マガジンのカバー画像

旅と音楽

8
これは私が留学していた時の、所々で覚えているつもりの記憶と、その頃聴いていたグッドミュージックを意味なく広大なネットの海に放つ試みです。 週1更新、全12エピソード予定。 htt… もっと読む
運営しているクリエイター

記事一覧

#8 ポルトガルの修道院ホテルの話

好きな建築家はソウト・デ・モウラ(Eduardo Souto de Moura) 。 人と自然のスケールの両方に寄り添い、無理をしない。 その切実な空間が好き。 構図がいつも素敵だ。 ほぼ同じ理由で彼の師匠のシザ(Álvaro Siza)も好きだけど、なぜかソウトデモウラの方が好き。 なぜかは分からない。 シザの方がミニマルな気がする。 2人の故郷ポルトガルで、これまたどうしても見たい建築があった。 中心都市ポルトから電車で1時間弱のブラガ、 から更にバスで1時間程のサ

#7 フリムスにある楕円の橋の話

好きな橋はありますか? 私には、留学に行く前から、 絶対に自分の目で見るのだと心に決めていた橋があった。 それを建築をテーマにした映像が紹介されているサイトで見かけた。 設計者はスイスの構造家、Jürg Conzett。 彼はスイスのフリムスという地域にある山の中に7つの橋を設計した。 その1つ。 可愛らしい形の橋が大自然にぽつんといる姿を想像して、 これは見たいと思ったのだった。 実はフリムスには3回ほど行く機会があったのに、 2回は辿り着けなかった。 その過程で他の

#6 ベルリンで踏んだ叫びを忘れない話

ベルリンで出会った人は心なしか皆あまり愛想がよくなかったが、 スイスで友だちになったドイツ出身の彼は陽気でおちゃめな人だったので、 多分思い過ごしだ。 ベルリンはおしゃれシティだけど、きちんと歴史が都市に刻み込まれている。 今回の旅の目的はホロコーストの歴史を伝えるベルリン・ユダヤ博物館だった。 ポーランド系アメリカ人のDaniel Libeskindが設計したその博物館には、 顔を模した無数の丸い鉄板が敷き詰められている場所がある。 そこを通らないと移動できない。 つま

#5 好きな教会の光と影の話

日本に寺社が多くあるように ヨーロッパには教会が各地にあり、 それはメッセージ性の強い構成であることが多い。 そこで最も重要なのは、 祈り、という最もシンプルで、 空間の機能というよりは 自己を省みる内側での行為に他ならない。 私は教会という空間がすきだ。 いくらそこに居てもいい、 エンターテイメントは必要なく、 ただ身を置き、思う。 そんな空間は、日本での今までの日常にはあまりなかった。 留学中に行った中で、 フィンランドのトゥルクという街にある復活礼拝堂が好きだった

#4 セレナーデ号と夏の海の夢

夏の機運高まる7月下旬、 スウェーデンのストックホルムからフィンランドのヘルシンキまで向かうのに、巨大客船セレナーデ号に乗船した。 出発時刻ぎりぎりに乗り込むとそこは1つの巨大立体都市のようだった。 ゲートをくぐると空を仰ぐ吹抜のロビーがある。 下層は店舗になっていて、ムーミンのマグカップやぬいぐるみが売られている土産屋、カフェやカジノもある。 上層には客室の窓が立ち並び、楽し気な子どもが貼りついている。 デッキに出ると船は知らぬ間に出発していた。 岸は近付いては離れてい

#2 人生で一番美味しかった飲み物の話

人生で一番、美味しい!!!!と思った飲み物の話をする。 時は恐らく12月、すごくすごく寒くて痛い冬の日だった。 場所はスイスとイタリアの国境近く、コモという街。 クリスマスが近く、街は屋台が沢山出て、教会のファサードにはプロジェクションマッピングが投影され、にぎやかな雰囲気だった。 友人2人と建築を見に来たはずが閉まっていて、 帰りの電車の時間までぶらぶらしようとしたけれど、めちゃくちゃ寒い。 風が痛くて耳が痛い。手が凍るくらい。 でもレストランで食べる程の時間の余裕はな

#1 スイスの山はいつもそこにある話

昔、スイスに1年留学していた。 スイスの山はあまりに大きい。 遠くにあるから透明度が40%くらいのレイヤーに見えるけれど、 大きいからはっきり見える。山の凹凸に沿って走っている雪の筋もよく見える。 それがなんだか、はりぼてみたいに見えたのだった。 というか、平面的なUSJの背景のように見えた。 本物を模した絵のように本物を見てしまう。 自分の目を信じ切れない距離感覚。 駅で電車を待つ間、家の窓を開ける時、自転車で学校から帰る時、 いつもそこに山の絵がそびえていた。 いつ

#0 人生は映画みたい

spotify for podcastersにて「旅と音楽」というpodcastを始めてみました。 これは 私が留学していた時の、 所々で覚えているつもりの記憶と その頃聴いていたグッドミュージックを 意味なく広大なネットの海に放つ試みです。 誰かが拾ってくれるかもしれないし、 いつまでもただ波間を漂っているかもしれない。 日々生きているあなたにしても、 1日のうち数分だけでも 意味の重圧から解放される時間があってもいいと思います。 この12片の記憶のかけらは、pod