
映画『ムーンライト』(2016年)のザックリとしたあらすじと見どころ
映画タイトル:ムーンライト
原題:MOONLIGHT
製作年:2016年 アメリカ
監督:バリー・ジェンキンズ
映画『ムーンライト』は、
マイアミで暮らす黒人少年が、貧困や麻薬、イジメの中で心の支えとなる友人と出会い、愛する姿を描いた映画です。
黒人社会の中のセクシャルマイノリティを扱った本作は、オスカー向きではないと言われていましたが、予想に反し大本命の『ラ・ラ・ランド』を抑え、第89回アカデミー賞作品賞を受賞しています。
キャスト
・トレヴァンテ・ローズ(シャロン)
大人になり、地元を離れ麻薬の売人として貧困からのし上がったシャロン 通称ブラック
・アシュトン・サンダース(10代のシャロン)
学校でのイジメと麻薬中毒の母の存在に苦しみながら、最愛の友人ケヴィンと心を通わせる
・アレックス・ヒバート(幼少期のシャロン)
無口で内気な少年期のシャロン 愛称リトル 女のコのような歩き方でイジメの標的とされる
・アンドレ・ホランド(ケヴィン)
幼少期からのシャロンの唯一の友人。大人になり、家庭を持ちダイナーで働いている
・マハーシャラ・アリ(ファン)
幼少期のシャロンを気にかけ優しく接する一方、シャロンの母親の麻薬の売人(元締め)でもあった
映画『ムーンライト』の見どころと感想

この映画は、幼少期と青年期、成人後の3部構成で描かれています。
●第一部 少年シャロンの物語「リトル」
仲間から「オカマ」と言われイジメを受けるシャロンは、逃げ込んだ場所(麻薬の売買地域)でファンに助け出されます。
ファンはシャロンの置かれた環境(貧困、イジメ、ドラック中毒の母)を察し、強く生きていくことを教えます。ファンとその妻のテレサに優しくされ心を開いていくシャロンでしたが、ある日、ファンが麻薬の売人であり自分の母親にも売っていることを知り激しく動揺しー。
●第2部 高校時代を描く「シャロン」
学校でのイジメはますますひどくなり、ゲイであることもその一因となっています。母親の薬物依存も度を増し、麻薬を買うためのお金をシャロンから巻き上げる状態。
父親のような存在のファンはもうおらず孤独の中で生きるシャロンは、昔ファンに泳ぎを教わった月明かりの美しい海岸に向かいます。
そして偶然そこに居合わせたケヴィン。シャロンはケヴィンに気持ちを伝え、2人は心を通わせます。しかし、その翌日に悲劇が起こり、そのことが原因でシャロンはケヴィンと離れ離れにー。
●第3部 大人になり再会を描く「ブラック」
麻薬の売人の元締めとしてのし上がったシャロン。ムッキムキの身体で売人たちを締め上げ高級車を乗り回すその姿に、かつてシャロンの面影はありません。
ある日ケヴィンから久しぶりの連絡を受けたシャロンは、「あの日のことを詫びたい」というケヴィンと会うために地元に戻ります。
地元の薬物依存者施設で暮らすボロボロの母に会い、母を許すシャロン。
そしてケヴィンとの再会を果たしー。
評)描かれていない時間に何があったかを想像せずにはいられない
3つの章の間には大きな「空白」があります。その空白の時間に何があったのかー、見る側の想像でどこまでも深まっていく映画です。
シャロンの支えとなるファンが死んだこと、イジメに耐えかねたシャロンが暴行事件を起こし警察に連行されて以後のこと、そしてその後、大人になったシャロンが麻薬の売人になった理由ー。これらは普通は映画の「見どころ」となるはずなのに、この映画では一切描かれていません。
見る側は自然と描かれていないことを想像し、想像することで映画の世界にどんどん引き込まれていくのです。そして、見終わった後に「大きな喪失や挫折の中でも、誰かを愛し続けることは尊いこと」そんな気持ちが沸き起こる映画です。
「黒人社会の同性愛」を描いた作品自体が珍しいため、特殊なものに対する興味本位になりがちですが、そういう先入観でこの映画を見ると大事なことを見逃してしまいます。黒人社会の貧困や麻薬といった複雑な問題と絡まれば絡まるほど、本質的な愛のあり方が浮き彫りになってきます。
有名俳優をほとんど使わず黒人キャストのみで作られたことや、低予算で撮影期間も非常に短かったこと、製作総指揮にブラッド・ピッド(プランBエンターテインメント)、アカデミー授賞式での騒動など、小ネタにも事欠かない作品ですが、これだけは言いたい!
映画『ムーンライト』は、「普遍的な愛」の映画です。
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