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『あの本は読まれているか』ラーラ・プレスコット 『ドクトル・ジバゴ』を見直したくなる

ロシア革命ものといえば必ず名前の挙がる『ドクトル・ジバゴ』 
映画(1965年)のほうは、”圧倒的な映像と耽美な音楽!” ”激動の時代の壮大なラブストーリー!” ”歴史に残る3時間超の大作!”などといったフレコミがスゴすぎて、正直それほど感動したかといえば……。

『あの本は読まれているか』(ラーラ・プレスコット著 吉澤康子訳 東京創元社)は、そんな私の不消化な思いを一掃し、「やっぱり『ドクトル・ジバゴ』スゲェじゃん!」と思わせた1冊です。

『あの本は読まれているか』の内容紹介

冷戦下のアメリカ。ロシア移民の娘であるイリーナは、CIAにタイピストとして雇われるが、実はスパイの才能を見こまれており、訓練を受けてある特殊作戦に抜擢される。その作戦の目的は、反体制的だと見なされ、共産圏で禁書となっているボリス・パステルナークの小説『ドクトル・ジバゴ』をソ連国民の手に渡し、言論統制や検閲で迫害をおこなっているソ連の現状を知らしめることだった。――そう、文学の力で人々の意識を、そして世界を変えるのだ。一冊の小説を武器とし、危険な任務に挑む女性たちを描く話題沸騰の傑作エンターテインメント!

 『あの本は読まれているか』訳者あとがき・吉澤康子 東京創元社 「内容紹介」より

『ドクトル・ジバゴ』とは

まったくご存知ない方向けにザックリ説明しますと、『ドクトル・ジバゴ』とは革命真っ只中のロシアを舞台に、医師で詩人のユーリー・ジバゴとジバゴが恋する女性ラーラがくっついたり離れたりするストーリーです。

いろんな価値観がひっくり変わる社会情勢の中、それでも変わらぬ愛! でも不倫! いや、それでも愛は尊い! 不倫は文化だ! というお話です(あくまでも個人の感想です)。

ボリス・パステルナークの原作は、後にノーベル文学賞を受賞(その内幕は本書にも描かれています)しています。

『あの本は読まれているか』の読みどころと感想

『あの本は読まれているか』は、この『ドクトル・ジバゴ』を使ってソ連政府を批判する世論を作り上げようとしたCIAと、その作戦を担ったタイピストたちのストーリーです。

まさかと思うこの作戦、実際にCIAが行った作戦のひとつだと。
そこに着想を得た本書は、タイピストたちの「西」と、『ドクトル・ジバゴ』の作者ボリス・パステルナークと妻と愛人の「東」が交互に描かれ、さらに語り手も変化します。物語をいろんな視点から見ていくうちに『ドクトル・ジバゴ』の世界と絶妙にリンクしはじめ、時代が映す愛の形や女性の生き方といった読みどころが見えてきます。

作者はアメリカ人のラーラ・プレスコット。ラーラという名前は母親が大ファンだった『ドクトル・ジバゴ』のヒロインからつけられたそう。この本はデビュー作ながら出版前から大きな話題となり、出版権をめぐって高額な競い合いがあったといいます。

作者、出版者、そして翻訳者が本書に込めた「文学は世界を変えられる」という思いは、映画『ドクトル・ジバゴ』でのモヤモヤを吹き飛ばし、もう一度、映画を見てみようか、いや、原作を読んでみようか、と思わせる1冊です。ぜひ。

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