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【園館訪問ルポ】異能の天才、近藤典生博士の足跡を追いかけて――② 伊豆シャボテン動物公園(静岡県伊東市)

前回記事の中で紹介した、「『食と農』の博物館」に佇む近藤典生博士の胸像。その裏の碑文には、このような一節があります。

研究材料の維持・管理と、研究の社会還元の"場"として数々の独創的な自然動植物園を設計、"自然思考造景"の思想を開花させた。

動物をただ見せるのではなく、その土地を特徴づける景観と調和するよう施設の配置に気を配る。
植物や周辺地域の地質学にも自然と目を向けられるような、包括的な展示内容を盛り込む。
近藤博士は、従来の日本の動物園とは異なる、しかし一貫したコンセプトで数々の動物園を設計した名プランナーでもありました。

近藤博士の設計思想が花開いた最初の動物園が静岡県の「伊豆シャボテン動物公園」(当初は「伊豆シャボテン公園」)です。
この園が「山焼き」で知られる大室山の麓に開園したのは、今から60年前、1959年のことでした。

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《恐怖のルート87。特撮ファンにも馴染み深い場所かも。》

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元祖カピバラの湯」がある園としても知られる伊豆シャボテン動物公園。火山地帯で、温泉が有名なこの土地ならではの展示です。アマゾンを探検し、日本人に馴染みの薄かったカピバラを広く紹介したのも、近藤博士の功績でした。

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《「噴火口にある動物園」という語の持つインパクト。》

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《地熱の力で、冬でもサボテン類を露天で展示することに成功しています。》




穏やかな草食動物や鳥類を群れで飼育する。柵や檻を設けず、人のスペースと動物のスペースが重なる空間を作り上げる。「動物たちの暮らしている場所に、われわれがお邪魔している」ような感覚に陥ります。ヒトの時計ではなく、ガチョウたちの足取りやテナガザルのロングコールに従って、時間が流れていくような錯覚に襲われました。

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《チンパンジーの島に放し飼いのクジャクが降り立ち、飾り羽を広げました。ちょっとしたハプニング。》

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《世界で最も長く飼育されているこの園のリビング・レジェンド、ハシビロコウのビルさん。近藤博士が運営に携わった「進化生物学研究所」が1973年に日本に連れてきました。ハシビロコウが「動かない鳥」の異名で人気者になる何十年も昔のことです。》


伊豆シャボテン動物公園を皮切りに、「長崎バイオパーク」(長崎)「長崎鼻パーキングガーデン」(鹿児島)「ネオパークオキナワ」(沖縄)といった動物園が、近藤博士の設計思想を表象する場として今も運営されています。これらの園を印象付けるのは象やキリン、ライオンといった「動物園でお馴染みの人気動物」ではなく、近藤博士が愛した南国の植物たちやレムール、カピバラ、インコたちといったおとなしくてちょっと変わった南方の生き物たちでした。


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《ボートに乗って動物たちを観察する「アニマルボートツアーズ」に参加すると間近で見られるワオキツネザル。レムールの代表種ですが、原産地のマダガスカル島では絶滅の危機が迫っています。》


「動物園プランナー」としての近藤博士の軌跡は、『近藤典生、もうひとつの世界 エコロジカル・パークの思想とその方法』(プロセスアーキテクチュア,1992)という図録本に年代順にまとめられています。
絶版なのが惜しいですが、「動物園」とは何か?「展示」とは何か?というテーマについての、重厚な2篇の対談も収められており、「生きた動物」を展示する施設について考える大きなヒントを私たちに与えてくれるはずです。


※写真及び記述内容は訪問時のものであることを申し添えます。


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