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トゥースで泣いた朝  ―「だが、情熱はある」から「オドオド×ハラハラ」へ

※※※宣伝のお時間※※※

新番組「オドオド×ハラハラ」
10月19日(木)19:00〜21:00
フジテレビ系列にて放送

オードリーとハライチがMC、「ゴッドタン」でおなじみ佐久間宣行氏がプロデューサーを務める、間違いない布陣の番組です。
是非皆様ご覧下さい。

※※※以下本文です。宣伝失礼しやした※※※


「トゥ――ス!!!」

平日の朝7時台。朝の情報番組だって、視聴者のテンションに配慮して”ほどほどの元気””ほどほどのおもろさ”を提供してくれている。そんなみんなのお約束を鮮やかに無視した大声は、我が家のリビングに響き渡った。

声の主は…もう、書くまでもないだろう。でも一応書く。オードリー・春日俊彰だ。
今は2023年である。令和5年である。オードリーがM-1準優勝で一躍テレビの人気者になったのが、2008年。それからもう15年も経つ。あの時生まれた子供はもう中学3年生…というのは当たり前か。10年経とうが15年経とうが、平日の朝7時台だろうが、春日はいつだって本意気のトゥース!を披露する。ギャグだけど、「披露」って表現してしまう域まで来ている。

あまりの唐突さと、周囲とのテンションの差と、めちゃくちゃ輪郭線の太い「春日」感に、思わず笑ってしまった。もちろん、「トゥースって、15年経っても面白いよな。」そんな単純な可笑しさもあった。そして、笑いながら、涙が溢れた。お天気お姉さんの天気予報の時間、春日が「春日」をしている間中、笑いながら泣いていた。

なぜなら、私は今朝、朝食を作り、化粧をし、娘の髪を結い。そんないつもの朝の支度をしながらずっと、「だが、情熱はある」のことを考えていたから。

***

私が所謂「だが情落ち海人担」(だが、情熱はあるでKing & Prince髙橋海人の熱いファンになった人)であることは、いつも私のnoteを読んで下さる方には周知の事実である。今朝改めてドラマ「だが、情熱はある」のことを考えていたのは、noteのお題企画で「 #好きな番組 」の募集をしていたからだ。

お題を見たとき、私がこのアカウントで書く「好きな番組」なんて、あれしかないだろうと思った。また、過去に書いた「WWT(私と若林~)」では、「だが情」よりは髙橋海人にまつわる思いがメインだったので、いつか「だが情」について、きちんと感想をまとめられたら、とは思っていた。それに、この記事が誰か、髙橋海人にも森本慎太郎にも、「だが情」にも興味のない方に届くかもしれない、そういう思いを以て書いてみる。

<参考>WWT(タイトル長いから略称浸透させたい)

やっぱり、M‐1グランプリ2008への道程

「だが、情熱はある」自体は、オードリー・若林正恭と、南海キャンディーズ・山里亮太がそれぞれの芸人人生を歩み、そしてコンビ「たりないふたり」の結成と解散に至るまでの物語である。

「だが、情熱はある」について語るとき、色んな切り口はあろう。髙橋海人・森本慎太郎の両主演俳優の激似ぶり。そして「似てる」に留まらない名演ぶり。

また、別々に歩む若林・山里両氏の人生を絶妙にリンクさせる構成、画期的というか衝撃的すぎる最終回の仕掛けなど、書き出したらきりがない。そうした中からあえて的を絞って(私がそもそも軽めリトルトゥースであり、髙橋海人ファンになったことも踏まえ)語るとしたら、「オードリー『M-1グランプリ2008』での敗者復活戦までの道程」かと思う。
山里亮太および森本慎太郎ファン、そして制作陣の皆さんには大変申し訳ない思いだが、最も印象に残る部分がそこなので、許してほしい。

オードリーは2000年結成。そして、M-1敗者復活戦出場が2008年。実に8年の間、地中の蝉のように(実際は2007年のおもしろ荘出演はあったものの)売れない芸人、地下芸人ってやつをやっていた。その、苦境の8年間に、ドラマ全12話中の8話分を割いている。印象に残らない訳ないだろう。

