッションをいそいそと着てフィービーを笑わせているのが微笑ましい。

3. MATTY HEALY (The 1975)

比較的最近のものからもう一つ。イギリスのポップ・ロックバンドThe 1975のボーカル、マティ・ヒーリーがゲストとして登場。

アメリア「さて、あなたは1975年に生まれたのね。」
マティ「いや、違うけど…」
アメリア「知ってると思うけど、リズ・トラスも1975年生まれでDJ Khaledも1975年生まれなのよ。だから良いお仲間がいるわね。」(早口でまくしたてる)
マティ(食い気味に)「僕は1989年生まれで、まだ若いし人気もある」
アメリア(宥めるように)「そうね。」

出だしから炸裂するユーモアの応酬

マティ回は唯一?デートらしいデート回。
恋バナを中心に、ちゃっかり楽曲に絡んだ小ネタを出したりタバコを吸ったりする辺りはアメリアの通常運転なのだが、マティもかなり上手に出てくる。
マティと手を繋ぐシーンでは「貧血気味で手が冷たいのよね」といって若干照れたり、デートが楽しかったからキスしようというマティを頑なにかわし続けるアメリアは新鮮で見ていて面白い(ちなみにコメント欄は悲鳴とマティのキスを拒むアメリアを讃えるコメントで溢れかえっている)

突然チキンナゲットが焼かれる様や従業員が真顔&無言でこちらをみる様子が差し込まれるタイミングの編集も絶妙。

4. AITCH

チキン・ショップ・デートを語る上で、欠かせないのがマンチェスター出身の、新進気鋭の若手ラッパーAitch(エイチ)のエピソードである。
AitchはUKグライムシーンの新星で、エド・シーランとStromzyの楽曲“Take Me Back to London”リミックス版にも登場している。

歌詞やパフォーマンスのスタイルではかなりアグレッシブな感じなのだが、トークではチャラいと言われていることを気にして本当は違うのに…と言っていたり、今DMのやりとりしている子はいないと正直に話す姿からは、実際はかなり素朴で落ち着いた人物であることが窺える。

ちなみにアメリアが「えび(prawn)みたい」とエイチを評する一方、コメント欄では「エイチの顔って大人になったボス・ベイビーみたい」「実際、二人の顔結構似てる」という意見が散見された。流石に視聴者もセンスが高いのか。

この動画から二人の相性の良さは明白であるが、その後も交際を匂わせるようなポストをお互いインスタに投稿したり、エイチがアメリアのホストする料理版のエピソードの方にまで出演したりと大変仲良しである模様。

5. LOUIS THEROUX

イギリスのジャーナリスト(ドキュメンタリー制作者でもある)のルイ・セロー回も非常にアイコニックなエピソードだ。(苗字THEROUXは「スルー」の方が本来の発音に近いが便宜上「セロー」と表記する。)

このエピソードのハイライトはなんといっても、ルイのラップ。まるでAIが歌っているかのようなフロウの自作ラップ'Jiggle Jiggle'を披露したところ話題に。Duke & Jonesがこのラップを曲にし、その曲に合わせてJess qualterが振り付けを加え、踊る様子をTiktokにアップ。するとTiktok上でこのダンスをカバーするのが今夏の一大トレンドとなり、ネット上でバイラルヒットを起こした。

この反響ぶりを受けて、Duke & Jones、ルイ、そしてJason Deruloが加わったスペシャルバージョンの楽曲も制作されている。(MVには立役者のアメリアもしっかり登場している)

おそらく誰もが一度は聞いたことがあるであろうラップのシーン以外にも、エピソード全体の完成度が高い。
エド・シーランいじりから始まり、アメリアの「私ってシングルオーラ出してる?」という話から始まるやりとりも面白いので是非フルで見てほしい。

おわりに

今回紹介しきれなかったが、Charli XCXやJADE THIRLWALLらオール明けにマックでだべっているような雰囲気の回からJACK HARLOWのように愛くるしい人柄の良さが全面に出ているような回まで、このデートには様々なゲストが登場している。
チキンショップといういかにもデート向きでは無い、チープで辺鄙な場所を舞台にした本番組は、中々見られないゲストたちの素顔と魅力をとことん引き出すアメリアなしには成り立たない。
見ているうちに、だんだんと毎回健気にネタをしっかり仕込んでくるひたむきさや、ウィットに富んだユーモアなど、アメリア自身に魅了されていくだろう。

そしてなんと2014年から始まっており、今年(2023年)で9年目という長寿番組。今年はどんなゲストとどんなデートをするのか、楽しみだ。


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