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「ここにいるふたり」

私が「髙橋海人」という名前と、平場の髙橋海人その人を明確に結び付けて認識したとき、彼は号泣していた。
TV番組「おしゃれイズム」に、「だが、情熱はある」初回放送直前回のゲストとして出演していた時のことである。
(おぉ……久々に号泣する男性を見た……)という驚きと、
(そうだよな、しんどいよな……頑張って欲しいな)という激励とが去来した。
そして、10分後その同情めいた感想を、彼は「若林正恭」という役名を纏い、あっさりと拭い去った。
見事という他ない、プロの役者としての仕事だったと、今思い出しても胸が熱くなる。

それは、「めっちゃ似てるな!!」という一瞬の衝撃で終わらなかった。
回を重ねるごとに、心までも写し取りいや、限りなくノンフィクションに近いフィクションの中で最適化された役名「若林正恭」となって、現実の髙橋海人とも若林正恭とも違うひとつのキャラクターを描いていった。

それと同時に、知れば知るほど彼はチャーミングな人間だった。
初めて彼の会員制ブログにアクセスしたら、自作のよく分からないラジオ(今でもよく分からない、『ジョン茅ケ崎』というキャラを纏ったラジオ)の音源が、複数回にわたり何の説明もなく置かれていた。
ジョイマン池谷氏が言うところの「なんだこいつ~!!」である。
今思えば、端的に彼の「表現したい」「けどそれが凄く唐突」「本人は無茶苦茶楽しんでいる」というパーソナリティを知ることが出来た、最高のタイミングだったとは思う。

***

その時期、髙橋海人が所属するKing & Princeは、人気絶頂の時期にメンバー5人中3人が脱退するという、過去に類を見ない困難を控えていた。
冒頭で述べた涙も、その件とは切り離せないものである。

残る2人は、髙橋海人と、そして永瀬廉。学年は違えど共に現在25歳。
グループの最年少組である。
最年少組でありながらしっかり者でMC担当な永瀬廉と、弟感を具現化した髙橋海人。
それぞれが個性と強みがある、とわかりつつも、新体制、2人体制になる5月23日のyoutube生配信まで私は不安に満ち満ちていた。
二人にかかる重圧とそれに耐え抜くためにかかるストレス。
そして、心ない声。
心ない声が何故かけられるのか?私には分からないので言及しない。

前年11月、3名の脱退が発表された直後、永瀬廉は自身のラジオで思いを語った。
永瀬廉の語りの誠実さ、そしてこの辛い状況のなかとても整理された話し方。
彼が、単独のラジオ番組という場を持っている理由がよく分かる放送だった。

しかしこれに対しても。いや、言わずとも分かってもらえるだろうか。

5月23日のyoutube生配信に話を戻そう。
日本中の、あるいは世界に居るファンたちが、緊張で心を固くして配信開始を待った。
少なくとも私は、「やったぁ生配信だ!」などという気持ちには全くなれなかった。

しかし蓋を開けてみれば、二人も十分緊張していることは分かるけれど、努めて明るく、前向きな姿勢を崩さず、しかも脱退と言う事実にきちんと触れつつ、それぞれの未来への希望を語った。
それがシリアスじゃなくて、もう何周もした人たちらしい穏やかさがあった。
あの配信でなければ、ファンは前に進めなかっただろう、と思い出す。

***

そこから二人は、うっすらとした「個人の俳優仕事に注力するのかな」と言う私の浅はかさを大きく裏切り、6月21日にはシングル「なにもの」をリリース。そのプロモーションとして音楽番組ほぼすべて(多分)に出演、正直追いきれないレベルの量の活動を始めた。
2人体制初の「なにもの」は、まだ持たざる者の伸びやかさ、不安、でも広がる未来、そんなことを感じさせる希望に満ちた曲だった。
またしても、「なにもの」でなければ、ファンは前に進めなかっただろう、と思い出す。
「なにもの」に限らず、King & Princeの楽曲はメンバー主導で膨大な候補曲の中から選曲しているので、この曲を選んだ、ということに、2人のKing & Princeの愛情と聡明さが凝縮されている、と思う。

King & Princeの二人は、言葉に危なっかしさがない。
先述の、永瀬廉のラジオでの言葉にしたってそう。
「なにもの」プロモーション期の、まだ「デリケートな人たち」であったころも、あえてタブーを作ることなく、時に先輩たちに「むしろこうなったからこそできることって何でしょう?」と胸を借りることもあった。

2023年、King & Prince自体も、所属事務所も、色々、本当に色々あった。
これ以上言及することが出来ないくらいに、色々。
その時期に繰り返し語られたこと。「平和が一番」。
これに尽きると、これ以上のことはないのだと、またしても何周も何周もした人たちらしい言葉で語った。
そして、この時期に発売されたアルバムタイトルは「ピース」。

***

思い返せば2023年は、ファンの心を癒すリハビリ期間であるかのように、丁寧に丁寧にケアし続けくれたのだな、と思っている。
いや、2023年4月からの新規ファンである私が言うのはおかしいけれど。
私は18歳以降、女性アイドルメインのファンとして、色んなアイドルの卒業・脱退・解散を見てきたが、ここまで手厚くケアされた経験は、ない。
断言する。ない。
2023年の彼らの活動が、アイドルKing & Princeへのゆるぎない信頼を形作ってくれた。

