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第4回目 “A Theft”を読み進める。読みの正しさ-勉強中の当人には判断できないゾ!和訳本を読んでも、誤訳の被害は当人が被るのです。

”英語の小説を読み出してまず気になったのがこのことです。自分の理解が正しいのか?(辞書による証拠が無い限り、自分の憶測が誤っていることの方が圧倒的に多いものです。)これが化学とか、数学とかだと、自分がそれまでに持っている事実に関する知識と矛盾しないか否かで結構分かるものなのですが。そこで思い付いたのがその小説の批評を何とか工夫して見つけ出して、その書き手の議論についていければ、一安心できるということです。

<書評の利用>

”A Theft”を一通り読み終わり見つけたのが  "Saul Bellow's Small Book  of Outsized Characters" と題された書評(1989年3月2日 NY Times の記事)でした。この評者によるとヒロインの最も大切で偉大な男 Ithiel イシエルについてこの小説の語り手がこの男が負うべき責任を果たしていないことについてもっと描き上げるべきであったと不満を述べています(下に原文の当該部分を示します)。この批評部分を読んだ私はこの評者のごとく考えるよりも、イシエルがキッシンジャーやヘイグに政策立案のための知識提供をし、そしてソ連の練達の駐アメリカ大使、ドブルイニンとも直接の議論もしたといった類のithielから聞かされたとおぼしい話が、イシエルによるnamedroppingに過ぎなかったというのがこの小説の隠れた流れであった、それ故にイシエルを「目の前の現実を観ない男」として描いた、と捉える方が面白いし、Bellowらしいのではと、この書評を読んだ後に考え始めたのでした。原書「Saul Bellow Collected Stories」に含まれた他の(短篇)小説にはこのように大金を作ったり、世間の注目を集める人の虚しいひけらかし(vainglory)が話題にされているのです。"By the St. Lawrence" 然り、 "The Bellarosa Connection" 然りです 。

<The New York Times に載った書評の一節>

 = quote = Moreover, what Mr. Bellow has tried to do in "A Theft" is to trace and
reconcile three separate views of Clara Verde - her own; that of Ithiel Regler, who loves her but is apparently too threatened by her love to commit himself to her, and that of the urbane but disembodied narrator, who stands at an
equal distance from them both. At the end, the narrator tries figuratively to
embrace Clara, but you sense in him a loss of perspective that Ithiel himself
would never be guilty of.    = unquote =

上掲「引用部分」の和訳
  以上の他に、ベローが「窃盗事件」で試みているのは、クラーラ・ウェルデという人間像、クラーラ本人のもの(- her own)、自分が拘束されるのを嫌ってか、クラーラとの結婚に踏み切らない男、イシエルのもの、そして登場人物ではない(disembodied)洗練された、そしてクラーラとイシエルの双方を公平に観察しているところの小説の語り手のもの、を整理してこれら三人それぞれが描くクラーラの人間像を齟齬なくうまく噛みあうように作り上げることです。終盤でこの語り手は、クラーラに称賛に値する行動を採らせることで称えあげる一方、イシエル本人を無罪放免していてることを、読者には、この小説の構想上の欠点、もの足りなさと感じられる。

<辞書の利用>

How-To ものを二つ・三つ。原書を読むための道具自分への激励で す。
1) 小説を読むときには熟語・慣用表現を熟語・慣用表現として意識し辞書で正しい意味を確認することが大事です。知っている単語だからと、それから想像するのはダメです。(私の Study Notes では単なる単語とは区別して斜体・太字で示しています。熟語であることを見落として誤訳することはLearnersが良く落ち込む落とし穴です。)
2) 私はOALDのCD版をPCにインストールして使っています。赤いボタンをクリックすると検索単語・熟語をタイプインする枠(赤いボタンの直ぐ下God's angelの入力がある)が空欄になります。これをせずに、入力枠にカーソルを入れると、検索語をタイプインする前に前回入力した単語をDELやBACKSPACEキーでコツコツ消さねばなりません。手間と時間の節約に。

oald画面 - コピー

3) OALD にしろ、ネット上の Collins や Cambridge 等の無料辞書にしろ、収録されている単語・熟語の選択には近年のコンピュータの所為で見つからないことが無いと言いたいくらい、まっとうな小説に出てくるような単語や熟語はすべてが掲載されています。見つからなければ入力した単語・熟語の選択の適否に問題があるとまず自分を疑うべきだと私は思っています。すなわち、1995年以前と比べて、今では私たち Learners が原書を読む環境は大幅に良くなっていて、また Wikipedia もあることで、英語の小説は学者のみではなくて一般の人(大学入試英語で終わらず真面目に英字新聞位のものを読もうと頑張った人)にも自分で読み切れるようになっています。

和訳本に基づく感想文が、英国や米国の読者の感想文から全くズレているのを@amazonなんかで眼にすると和訳本に頼る日本人が可哀想になります。原書を一生かかるとも読めるように頑張る価値はあります。

<前回につづく部分、原書P118ーP123に対応する私のStudy Notes部分を公開します。>


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