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Tea Break17 ごめんね。いいよ。って、本当にいいよ、なの?

「貸して」と言い忘れて友達が使っていた玩具を使い始めた、あるいは友達が使っていることを知らずに使い始めた、など保育現場でよくある小さなトラブルが起きた時、保育者はどうおさめるのが正解なのでしょうか。


1.  新任保育者が感じていたこと

私が新卒で勤務していた園では保護者が子どもに「みんなお友達」「友達とは仲良く遊ぶ」「あなたが我慢しなさい」など、いかに子ども同士がトラブルを起こさないようにするか、を強く考える家庭が多かったように思います。
そして子どもたちは、自分が今まさにやっと手に入れた玩具で遊ぼうとしている瞬間、友達から「貸して」と言われたら「いいよ」といって手渡す、相手が泣いたり、不満を言ったりしたらすぐに「ごめんね」と言い、「いいよ」と返す場面が多くありました。

新任だった私は何となく違和感を感じながらも、学級で少々のトラブルがあってもすぐに「ごめんね」「いいよ」で収まることに安堵もしていたため、特段このことについて深く掘り下げたりすることもなく過ごしました。

その数年後、転勤した園で同じような「ごめんね」「いいよ」場面で先輩の保育者が「本当にいいの?私なら嫌だわ」と子どもに返している場面に遭遇しました。
まるで子どもに喧嘩をけしかけているように見えて「えええ!?」と内心驚きましたが、その先輩は続けて「あなただって嫌だって顔しているじゃない。本当の気持ちはどうなのかな?「ごめんね」って言われたからって「いいよ」って答えなくていいんだよ。」と言いました。

当時はソーシャルスキルという言葉はあまり一般的ではなかったし、トラブルが大きく発展しにくい「ごめんね」「いいよ」ルールに甘んじていた私にとってこの先輩保育者の言葉は衝撃的でした。
先輩保育者もソーシャルスキルという意識はなかったのではないかと思いますが、このやり取りをソーシャルスキルの誤学習と感じ、それを子どもと一緒に考えようとしていたのではないか、と何年か経って思うようになりました。

2. 謝りたいという気持ちはどこからくるの?

謝罪スキルの「ごめんね」が言えることはとても大切なことですが、そこに「謝罪の気持ち」がなければ「ごめんね」が言えても気持ちのやり取りにはならないので謝罪スキルの獲得とは言えないのではないでしょうか。
(配慮が必要な子どもが、円滑に生活するために行うSSTでは「ごめんね」「いいよ」が言えるようになることを目標とするステップがあり、その場合は「ごめんね」と言えること、それに対し「いいよ」と返せることを評価します。)

その時に感じているであろう相手の気持ちを理解できないと謝罪の気持ちをもつことは難しいだろうし、相手が自分の気持ちをわかって謝罪してくれないと許す気持ちをもつことは難しいのではないでしょうか。

先輩は子どもの表情をしっかりと捉える保育者でした。「いいよ」と返した子どもの表情から「許す」気持ちをもてていないと判断し、互いに気持ちを出し合う場を設けたのだと思います。その先の話し合いの場を私は見ていないのでどう進んだのかは不明ですし、保育後に先輩に聞く、という文化もなかったので詳しいことは不明なままです。

3. 先輩保育者の保育から学んだこと

この場面を見て、感じて、考えた私の保育はその後少し変わりました。
「ごめんね」「いいよ」で終わりそうな場面では「本当にいいの?」と聞くようになりましたし、「ごめんね」と言った子どもには「どうしてこんなことが起きたの?」「どんな気持ちで謝ろうと思ったの?」「次に同じようなことがあったらどうしようか」と、その都度子どもと一緒に考えるようになりました。双方が納得した解決方法を子どもたちと一緒に探すことでその時々の解決方法は異なるものとなりましたが、話し合いの終わり方に唯一無二の正解はないと考え、どんな結論も子どもと一緒に見つけた結論は尊いと思っています。
それがベストな解決ではなかったとしても、相手の気持ちを聞く機会を積み上げていくことで子どものソーシャルスキルは少しずつ高まると考えられます。また、日々の生活の中で色々なトラブルを経験すること自体が大切な経験であり、それに対処しようと必要なソーシャルスキルを獲得したり、高めたりするチャンスだと捉えるようになりました。

以上のことを心に留め保育経験を積んでいくうちに、保育室内が全くトラブルもなく、平穏、安寧なのは子どもたちがソーシャルスキルを獲得したり高めたりするチャンスが無い残念な状態だ、と感じるようになりました。
そしてトラブルや、意見の違いを伝え合う場面こそ就学前施設で大切にすべき場面ではないか、と考えるようになり、それの解決方法や、援助の在り方などを研修・勉強するようになりました。
保育者としての引き出しが少しずつ増えるにつれ、トラブル発生を「チャーンス!」と心の中で思えるようになっていきました。

子ども達が様々な場面で豊かな経験ができる環境

4. まとめ

「ごめんね」と言えるスキルはとても大切ですが、そこに謝罪の気持ちがない「ごめんね」は無意味な「ごめんね」で、これをスルーしているとソーシャルスキルの誤学習につながる恐れがある。気持ちのこもった謝罪をするためには相互に相手の気持ちを感じることができるように、子どもが自分の気持ちを率直に伝えられることや伝え合えることを大切にする。
「ごめんね」「いいよ」の場面では保育者は子どもの表情をしっかりと捉え、言葉に子どもの本当の気持ちが込められているかを見極めることが重要なのだと思います。
子どもが自分で問題を解決できる力を獲得するために正しいソーシャルスキルを身につけられるよう援助していきたいと思います。

最後までお読みいただきありがとうございます。
明日も楽しい保育でありますように♡

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