二人とも美男子で、佇まいもキラキラしていて、二人がふざけ合う姿は傍から見ても可愛く癒される。
けどそれ以前に、こんなに信頼できる誠実なアイドルはとても稀有である、ということが、私の気持ちを掴んで離さない。
それがいち個人の髙橋海人・永瀬廉そのままの姿であることを、私は特に望まない。
「信頼」という言葉の傲慢さを知っている。そこには、受け手の勝手な期待が上乗せされているから。
それでも、彼らの発する言葉や誠実さを受け止める時に生まれる感情。
これを私は「信頼」と表現することしかできない。

***

個人的な好みの話になるが、私が最も面白いな、興味深いなと思うのが、二人のパフォーマンススタイルが対照的である、ということだ。

まず歌声。髙橋海人は少し鼻にかかったような、表現が適切かは分からないが「魅力的なファニーボイス」をしている。
形状的には、先の丸いしなやかな棒のような。
そのしなやかさで、色気もHIPHOPの芯の強さも表現する。

対して永瀬廉は、透き通るはかなさとセクシーさがある。
形状的には、熟練した職人が薄くカンナで削った木のような。
25歳だけど、少年の危うさも感じる。
本人は精神的なタフさと、あっけらかんとした明るさが魅力なのに、表現活動においてはなぜか陰の美しさがある。

そしてダンス。
髙橋海人は、幼少期からの鍛錬に裏打ちされた圧倒的ダンススキルと、表情筋のひとすじすら躍動させる表現力がある。その表現の根底には必ず「楽しいー!!」がある。
その楽しさが悦びとなってほとばしっているような、霊長類ヒト科ヒト属が持ち合わせる、とてもプリミティブな感情を放出しているような、そんなエネルギーがある、と感じる。
髙橋海人は「肉体」、とダンスを見る度思う。

永瀬廉は「線」。
元々のスタイルが線が細い、と言うのもあるが、しなやかな線が永瀬廉の輪郭をそのまま写し取って動いています、と言うような、透き通った美しさを感じる。
あれだけ細身で、手足と首の長い人が、ぶれることなくかつしなやかに踊る、と言うのはとても難しいのでは?とダンス素人は思う。
固さがなく、さりとて頼りなさもなく、まさに「舞い」の美しさが、そのまま彼のセクシーさと調和して、永瀬廉と言う一つのジャンルになっている。

最新曲「moooove!!」では、この二人の対照的な歌声とダンスがとてもよく表現されている。

歌声の「鼻にかかった魅力的なファニーボイス」「透き通るはかなさとセクシーさ」
ダンスの「プリミティブな感情の放出」「しなやかな線が永瀬廉の輪郭をそのまま写し取って動いている」
なかなかイイ線いっているのではなかろうか。

髙橋海人のこなれて自分のものになった後に少し遊びで崩したようなラップ、
永瀬廉の「青く染まる夜」の、それまでのやんちゃさを一転させるセクシーさ。

あぁ、これこそ今のKing & Princeの真骨頂。
二人にしかできない、二人だからこそできる表現の、今時点の最高の形。

「おしゃれイズム」の涙から14ヶ月たった。
「残されたメンバー」はもういない。
「可哀そうなメンバー」はもういない。
「心配で守ってあげなきゃと思ってしまうメンバー」は、
「残された二人」は、どこにもいない。

ただただ、King & Princeのふたりが、ここにいるだけだ。
唯一無二の、互いの魅力が、一緒に居ると何乗にもなるふたりがいるだけ。

***

気が付けば推し達は、社長になっていた。
King & Prince株式会社の代表取締役社長である。
これもまた、過去のアイドル好き人生で経験したことのない、異常事態である。
もう彼らは、私の庇護欲なんて全く必要のないフェーズに……

ちょっと待って!!!

嘘!!!
全然可愛い!!!!!
未だに可愛いし、もし私の家の庭にミカン生えてたら二人が困惑するくらいミカンを……ってダメ!!食品っていうかプレゼントは事務所的にNG!!!!!!

そう、これだけの荒波を越え、社長にもなったのに、全然現役で可愛い。
平社員の立場で何だけど、守りたい。他企業の社長を。
これもうアイドルとしての生まれ持った才能也……。

私の、いや私たちの愛するアイドルは、どんどん強くなる。
どんどん美しくなる。頼りがいのある人間になっていく。
それでも、ずっと可愛い。
何かを与えたくなるけど、プレゼントは禁止だから、愛を与える。
その愛で彼らがここに居てくれるなら……。

いや、もうここにすらいない。
知らない間にツアーの準備して、
知らない間にドミノ倒しの準備して、
知らない間に花火大会を企画していたように、
彼らは私たちが追いきれない「そこ」にいる。
私たちが居る「ここ」で輝くために、もっと先の「そこ」に向かって走っている、
それが、今のKing & Prince。
髙橋海人と永瀬廉、そこにいるふたり。


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