オードリー地下芸人時代の、若林の苦悩

2話で仮結成、3話で正式に結成したオードリー(旧ナイスミドル)。彼らの活動は、クレープ屋の店先での購入者サービス漫才→ものまねパブでの前説→並行して春日の自宅アパートでのトークイベント「小声トーク」、と変遷していくが、要約するとめちゃめちゃ地下芸人である。2話~9話、ずっと地下芸人。ドラマファンとしても不安になったし、ちょっと辛かった。毎話終わるたびに「えっ、まだ200X年…M-1まであとX年…」と軽く絶望していた。
とは言え、その地下芸人としての苦境の中に見せる若林の苦悩。それには視聴者の不安やしんどさを上回るドラマ性と共感と、ここでしか見られない人間の弱さが詰まっている。こうしたシーンが、この地下芸人期間の「だが情」若林パートを光らせていた。

代表的なのは、第5話、若林が春日にナイスミドルの解散を持ち掛けるシーン。2人とももう大学卒業後。周囲は皆就職し、一方自分たちは売れない芸人で、前説もウケない。様々なキャラ付けを試すも、目指すべき方向性も分からない。そんな中若林が決定的な言葉を吐き出す。

「恥ずかしい。惨めだと思う。辛い。辛いし、しんどいし、惨めだし苦しい。恥ずかしい。すごくイヤだ」
「もう辞めたほうがいいんじゃないかって」

基本的にアイドル・髙橋海人は「目の水分量多すぎてキラキラ輝いている」タイプである。しかしだが情においては終始、目の光を消して演じている。その目が彼を若林たらしめている要素の一つである。

ただ、このシーンにおいては、若林の目には強く光が宿っている。おそらく意図的に、若林の目に光が入るような位置関係になっているであろう前提の上でだが、黒目の3分の1を占めるくらい、光っている。その光が、普段抑制されている若林の感情を強く表現している。
さらにその光を、彼のまばたきが見せたり隠したりする。このまばたきは、役者・髙橋海人の演技の一部だと確信している。自分の感情を吐露し、解散を持ち掛ける間、まばたきは少なくその1回1回が大きく深く、かつセリフを発するタイミングと一致している。この一連の演技の中で、若林の辛さ苦悩、その根底に怒りを感じた。世の中に対してだろうか。ネタも作らないお気楽な相方にだろうか。いや、多分、自分に対してだろう。

「ねぇ、今幸せ?」「私、どう考えても幸せなんですけど」

オードリー地下芸人時代どころか、ドラマ中ずっと、タニショーこと谷勝太(モデルは前田健)が若林に問い続けたセリフ「ねぇ、今幸せ?」。若林だけでなく、視聴者に対しての問いかけ、いわばドラマの裏テーマの一つでもあろう。
地下芸人パートが長いとはいえ、タニショーとの出会いや、「小声トーク」等の活動、現在のオードリーのスタイルである「ズレ漫才」の発明など、少しずつ若林の地下芸人生活が明るくなっていく。そしてそれに伴い、「ねぇ、今幸せ?」に対する若林の返答も変わっていく。もちろん、ブレイク後も。

「そんな訳ないじゃないですか」(第5話)
「金ないし売れてないし(中略)このままじゃイヤで、でもどこ向かったらいいか全くわかんなくて」(第6話)
「なんていうか、いい不幸せですね」(第9話)
「(M-1)決勝行けたら…行きたいなぁ、決勝」(第9話)
「売れて仕事増えて、テレビに出られるようになったら幸せになれると思ってたんです」(第10話)

ドラマ中、どうなったら、どういうときに幸せなのか、その答えは提示されない。当然だ。人によってそれは異なる。その象徴が春日だ。先述の第5話、解散話のシーンで春日は

「私、どう考えても幸せなんですけど」

と答える。芸人を辞めたいと思う若林と同じ状況に居ながら、だ。幸せとは、自分の現状への眼差しとは、それぞれなのだ。ちなみに谷勝太の最後のセリフはこれ。

「四の五の言っても幸せになったもん勝ちよ」

名シーンの宝庫 第9話

M-1グランプリ2008年敗者復活戦の回、第9話。正直、この回と第11話は屈指の名シーンの宝庫だと思っている。(超若林サイドの意見ですみません)

