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41回目 "Him with His Foot in His Mouth" in Saul Bellow Collected Stories を読む (2/3)

A. 話の筋を見失わないでついていく為の技、その一つ。

小説であれ技術論文や科学・数学の教科書であれ同じでしょうが、英語の本を読み進められるか、くじけるかの境目になる障壁の一つは、単語・熟語の意味、辞書にある当該語彙の説明文と例文を読み込まないと気づかずに終わるような、その単語の「使われ方」「使われるシチュエーション」への理解があるか否か、知識・理解があってもそのタイミングで思いつくか否かであろうと思います。

<例 1> 'as if discovering'
前回の投稿(39 回目)のパラグラフ2で取り上げた引用部分にある as if discovering を含む部分のストーリーの流れをすんなりと理解できるか否かには as if が使われるシチュエーションへの理解がカギを握っているように思えます。

[原文 A-1] They'd some times say, as if discovering how much force it gave them to be brazen (force is always welcome), "What was your name before it was Walish?"--a question of the type that Jews often hear.

Lines from 41 on page 382 to line 3 on page 383.
"Saul Bellow Collected Stories", a Penguin Paperback

as if の後には「何々がどうである」といった形の文節が来て、「『何々がどうである』かのような・・・」という意味の使い方(finite clause が次に続く文型)を念頭にこの文章を読んでいると discovering 以下の文章へのつながりの理解に困ることになります。ところが 'Cambridge Grammar of English' に次のような解説を見つけ、もやもやが解消しました。

As if and as though can introduce clauses operating as the second element in comparisons of similarity. They may be used in finite, or, in more formal contexts, non-finite clauses:
Ex-1) What's the matter? You're acting as if you're in pain.
Ex-2) He looked round the table as if daring anyone to smile. (non-finite; more informal)
すなわち、 非定形節が来ることもあるのです。

Item 471c for "as if" & "as though"
in 'Cambridge Grammar of English'

<例 2> 'count'
嘗ての友人(Walish 氏)が35年間の没交渉の後に、突然そんな昔の出来事を持ち出し私を苦しめたのです。しかしこの執念深い相手と自分の性格を面白おかしく比較して読者を楽しませる文章に次のような一節があります。

[原文 A-2] This document of his pulls me to pieces entirely. And I agree, objectively, that my character is not an outstanding success. I am inattentive, spiritually lazy, I tune out. I have tried to make this indolence of mine look good, he says. For example, I never would check a waiter's arithmetic; I refused to make out my own tax returns; I was too 'unworldly' to manage my own investments, and hired experts (read "crooks"). Realistic Walish wasn't too good to fight over nickels; it was the principle that counted, as honor did with Shakespeare's great soldiers. When credit cards began to be used, Walish, after computing interest and service charges to the fourth decimal, cut up Peg's cards and threw them down the chute.

動詞の count についてOALD (7th ed.) には [intrans. v] to be important (= matter) との定義があり、例文として It's the thought that counts (= used about a small but kind action or gift). が示されています。

[和訳 A-2] 彼からの文書(Walish が送り付けた手紙)は私をこっぴどく非難するものです。客観的に言って私の性格が立派なものでないことには同意します。指摘された通り、私は不注意で怠けがちな性格で、長くは集中力が続きません。私はこの怠け癖をごまかし格好よく見せようとするところがあると彼は指摘します。例えばレストランでは請求された金額の正否を調べ直さないでしょうというのです。なるほど私は自分の所得税額を自分で算出しません。その代わり専門家(専門家はその分野の玄人の心理を推定できるのです)を雇っています。Walish は現実主義者であって小額のお金に几帳面なチェックを怠りません。彼にはそのような生き方の原理・原則が大切なのでした。それはシェークスピアの劇に登場する偉大な兵士たちが名誉を大切にしたのと同じです。クレジット・カードが普及し始めた時代にあってウォリシュは、それに伴う金利と手数料を小数点以下4桁まで調べ上げ、結果として自分の妻のカードを切り刻んでごみ処理機に廃棄しました。

Lines between line 9 and 18 on page 386,
'Saul Bellow Collected Stories', a Penguin paperback


B. ジョークを延々と続けるのですが、そのネタに Kissinger が使われます。

ほぼ70歳にならんとする私(Shawmut)に向けて差し出した手紙において、35年程も昔の短い期間だけ親しく付き合った男(Walish)が当時の記憶・記録に基づいて、私を非難しこき下ろします。それを読みながらそんな男への反論を延々と理屈を連ねてつづった文章が次の通りです。

[原文 B-1] I was, he says, "a mobile warehouse of middle-class spare parts," meaning that I was stocked with the irrelevant and actually insane information that makes the hateful social machine tick toward the bottomless pit. And so forth. As for my supernal devotion to music, that was merely a cover. The real Shawmut was a canny promoter whose 'Introduction to Music Appreciation' was adopted by a hundred colleges ("which doesn't happen of itself") and netted him a million in royalties. He compares me to Kissinger, a Jew who made himself strong in the Establishment, having no political base or constituency but succeeding through promotional genius operating as a celebrity.
[和訳 B-1] この男の手紙には「あなた(Shawmut)は中流階級の人々向けの補修部品の倉庫、それも動く倉庫だった」と記されています。すなわち私には社会を底なしの沼に向けて追い立てる忌まわしい機械を着々と駆動させるが為の不適切で狂った情報が蓄積されているというのです。この他にも同様の悪態が綴られています。私が音楽分野に格別の力を入れていることについては、私の行動の表面を繕うための活動に過ぎないと断じています。現実のショウムトはずる賢いプロモーターであって、その著作である「音楽の楽しみ方入門」はその甲斐あって、100 校にも及ぶ大学で採用されるところとなり百万ドルの著作料をショウムトにもたらした(巧みなプロモーション無しにはありえない大成功)。彼は私をキッシンジャーと比較し、似ていると主張します。キッシンジャーは統治機構に強力な立ち位置を築いたユダヤ人ですが、先代から引き継いだ土台もなかったし、その世界に知り合いが居たのでもなかったのです。キッシンジャーの成功は巧みなプロモーション抜きにあれだけの成功・セレブとしての活躍はあり得ないというのです。

