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【随想】紅白歌合戦のアナクロニズムと、一人勝ちしたゴールデンな氷川きよし

マンネリ紅白の中にも咲く華がある

大晦日に恒例の「NHK紅白歌合戦」なる国民的行事に参加しなくなって十数年。たいていは裏番組の「東急ジルベスターコンサート」を見ているか、あるいは実際にカウントダウンコンサートに行っているかのどちらかである。理由は簡単。ひとえに紅白歌合戦がつまらなくなったからだ。(念のため言っておくが、中学卒業まではご多分に漏れず、一応この国民的行事にも律儀に参加していた)

それでもたまに例外はあって、2012年~2015年に美輪明宏が『ヨイトマケの唄』『ふるさとの空の下に』『愛の讃歌』を引っ提げて”降臨”した回や、奇しくも2014年に美輪の対戦相手として登場した中島みゆきの『麦の唄』、そして2016年に大竹しのぶが涙ながらに歌い上げた『愛の讃歌』などは、ちゃんと録画保存した上で、何度も食い入るように見た。このお三方は個人的に好きなアーティストであるだけでなく、紅白出場率やテレビ露出度の低さにおいて、非常に稀少価値が高いのだ。これはファンならずとも見逃すわけにはいかないだろう。

年に一度のお祭りのようなものだから、見たい人は見ればいいし、見たくなければ世間の同調圧力に屈せず(笑)自分の好きなことを思う存分に楽しめばよい。だから本記事では、別段、マンネリ化して面白くもない紅白歌合戦に対する批判を繰り広げるつもりはない(と同時に、擁護するつもりも全くない……笑)。

プリンスの鮮やかなる変身

コロナ禍にもかかわらずNHKが紅白歌合戦を強行、というニュースにぶったまげ、もはや名前さえ知らないアーティストの方が半数を超えることに、さらにぶったまげていた昨年の暮れ。しかしTwitter上では、意外な反響の声が次々と流れていた。「kii様がパワーアップした」と。

そう、かつて「きよしのズンドコ節」で一世を風靡し”演歌界のプリンス”の名をほしいままにした、あの氷川きよしである。

余談だが、私はこの「ズンドコ節」にはいささかの恨みがある(笑)。日本に帰国して早々、それまで一度もマイクを握ったことがなかった浦島花子状態の私を冷やかしてカラオケに連れていき、無理やり歌わせようとして悪友が「歌の予約リスト」に真っ先に入れたのが、「ズン、ズン……♪」という謎の歌詞から始まるものだった。無知と羞恥心のあまり、赤面しながら発声したのは、そのリフレインだけ。そのせいもあって、私の中で氷川きよしというのは、「ダサい演歌を高らかに歌うダサ男」というイメージが出来上がっていた。少なくとも、昨年の暮れまでは……。

氷川きよしの脱皮劇

ツイートに貼られた数々の写メを見て、我が目を疑った。「こ、これが氷川きよし⁉」――中性的なメイクをやや厚めに施した、端正な美貌。下手をすると、20年前のデビュー当時よりも若々しいし、何より麗しい。動画を見てみると、長年鍛え上げられた歌唱力もさることながら……なんと演歌ではなくロック(厳密にいえばアニソン)ではないか! 鮮やかなまでの、ヴィジュアル系ロックシンガーへの大変身である。

2019年に日本コロムビアの公式YouTubeで公開され、国内外で耳目を集めたのが下の動画だ。Twitterのトレンドワードで国内1位、世界でも4位に達したこともあったそうな。英国から駆け付けた女性ファンもいたとか……そりゃバズるし、来るわ!

人が自分らしく、自分に忠実に生きれば生きるほど、その人の魅力がますます引き出される。氷川きよしの脱皮劇は、この好例ではないか。

話を2020年大晦日の紅白歌合戦に戻してみよう。『限界突破×サバイバー』の歌唱中、氷川は二度にわたって衣装の早替えをこなし、三種類のコスチュームを披露する。最初は白を基調とした、いかにも王子様っぽいアニメキャラで登場しそうな西洋風の鎧(?)を身に着けたもの。次は打って変わってキューティーハニーを思わせる、胸を半分露わにした真っ赤な腕出しジャケットに、黒い網タイツと黒ブーツ。そして最後に、小林幸子や美川憲一もびっくりの煌びやかな黄金の翼をまとい、実際に不死鳥のごとく飛翔(フライング)する。

氷川本人も翌日、これらのコスチュームを選んだ理由について、次のようなコメントを出している。

「囚われたホワイトkiiから枠を取り払ったレッドkiinaそして全ての差異を超えたゴールデン氷川きよしでの飛翔でございました!」 by kii

2021年1月1日、Instagram【hikawa_kiyoshi_official】より

邪推を承知で言ってみると、まずは「白=男性」という殻を捨て、「赤=女性」という軛からも解放され、ついに至ったのは「黄金=あらゆる性を包含したジェンダー」という境地――そう、氷川をここまで至らしめたのは、紅白でもなく、虹色でもなくピンク色(ともにLGBTのシンボル)でもなく、全ての色の頂点に立つ黄金(ゴールド)なのである。

特に演歌やロックが好きなわけでもない私が、現在の氷川が髪を振り乱しながら全身全霊で歌いまくる姿に無性に感動するのは、おそらくこのゴールドに象徴される自由の境地を具現した所以であろう。

2020年の真の優勝者

日本でいえば、美輪明宏、坂東玉三郎、羽生結弦、海外では『ベニスに死す』のタジオを演じたビョルン・アンドレセンなど、枚挙に遑がないが、ここで言いたいのは、単に“中性的”とか”両性具有の美”とかいう次元の話ではない。「ジェンダーを超えた芸術の領域で美を司り、表現する者」と呼んだ方が正しいような気がする。

歌謡界でも、ようやくその系譜に連なる大物が現れた……というより、本性を現した。もちろん、素晴らしいヴィジュアル系のアーティストは以前から数多く存在する。氷川が特異なのは、演歌という”伝統”にがんじがらめになった狭小な世界から飛翔せる、華麗な脱皮劇にあるのだろう。

だからこそ言おう。優勝したのは、時代錯誤(アナクロ)な源平合戦や男女分断の名残で戦わされた、紅組でも白組でもない。「全ての差異を超えたゴールデン氷川きよし」の一人勝ちだと。

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