1.エクレア
M-1グランプリ2006年、オードリー2回戦敗退。「いける、売れる!」と思ったズレ漫才が評価されず、惨めさから彼女を遠ざけ。そんな折、若林が父親からまた嫌味を言われ部屋に戻ると、おばあちゃんがこっそりとエクレアをくれる。「まさくんは大丈夫よ、面白いから」の言葉と共に。
若林は部屋でひとりそのエクレアを見つめた後、思いっきりガラス窓に投げつけた。
そして、崩れ落ちたエクレアを泣きながら貪った。

2.La.mama新人コント大会オーディション
渡辺正行主催で、彼自身が審査する。そこで、「M-1を狙える漫才だね。もっと真剣に頑張ってみて」という評価を得るオードリー。初めてズレ漫才が評価された瞬間だった。
帰り路、若林は春日が居なくなったのを確かめると、顔をくしゃくしゃにして涙を流した。

3.オードリー漫才完全再現
もうこれは特に言葉は必要ないだろう。

ひとつ付け加えるとしたら、髙橋海人と戸塚純貴が、初めてフルでネタ合わせできたのはこの撮影当日です。

「ガラス」が象徴するもの

なお、この第9話において私が象徴的に使われていると思う小道具が、「ガラス」だ。

まず、駄菓子屋の店先で彼女に己の惨めさをぶつけ、実質別れとなるシーン。二人はラムネを飲んでいた。駄菓子屋だからラムネ、というのは非常に自然なことだから、以下は私の深読みだと思ってもらって構わない。
ラムネの瓶は、ガラスの本体の中にビー玉が一つ入っている。ビー玉は、瓶からギリギリ出せそうなのに取り出せない(※実際は、プラキャップを取ればいいそうですが)。
この、抜け出せそうなのに抜け出せない、という姿が若林の状況に重なるのではないだろうか。

そして、あと2回登場するガラスが「ガラス窓」「ガラス戸」だ。ガラス窓は前述のエクレアのシーン。そしてガラス戸は、M-1グランプリ2008年で敗者復活が決定し、本選会場へ向かう時、敗者復活会場でガラス戸越しに語り掛ける彼女を見つけるシーン。
これらもやはり、若林とあちら側(世間や成功)とを隔てる暗喩なのではないかと思う。
世間の誰にも評価されず、自分を実家の自室から外に出してくれないガラス窓に、エクレアという優しさをぶつける。
間違いなく評価され世に出て、成功へと向かう車の中で、ガラス戸の向こう側から、かつて寄り添ってくれた彼女が語り掛けてくれた。しかし、その声は耳には届かない(読唇はできる。何と言っているかはぜひご自身で…)。

まだ、情熱がある

今日、春日が朝の情報番組に出ていたのは、オードリーとハライチがMCを務める新番組「オドオド×ハラハラ」の告知のためだった。
10月19日 19:00、つまり今夜放送される。

この1年、何となくだが若林正恭が、「やりたい仕事」に向けて諸々調整していっていることを感じていた。
成功を夢見て、それを手にした後の苦しみを通り、今、春日はまだ「トゥース!」を本意気でやっているし、春日の「トゥース!」は未だに面白い。オードリーは、漫才で東京ドームを埋めるという前代未聞の挑戦に向かっている。「だが、情熱はある」で描かれた日々を経て、おそらくオードリーとハライチ、渾身の新番組が今夜から始まる。
しっかり見届けたいし、多くの人に届くものになってほしい。若林正恭本人に読まれたら「何様だよ」と失笑されそうだが。

何卒。

こぼれ話

私、この段ボールのシーン大好きすぎてデータ擦り切れるくらい見返してるんですが。このシーン、シナリオ本読むと台本には
「なんでお前がテンション上がってんのよ」

「一人暮らし何でもできんじゃん」
の間には何も書いていない。
戸塚純貴・髙橋海人両氏が現場で話し合って考えたくだりだそうだ。ふたりとも、天才。



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