[原文 B-2] Impossible for Walish to understand the strength of character, even the constitutional, biological force such an achievement would require; to appreciate (his fur-covered ear sunk in his pillow, and his small figure thrice-bent, like a small fire escape, under the wads of pink quilt) what it takes for an educated man to establish a position of strength among semiliterate politicians. No, the comparison is far-fetched. Doing eighteenth-century music on PBS is not very much like taking charge of U.S. foreign policy and coping with drunkards and liars in the Congress or the executive branch.
[和訳 B-2] (私が見るに)ウォリシュ氏には人に芯に備わった力が解らないのです。組織に宿る、そして生命に宿るところの、成功するのに不可欠な力が解らないのです。教育を受けた一人の人間が中途半端な教養しかない政治家の集団の中に力を持つ地位を築くには何が必要なのかが彼には分らないのです(この彼ときたら、その耳は革に隠され枕の中に沈んでいます。その背の低い身体は、小型の避難はしごのごとく三つに折りたたまれてピンクの布団の中に納まっています。)とはいえ、比較するにはその双方の置かれた場所が余りにも違い過ぎます。18 世紀の音楽を PBS の放送番組に仕立てるのは米国の外交政策に係る責任を果たし、同時に議会や政府の関係部署に属する酔っ払い連中・嘘つきの専門家どもを納得させるのとは全然違うのです。

Lines between line 14 and line 30 on page 387,
Saul Bellow Collected Stories, a Penguin paperback, published in 2002


C. 大臣たちと国会議員たち、集団内の序列争い。Churchill とその周囲の連中。

憎まれ口を言い出すと止まるところのない男、ショウムト (Shawmut) はお金持ちの女性慈善家に一本取られるのですが、すぐさまチャーチルに纏わるエピソードを取り上げて自分を弁護します。馬鹿にされても馬鹿にされすらしない輩よりは上位に位置するぞと居直るのです。

[原文 C-1] Why did I need power? Well, I may have needed it because from a position of power you can say anything. Powerful men give offense with impunity. Take as an instance what Churchill said about an MP named Driberg: "He is the man who brought pederasty into disrepute." And Driberg instead of being outraged was flattered, so that when another member of Parliament claimed the remark for himself and insisted that his was the name Churchill had spoken, Driberg said, "You? Why would Winston take notice of an insignificant faggot like you!" This quarrel amused London for several weeks.
[和訳 C-1] 私が力を持ちたかったの何故ですって? そうね、力を持つ立場にいると、何であれ言いたいことが言えるとおそらく思ったのでしょうね。力を持った人は何を言おうと咎められることが無いのです。国会議員のドライバーグ氏についてチャーチルが一言漏らした事件を例にします。お聞きください。「これがいじけ者の行為を人目にさらし軽蔑の的にまで落ちぶれた男だぞ。」とチャーチルがコメントしたのです。その当人であるドライバーグ氏は怒りを露わにするかと思いきや喜びの表情を返したのでした。近くにいた議員が、チャーチルの発言が、あなた様・ドライバーグさんのことだったのですよと忠告するに及んだのですが、ドライバーグ氏のその議員への返答は「あなた、何をおっしゃるの? ウィンストンさん(チャーチルの First Name)ともある方は重要でない人物を、あなたのような人物に関心を持つことはありませんよ。」というものでした。この一件はその後何週間もロンドンの人々の話題にされたのです。

[原文 C-2] But then Churchill was Churchill, the descendant of Marlborough, his great biographer, and also the savior of the country. To be insulted by him guaranteed your place in history. Churchill was, however, a holdover from a more civilized age. A less civilized case would be that of Stalin. Stalin, receiving a delegation of Polish Communists in the Kremlin, said, "But what has become of that fine, intelligent woman Comrade Z?" The Poles looked at their feet. Because, as Stalin himself had Comrade Z murdered, there was nothing to say.
[和訳 C-2] しかし、この当時チャーチルはチャーチルでした。マールボロー公爵の子孫でその家系の威光は万全です。その上にこの国・英国の救世主でした。このような人間から軽蔑のことばを受けるのは歴史に名を遺すことにもなる名誉でした。(このチャーチルの権威・力についてですが、)チャーチルははるかに進んだ市民感覚でなる時代から続く政治家でもありました。ずっと後進の社会における権威・力を象徴的に示したのがスターリンにまつわる次の一件でしょう。ポーランド共産党の代表団をクレムリンに迎え入れたスターリンは「ところであの美しくて頭脳明晰な婦人同志 Z は今どうなったのかね?」と尋ねたのです。その場のポーランド共産党の代表たちはジッと足元に目を落とすしかなかったのでした。スターリン自身がこの女性同志の暗殺を命じていたのです。ポーランドからの人々には返す言葉がありません。

Lines between line 37 on page 392 and line 10 on page 393,
Saul Bellow Collected Stories, a Penguin paperback, published in 2002


D. Study Notes の無償公開

Him with His Foot in His Mouth の Pages 386 - 402 に対応する私のStudy Notes を以下に公開します。A-4 用紙に両面印刷すると A-5 サイズの冊子に仕上がるように調整されています。

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