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【映画日記】性の固定観念を破壊する『MEN 同じ顔の男たち』

自民党青年局の過激ダンスショーのパーティ問題。
あのパーティーに女性がいたのかどうかは知らないけれど、企画の段階で「こんな"ザ・男の趣向"に振り切って大丈夫ですかね?」なんて意見はなかったのだろうかと思った。

男性だってこんな企画は嫌だと思う人は大勢いるだろう。
「男だから」「男性中心社会だから」でもないはず。

そんなこんなに関係あるようなないような映画『MEN 同じ顔の男』(2022年)を見たので感想を。

映画『MEN 同じ顔の男』(2022年)のザックリとしたあらすじと感想

夫の死を目撃した主人公ハーパー(ジェシー・バックリー演)が、静養のため訪れた田舎町で遭遇する奇妙な出来事を描くスリラー映画。

とにかく奇怪すぎて考察嫌いでも考察せずにはいられない。
見た直後の感想には「有害な男性性、男らしさ」と書いたけど全然それだけじゃ足りない気がする。この映画で考えさせられることの多様さこそが、この映画のテーマでありメッセージなのだろう。

レスリー・ダンカンの「LOVE SONG」で気持ち良くスタートした話が徐々に奇妙になっていく。

回想シーンから夫婦の破局の原因は死亡した夫の束縛と思われる。
が、ハーパー自身も結構先入観の強い人で、借家の管理人への「いかにも田舎のー」という言及でわかる。

そのハーパーが散歩の途中で道に迷い、全裸の男に遭遇することから「同じ顔の男」たちによる恐怖体験が始まる。

が、ハーパーは全裸男は自分のストーカーであり、出会う男たちが同じ顔をしていることにも気づかない。「男とはこういうものだ」という嫌悪感を含んだ気持ちがそうさせていると考えられる。

極めつけは終盤の男から男が生まれる連続出産シーン。
それを奇声の一つも上げず冷ややかに見届けるハーパー。そして惨劇の一夜が明け、女友達が駆けつけて来て話は終わる。

かなりグロいシーンではあるが、ハーパー同様、めちゃくちゃ引いて見ている自分に気づく。子どもを産む性への戸惑いや、ともすれば嫌悪の気持ちが掻き出された気がして後味が悪い。

最後まで本心を見せないジェシー・バックリーの表情がイイ。
同じく顔を男たちを演じたロリー・キニアは熱演に違いないけれど、気持ち悪さしか残らなくて気の毒。

衣装についても一言。

(C)2022 MEN FILM RIGHTS LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

田舎町にやって来たときにはザックリとしたニットとパンツというスタイル。が、その後、明らかに趣味が違うドレスに。このあたりにも「男はー」「女はー」という性の固定観念への疑問がわいてくるような仕掛けを感じる。

インテリアも印象的。真っ赤な壁はベルイマンの『叫びとささやき』(1974年)を思い起こさずにはいられない。

気になるのは邦題が「同じ顔の男たち」と言っちゃってるところ。(原題は『Men』)
SNSなどでほかの人の感想を読んで面白かったのが「同じ顔だと気づかなかった」ということ。映画の中でもハーパー自身、そうだとハッキリ気づくシーンはない。同じ顔=見る側の「男ってこうよね」という先入観、だとすれば、この邦題はネタバレというか、保険をかけてるというか、ちょっと残念。

冒頭の自民党青年局のパーティーの発起人は「サプライズとして自分一人で考えた」と弁明した。「男はこういうの好きですもんね」という思いが染みついているのかもしれない。ぜひこの映画を見ることをおすすめしたい。


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