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#6 ベルリンで踏んだ叫びを忘れない話

ベルリンで出会った人は心なしか皆あまり愛想がよくなかったが、
スイスで友だちになったドイツ出身の彼は陽気でおちゃめな人だったので、
多分思い過ごしだ。

ベルリンはおしゃれシティだけど、きちんと歴史が都市に刻み込まれている。
今回の旅の目的はホロコーストの歴史を伝えるベルリン・ユダヤ博物館だった。

ポーランド系アメリカ人のDaniel Libeskindが設計したその博物館には、
顔を模した無数の丸い鉄板が敷き詰められている場所がある。
そこを通らないと移動できない。
つまり、人の顔を踏まないといけない。
かなり躊躇ってから一歩踏み出す。
重なった鉄板は不安定でよく動き、
動くたびに金属が擦れる嫌な音がする。
まるで時を超えた彼らの叫びのようで、耳に残る。
聞いているのがつらい。
歩くのもつらい。
でも前に進まなければならない。
忘れないと思う。

別の場所でも展示があって、
そこには殺されたユダヤの人々の遺書や走り書きが1つずつパネルになっている。
ドイツ語初心者の私でも分かる文章もあった。
Ich Schluss. 英語に直すとI end.
私は終わる。
こんなに簡潔で悲しい文があるだろうか。
他の1人はこう書いていた。
Kein Wiedersehen.
普通、人にさよならを言うときは、
Auf Wiedersehen. またねと言うのだと、ドイツ語A1クラスの教科書に載っている。
Aufが否定形のKeinになると、二度と会うことはない。という意味になる。
1人1人の絶望が苦しくて、人に分からないように泣いた。
泣いても何も変わらないのに。

見ていて苦しくなるような展示は、楽しくはない。
でもこれは見てよかった。
これからも生きていく上で、必要なことだった。

ベルリンの別の広場には、棺のような石の塊が並んでいる。
歩きながら、苦しい思いをした全てのユダヤの人々に祈る。
痛みや苦しみの無い世界で、1人で寂しくありませんように。
ただ自己満足だとしても、
この祈りは深く私に刻まれる。

その頃聴いていた音楽の中から1曲、
Vampire Weekend "Jerusalem, New York, Berlin"


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